公益社団法人 日本小児保健協会

各種委員会

平成18年1月16日
厚生労働省健康局
結核感染症課長
塚原 太郎 殿
社団法人日本小児保健協会
会長 村上睦美
同 予防接種委員会
委員長 加藤達夫

百日せき羅患者に対する定期接種に関する要望書

 日本小児保健協会は、わが国の小児保健に関する指導及び研究を行い、小児保健思想の普及をはかり、もって小児の健康を増進することを目的としています。その活動の一環として、安心して予防接種ができる体制の整備や普及に取り組んでおります。
  平成17年7月29日公布の予防接種実施規則の一部改正によって、百日せき罹患者に対して、ジフテリア及び破傷風の定期予防接種が実施できなくなることについて、小児保健現場では強い懸念を持っております。
  下記の理由により、できるだけ早期に法制度等の整備を行い、百日せき罹患者に対するジフテリア及び破傷風の予防接種が法に基づく定期接種としての実施できるよう強く要望いたします。

1.下位の政省令により上位の法に基づく接種が実施できないこと

予防接種法では、法律により予防接種を行う一類疾病は、ジフテリア、百日せき、急性灰白髄炎、麻しん、風しん、日本脳炎及び破傷風と明記されています。
一方で、予防接種施行令では定期の予防接種を行う疾病及びその対象者を規定しており、インフルエンザを除き、当該疾病に罹患したことのある者は接種の対象外とされております。そのため、百日せき罹患児はDPT三種混合ワクチンの接種対象とはなりえません。
今回の予防接種実施規則の一部改正により、百日せき罹患者にはジフテリア、破傷風の定期接種に用いるワクチンがなく、上位の予防接種法の適正な執行ができない状況になっております。

2.百日せきに罹患した児の定期接種を受ける権利を阻害するものであること

これまでは、予防接種実施要領の中でDTワクチンの利用が指導されておりましたが、当該要領の廃止によりDTワクチンによる接種方法は削除され、百日せき罹患児に対して定期接種にDTワクチンを使用することはできなくなりました。
以上の措置は、前記1.の措置と併せて、百日せき罹患児に対する法に基づくジフテリア、破傷風の接種の機会を奪うものであり、わが国の子どもたちを感染症の脅威にさらすことになります。


3.百日せき罹患児は少なくないこと

百日せき患者の発生については、DPTの接種が生後3か月から可能になったこと等により、近年減少してきていますが、集団感染や家族内感染の事例が散見されるなど、罹患する児は少なくないものと推定されます。これらの百日せき罹患児がジフテリア、破傷風の予防接種を受けないことは大きな問題です。

4.ジフテリア・破傷風の将来の増加が懸念されること

ジフテリアの発生は百日せきと同様に近年激減していますが、諸外国においてはワクチン接種率が低い地域で流行が見られ、多くの死亡者が出ております。
一方で、破傷風の患者届出数については近年減少傾向がみられず、毎年70名前後の発生があります。その多くは破傷風の予防接種を受ける機会が少なかった成人層で、現在でも高い死亡率となっております。
ジフテリア、破傷風の予防接種を受けなかった者は、将来破傷風やジフテリアに罹患する可能性があり、特にジフテリアについては抗体の保有率が低くなれば大流行する可能性もあります。
これらのことを未然に防ぐために、乳幼児期のジフテリア及び破傷風の予防接種の機会が、定期接種として確保されることが望まれます。

以上