Gene Review著者: Thomas D Bird, MD
日本語訳者: ギボンズ京子(ボランティア翻訳者),櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
Gene Review 最終更新日: 2010.12.23. 日本語訳最終更新日: 2012.11.1
原文 Early-Onset Familial Alzheimer Disease
アルツハイマー病(AD)の特徴は,大脳皮質の萎縮,アミロイドβ斑形成,神経原線維変化を伴う成人期発症型の進行性認知障害である.記銘力の些細な低下に始まることが多く,徐々に進行して重症化し人格崩壊に至る.他によく見られる症候は,混迷,判断力低下,言語障害,興奮,引きこもり,幻覚,痙攣,パーキンソン症状,筋緊張亢進,ミオクローヌス,失禁,無言である.家族性ADでは家系内にAD患者が2人以上おり,通常2世代以上にわたってAD患者が存在する.家系内の患者が常に60-65歳以前に発症している場合はEOFAD (Early-onset familial AD, 早期発症型家族性アルツハイマー病)とよばれる.発症年齢が55歳以下の場合も多い.
診断・検査
平均発症年齢が65歳以下である家系,もしくはEOFAD関連遺伝子に病的変異が同定されている家系(またはその両方を満たす家系)に対してEOFADであると診断する.EOFADには 臨床的には区別がつかない亜型が3種あり,原因遺伝子が異なる.APP変異によるAD1はEOFADの10-15%を占める.
臨床的マネジメント
病変に対する治療 支持療法である.うつ症状,攻撃性,睡眠障害,痙攣,幻覚はそれぞれの患者に応じて対応する.患者は最終的に生活介護や看護施設でのケアを必要とするようになる.アリセプト(ドネペジル),エクセロン(リバスチグミン),レミニール (ガランタミン)などのコリン作動性作用を亢進させる薬剤には,適度な効果がみられるが,安定した効果はない.NMDA受容体拮抗薬であるメマンティンはAD治療薬として承認されている.理学療法や作業療法は日常生活動作の維持や改善に役立つ.
観察 続発性合併症の確認と管理のために月1回モニタリング.
回避すべき薬剤と環境 急な環境変化.過度の鎮静.
遺伝カウンセリング
EOFADは常染色体優性遺伝形式をとる.EOFAD患者ではほとんどの場合,両親のどちらかがAD患者である.両親ともAD患者でないが,第2度近親者(おじ・おば・祖父母)にAD患者がいる(いた)例が時々みられる.EOFAD患者の子が変異を受け継ぎ発症する確率は50%である.
訳注:日本では行われていない.
臨床診断
AD(「アルツハイマー病概説」参照)は以下の徴候がみられる患者に診断される.
EOFADは,家系内に60-65歳以下で発症した患者が2人以上がいる家族に診断されるが,発症年齢は55歳以下であることも多い.このような家系では通常2世代以上にわたって複数のAD患者が存在する.
分子遺伝学的検査
GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとする. GeneTestsは研究機関から提出された情報を検証しないし,研究機関の承認状態もしくは実施結果を保証しない.情報を検証するためには,医師は直接それぞれの研究機関と連絡をとらなければならない.―編集者注.
遺伝子 EOFADは次にあげる遺伝子3個の変異に起因することがわかっている.
他の遺伝子座
PSEN1,PSEN2,APPのいずれにも変異が認められず,常染色体優性遺伝形式でEOFAD発症を認める家系が報告されているため,他にもEOFADの原因遺伝子が存在する可能性がある[Cruts et al 1998, Janssen et al 2003].
臨床検査
PSEN1遺伝子
PSEN2遺伝子
APP遺伝子
表1にEOFADに対する分子遺伝学的検査をまとめた.
表1 EOFADに用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子記号 | EOFAD全体に占める割合 | 検査方法 | 同定される変異 | 変異検出率1 | 検査の実施可能性 |
---|---|---|---|---|---|
PSEN1 | 30~70%2 | 標的変異解析 | エクソン9の4555bp欠失(フィンランド人創始者突然変異)3 | 標的変異に関して100% | 臨床レベル |
シークエンス解析 | 配列変異体4 | ~98% | |||
欠失/重複解析5 | フィンランド人創始者のエクソン9欠失をはじめ,遺伝子の部分欠失および全欠失 | 欠失に関して100%、稀である | |||
PSEN2 | 5%未満 | シークエンス解析 | 配列変異体4 | ~100% | 臨床レベル |
APP | 10~15% | シークエンス解析/エクソン16と17のスキャン6 | エクソン16および17の配列変異体4 | 99% | 臨床レベル |
欠失/重複解析5 | 遺伝子の部分重複および全重複 | 標的重複に関して100% |
「検査の実施可能性」は,GeneTests Laboratory Dictionaryに掲載されている検査実施状況である.GeneReviewでは,分子遺伝学的検査に関して,その検査が米国のCLIA認可の研究機関または米国外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Dictionaryに掲載されている場合に限り,その検査を臨床的に実施可能としている.GeneTestsは,研究機関が提出する情報の検証も,研究機関の認可状況および試験結果に関するいかなることも保証しない.情報を検証するためには,医師が直接それぞれの研究機関に連絡をとる必要がある.
シークエンス解析結果の解釈
検出されうる変異1
変異が検出されない場合に考えられる可能性
ある患者の末梢血リンパ球DNAにPSEN1変異が確認された.しかし、この患者の臨床症状は、同病の亡母の症状とは異なるものであった.亡母の診断は死後の神経病理に基づくものであった.追跡調査から、PSEN1変異のために母親には体細胞モザイク現象がみられたことが明らかになった.シークエンス解析を用いたところ、変異は大脳皮質DNAに検出されたが、末梢血リンパ球DNAには検出されなかった[Beckら 2004].
検査手順
発端者の診断目的
発端者の診断の確立には、分子遺伝学検査を実施して、EOFADに関連する3遺伝子のうち1個に病原性変異を確認することが必要である.
注)APPおよびPSEN1の重複解析は、その目的がさらに稀な変異を検査することである場合に限り、必要である.
注)突然変異の検出頻度は、家族歴に関係なく、晩期発症型AD患者では低い.PSEN1に変異がある患者の90%が60歳までに発症している.
リスクのある無症候の成人家族の発症前診断には、家系内の病因変異が事前に特定されていることが必要である.
リスクのある妊娠に対する出生前診断と着床前診断(PGD)には家系内の病因変異が事前に特定されていることが必要である.
注)GeneReviews の方針として、GeneTests Laboratory Dictionaryに掲載されている検査の実施状況を入れることにしている.ただし、そのような利用に対する著者、編者および評者の賛同を必ずしも得ているものではない.
遺伝子レベルでの関連疾患
PSEN1遺伝子・PSEN2遺伝子 家系内の PSEN1遺伝子とPSEN2遺伝子の変異が、拡張型心筋症のみではあるが関連することを示す報告が1件ある[Li et al 2006].
APP遺伝子 APP変異によるもうひとつの疾患に遺伝性アミロイド性脳出血(オランダ型)がある.この疾患では認知症と脳内アミロイド斑はあまりみられない.この疾患はAPP遺伝子のGlu693Gly変異によるものである.
臨床像
自然経過
ADは些細な記銘力の低下に始まることが多い[Godbolt et al 2004, Ringman et al 2005].数年かけて徐々に記銘力障害は重症化し最終的には人格崩壊に至る.よく見られる症候にはこのほか,混迷,判断力低下,言語障害,興奮,引きこもり,幻覚がある.痙攣,パーキンソン症状,筋緊張亢進,ミオクローヌス,失禁,無言がみられる患者もいる[Cummings et al 1998].通常,全身衰弱,低栄養,肺炎が死因となる.
AD3(PSEN1変異)
発症年齢は通常40歳代から50歳代前半である.30歳代や60代前半での発症も報告されている.65歳以降の発症は稀であると考えられている.通常6~7年間と比較的短期間に病状が進行し,痙攣,ミオクローヌス,言語障害を伴う場合も多い[Fox et al 1997, Gustafson et al 1998, Mene´ndez 2004].いくつかの家系では「綿花状」アミロイド斑を伴う痙性対麻痺がみられる[Crook et al 1998, Brooks et al 2003, Ataka et al 2004, Hattori et al 2004, Rman et al 2007].
APOE e4アレルが発症年齢に影響を及ぼしている可能性がある[Wijsman et al 2005](「アルツハイマー病概説」参照).
脳脊髄液中のアミロイドβ42レベルは, 未発症のPSEN1変異保因者では低いと報告されている[Moonis et al 2005].
PiBによるPET画像診断によって,PSEN1変異保因者の線条体にアミロイド沈着の初期像が確認できる[Klunk et al 2007].
AD4(PSEN2変異)
AD4の発症年齢層はAD1やAD3に比べて幅が広い.発症年齢は40~75歳であり,80歳以上の未発症者も少数存在する[Bird et al 1996].平均罹患期間は11年である.Jayadevら[2010]が、PSEN2遺伝子に変異がある家系の臨床、病態および遺伝学的に関して詳細に検討している.
APOE e4アレルは発症年齢に影響を与える(「アルツハイマー病概説」参照)[Wijisman et al 2005].
AD1(APP変異) APP変異をもつ家系に観察される認知症はADの典型的症状である.発症年齢は通常40歳代から50歳代であるが,60歳代のこともある.アミロイド斑や神経原線維変化に加えて神経細胞封入体であるレビー小体がみられる患者も少数いる[Revesz et al 1997].
APOE e4アレルのホモ接合が若年発症に関わっている可能性がある(「アルツハイマー病概説」参照).
神経病理学
PSEN1変異(AD1),PSEN2変異(AD4)によって脳内にアミロイドβの過剰な沈着が起こり[Mann et al 1997],神経原線維変化とアミロイド血管症を来す.レビー小体もよくみられる[Leverenz et al 2006].
遺伝子型と臨床型の関連
PSEN1遺伝子
APP遺伝子
浸透率
AD3(PSEN1変異) 変異保有者は65歳までに発症する.例外として、Ala79Val変異およびArg269His変異に起因する晩期発症型も時にある[Brickell et al 2007, Kauwe et al 2007, Larner et al 2007].
AD4(PSEN2変異) 浸透率は約95%である.80歳以上のPSEN2変異保因者がADの主症状を呈さないことが稀にある.
促進現象
促進現象は報告されていない.
頻度
Campionら[1999]は,早発型AD発症のリスクがある集団すなわち40~59歳では,罹患率が人口10万人中41.2人であることを明らかにした.
本稿で扱われる疾患に対する遺伝学的検査の実施可能性に関する最新情報は,GeneTests Laboratory Directoryを参照のこと.―編集者注.
AD患者の約75%にはADの家族歴がなく,約25%はいくつかの遺伝学的サブグループに分類できる.家族性症例は,臨床的にも病理学的にも病態が非家族性症例と同じであると考えられるため、家族歴があることが唯一の決め手である (「アルツハイマー病概説」参照). 早発型AD症例が遅発型AD患者の多い家系にみられる場合も時にある[Brickell et al 2006].
早発型認知症の遺伝的原因にはこのほか、前頭側頭型認知症の諸病態(たとえば,17番染色体に連鎖しパーキンソン病状を伴う前頭側頭型認知症 (FTDP-17),骨パジェット病と前側頭葉型認知障害を伴う遺伝性封入体筋炎(IBMPFD),PGRN関連前頭側頭型認知症,CHMP2B関連前頭側頭型認知症,前頭側頭型認知症を伴う筋萎縮性側索硬化症[ALD][「ALS概要」参照])および,ハンチントン病,プリオン病,カダシル(CADASIL)をはじめとする稀な神経変性疾患がある.
最初の診断時における評価
EOFADの診断を受けた患者の疾患の程度を確定するために,以下の評価が推奨される.
症状に対する治療
支持療法が主体となる.各患者の状態に合わせた対症療法が行われる[Clare 2002].一般的に患者は日常生活上の介護や看護施設におけるケアを必要とするようになる.
ADの正確な生化学的機序は解明されていないが,脳内のコリン作動系をはじめ、神経伝達物質に障害があることがわかっている.コリンエステラーゼ阻害剤タクリンのようなコリン作動性作用を亢進させる薬剤は承認されており,わずかながら効果がみられる.アリセプト(ドネペジル),エクセロン(リバスチグミン),レミニール(ガラタミン)がこのような薬剤にあたる [Rogers et al 1998, Farlow et al 2000, Raskind et al 2000, Feldman et al 2001, Mohs et al 2001, Seltzer et al 2004].
NMDA受容体拮抗薬メマンティンもAD治療薬として承認されている [Reisberg et al 2003].
うつ症状,攻撃性,睡眠障害,痙攣,幻覚には薬物療法と行動療法が必要である.うつ症状と痙攣に対しては症状にふさわしい薬剤に用いて治療しなければならない.
歩行や日常生活動作の問題に対しては,理学療法や作業療法が有用となることがある.経過観察
二次的な合併症を発見し治療するためには月に1度の定期診察が望ましい.
回避すべき薬物や環境
急激な環境変化と過度の鎮静は避けるべきである.
リスクのある親族への検査
発症リスクのある親族への検査に関しては「遺伝カウンセリング」の項を参照.
研究中の治療法
非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs),脂質降下薬,ビタミンE,βセクレターゼ阻害剤,アミロイドβワクチンは,AD治療薬としての有効性が研究されているところである[Lahiri et al 2003].このうちいずれの薬物療法もEOFAD患者を対象に系統的に評価されていない.
晩期発症型AD患者を対象にアミロイドAβ42ワクチン療法を用いた臨床試験では患者の6%が脳炎を発症したため、試験中止となった[Holmes et al 2008].
抗Aβモノクローナル抗体を治療に用いた臨床試験では、主な有効性を解析したところ、統計的に有意な差はなかった[Salloway et al 2009].
γ-セクレターゼ阻害剤(tarenflurbil)を用いた臨床試験では有効性は明らかではなかった[Green et al 2009].
NSAIDの後ろ向き研究では、保護作用の可能性が明らかであったもの[Vlad et al 2008]と保護作用がなかったもの[Breitner et al 2009]とがあることがわかった。
種々の疾患の臨床試験に関してはClinicalTrial.govを参照のこと.その他
Genetics Clinicsには遺伝学の専門家が常勤しており、患者や患者の家族に対して自然経過,治療,遺伝形式,患者家族の遺伝的発症リスクに関する情報を提供とするとともに,患者向けのリソースに関する情報も提供している.
支援グループは,患者やその家族に情報,支援,他の患者との交流の場を提供する.「関連情報」には疾患別の支援グループや複数疾患にまたがった支援グループが掲載されている.「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
EOFADは常染色体優性遺伝形式をとる.
患者家族のリスク
発端者の両親
注:EOFADと診断されたほとんどの患者にはEOFADの親がいるが,家族歴がない場合もある.これは家系内の疾患に気づかない場合,発症前の親の早期死亡,低浸透率によるためである.
発端者の同胞
発端者の子
子が変異遺伝子を受け継ぐ確率は50%である
発端者の他の家族
他の親族の発症リスクは発端者の両親の遺伝的状況による.両親のどちらかがADを発症してい れば,その親族は発症リスクを有する.
遺伝カウンセリングに関連した問題
明らかに新生突然変異によると考えられる家族への配慮
発端者の両親のどちらにも常染色体優先遺伝形式で病因変異がみられない場合,発端者に新生突然変異が生じた可能性がある.一方,(生殖補助などにより)父親または母親が異なる可能性や明らかにされていない養子縁組をはじめ,非医学的な説明を考えることもできる.
家族計画
リスクのある無症状の家族に対する検査
EOFAD発症リスクを有する無症状成人に対するPSEN1,PSEN2,APP変異の検査は臨床的に可能である.このような検査は,無症状者の発症年齢,重症度,症状,進行度の予測には有効でない.リスクのある成人に対して検査を行うときには,家系内ですでに発症している患者をまず検査して、家系内の変異を確定しておかなければならない.不確かな 症状を呈するリスク保持者に病因変異が認められたとしても,その疑わしい症状と同定された変異との関連を実証したことにならないどころか,その関連すら疑わしい.
確実な診断基準となる症状がない場合,病因変異の検査は発症前診断とみなされる.
リスクのある家系内の無症状成人は妊娠,経済的問題,職業選択といった個人的決断をするにあたって検査を希望するかもしれない.単に「自分のことを知りたい」という理由だけで検査を希望する場合もあるだろう.検査を希望する,EOFAD発症リスクを有する無症状成人に対しては,事前に検査の希望動機,EOFADの知識,検査結果(変異の有無)が及ぼす影響について質問し,神経学的な状況について評価するのが一般的である.検査を希望する人は,健康保険,生命保険,傷害保険の補償範囲について,また雇用差別,教育差別,社会的家族的人間関係の変化といった起こりうる問題について,カウンセリングを受けるべきである.このほか、他の家族のEOFAD発症リスクの状況に対する影響にも考慮が必要である.そのような検査にはインフォームド・コンセントが推奨されている.検査結果が外部に漏れることのないように情報を保護し、検査を受けた人が長期にわたる経過観察と検査を確実に受けられるように、十分な措置をとる必要がある.EOFADまたはMAPT関連障害の発症リスクがある21人に関する研究では,発症前診断を受けた人のほとんどが有効な状況適応能力を発揮したことをSteinbart et al [2001]が報告しているが、その長期的効果は不明である.
リスクのある子どもに対する検査
成人期発症性疾患のリスク保持者に対して,無症状の小児期に発症前診断をするべきではないというのが一致した意見である.無症状の子どもに対して発症前診断をするべきではないとする最大の根拠は,彼らの知る権利・知らないでいる権利が剥奪されるという点であり,家族関係やその他の社会的人間関係のなかで烙印付けがされる可能性があるという点あり,教育や職業への影響が深刻なものになりうるという点である.子どもの遺伝子検査に関するアメリカ遺伝カウンセラー学会の決議文も参照のこと.アメリカ人類遺伝学会は考慮すべき点として,小児期および青年期における遺伝子検査の倫理的,法的,心理社会的影響を挙げている.
DNAバンク
DNAバンクは主に白血球から調整したDNAを将来利用することを想定して保存しておくものである.検査技術や遺伝子、変異、あるいは疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進歩すると考えられるので,DNA保存が考慮される.このサービスを実施している機関については研究所リストの「Testing」を参照のこと.
出生前診断
PSEN1変異のリスクが高い妊娠に対する出生前診断は,通常胎生週数15~18週ごろに実施される羊水検査や胎生週数10~12週ごろに実施される絨毛検査 (CVS)で採取した胎児細胞のDNA分析によって可能である.家系内患者に病因アレルが存在することが,出生前診断の実施条件である.
注:胎生週期とは最終月経の開始日または超音波による測定に基いて計算される.
EOFADのような成人期発症性疾患に関する出生前診断の希望は稀である.出生前診断を行うことに対しては,専門医のあいだでも家族内でも考え方が異なるだろう.特に,検査が早期診断ではなく妊娠中絶の目的として考慮される場合にはなおのことである.ほとんどの医療機関では出生前診断を受けるかどうかの決定は両親の選択に委ねると考えるであろうが,この問題に関しては話合いが必要である.
着床前診断
APP病因変異を有する30歳の無症状女性に対して着床前診断と胚移植が行われ,順調に妊娠に至り、母親とその家系に同定されているAPP病因変異をもたない健康な子どもが生まれた [Verlinsky et al 2002].Towner & Loewy [2002]および Spriggs [2002]が、両親と医療スタッフの決定から生じるいくつかの倫理問題を特定している.
着床前診断は病因変異が同定された家族に対して利用可能である.PGDを実施している機関に関しては「Testing」を参照のこと。
訳注:日本では行われていない.