第146回例会 開催記録

日本動物心理学会第146回例会 「動物園の行動学」

今日の動物園の役割は、娯楽だけでなく、教育、研究も含み、最終的には、種の保存に貢献することであると言われています。動物心理学の分野に関わる研究者が、展示動物の行動研究に参加することは、動物心理学の新たな展開の契機になると同時に、動物園がその役割を果たすことに少なからず参加できると思われます。

現在、展示動物である動物園の動物の行動をさまざまな目的を持って研究しておられる方々に集まっていただき、その成果と今後の方向性をご紹介していただきます。動物園の展示動物に関心を持つ多くの方々にご参加いただき、活発な議論を願っています。

期日 2007年12月15日(土) 午後1時15分~午後5時
場所 大阪大学大学院人間科学研究科(吹田キャンパス)東館105教室

プログラム

  • 13:15-13:45 村山 司(東海大学海洋学部)
    「イルカ類の認知に関する研究」
  • 13:45-14:15 入江 尚子(東京大学大学院総合文化研究科)
    「アジアゾウの数量認知能力」
  • 14:15-14:45 平崎 鋭矢(大阪大学大学院人間科学研究科)
    「動物園でのバイオメカニクス研究の可能性」
  • 14:45-15:00 休憩
  • 15:00-15:30 長尾 充徳・松永雅之(京都市動物園)
    「エゾヒグマの認知能力と研究対象としての可能性について」
  • 15:30-16:00 三浦乃莉子(東京農工大学大学院農学府)
    「飼育下フサオマキザルの環境エンリッチメント実施のための評価実験」
  • 16:00-17:00 総合論議
    指定討論者 竹田正人(天王寺動植物公園)上野吉一(東山動植物園)

例会世話人:中道正之(大阪大学大学院人間科学研究科)、友永雅己(京都大学霊長類研究所)
問合せ先:中道正之
(電話:06-6879-8129または-8045;メール:naka[at]hus.osaka-u.ac.jp)

共催:「動物園の生物学5」(世話人:友永雅己、上野吉一)
共催:大阪大学大学院人間科学研究科:大学院教育改革支援プログラム「人間科学データによる包括的専門教育」

アクセス:大阪モノレールの阪大病院前下車徒歩5分、あるいは、JR茨木駅から近鉄バスで15分、地下鉄御堂筋・北大阪急行線千里中央駅から阪急バスで10分、阪大医学部前または阪大本部前下車、徒歩5分。
詳しくは、大阪大学大学院人間科学研究科ホームページ(http://www.hus.osaka-u.ac.jp/access/access.html)をご覧ください。


日本動物心理学会第146回例会報告
報告者:中道正之(大阪大学大学院人間科学研究科)・友永雅己(京都大学霊長類研究所)

「動物園の行動学」と題した日本動物心理学会第146回例会が、2007年12月15日に、大阪大学大学院人間科学研究科東館106教室において、開催された。 今日の動物園の役割は、娯楽だけでなく、教育、研究も含み、最終的には、種の保存に貢献することであると言われている。動物心理学の分野に関わる研究者が、展示動物の行動研究に参加することは、動物心理学の新たな展開の契機になると同時に、動物園がその役割を果たすことに少なからず参加できると思われる。そこで、現在、展示動物である動物園の動物の行動をさまざまな目的を持って研究しておられる5名の方に、その成果と今後の方向性をご紹介していただき、「動物園の行動学」の可能性を探る研究会を開催した。

日本の10余の水族館等でイルカ類の認知研究を長年にわたり続けておられる村山司氏(東海大学海洋学部)は、その成果だけでなく、飼育担当の方々との相互理解の重要性も指摘していただいた。平崎鋭矢氏(大阪大学大学院人間科学研究科)からは、ワオキツネザル、ゴリラなどが動物園で暮らしている状態のままで、彼らの生体力学を研究する新しい試みを聞かせていただいた。入江尚子氏(東京大学大学院総合文化研究科)は、陸生動物の中で最も大型の動物であるアジアゾウの数量認知の最新の研究成果を発表していただいた。動物園の飼育担当をしておられる長尾充徳氏(京都市動物園)からは、エンリッチメントの試みのために与えた物体をエゾヒグマがどのようにかかわるのかについて詳細な報告をいただいた。最後に、三浦乃莉子氏(東京農工大学大学院農学府)からは、集団で暮らすフサオマキザルのケージにロープを縦と横に張ったときの行動の違いを定量的に測定したデータを紹介していただき、エンリッチメントにおける実証的な評価の重要性と問題点を指摘していただいた。その後に、竹田正人氏(天王寺動植物公園)と上野吉一氏(東山動植物園)のふたりの指定討論者から、総合的な観点からのコメントをいただいた。

研究会には、13大学、9動物園・水族館、2企業などから、計68名の参加者があり、個別の発表後も、総合論議でも、終始活発な議論が展開された。とりわけ、大学関係者と動物園・水族館関係者が、互いに協力しながら、展示動物の福祉にも十分考慮しながら、多くの種の動物の豊かな心を探っていくことの重要性と楽しさを、研究会を通して、確認できたと思う。

尚、本研究会は、「動物園の生物学5」(世話人:友永雅己、上野吉一)、及び大阪大学大学院人間科学研究科:大学院教育改革支援プログラム「人間科学データによる包括的専門教育」の共催として行われた。