―第2章―
「最期のとき」に向き合うこと
この章では、大切なひとの「最期のとき」を、家族としてどのように向き合っていけばよいのか、これからの生活をどのように過ごしていくかについて、まとめています。
混乱や不安の多い時期にしっかりとした心構えをもつことはとても難しいことです。近い将来大切なひとを失うことになるというときに、お別れのときのことについて考えたくない、目にしたくないということもあります。そんなときには無理をせずに読み進めるのをやめてこの本をいったん閉じていただいても構いません。具体的な生活上のヒントのページなどから読んでいただくほうが、受け入れやすく参考になることもあります。
- 身近な人、親しい人とのお別れが近づいていることを受けとめることは、簡単なことではありません。思いを分かち合える人とのやりとりが、助けになることがあります。
- 本人と家族が住み慣れた環境のもと満足できる生活を送るために、家や施設など、在宅で生活するときに支えとなる人やサービス、制度が整備されつつあります。気軽に周りの医療者、相談窓口に相談してみましょう。
2-1.「最期を考える」ことに向き合う
2-1-1.大切なひとの「最期のとき」を受けとめるのは、
決して簡単なことではありません
大切なひとの人生が残りわずかだと知ったとき、そのことを受けとめ、冷静でいられる方は、そう多くはないでしょう。ショックやパニックになったり、無気力になったり、何も信じられない気持ちになったり、または怖くなったり、どうしたらいいかわからなくなったり‥。本人だけでなく、家族も、さまざまな思いを1日のなかでめまぐるしく感じることもあるでしょう。夢の中にいるような感覚になったり、また現実に戻ったりという、そんな感覚になるかもしれません。
あるいは、やるせなさや悲しみだけでなく、「ああすればよかった」「こうすればよかった」という後悔の思いを感じるかもしれません。
これらの感情は、ごく普通に湧き上がってくるものです。
今起きていることを現実として受けとめて、これまでとは違う生活を考えるまでには多くの時間を必要とする場合もあります。
2-1-2.「お別れの時期が近づいている」と認識することは、
これからの生き方に大きな変化をもたらします
「大切なひととのお別れの時期が近づいている」という現実を受け入れることは、家族の生活全体に大きな変化をもたらすことでしょう。当然と思っていた日常が、あるときをきっかけに、当然ではなくなります。家族のなかでの役割、人生設計、これからの希望や見通し…。生活上の優先順位の見直しを余儀なくされることもあるかもしれません。家族は現在の、そして、これから起こるさまざまな変化に思いをはせるかもしれません。
身近な人の人生が限られているという現実を受けとめられないつらさに加え、これからの生活に関する現実的な不安や悩みが重なり、家族や周りの方々の気持ちは不安定になってしまうかもしれません。
2-1-3.お別れのときを受けとめるために、まず一歩進んでみる
大切なひとと、ともに過ごすことができなくなる、もう二度と一緒に出かけたり、会話を楽しんだりすることができなくなるという本人、そして家族のつらさ、悲しみは、この先もしばらくのあいだ続くことでしょう。時には、今を生きていることに意味を見いだせなくなることがあるかもしれません。
お別れのときを迎えることに対する受けとめ方は、一人ひとり異なります。本人、あるいは家族の気持ちを落ち着かせる特別な方法はありませんが、それでも、本人と家族がお互いに話し合ったり、周囲の方が手を差し伸べたりすることによって、つらさや悲しみをやわらげることができます。
まず、家族は自分のありのままの気持ちを認め、本人とお互いの不安やつらさ、悲しみを分かち合うとよいこともあります。そうすることによって、一人きりではないことをお互いに知り、支え、励ましあうことができるかもしれないからです。
例えば、本人の気持ちを尊重しつつ、家族の希望や考えも伝え、共有してみましょう。どうすれば家族が本人に寄り添ったり、最良の支えになったりすることができるか、これからの見通しや理解がより深まることでしょう。
そして、本人と同じように、家族の方へのケアも大切と考えられています。最近では、家族を支えることを重視した支援やケアの考え方が広がってきています。
日々起こったことだけでなく、つらい気持ちなど心の内を日記に書きとめておくことは、気持ちの整理に役立ちます。友人や親しい人など信頼できる人に気持ちを打ち明けてみるのもよいかもしれません。また、全てを自分一人で背負い込む必要はありません。家族ができることをあらかじめ決めておいて、家族だけの努力では難しいことがあるときには、周囲の人々からの助けを得ることも大切です。