心理学の研究では,色々な現象,法則の発見に動物実験は大きな役割を果たしている。一方こうした研究の中で,動物の能力,行動傾向について多くの知見も得られている。動物実験を行う上では,生きとし生ける存在である動物の福祉と,その能力,行動傾向に留意することが求められる。本 学会では動物実験の実施において注意すべきことがらをまとめ,以下のとおり指針として発表する。そして本会員が教育の場で,あるいは研究における動物実験 の実施に際し,この指針を遵守することを求めるとともに,本学会誌「動物心理学研究」ではこの指針に準拠した論文のみを受理することとする。
基本原則
動物実験を行うに際しては,これに関わる関係法規(「動物の愛護及び管理に関する法律」(法律第68号,平成17年6月22日),「実験動物の飼養および保管等に関する基準」(総理府告示第6号,昭和55年3月27日),を遵守しなければならない。動物を実験に用いる場合は,その生命を尊重し,愛情を持って接するとともに,実験に伴う苦痛やストレスを出来る限り与えないようにする必要がある。飼育施設では動物が快適に過ごせるような広さ,衛生状態が確 保されなければならない。また可能な限り動物の心理学的幸福に配慮し,動物の生態に即した環境を整えることが求められる。さらに3つの R(Replacement, Reduction, Refinement)と称される次の3項目に合致する実験に努める必要がある。即ち,
1) 解明したい心理現象,心理過程の解明に動物実験が真に必要かどうかを吟味し,人を対象とした実験やシミュレーション実験など,可能な限り動物を使用しない実験に置き換える(Replacement)。
2) 動物実験が必須である場合も,実験動物の数を可能な限り少なくするよう努力する(Reduction)。
3) 実験方法の改良などにより,動物への負担を可能な限り軽くして,有効な情報をより多く得られるよう努力する(Refinement)。
動物の入手と搬入
実験に用いる動物はすべて合法的に入手したものでなければならない。特に海外からの入手に際しては,ワシントン条約を遵守しなければならない。また搬入する動物は,人や他の動物への感染の危険のないものに限るものとする。
動物の飼育
動物は,個々の種の大きさや生活様式に即して適切に設計された,専用の清潔な施設で飼育することを原則とする。動物の身体的な健康状態だけでなく,精神的 な健康状態にも常に配慮を怠らないよう努める。栄養に過不足のない,動物種に適した給餌,給水を行うとともに,異常が認められたときは直ちに獣医師などの専門的知識を有する者に相談するものとする。同時に周辺地域に十分配慮して,動物の逃亡,臭気の発生を起こさないよう最大限の努力をする。また動物による 実験者,飼育担当者の咬傷等の防止に努めるとともに,人と動物に共通の感染症に対しては,検疫と感染防止に万全を期すものとする。動物に対する遺伝子操作,及び遺伝子操作が加えられた動物の扱いについては,「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律 (法律第97号,平成15年6月18日)」に従わなければならない。
動物実験の実施
動物実験を計画する上では,その実施が教育上,または研究上十分な価値を持つことが必須である。動物実験を行うことができるのは,十分に経験を積んだも の,あるいはその監督下にあるものに限るものとする。実験において動物に食事や水分の制限を課す場合や,拘束などを行う場合には,動物に与える苦痛やストレスを最小限にするよう努力するとともに,動物の健康状態を毎日チェックし,異常が認められた場合は原則として実験を中止して健康の回復をはからなければ ならない。
動物実験の審査
動物実験を計画するものは各研究機関に設置された動物実験倫理審査委員会に実験計画書を提出し,その審査を受け,承認を得なければならない。審査委員会では,動物福祉の観点から必要なら実験計画の問題点を指摘し,適切な助言を行うことが望まれる。
実験終了後の処置
実験終了後に動物を殺処分する必要がある場合には,動物に苦痛を与えない方法で,安楽死処置をしなければならない。そこでは,総理府告示(法律第403号,平成7年7月4日):「動物の処分に関する指針」に準拠するものとし,屍体の処分も法に則って行うものとする。
(2005.10.9制定)

