第140回例会 開催記録

日本動物心理学会第140回例会

第140回例会を東海地区で、下記要領で開催させていただきます。今回は岐阜大学の心理学関係者ではない研究者と、進化について語り合いたいと思い、下記の内容を企画しました。多くの方に参加していただき、議論していただけることを願っています。

岐阜大学 大井修三

日 時:2006年3月4日(土)14時00分から16時00分まで
場 所:ハートフルスクエアーG クラフト室
http://www.ip.mirai.ne.jp/~heartful/:Tel 058-268-1050)
(JR高架下施設。JR岐阜駅東側に隣接しています。クラフト室は2階です。)
主 題:「地質学、人類学、心理学から進化を考える」

趣 旨:
最近、氷河のボ-リングによる年代測定から、社会的学習と文化の発生および大脳化が氷河期の激しい気温の変動とその後の最近10万年の恒温によるというレビューを目にしました。今まであまり身近に考えなかった地質学の知識が、進化を考える上で重要なのではないかと思い至ったしだいです。ちょうどその時期に人類の進化が大きく影響を受けた時期でもあります。そこで、進化を考えている地質学と人類学の研究者の話を聞き、心理学研究者との議論を通じて新たな視点を共有できればと思い、下記を企画しました。

演者と演題:
  川上紳一(岐阜大学教育学部地学)「脳機能の進化は地球環境と関連しているのか」
  口蔵幸雄(岐阜大学地域科学部人類学)「ホミニゼーション研究の最近の動向」

内容要旨:

川上先生「地球に生息する多様な動物における人類の特異性は、高度な知性をもっていることである。人類のもつ知性は大きな脳の作用によるものであるが、とりわけ大脳皮質の働きによる。人類の脳は、せきつい動物の進化とともに発達してきた。化石人類化石と古気候の研究は、脳容積が増大した時代が、氷期と間氷期が繰り返した激しい気候変動で特徴づけられることを明らかにした。初期人類は、地球環境の大きな変動のなかで、将来何が起こるかを知りたいと願い、自分たちのまわりの環境がどのようなものであるかを理解しようとした。それはまず心的イメージとして表現され、やがて言語で表現されるようになったものと思われる。すなわち人類特有の知性の発達は、地球環境の激変が後押しした出来事であったのだ。もしさまざまな動物行動に進化の階層性があるとすれば、それを歴史のなかで位置づけて地球環境との関連性を探ることは意味のあることではなかろうか。」
(主要著書:『生命と地球の共進化』NHKブックス、2000年ほか)

口蔵先生「ホミニゼーションとは類人猿(ヒト上科)からヒト科が分岐するプロセスのことです。具体的には、類人猿(チンパンジーとの共通の祖先)の一部が直立二足歩行という推進様式を獲得し、ヒト科として進化することです。従来の仮説では東アフリカの大地溝帯において森林の縮小にともない開放地に進出した類人猿の一部がヒト科になった、というものでした。しかし、ここ数年間で新しい化石が続々と発見され、この定説が覆されようとしています。このような、最近の人類進化に関する新説、論争について紹介します。」
(主要著書:『吹矢と精霊』東京大学出版会、1996年ほか)


日本動物心理学会第140回例会報告
大井修三教授(岐阜大学)

岐阜大学の地質学者:川上先生、人類学者:口蔵先生に、進化を中心とした話題を提供して頂いた。出席者は24名であったが、その半数は非会員であった。川上先生には、心理学で考える時間軸よりも遙かに大きな単位での時間変化を基に、地質学の視点から大胆な認知進化の仮説にまで踏み込んだ話題が提供された。心理学が進化の話題で考える時間の単位との違いにとまどいながらも、地球と生物の共進化という新しい考え方に刺激を受けた。また、口蔵先生には、人類進化に対する考え方の転換が1990年代に起こったこと、またホミニゼーションの近年の話題を直立2足歩行の意義などを中心に提供された。直立2足歩行の力学的生態学的背景だけでなく、その進化論的展開に関するいくつかの具体的な仮説に基づく話題は、興味深いものであった。  その後若い人を中心に活発な議論が行われ、一方で学問間でのもっと密接な交流の必要性も考えさせられた例会となった。