ライフサイエンスシンポジウム




第3回静岡大学ライフサイエンスシンポジウム
(第11回静岡大学大学院理工学研究科シンポジウム)

細胞の増殖と分化:細胞の運命のキーファクターを探る

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日 時 : 2005年7月21日(木)14:00〜16:50
場 所 : 静岡大学共通教育A棟A301室(〒422-8529 静岡市駿河区大谷836)
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【講演プログラムおよび要旨】
14:00〜14:05  開会挨拶
    丑丸 敬史 (静岡大学 理学部)
14:05〜14:35  「栄養源飢餓が及ぼす細胞周期進行への影響」
    丑丸 敬史 (静岡大学 理学部)
   真核生物である酵母からヒトまで高度に保存されているプロテキンキナーゼTOR(target of rapamycin)は、栄養源の有無を感知し、細胞の様々な機能(転写、翻訳、タンパク質分解)を制御している。最近、TORは癌、老化、肥満、分化といった多様な現象にも影響を及ぼす因子として注目を集めて、TORは医学的に重要視されてきている。TORの特異的阻害剤ラパマイシンは、抗癌剤及び免疫抑制剤として現在臨床検査が進んでいるが、上記のようにTORは様々なイベントを制御しているため、TORが制御している未知の機能がラパマイシンで阻害されることを介しての正常細胞への副作用も懸念されるところである。TORがどんなイベントを制御しているかを明らかにすることで、これらに対する予備的な知見が得られるものと期待できる。
 当研究室では、最もTORシグナル系の解析が進んでいるモデル生物である出芽酵母を用いて、TORの下流のイベントの解析を進めている。TORを特異的阻害剤であるラパマイシンで処理すると細胞はG1期に蓄積する。このことから、TORはG1期進行(G0期進入)を制御していることが示されている。しかし、G1期以外の細胞周期の進行に本当にTORの不活性化が影響を与えないのか、に関しては調べられていない。我々は最近、TORがDNA複製期であるS期進行と細胞分裂期のM期進行に関与することを示す証拠を得た。今回は、M期進行に関するTORの役割りに関して発表する。
 TORを不活性化すると微小管が崩壊する現象が知られていた。我々はこの現象を詳しく解析する目的で、M期後期で細胞周期進行を停止する変異株cdc15-2を用いた。cdc15-2はM期脱出のためのネットワーク(MEN)に支障を来しており、染色体の分離後、長い後期微小管を維持したまま細胞質ができずにそのままで停止する。しかし、TORを阻害すると、微小管が中央部(midzone)特異的に崩壊した。その中央部紡錘体微小管の構造を維持しているmidzoneタンパク質のAse1及びSlk19に関しては、TOR不活性後にタンパク質レベルが減少した。しかしAse1の分解活性を調べたところ分解は促進されていなかった。一方、MENの実行にはM期サイクリンClb2の分解が必要である。この分解活性がTORの不活性化により促進された。Clb2はM期後期にAPC/Cdc20により、その後M期終期にAPC/Cdh1によりユビキチン化され分解される。我々は、このTORの不活性化がAPC/Cdc20の活性化を介してClb2の分解促進を引き起こすことを示唆するデータを得た。

14:35〜15:20  「真核生物の染色体DNA複製とその制御
 −出芽酵母タンパク質抽出液を用いた試験管内複製複合体形成の分子ダイナミズム−」

    川崎 泰生(大阪大学 大学院)
   真核生物は、個々の細胞が持つ長大なゲノムを過不足なく複製させるために巧妙な制御機構を持ち、その仕組みは酵母からヒトまで高度に保存されていることがわかってきている。染色体DNAの複製開始反応は大きく2つの段階で制御されている。すなわち、ゲノム上に散在する複製開始領域(オリジン)に複製前複合体(pre-RC: pre-replicative complex)が形成される段階とS期CDK、Cdc7/Dbf4と呼ばれる二種類のタンパク質リン酸化酵素の働きによってpre-RC近傍に複製フォークが形成される段階である。前者は細胞周期のM期の終わりからG1期にかけて、後者はG1後期からS期初期に起こる。Pre-RC形成には14種類以上のタンパク質が関与し、複製フォークは3種類のDNAポリメラーゼを含む30種類ものタンパク質が含まれると考えられており、そのほとんどが生育に必須であることから、DNA複製の全体像を知るには個々のタンパク質の役割を解明することが必須である。我々は、これらの制御機構を分子レベルで解明するために出芽酵母を用いて研究を行っている。1)pre-RC形成における構成因子の分子動態の解析、および、2)Cdc7/Dbf4の複製オリジンへの結合とそのリン酸化ターゲットの解析、についてDNA複製に欠損を来す条件致死変異株を用いた分子遺伝学的な解析と、同調した細胞の粗抽出液を用いることにより複製オリジンDNA上での複合体の集合・離散の解析を行ってきた結果を報告したい。これらの研究を通じて、複製オリジンにおける複合体形成は段階的にかつダイナミックに行われていることを紹介し、DNA複製制御の真核生物共通の側面と酵母に特異的な現象について考察したい。

15:20〜15:50  「肝臓の発生と再生のメカニズムを探る −ステムセルからの肝細胞分化−」
    小池 亨 (静岡大学 理学部)
   脊椎動物の肝臓は,栄養物質の代謝,有害物質の解毒,糖新生による血糖値の維持,血清タンパク質の産生,胆汁の合成など,多様な機能を有している。こうした機能は肝臓の総細胞数の約70%を占める肝細胞が主に担っているが,その機能を十分に発揮するには,血管内皮細胞や胆管細胞など他の細胞集団を含めた肝臓特有の組織構造(肝小葉)を構築しなければならない。それでは肝臓の組織構造は,発生過程でどのようにしてできるのだろうか?
 肝臓の発生は,マウスでは妊娠8日目,ラットでは妊娠9日目に,前腸の腹側内胚葉上皮の一部が近接する心臓中胚葉からの分化誘導を受けて肥厚することに始まる。その1日後には誘導を受けた内胚葉上皮は肝芽細胞となり,隣接する横中隔間充織に索状に侵入し,その間充織細胞と相互作用を行ないながら肝臓の組織形成を開始する。肝芽細胞はその過程で盛んに増殖し,発生が進むと肝細胞だけでなく胆管上皮細胞にも分化する。こうした性質から,肝芽細胞は一種の肝幹細胞(肝ステムセル)と考えられている。最近では肝臓の発生に関わる遺伝子や分子機構が,遺伝子改変マウスなどを用いた研究によって急速に明らかになってきている。
 また肝臓は再生能力の強い臓器であり,肝部分切除術や様々な薬剤による肝障害からの肝臓の再生など,臨床的な視点からもその再生機構の研究は注目を浴びている。肝部分切除術後の肝再生に際しては,普段はほとんど増殖しない肝細胞が盛んに増殖するようになる。一方,肝細胞の増殖を抑制した条件下で様々な肝障害を誘導すると,成体肝臓内にoval cellsと呼ばれる高い増殖能を持った細胞が現れる。oval cellsは肝細胞だけでなく胆管上皮細胞にも分化し,肝臓の再生に寄与する肝幹細胞と考えられている。また近年では,造血幹細胞や間葉系幹細胞など,肝臓以外の組織由来の成体幹細胞が,肝臓の再生にも寄与しうることが実験的に示されており,oval cellsを含めた成体幹細胞の増殖制御,分化制御機構など肝再生への寄与の機構の解明が,肝障害における肝臓移植に変わる細胞移植療法への応用面からも期待されている。
 我々の研究室ではマウスやラットを実験材料に用いて,発生過程における未分化内胚葉上皮や再生過程における成体幹細胞からの肝細胞の分化機構の共通性,非共通性に興味を持ち解析を進めている。発生過程における未分化内胚葉上皮細胞からの肝細胞の分化を解析するために,正常マウスやアルブミンプロモーター下に蛍光タンパク質の遺伝子を組み込んだトランスジェニックラット(肝細胞が分化すると蛍光観察下で蛍光を発する)の肝臓原基の器官培養や上皮単独培養を行なっており,1)出生前後の分化段階の肝細胞がインビトロで分化すること,2)上皮の生存と分化には間充織のサポートが重要であることなどを示している。また最近はいくつかの障害肝モデルを用いて,oval cellsや造血幹細胞からの肝細胞の分化の解析を始めているので,それら障害肝の再生過程についても概説する。

1550〜16:35  「胃と腸はどうやって分かれるのか?」
    福田 公子 (首都大学東京 都市教養学部)
   発生生物学の最大の疑問は,最初はたった1つの細胞だった受精卵がどうやって体中の何百,何千のも種類の細胞をつくるのか?ということです.いままでに発生生物学者はいろいろな細胞をとりあげ,この問題を解決するべく研究をしてきました.私はこのいろいろな細胞のうち,消化管の細胞に興味を持っています.消化管は口と肛門をむすぶ一本の長い管からできていて,食物の消化,吸収を担っています.この消化,吸収を効率よく行うために消化管は口側から食道,胃,小腸.大腸などの各器官に分かれ,それぞれの器官は非常に特徴的な形態をとり,これまた非常に特徴的な遺伝子を発現します.一本の管である消化管はどのようにしてそれぞれの洗練された器官に分化したのでしょうか?実は消化管は真ん中の穴の表面(体の内表面です)を覆う内胚葉からできた上皮と,それを取り囲んで筋肉や血管をつくる,中胚葉性の間充織からできています.このうち,各器官でもっともその特徴がでるのは上皮です.上皮は形も遺伝子発現もそれぞれの領域で全く違います.しかし上皮がどうやってその特徴を獲得する(領域化する)のかは完全にはわかっていません.そして,どうやって領域化が起こるのかを知るためには,『いつ』,『どこで』領域化が起こるのかを知らなければなりません.そこで私たちはまず,ごく早い時期の胚で,できた内胚葉が消化管のどこの上皮になるのかを示す,詳細な内胚葉運命地図を作製しました.次にこの発生運命地図を用いて,前腸(胃や食道になる内胚葉)と中後腸内胚葉(小腸や大腸になる内胚葉)がいつ領域化するのかを調べました.まず後腸の領域化の時期を決めるため,様々な時期の胚の後腸になるはずの内胚葉を前腸になる場所に移植し,後腸内胚葉に特異的に発現するマーカーであるCdxA, 前腸内胚葉マーカーであるSox2の発現を調べました.すると後腸内胚葉は内胚葉ができた直後から4体節期の間に領域化されていることがわかりました.次に前腸の領域化の時期を決めるため,同様の実験を行ったところ 前腸は後腸よりも遅い,4体節期から10体節期の間に領域化されることがわかりました.今後,これらの情報を元にどのような分子がこの領域化に関わるかを調べたいと思っています.

16:35〜16:50  総合討論

【懇話会】 シンポジウム終了後、懇話会を開催いたします。
参加費は無料ですので、奮ってご参加ください。
場所:静岡大学共通教育A棟303室

主 催 : 静岡大学大学院理工学研究科
後 援 : 静岡大学生命科学若手フォーラム
世話人: 丑丸 敬史 (静岡大学 理学部)
小池 亨 (静岡大学 理学部)



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