修正アトキンス食 (Modified Atkins Diet)とは。
最近、「アトキンス変法」とか「修正アトキンス食」という言葉を聞きませんか?英語では、「Modified Atkins Diet」と言います。
"Modified"とは、日本語では「緩和された」とか「一部変更された」と訳されますが、簡単に言いますと「一部変更されたアトキンスダイエット」ということです。
アトキンスダイエットとは、アメリカのロバート・C・アトキンス氏が著した「アトキンス博士のローカーボ(低炭水化物)ダイエット(Dr. Atkins'
New Diet Revolution)」で理論と内容が紹介されている「低炭水化物(ローカーボ)ダイエット」です。
アトキンス式低炭水化物ダイエットとは、「炭水化物の摂取制限をし、それにより不足する栄養をサプリメントで補いながら体脂肪を燃焼しやすい体質に変えていくことで減量するダイエット法」だそうです。(医学博士 ロバート・C・アトキンス著 日本語版監修 医学博士 橋本三四郎 訳 荒井稔 「アトキンス式低炭水化物ダイエット」から引用)
修正アトキンス食(Modified Atkins Diet)とは、どのようにして生まれたのでしょうか?
その経緯は、「The KETOGENIC Diet - A TREATMENT FOR CHILDREN AND OTHERS WITH EPILEPSY
- 」の中で紹介されています。簡単にご紹介します。
アメリカ所在のJohns Hopkins Hospital ではケトン食を始めるに当たって入院する必要があるのですが、入院まで1ヵ月以上待つ必要があるそうです。
7歳の少女、ケイトは、この1ヶ月の待機期間中にケトン食を開始するための準備として、主治医からパン、ピザ、ケーキ、シリアル等の高炭水化物食品を控えるように提案を受けました。ケイトの母親は、炭水化物を減らすことについて情報を得るために主治医からロバート・C・アトキンス氏が著した「アトキンス博士のローカーボ(低炭水化物)ダイエット(Dr.
Atkins' New Diet Revolution)」を購入し、アトキンスダイエットの導入期について読むことを勧められました。ケイトの母親は、金曜日にこの本を買い炭水化物を減らしていくと、月曜日にはケイトの発作は完全に止まってしまったそうです。
ケイトを診察した主治医は、尿中のケトン体量はあたかもケトン食を実施しているかのごとく多いことを確認しました。栄養士がケイトの食事内容に基づき栄養素を計算したところ、一日当たりの炭水化物量が約10gであることが判明しました。これが、修正アトキンス食の始まりです。
アトキンスダイエットは、高脂質・低炭水化物食であり、体内にケトン体を産出する点においてはケトン食によく似ていますが、アトキンスダイエットは減量を目的にしている一方、ケトン食はてんかん発作のコントロールを目的にしており、その目的は大きく異なります。
しかし、ケイトの例によれば、アトキンスダイエットを少し変更することで、ケトン食と同じような効果が期待できることがわかってきました。
修正アトキンス食は、一日当たりの炭水化物の摂取量を子供の場合は10g、青年の場合は15gに制限すること以外は、アトキンスダイエット同様、タンパク質、カロリー、水分については制限しません。お肉や魚等のタンパク質が好きな子にとっては、ケトン食より取り組みやすいかもしれませんね。
その一方で、ケトン食同様に脂質についてできるだけ多く摂取することが勧められます。糖質が含まれていないオリーブオイルやMCTオイルを上手に使うことが求められます。
アメリカでは、「Carb(ohydrate) Counter」という本が市販されており、食物中の炭水化物量に注意しながら、タンパク質中心の献立を考えているようですが、この本では体内に吸収されない食物繊維は炭水化物量から差し引かれており、「体内に吸収される炭水化物」のみを計算して献立を立てることができます。一方、日本では、一般的に「食品構成表」では食物繊維を含めて食品に含まれる炭水化物量が表示されていますので、少し不利かもしれませんね。
ケトン食ではケトンフォーミュラが良く使われますが、ケトンフォーミュラ100gには炭水化物が8.8g含まれていますので、一度に多くを使えません。不足しやすい水溶性ビタミン、カルシウム等を患者ごとの必要度に応じて内服薬でサプリメントとして補充する必要性が生じることがあります。
2009年9月に修正アトキンス食についての論文「Modified Atkins Diet for the Treatment of Nonconvulsive
Status Epilepticus in Children」を発表された滋賀県立小児保健医療センターでは、修正アトキンス食を取り入れた「短期間のケトン食療法お試し入院プログラム」に取り組んでおられます。このお試し入院期間は、3〜4週間に設定されているようです。
2010年2月16日、滋賀県立小児保健医療センターで実際に修正アトキンス食に取り組んでおられる栄養士の先生にお話を伺うことができました。
「お肉や魚が好きなお子さんなら、昼食にサーモンのバターソテー200g、夕食にサーロインステーキ200gといった具合に食事を楽しめるのですか?」と素朴な質問をしてみると、
「日頃、ご飯などの炭水化物中心の食事をしている日本人にとって、毎日タンパク質中心の食事を摂ることは難しいという印象です。タンパク質中心の食事は、パサパサしているという印象です。タンパク質として摂取できないカロリーを脂質として摂取する必要があり、結果的にはケトン比2:1くらいのケトン食に近い内容になってしまうこともあります。」
とのお話を伺うことができました。
一日当たり10gに制限された炭水化物については、生活に必要な栄養素を摂取したり、便秘を防ぐために食物繊維を多く摂取するために野菜や果物として摂取するように努めることも大切だそうです。
ケトン指数を一定にするために基本献立からの変換によって献立を考えていく「ケトン食」に比べて、一日当たりの炭水化物量を10g に制限することだけを考えて献立を考える「修正アトキンス食」の方が簡単と感じる方もおられると思います。「ケトン食」以外の選択肢として普及していくことを願っています。
(筆者の個人的な意見を含んでいます。ご意見、ご質問等ありましたら、こちらまでお願いします。)