新理事長就任のご挨拶

日本ヘルスプロモーション学会
新理事長就任のご挨拶


ヘルスプロモーションは1986年にWHO(世界保健機関)がオタワ憲章で提唱した健康戦略である。1986年はちょうど私が大学院を修了し大学の教員・研究者としてスタートした年である。幸運なことにオタワ憲章が提唱される直前、この健康戦略の基本的な構想が含まれた資料が、当時デンマークのコペンハーゲンに国外研究で滞在されていた島内憲夫先生(本学会初代会長・順天堂大学名誉教授)から毎週のように送られてきたことを思い出す。当時は電子メールもなく分厚い国際便であった。プライマリー・ヘルス・ケア(Primary Health Care)と健康教育が主流であった当時の保健活動に対して、本質的な変化の胎動を期待させる資料であったことを記憶している。
あれから35年以上が過ぎてもなおヘルスプロモーションは人々の健康を創造するための基本戦略として深く定着している。ご存じの通り、わが国では健康日本21の基本概念として位置づいており、他の健康関連の法律や条例、制度等にもこの考えは脈々と使用されている。

日本ヘルスプロモーション学会の設立目的は「21世紀を生きる人びとの健康を創造するための科学的でかつ人間的な知識と技術を開発するとともに、健康に価値を置く人びとのハートを育て、健康幸せな社会を構築する仕組みをつくること」(島内憲夫初代会長)とされている。この学会の理事長を仰せつかるにあたり私はこの目的を継承し、人々の健康創造のための「知識と技術の開発」そして「ハート育成」「仕組みづくり」の探求が我々学会員の関心であり使命であることを再確認したい。
またヘルスプロモーションは「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」(オタワ憲章・バンコック憲章)と定義されている。この学会では原点である2つの憲章を大切にし、それに回帰しながら、人々が考える「自らの健康」と「健康の決定要因」に視点を置き、それを改善する「プロセス」の積極的創造を目指していきたいと思う。

 以前から様々な分野の方々を会員とする当学会はあるが、会員の皆様にはこれまで以上の積極的な分野間交流や協力を期待したい。加えて島内初代会長のころから学会員に求められていたこととして、単なる研究発表の場としての学会ではなく、学会や学会員が自ら行動する学会としての存在を目指していきたい。

 少子高齢人口減少社会を迎え、我が国の健康問題はますます複雑化・多様化することが予想される。加えて新型コロナ感染症など新たな感染症問題が巻き起こる中で、私たちには新たなヘルスプロモーション・プログラムの思考と実践が求められている。
健康は幻想ではなく、誰もが健康で幸福を感じられる社会の創造を使命として当学会の役割を果たしていきたいと思う。

2022年10月31日
日本ヘルスプロモーション学会
理事長 齊藤 恭平