すべり坂論法

(すべりざかろんぽう the slippery slope argument)

「[米英軍が]イラクから撤退すれば、アフガニスタンからも兵を引かせようと 攻撃してこよう。最後は、中東全体から完全撤退しなければならなくなってしまう。 われわれが弱く出れば出るほど、テロリストは襲いかかってくる」

---トニー・ブレア英国首相

政府が、テロリストの脅迫には屈せず、自衛隊を撤退させないとの立場を堅持 しているのも、国民を守る責務をわきまえているからだ。 脅迫に屈すれば日本国民はいたる所でテロリストのターゲットとなり、 際限のない譲歩を余儀なくされてしまう。

---産経新聞社説

すべり坂議論というのは、簡単に言うと、男性に手を握ることを許したら、 「手をにぎっていいならキスだって。キスがいいんなら体を触ったって…」と ずるずるすべっていき、最後にはムチとロウソクの世界になってしまうという議論。 そこで、最初は「キスはよくてもSMはぜったいにいや」と思っていても、 しまいにはずるずるとすべっていってしまうので、 男性には手を握らせるべきではないことになる。 同様な議論が、安楽死反対論やマリファナ禁止論にも使われる。

---某ウェブ日記から


すべり坂論法とは、 ある行為が法的または道徳的に許されないことを示すために 使われる論法の一つであり、 一般に次の形式を持つ。

「もしあなたがはじめの一歩Aをふみだすならば、あなたか、 重要な点においてあなたと似ている別の行為者によって 類似の行為が次々と連鎖的に行なわれ、 その結果、行為Bが必ずなされるか、 あるいは非常に高い可能性でなされるだろう。 Bは道徳的に許容できない。したがって、 あなたは第一歩Aをふみだしてはならない。」

たとえば、次のような議論がそれである。 「おそらく極端な例においては自発的な安楽死が道徳的 に正当化される場合もあるかもしれない。しかし、自発的安楽死は非人間的な 社会へと向かうすべり坂の第一歩であるから、決してそれを行なうべきではな いし、ましてや合法化は論外である。そうなると、次には重度の障害を持った 新生児が殺されることになり、その次には精神的障害を持った人々が殺される ことになり、ついには役に立たない老人がその意志に反して殺されることにな る。」

「すべりやすい坂論」とも訳されるが、 この場合のargumentは「対人論法」とか「三段論法」 と同じ意味で用いられているので、 「論法」と訳すのが適当だと思われる。 また、すべり坂論法にはいろいろ種類があると考える論者は、 `the slippery slope arguments'と複数形にする。

さらに詳しくは次の文献紹介を見よ。


上の引用は以下の著作から。


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Sun May 28 11:44:27 JST 2006