応用動物行動学会、日本動物心理学会 共催シンポジウム共催 開催記録

応用動物行動学会、日本動物心理学会 共催シンポジウム
『動物の条件づけ学習と野生動物の被害管理』

日時:2005年3月26日(土):13:00-17:30
場所:関西学院大学大阪梅田キャンパス
(K.G.ハブスクエア大阪、梅田駅前、定員96名)
会場地図はこちら:http://www.kwansei.ac.jp/kg_hub/access.html
参加費:500円(資料代として)

講演予定者
 磯 博行(兵庫医科大学)
 吉野俊彦(太成学院大学)
 江口裕輔(麻布大学)
 井上雅央(奈良県農業技術センター)
 岡野美佐夫(野生動物保護管理事務所)
指定討論予定者
 室山泰之(京都大学霊長類研究所) 
 中島定彦(関西学院大学)

<シンポジウムの趣旨>

近年、人里にやってきて畑や人家を荒らす動物たちが報道等で話題になっています。昨年、全国で話題に なったクマによる人身被害や、都市部の住宅地にやってくるイノシシ、増えすぎたシカ、そして先日も下北 のニホンザルの特定鳥獣保護管理計画にもとづく捕獲、など、数え上げればきりがありません。  これら野生動物の被害管理については様々な観点からのアプローチがなされていますが、今回は、被害を おこす動物に対する行動制御をシンポジウムのテーマとしました。被害管理には様々な技法が利用されてい ます。音響器やロケット花火などの音や光などによる撃退、電柵などの忌避刺激の呈示による回避、また毒 性のある食物を摂取させて人里にある食物への嫌悪を条件づける、などなど…しかし、そのような実践活動 を行っている方からは、これら行動学的・心理学的技法の持続性をいかに維持していけばよいかという声を たびたび耳にします。

一方、動物を対象とした学習心理学の領域では長きにわたって古典的条件づけやオペラント条件づけの基 礎研究が行われています。そこでの知識の蓄積は相当なものになっているはずです。そして、これらの知見 をこうした実践的な面に応用したいと考えている基礎研究者も数多いと思われます。しかし、実際に野生動 物の被害管理の現場で条件づけの技法が使われている(そして十分な効果を挙げていないように思われる) にもかかわらず、これら基礎研究者が被害管理に関与している例は少ないようです。この理由の一つには日 常的にお互いが接する機会がないためではないかと考えました。それぞれの方々が集う学術集会などの場と いうのは明らかに異なっています。それぞれがそれぞれの状況を知っていても、それに対して積極的に意見 交換を行う場がこれまでほとんど持たれなかったのではないでしょうか?  今回のシンポでは、このようなディスコミュニケーションを改善し、相互理解を深め、実践活動への連携 の可能性を探るべく企画いたしました。現場での実践活動における問題点を十分に把握するとともに、被害 管理に適用可能な条件づけ技法に関する最新の知見を概観する。これらの作業を通して、実践家と基礎研究 者のコラボレーションによってより効果的な野生動物の被害管理がすすむことを期待してやみません。

企画・運営・司会
安江 健(茨城大学)
上野吉一(京都大学霊長類研究所)
友永雅己(京都大学霊長類研究所)

両学会員以外どなたでも参加できますが、資料準備の都合がありますので参加希望者は3月19日(土)まで に事務局の安江健(tyasue@mx.ibaraki.ac.jp)までお名前と連絡先をご一報願います。


応用動物行動学会、日本動物心理学会 共催シンポジウム 『動物の条件づけ学習と野生動物の被害管理』報告
友永雅己助教授(京都大学霊長類研究所)

近年よく問題となっている野生生物の被害管理について、現場での実践的活動とそこで利用されている各種技法の学習心理学的な基礎について、それぞれの立場の相互理解を深めることを目的として、応用動物行動学会と日本動物心理学会による共催シンポを開催した。参加者は83名だった。学習心理学の分野の2名(磯、吉野)はともに、行動を制御する上で用いられる罰の技法の功罪について基礎研究の成果をもとに解説した。被害管理の実践的活動を行っている3名(江口、岡野、井上)からは、それぞれの立場から野生生物(イノシシやサル)の被害管理の現状と問題が報告された。講演後の総合討論でも講演者や指定討論者の間で活発な議論が行われた。それぞれの領域の間にはまだ隔たりがあるように見えたが、それぞれがお互いを理解し共同での研究や実践を探ろうとする姿勢も強く感じられた。学習心理学の立場からいえば、厳密に統制された環境での基礎的な知見が、野外生息域のような統制の弱いオープンな環境にどのように適用可能かという問題は、今後も両方の領域の研究者たちがさらに真摯に考えていかなくてはならないものであろう。