日本発達心理学会第16回大会公開シンポジウム(後援) 開催記録

日本発達心理学会第16回大会公開シンポジウム
(日本動物行動学会、日本動物心理学会、日本霊長類学会、人間行動進化学研究会後援)
『ヒトはなぜ賢くなったか?─知性の起源とマキャベリ的知性仮説』

春の訪れが待ち遠しい候、皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。 この3月に行われる日本発達心理学会第16回大会において、準備委員会企画として、「ヒトはなぜ賢くなったか?-知性の起源とマキャベリ的知性仮説」と題したシンポジウムを開催することとなりました。

発達心理学のみならず、さまざまな分野の研究者が一堂に会し、知性の進化とい う大きな謎に新たな視点で迫りたいと思います。

このシンポジウムは、日本霊長類学会、日本動物行動学会、日本動物心理学会、人間行動進化学研究会の後援を得て、各学会員の方々に、公開シンポジウムとさせていただくことになりました。

本シンポジウムから新たな学問の連携が一層すすむことを期待します。皆様のご来場をお待ちいたしております。
詳細につきましては、以下をご覧ください。

日時:2005年3月28日(月)12:30-15:00
場所:神戸国際会議場
(会場へのアクセス等、くわしい情報については、http://www2.kobe-u.ac.jp/~jsdp16/をご覧ください)
参加費:無料(ただし、大会の他のプログラムへの参加には参加費が必要です)

企画:
友永 雅己(京都大学霊長類研究所)
明和 政子(滋賀県立大学人間文化学部)
小椋 たみ子(神戸大学大学院文学研究科)

話題提供者:
山越 言(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
「社会的知性仮説は大型類人猿-ヒト的な知性の進化を説明できるか」

平田 聡(林原類人猿研究センター)
「チンパンジーのマキャベリ的知性」

小田 亮(名古屋工業大学大学院工学研究科)
「ヒトにおける社会的知性の構造と適応」

國吉 康夫(東京大学大学院情報理工学系研究科)
「身体性に基づく認知の創発と発達のロボット的シナリオ」

指定討論者:
千住 淳(東京大学大学院総合文化研究科)
藤田和生(京都大学大学院文学研究科)
麻生 武(奈良女子大学大学院人間文化研究科)

「ヒトの知性はどのように進化してきたのか」。近年、この問いに答えるべく比較認知科学や進化心理学は精力的に研究を進めています。しかし、知性の「進化史」を明らかにするだけでは十分とはいえません。「ヒトの知性はなぜそのように進化したのか」。この問いに答えてこそ知性の進化的理解にたどりつけるのではないでしょうか。この問いかけをみのりある実証研究へと昇華させるためには、検証可能な仮説が必要です。

今から16年前、霊長類学者たちが一つの魅力的な仮説を提唱しました。『われわれの持つ知性は、社会生活にともなう複雑な問題に対処する必要性から生まれてきた』。こう主張するマキャベリ的知性仮説がそれです。1988年にR.W.バーンとA.ホワイトゥンによって出版された”Machiavellian Intelligence”は霊長類学のみならず、行動学、発達心理学など多方面に大きなインパクトをもたらし、1997年にはその続巻が刊行されました。そして2004年には、これらの日本語版も出版されました。

マキャベリ的知性仮説がカバーするトピックは非常に幅広く、その大半は発達心理学と密接な関係を持っています。言い換えれば、発達心理学なしにはこの仮説がここまで成長することはなかったかもしれません。日本でも社会的認知の発達は多くの研究者の興味をひきつけています。しかしながら、マキャベリ的知性仮説のような進化論的、適応論的な視点をもって行われている研究はまだまだ少ないのが現状です。今回のシンポジウムでは、マキャベリ的知性仮説と(そして発達心理学とも)密接に関連する領域の気鋭の研究者をお招きし、それぞれの研究分野でマキャベリ的知性仮説がいかに取り込まれているかをご紹介いただくともに、発達心理学への示唆をもたらしていただこうと考えています。

話題提供者として、霊長類学からは野生チンパンジーを対象に道具使用(技術的知性)と生態環境(生態学的知性)の関連を研究するとともに、社会的知性についても研究を進めている山越言さん、比較認知科学からは、チンパンジーの協力行動、役割分担、欺きなどについての実験をもとに社会的知性に関する研究を進めている平田聡さん、進化心理学からは裏切り者検知機構と顔の記憶の関連などの研究を通して日本の進化心理学をリードする研究者のひとりである小田亮さん、そしてロボティクスからは認知発達ロボティクスの牽引者のひとりである國吉康夫さんをお招きしました。また指定討論者には、マキャベリ的知性仮説を論じる上で避けることのできない自閉症や社会脳の研究の領域で活躍している千住淳さん、日本の比較認知科学研究の第一人者であり、今回の翻訳を企画した藤田和生さん、乳児のコミュニケーションや自我の発達について進化論をも含めた広い視点から研究しておられる麻生武さんに指定討論をお願いしました。

本シンポジウムは、日本発達心理学会第16回大会準備委員会の企画のもと、日本霊長類学会、日本動物行動学会、日本動物心理学会、そして、人間行動進化学研究会の後援を得て公開シンポジウムとして開催することになりました。本シンポジウムから新たな学問の連携が一層すすむことを期待します


日本発達心理学会第16回大会公開シンポジウム (日本動物行動学会、日本動物心理学会、日本霊長類学会、人間行動進化学研究会後援) 『ヒトはなぜ賢くなったか?─知性の起源とマキャベリ的知性仮説』報告
友永雅己助教授(京都大学霊長類研究所)

去る2005年3月28日に日本発達心理学会第16回大会において、大会準備委員会企画として、「ヒトはなぜ賢くなったか?-知性の起源とマキャベリ的知性仮説」と題したシンポジウムを日本動物心理学会を含む計4学会・研究会の講演で開催した。 近年、ヒトの知性の起源と社会的知性の関係が大きな注目を浴びている。ヒトの知性の起源に社会的知性を想定するという「マキャベリ的知性仮説」は霊長類学者により提唱され、発達心理学における心の理論研究や発達障害研究、比較認知科学や進化心理学、さらにロボティクスなどの構成論的アプローチなどともリンクしながら実証的な研究が少しずつ蓄積されはじめてきた。本シンポでは、そのような現状と今後の展望を各領域の気鋭の研究者に紹介していただいた。それぞれのトピックは非常に刺激的で興味深いものであったが、残念ながら、講演時間が短かったため各演者には十分に話していただくことができなかった。今後は、諸学会の間の連携も視野にいれて、もう少し長い時間を取れるような機会を作れるよう努力していきたい。 末尾になったが、このような企画をお認めいただいた日本発達心理学会第16回大会準備委員会に謝意を表するとともに、本シンポをご後援いただいた、日本霊長類学会、日本動物行動学会、人間行動進化学研究会に感謝いたします。