今年のWorld Mental Health Day(2017年10月10日)は、職場のメンタルヘルスがテーマです。
http://www.who.int/mental_health/world-mental-health-day/2017/en/
このテーマを研究している当研究室および共同研究機関のメンバーから、仕事のストレスを減らすお勧めの方法をあげてもらいました。ご覧ください。


推奨1:管理監督者教育をすることで部下の心理的ストレス(ゆううつ感や不安感)が減る可能性があります。

内容:2011年に堤明純教授(北里大学)によりまとめられたシステマティックレビューでは、PubMed, the Cochrane Library, MEDLINE, Web of Science, 医学中央雑誌から検索された7つの論文の結果がまとめられています。これらの研究は、全てではありませんが、職場のメンタルヘルスに関する管理監督者教育を行った職場では、そうでない職場とくらべて、部下の心理的ストレス反応がより改善していたという結果を報告しています。堤教授は、これと関連するこの他の5つの研究もレビューしており、管理監督者の参加率が高いことが効果を得るために必要としています。また管理監督者教育の効果は6ヶ月以上経過すると減少するかもしれないので、毎年教育を行う必要性を述べています。
報告者:川上憲人、東京大学大学院医学系研究科・教授
根拠論文:Tsutsumi A. Development of an evidence-based guideline for supervisor training in promoting mental health: literature review. J Occup Health. 2011;53(1):1-9.


推奨2:職場で身体活動促進を進めることは、労働者の抑うつ・不安の減少に有効です

内容:職場でインストラクター等に指導を受けながら身体活動・運動プログラムを実施することで、気分の落ち込みや不安の減少を見込むことができます。1990年から2013年までに発表された17編の比較対照研究のうち、身体活動 (有酸素運動、筋力トレーニング等) によって抑うつ・不安の有意な減少を認めたものが複数確認できました。また、様々な身体活動のうち、特にヨガは、状態不安 (一時的な不安) の改善に有効であることが一貫して報告されていました。
報告者:渡辺和広、東京大学大学院医学系研究科・院生
根拠論文:Chu AHY, Koh D, Moy FM, Muller-Riemenschneider F. Do workplace physical activity interventions improve mentalhealth outcomes? Occup Med. 2014; Jun 64 (4): 235-245. doi: 10.1093/occmed/kqu045.


推奨3:仕事との程よい距離感がメンタルヘルスと活力を高める可能性があります

内容: 仕事と程よい距離をとることで,メンタルヘルスやワーク・エンゲイジメントを高められるかもしれません。一日の仕事が終わった後や週末に,仕事のことを忘れて仕事と程よい距離感を維持している労働者は,そうでない労働者に比べて,メンタルヘルスの状態が良く,かつワーク・エンゲイジメント(仕事で活力を得ていきいきしている状態)が最も高いことが分かりました。仕事による心身の疲れや仕事で消費された心理社会的資源が回復されることが,その理由ではないかと考えています。
報告者:島津明人,北里大学一般教育部人間科学教育センター,教授;東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野,非常勤講師
根拠論文:Shimazu A, Matsudaira K, de Jonge J, Tosaka N, Takahashi M. Psychological detachment from work during nonwork time: Linear or curvilinear relations with mental health and work engagement. Ind Health, 2016; 54: 282-92.


推奨4:ポケモンGOをすることで働く人のストレスが改善する可能性があります。

内容:ポケモンGOで働く人の心理的ストレス反応を改善できるかもしれません。ポケモンGOを1ヶ月以上続けた労働者では、そうでない労働者にくらべて心理的ストレス反応の得点が1年間により改善していました。ポケモンGOにより、外出し身体活動が増えること、人との交流が増加することはその理由ではないかと考えています。
報告者:渡辺和宏、東京大学大学院医学系研究科・院生
根拠論文:Watanabe K, Kawakami N, Imamura K, Inoue A, Shimazu A, Yoshikawa T, Hiro H, Asai Y, Odagiri Y, Yoshikawa E, Tsutsumi A. Pokemon GO and psychological distress, physical complaints, and work performance among adult workers: a retrospective cohort study. Sci Rep. 2017 Sep 7;7(1):10758. doi: 10.1038/s41598-017-11176-2.


推奨5:ストレスやうつ病について学ぶことで、うつ病で受診・相談した従業員のうつ状態がよくなる可能性があります。

内容:うつ病やうつ状態で、医師などを受診・相談した従業員が、ストレスやうつ病について基本的な知識を学ぶことで、うつ状態がより早く改善する可能性があります。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野が開発した、ストレスやうつ病について基本的な知識を学ぶウェブサイトである「うつめど。」(The University of Tokyo Stress Management and Education on Depression, UTSMed)で学習した労働者では、学習しなかった労働者にくらべ、特にうつ病などで医師に受診・相談していた場合に、1ヶ月後にうつ状態がより改善しやすいことがわかりました。「うつめど。」の内容はこちらからご覧いただけます:http://mental.m.u-tokyo.ac.jp/utsmed/
報告書:川上憲人、東京大学大学院医学系研究科・教授
根拠論文:Imamura K, Kawakami N, Tsuno K, Tsuchiya M, Shimada K, Namba K. Effects of web-based stress and depression literacy intervention on improving symptoms and knowledge of depression among workers: A randomized controlled trial. J Affect Disord. 2016 Oct;203:30-37. doi: 10.1016/j.jad.2016.05.045.


2017年10月10日更新