[Synonyms:Melissa P Wasserstein, MD and Edward H Schuchman, PhD.]
Gene Reviews著者: Melissa P Wasserstein, MD and Edward H Schuchman, PhD.
日本語訳者:瀨戸俊之(大阪公立大学大学院医学研究科臨床遺伝学)
GeneReviews最終更新日: 2023.4.27. 日本語訳最終更新日: 2025.7.2.
原文: Acid Sphingomyelinase Deficiency
疾患の特徴
酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)の症状は持続的な進行を呈する。重症の早期発症型である乳児型神経内臓型ASMDは、従来、ニーマン・ピック病A型(NPD-A)と診断されていた。発症が遅い慢性内臓型ASMDは、ニーマン・ピック病B型(NPD-B)とも呼ばれている。中等度の重症度を示す表現型は、慢性神経内臓型ASMD(NPD-A/B)とも呼ばれている。酵素補充療法(ERT)は現在、ASMDの病型を問わず、中枢神経系以外のASMD症状に対してFDAの承認を受けている。より多くの患者が長期間にわたりERT治療を受けるようになるにつれ、ASMDの自然経過は変化すると考えられる。未治療のNPD-Aで最もよく見られる症状は肝脾腫で、通常は生後3ヵ月までに認められる。その後、肝臓と脾臓は巨大化する。発育不全は典型的には生後2年までに明らかになる。精神運動発達は生後12ヵ月までしか発達せず、その後は神経学的機能の低下が容赦なく進行する。この症状はERTの適応とならない可能性がある。網膜黄斑部の典型的なチェリーレッドスポットは、生後数ヵ月には現れない場合もあるが、最終的にはすべての罹患児に現れる。ただし、ERTがこれに影響を及ぼすかどうかは不明です。肺マクロファージにおけるスフィンゴミエリン蓄積によって引き起こされる間質性肺疾患は、頻繁な呼吸器感染症や呼吸不全を引き起こす。未治療の小児の多くは、生後3年未満で死亡する。NPD-Bは一般的にNPD-Aよりも発症が遅く、症状も軽度である。未治療のNPD-Bの特徴は、進行性の肝脾腫、肝機能および肺機能の漸進的な低下、骨減少症、動脈硬化性脂質プロファイルである。中枢神経系の症状は現れない。NPD-A/Bの患者は、NPD-AとNPD-Bの中間の症状を呈する。NPD-A/Bの患者の症状は大きく異なるが、いずれも中枢神経系の症状を呈する。NPD-BおよびNPD-A/Bの患者は、未治療であっても成人まで生存する可能性がある。
診断・検査
ASMDの診断は、分子遺伝学的検査でSMPD1の両アレル性病的バリアントが検出され、かつ残存酸性スフィンゴミエリナーゼ酵素活性が対照群の10%未満(末梢血リンパ球または培養皮膚線維芽細胞)であることで確定する。
臨床的マネジメント
標的療法:
オリプダーゼアルファ(Xenpozyme®)による酵素補充療法(ERT)は、肺、肝臓、脾臓、その他の中枢神経系以外の臓器におけるスフィンゴミエリンの蓄積を軽減するのに役立つ。中枢神経系への効果は無いため、NPD-AまたはNPD-A/B患者にみられる知能障害への効果はない。造血幹細胞移植(HSCT)は、代謝異常を是正し、血球数を改善し、肝臓および脾臓の容積増加を軽減するが、神経疾患を安定化させることはできない。死亡も含む副作用の点から造血幹細胞移植(HSCT)は酵素補充療法が利用可能になった現在では、HSCTが選択は減る可能性が高い。
支持療法:
栄養補給のために必要に応じて栄養療法および/または経管栄養を行う。凝固障害および末期肝疾患の症状に対しても支持療法を行う。生命を脅かす出血に対しては各種血液製剤の輸血を行う。重度の脾機能亢進症患者には部分脾摘出を考慮する場合がある。症候性肺疾患に対する酸素補給。機能を最大限に高め、拘縮を予防するために理学療法および作業療法も行う。発達上の問題を抱える患者に対する早期の療育などの介入・支援を行う。成人では高脂血症の治療も考慮する。骨減少症/骨粗鬆症に対するカルシウムおよびビタミンDの投与、適応に応じて、易刺激性および睡眠障害に対する治療も行う。
二次合併症の予防:
肝毒性薬剤(例:高コレステロール血症に対するスタチン)を投与されている患者では、肝機能をモニタリングする。
サーベイランス:
栄養状態の定期的評価、年1回の心電図検査、2~4年ごとの心エコー検査、少なくとも年1回の肝トランスアミナーゼ(ALT、AST)、アルブミン、凝固因子、および血小板数の検査、少なくとも年1回の倦怠感、腹痛、および/または出血増加の評価、必要に応じて肝臓および脾臓の大きさの放射線学的測定、毎回の診察時の息切れの評価、年1回の肺機能検査、2~4年ごとの胸部X線検査、少なくとも年1回の神経機能および頭痛の頻度の評価、毎回の診察時の発達の進捗状況、教育ニーズ、作業療法および理学療法ニーズのモニタリング、少なくとも年1回の空腹時脂質プロファイルの検査、毎回の診察時の四肢痛の評価、2~4年ごとの骨密度評価、毎回の診察時の家族による支援およびリソースの必要性などの各種評価を行う。
避けるべき因子/環境:
脾腫を有する患者ではコンタクトスポーツを避ける。
妊娠管理:
ASMDを有する妊婦は、肺機能および血液学的状態の適切なモニタリングを確実に行うため、ハイリスク産科医による出生前ケアが適応となる。オリプダーゼ アルファ によるERTは妊婦を対象とした試験は実施されていないが、動物実験では胎児の発育に影響を及ぼす可能性があることが示されている。したがって、妊娠中のERTは推奨されていない。
遺伝カウンセリング
ASMD(NPD-A、NPD-A/B、NPD-B)のすべての病型は、常染色体潜性遺伝形式をとる。両親ともにSMPD1のヘテロ接合性の病的バリアントを有する場合、罹患した方の同胞は、受胎時に罹患する確率が25%、保因者となる確率が50%、罹患も保因者でもない確率が25%となる。罹患した家族においてSMPD1の病的バリアントが特定されれば、リスクのある親族に対する保因者検査や出生前/着床前診断が可能となる。25%のリスクがある妊娠に対する生化学的解析による出生前診断は、酸性スフィンゴミエリナーゼ酵素活性検査によっても可能である。
(訳注:本稿ではprenatal/preimplantation genetic testingは日本でよく用いられている出生前診断/着床前診断と訳した)
酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症:含まれる表現型 |
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ASMD = 酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(NPD-A、NPD-A/B、NPD-Bを含む)
酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)は、臨床症状のみで診断することはできない。
ASMDを想起すべき所見
シナリオ1 - 新生児スクリーニング(NBS)で異常所見が出た場合
ASMDのNBSは、主に乾燥濾紙血における酸性スフィンゴミエリナーゼ活性の定量に基づいている。本稿執筆時点では、ASMDは米国推奨統一スクリーニングパネル(訳注:RUSPのことです)に含まれておらず、米国内の限られた州で実施されている。ヨーロッパでもいくつかのパイロットスタディが実施されている。
スクリーニング検査室で報告されたカットオフ値を下回る酸性スフィンゴミエリナーゼ活性値は陽性とみなされ、確定診断のために生化学検査および/または分子遺伝学的検査のフォローアップが必要となる。
NBS検査で異常が判明した場合は、直ちに代謝疾患または遺伝性疾患の専門医に紹介し、NBS検査が真陽性であるかどうかを確認し、ASMDの診断確定のための追加検査を実施する必要がある。
シナリオ2 – ASMDの症状を呈する個人の場合
ASMD(乳児神経内臓型ASMD [NPD-A]、慢性神経内臓型ASMD [NPD-A/B]、または慢性内臓型ASMD [NPD-B])に関連する所見を有する症状のある個人は、以下のいずれかの理由で、病院を訪れる可能性がある:NBSが実施されていない、NBSの結果が偽陰性であった、および/または、介護者(保護者)がASMDで推奨された治療を遵守していない、または認識していない。
このような状況では、ASMDを示唆する(ただし非特異的)臨床所見、放射線学的所見、および臨床検査所見として、以下が挙げられる(表現型別)。
乳児神経内臓型ASMD(NPD-A)
慢性神経内臓型ASMD(中間型;NPD-A/B)
慢性内臓型ASMD(NPD-B)
確定診断
ASMDの診断は、分子遺伝学的検査(表1参照)によってSMPD1の両アレル性の病的(またはその可能性が高いと判断される)バリアントが同定され、かつ残存酸性スフィンゴミエリナーゼ酵素活性が対照群の10%未満(末梢血リンパ球または培養皮膚線維芽細胞)である発端者において確定される。SMPD1の分子遺伝学的検査はASMDの検査としてよく行われるようにはなっているが、確定診断には酸性スフィンゴミエリナーゼ酵素活性の低下を証明する必要がある
注:(1) ACMG/AMPの変異解釈ガイドラインによれば、「pathogenic (病的)バリアント」と「likely pathogenic(病的である可能性が高い)バリアント」という用語は臨床現場において同義語であり、どちらも診断に用いられ、臨床的意思決定に使用できる [Richards et al 2015]。本GeneReviewにおける「病的バリアント」には、病的である可能性が高いと判断されるバリアントもすべて含まれると理解される。 (2) VUS(病的意義不明)のSMPD1両アレル上のバリアント(またはSMPD1の両アレルにまたがる既知の病的バリアント1つとVUSバリアント1つ)の同定は、確定診断または除外診断にはならない。
分子遺伝学的検査
これらのアプローチには、単一遺伝子検査、マルチジーンパネルの使用、ゲノム検査(エクソームシークエンシング、ゲノムシークエンシング)が含まれる。
シナリオ1:NBSの結果で異常が出た場合
NBSで結果および/または臨床所見、放射線学的所見、および臨床検査所見がASMDの診断を示唆するものがでた場合、単一遺伝子検査を検討することができる。
注:アシュケナージ系ユダヤ人、北アフリカ人、チリ人、サウジアラビア人、トルコ人などの祖先を持つ個人では、最初に特定の病的バリアントを検出する解析も実施可能である(表7参照)。
シナリオ2 – ASMD症状を呈する個人の場合。
症状のある患者が、遅発性ASMDまたは未治療の乳児型ASMD(NBS未実施または偽陰性であったため)に関連する典型的または非典型的な所見を呈する場合は、マルチ遺伝子パネルまたはゲノム検査が検討される。
注:(1) パネルに含まれる遺伝子と、それら各遺伝子に使用される検査の診断感度は検査機関によって異なるとともに、時間の経過とともに変化する可能性がある。
(2) 一部のマルチ遺伝子パネルには、このGeneReviewで取り上げられている疾患に関連しない遺伝子が含まれている場合がある。
(3) 一部の検査機関では、パネルの選択肢として、臨床医が指定した遺伝子を含む、検査機関が独自に設計したカスタムパネルや、表現型に焦点を当てたカスタムエクソーム解析が含まれる場合がある。
(4) パネルで使用される方法には、配列解析、欠失/重複解析、および/または配列解析に基づかないその他の検査が含まれる場合がある。
マルチ遺伝子パネルの概要については、ここをクリック。遺伝子検査を依頼する臨床医向けの詳細情報は、こちら。
包括的ゲノム検査の概要については、ここをクリック。ゲノム検査を依頼する臨床医向けの詳細情報は、こちら。
表1 酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症における分子遺伝学的検査
遺伝子 1 | 方法 | 病的バリアントの割合 2 この方法による検出可能性 |
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SMPD1 | 病的バリアントのターゲット解析 3 | 90% 4, 5 |
シークエンス解析 6 | >95% 7 | |
遺伝子をターゲットとした欠失/重複解析 8 | 不明 9 |
その他の検査
末梢血リンパ球、培養皮膚線維芽細胞、または乾燥血痕における酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)酵素活性の測定:対照群と比較して、罹患患者では残存ASM活性が典型的には10%未満であるが、これらの活性は検査機関によって異なる[van Diggelen et al 2005]。
注:(1) ASMDの診断を確定するには、酸性スフィンゴミエリナーゼ活性が低いことが必要である。(2) 残存酵素活性のレベルは、表現型の信頼できる予測因子ではない。
骨髄検査:ASMDは骨髄病変を有するため、専門医が診断の一環として脂質を蓄積したマクロファージを同定するために骨髄検査を実施する症例もある。骨髄検査は診断に必須ではなく、特定の臨床的適応がない限り実施すべきではないことに留意する。
臨床的特徴
酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)の症状は連続的に出現するが、重症早期発症乳児神経内臓表現型(ニーマン・ピック病A型、NPD-A)の患者は、臨床所見に基づき、中間型の慢性神経内臓表現型(NPD-A/B)および慢性内臓型ASMD(ニーマン・ピック病B型、NPD-B)とは区別できる場合が多い。酵素補充療法(ERT)は現在、ASMDの中枢神経系以外の症状に対して、病型を問わずFDAの承認を受けている(「管理」の「標的療法」を参照)。より多くの患者が長期間にわたりERTによる治療を受けるにつれて、ASMDの自然歴は変化する可能性がある。 ERTは、NPD-A/BおよびNPD-Bの罹患児における多くの内臓機能および成長障害を改善することが示されているが、この治療法は中枢神経症状および知的障害への効果は期待されていない。
乳児神経内臓ASMD(NPD-A)
哺乳障害/成長。哺乳障害は重度で、成長障害をきたす。哺乳障害ははじめ、肝脾腫による胃の圧迫による早期満腹感から生じているように見えるが、神経学的機能低下が進行するにつれて、乳児は吸啜と嚥下の協調機能を失う。ERTは現在、中枢神経系の所見を治療するものではないため、ERTが投与される可能性のある患者であっても、神経学的機能低下による哺乳障害は依然として問題となることが予測される。頻繁な嘔吐もまた、カロリー摂取不足の一因となる可能性がある。生後1年間の成長曲線は正常範囲内であっても、未治療の患者では生後1年間に体重SDは低下するだろう。 ERTはNPD-A/BおよびNPD-Bの患者の成長を改善することが示されてはいるが、NPD-Aの患者を対象とした具体的な研究は行われていない。
(嘔吐に加えて)消化器症状には、便秘や下痢などがある。一部の乳児では腹部不快感やガス溜まりが見られ、易刺激性や睡眠障害につながることがある。
肝症状:NPD-Aのほとんどの小児における最初の症状は肝腫大で、通常は生後3ヵ月までに認められる[McGovern et al 2006]。トランスアミナーゼ値は持続的に上昇する。未治療の場合、肝腫大は時間とともに悪化し、最終的には肝臓が腫大する。NPD-Aの乳児は、未治療のままでは、時間の経過とともに凝固障害や腹水などの肝不全の兆候が現れることがある。 ERTは、NPD-A/B型およびNPD-B型の罹患患者において肝腫大の改善とトランスアミナーゼ値の低下をもたらすことが示されており、NPD-A型の罹患患者においてもこれらの問題に対処できる可能性がある。
脾臓症状:脾腫は生後3ヵ月までにしばしば認められる。血球数は異常値を示す場合があり、これは脾機能亢進症を反映している。ERTは、NPD-A/B型およびNPD-B型の罹患患者において脾腫の改善をもたらすことが示されており、NPD-A型の罹患患者においてもこれらの問題に対処できる可能性がある。
肺疾患:罹患乳児の胸部X線写真では、肺マクロファージへのスフィンゴミエリン蓄積に起因する間質性肺疾患の所見が認められる。未治療患者では、動脈血ガス分析による低酸素血症は通常、疾患経過の後期に認められる。頻繁な呼吸器感染症がよく見られ、呼吸不全は死因となる可能性がある。 ERTにより肺機能が改善する可能性があるが、NPD-A患者を対象とした具体的な研究は行われていない。
眼科所見:ほとんどの小児において、診断時に眼底検査で網膜の変化が認められる。網膜神経節細胞への脂質蓄積により、神経節細胞のない赤色の中心窩を囲む脂質を多く含んだニューロンの白色リングが形成され、中心窩を囲む白色環状部の混濁度と直径に応じて、黄斑ハローまたはチェリーレッド黄斑として現れる。典型的なチェリーレッド斑は、疾患の進行初期には認められない場合もあるが、未治療のNPD-A小児では、時間の経過とともに必ず出現する。ERTの使用に関する十分なデータはないため、NPD-A患者のチェリーレッド黄斑の発現に変化が生じるかどうかは不明である。
神経学的所見:軽度の低緊張を除けば、初診時の神経学的所見は正常である。筋緊張低下は進行性で、深部腱反射は時間とともに消失する。脳神経機能は正常に保たれる。
精神運動発達はどの領域においても12ヵ月齢を超えては発達せず、疾患の進行に伴って技能も失われる[McGovern et al 2006]。発達年齢は通常、適応行動では10ヵ月齢、表現言語では12ヵ月齢、粗大運動能力では9ヵ月齢、微細運動能力では10ヵ月齢を超えては発達しない。
神経学的機能低下は容赦なく進行し、ERTによる有意な効果は無い。未治療の小児の多くは3歳になる前に死亡する。ERTによる非神経学的症状の改善によって、平均余命にどのような影響を与えるかは不明である。最も多い死因は呼吸器感染症である。
慢性神経内臓ASMD(NPD-A/B)
乳幼児期を乗り越えたものの慢性進行性に神経症状を呈する患者は、進行性および/または臨床的に重大な神経症状を呈する患者は、慢性神経内臓型ASMD(NPD-A/B)の症状を呈する。NPD-A/B患者のほとんどは、無治療でも成人期まで生存する。内臓障害の程度はNPD-Bと同様に多様である。
肝機能障害:無治療患者では、肝脾腫の程度は軽度から重度まで様々である。トランスアミナーゼ値はしばしば上昇し、一部の患者では肝線維化から明らかな肝硬変に至るまでの組織学的異常が認められる[Thurberg et al 2012]。ERT以前は、肝不全は肝移植で治療されることもあった[McGovern et al 2013]。しかし、ERTは患者において肝腫大を改善し、トランスアミナーゼ値を低下させることが示されている[Diaz et al 2022]。 ERTは、既に完成した肝線維症や肝硬変への効果は期待できない。
脾臓障害:未治療の患者では、脾機能亢進症により二次性血小板減少症が起こり、急性腹痛を引き起こす可能性がある。しかし、ERTは罹患患者の脾腫および血小板減少症を改善することが示されている[Diaz et al 2022]。
肺障害:未治療の患者では、間質性肺疾患により酸素依存および重度の活動制限が生じる可能性がある。ERTにより、肺機能が著しく改善する可能性がある。24ヵ月間ERTを受けた罹患小児9名のうち、8名は肺機能が改善し、機能障害が消失または軽度に改善した[Diaz et al 2022]。
神経学的徴候: NPD-A/Bの患者における神経学的所見には、小脳症状および眼振[Obenberger et al 1999]、錐体外路障害、知的障害、精神障害などが含まれる。Wasserstein et al [2006]は、当初NPD-Bと分類された64名を対象とした調査で、19名(30%)に神経学的異常が認められたと判定した。19名のうち、14名(22%)は軽微で進行性ではない所見を呈し、5名(8%)は2歳から7歳の間に発症し、全般的かつ進行性の所見(末梢神経障害、網膜異常)を呈した。進行性の所見を呈した5名はp.Gln294Lysの病的バリアントを有していた。酵素補充療法(ERT)は、罹患患者の神経学的問題を改善または予防するものではない。
成長:未治療のASMDの小児および青年では、異常な直線成長と骨成熟の遅延がよく見られ、成人期に著しい低身長につながる可能性がある。ある研究では、身長と体重の平均Zスコアはそれぞれ-1.24(29パーセンタイル)、-0.75(34パーセンタイル)であり、18歳未満の小児の骨年齢は平均2.5歳遅延していた[Wasserstein et al 2003]。低身長と低体重は、臓器容積の増大、骨年齢の遅延、血清中のインスリン様成長因子1(IGF-1)濃度の低下と相関している。しかし、ERTを受けた小児では、成長と骨年齢の両方が改善したことが報告されている[Diaz et al 2022]。
高脂血症:未治療患者では、血清中の高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)濃度の低下は、高トリグリセリド血症を特徴とする高脂血症と血清中の低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)濃度の上昇を伴う。脂質異常は研究対象となった最も若い年齢から明らかであり、心疾患の一因となっている。しかし、ERTを受けた患者では脂質プロファイルが改善した[Diaz et al 2022]。
粗な顔貌がNPD-A/B患者の一部に認められる。
骨減少症または骨粗鬆症は骨折の増加につながる可能性がある。ERTは骨密度を改善することが示されているが、治療を受けた患者における骨折頻度への影響はまだ明らかではない。
慢性内臓型ASMD(NPD-B)
NPD-Bは発症が遅く、症状も比較的軽度で、未治療患者では肝脾腫、肝機能障害、進行性脾機能亢進症、動脈硬化関連の各種脂質値の悪化、および肺機能悪化の進行を特徴とします[Wasserstein et al 2004, McGovern et al 2008]。これらの症状はいずれも、ERTによって改善することが示されている[Diaz et al 2022]。未治療のNPD-B患者のほとんどは成人期まで生存する。
肝機能障害:未治療患者では肝腫大がよく見られる。肝脾腫の程度は軽度から重度まで様々だが、ERTによって改善が期待できる。 NPD-Bの未治療患者の多くはトランスアミナーゼ値が上昇しており、中には肝線維化から明らかな肝硬変に至るまでの組織学的異常を有する患者もいる[Thurberg et al 2012]。まれに、肝不全により肝移植が必要となる場合もある[McGovern et al 2013]。しかし、ERTは、罹患患者の肝腫大を改善し、トランスアミナーゼ値を低下させることが示されており[Diaz et al 2022]、これにより将来の肝不全および肝移植の必要性が低減する可能性がある。
脾臓障害:著しい臓器腫大を有する患者は、二次性血小板減少症を伴う脾機能亢進症を呈する。脾梗塞は急性腹痛を引き起こす可能性がある。しかし、ERTは罹患患者の脾腫および血小板減少症を改善することが示されている[Diaz et al 2022]。肺障害は、あらゆる年齢層の罹患患者によく見られる[Minai et al 2000, Mendelson et al 2006]。未治療の罹患患者における臨床的障害は、全くない状態から酸素依存および重度の活動制限に至るまで様々である。未治療の罹患患者のほとんどは、胸部X線写真および薄層CTで間質性肺疾患の所見を認める。ほとんどの患者は進行性のガス交換異常を有するが、X線写真所見の程度は肺機能障害と相関しない可能性がある。ERT(酵素補充療法)により、一酸化炭素に対する肺の予測拡散能の割合で測定した肺機能は有意に改善した[Diaz et al 2022]。
未治療患者では石灰化肺結節も認められるが、ERTを受けている患者では特に研究されていない。
眼科的症状:NPD-B患者の最大3分の1に黄斑ハローまたはチェリーレッド黄斑が認められる。ほとんどの患者では進行性神経疾患の所見は認められない。黄斑ハローやチェリーレッド黄斑の存在は、神経変性の絶対的な予測因子ではなく [McGovern et al 2004b]、視覚機能に関する臨床的影響はないようです。ASMDのこの側面は、ERTを受けた小児では研究されていない。
成長:未治療の小児および青年では、成長曲線パターンの異常と骨格成熟の遅れがよく見られ、成人期に著しい低身長につながる可能性がある。ある研究では、身長と体重の平均Zスコアはそれぞれ-1.24(29パーセンタイル)、-0.75(34パーセンタイル)であり、18歳未満の小児の骨年齢は平均2.5歳遅れていた [Wasserstein et al 2003]。低身長と低体重は、臓器容積が大きいこと、骨年齢の遅れ、血清IGF-1濃度の低下と相関している。しかしながら、ERTを受けた小児では、成長と骨年齢の両方の改善が報告されている[Diaz et al 2022]。
高脂血症:NPD-Bでは血清HDL-C濃度の低下がよくみられる[McGovern et al 2004a]。ほとんどの患者において、血清HDL-C濃度の低下は、高トリグリセリド血症と血清LDL-C濃度の上昇を特徴とする高脂血症を伴う。脂質異常は、研究対象となった最も若い年齢から明らかである。しかし、ERTを受けた患者では、脂質プロファイルが改善した[Diaz et al 2022]。
心疾患:NPD-Bの成人患者の一部に認められる早期冠動脈疾患は、おそらく脂質異常症に関連している。一部の患者では、スフィンゴミエリン沈着による弁膜症が認められる。この特定のエンドポイントは、ERTを受けた患者では研究されていない。
骨減少症:未治療のNPD-B患者では、骨障害がよく見られり。ある研究では、小児の腰椎Zスコアは0.061から-4.879の範囲であった。未治療のNPD-B成人患者のほとんどは、WHO骨髄密度(骨密度?)分類に基づく骨減少症または骨粗鬆症を1カ所以上有していた[Wasserstein et al 2013]。病的骨折が報告されており、ERTの影響は不明である。しかしながら、小児ではERTによって成長Zスコアが上昇し、骨密度が改善した[Diaz et al 2022]。
その他:副腎など、肺以外の臓器の石灰化が報告されている。これらの所見の臨床的影響は知られておらず、ERTの影響を受けるかどうかも不明である。
妊娠と出産:軽度の影響を受けた未治療の女性の妊娠が報告されており、幅広い臨床症状を呈する未治療の女性でモニタリングされた17件の妊娠が成功している[MM McGovernより個人的に得た情報]
遺伝型-表現型相関
米国では、新たに診断された罹患者の約3分の2が、特有の遺伝型を有している。この疾患には確固とした遺伝型と表現型の相関関係は存在しないが、いくつかの病的バリアントについては、ある程度の結論を導き出すのに十分なデータが得られている。例えば、p.Arg610del病的バリアントは神経保護作用を示すと考えられています。p.Arg610delを少なくとも1コピー持つ人は、神経学的症状を発現せず、NPD-Bを発症する。p.Arg610delのホモ接合体を持つ人は、より重篤なバリアントとp.Arg610delを1コピー持つ人よりも、疾患の重症度は低くなる[Wasserstein et al 2004]。他の病的バリアントを持つ人とは対照的に、p.Arg610del病的バリアントのホモ接合体を持つ人は通常、身長と体重は正常で、肝脾腫と骨年齢の遅延は著しく少なく、血清IGF-1濃度は正常を示す。脂質異常は、p.Arg610del病的バリアントのホモ接合性を含め、すべての遺伝型で認められる。
p.Leu139Pro、p.Ala198Pro、およびp.Arg476Trp病的バリアントも、NPD-Bの軽症型を引き起こす可能性を示唆するエビデンスがある。
p.His423Tyrおよびp.Lys578Asn病的バリアントは、サウジアラビアで最も多く認められ、中等度の慢性神経内臓表現型(NPD-A/B)に最もよく一致する、早期発症の重症型を引き起こす[Simonaro et al 2002]。
p.Gln294Lys病的バリアントは、中間型の遅発性神経障害型を呈する表現型(NPD-A/B)と関連しており、チェコ系およびスロバキア系の人々に比較的よく見られるようである[Pavlů-Pereira et al 2005]。
NPD-A患者に認められる一般的なSMPD1病的バリアントのホモ接合性または複合ヘテロ接合性は、重症の乳児神経内臓型の表現型が予測される。例えば、p.Arg498Leu、p.Leu304Pro、またはp.Phe333SerfsTer52変異のいずれかの組み合わせは、NPD-Aを引き起こす。
有病率
ASMDの有病率は1:250,000と推定される[Meikle et al 1999]。しかし、集団全体のスクリーニングは実施されておらず、この推定値やその他の推定値は、生化学的または分子生物学的な確認のために紹介された臨床診断者の数に基づいている。チリでは、1,691人の健康な個人を対象に、一般的なSMPD1病的バリアントp.Ala359Aspのスクリーニングを実施した結果、ヘテロ接合体頻度は1:105.7と判明し、疾患発生率は1:44,960と予測された[Acuña et al 2016]。
重症神経変性ASMD(NPD-A)を引き起こす病的バリアントは、アシュケナージ系ユダヤ人集団でより多く見られ、3つの一般的なSMPD1病的バリアント(p.Arg498Leu、p.Leu304Pro、およびp.Phe333SerfsTer52)の複合キャリア頻度は1:80から1:100である。保因者スクリーニングプログラムと出生前診断の普及により、この集団の出生率は低くなっている。
ASMDの全病型は様々な人種に共通している。NPD-B患者の遺伝型情報は29か国で報告されている[Simonaro et al 2002]。
遺伝学的関連(対立遺伝子)疾患
本GeneReviewで議論されているもの以外に、SMPD1の生殖細胞系列病的バリアントと関連する表現型は知られていない。
リソソーム蓄積症(LSD):酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)の臨床的特徴は、ゴーシェ病などの他のリソソーム蓄積症と重複することがあるが、生化学的検査および/または分子遺伝学的検査により、これらの疾患を明確に区別することができる。最近の研究では、ゴーシェ病の検査結果が正常であった肝脾腫患者が、後にASMDであることが判明した[著者、私信]。肺浸潤と血清中高比重リポタンパク質コレステロール濃度の低さは、ASMD患者では極めて早期に認められるが、ゴーシェ病患者では認められない特徴的な所見である。
肝脾腫:肝脾腫に関連するその他の遺伝性疾患は表2にまとめられている。
肝脾腫を伴う、ASMDの鑑別疾患
遺伝子 | 鑑別疾患 | 遺伝性 | ASMDとの違い |
---|---|---|---|
ASAH1 | ファーバー病 (参照 ASAH1-Related Disorders.) | AR | ファーバー病における関節結節および嗄声 |
G6PC SLC37A4 |
グリコーゲン蓄積症 (例えば, GSD1) | AR | グリコーゲン蓄積症における低血糖 |
GALNS GNS HGSNAT IDS IDUA NAGLU SGSH |
ムコ多糖症(例えば, MPS I, MPS II, MPS III, MPS IVA) | AR XL |
ムコ多糖症における粗な顔貌と多発性骨異形成症 |
GBA1 (GBA) | ゴーシェ病 | AR | ASMDにおける間質性肺疾患;ゴーシェ病ではより顕著な骨格疾患 |
GNPTAB GNPTG MCOLN1 |
オリゴ糖症 (e.g., GNPTAB-related disorders, mucolipidosis III gamma, mucolipidosis IV) | AR | オリゴ糖症では、粗な顔貌、皮膚および眼科的異常が認められる場合がある。 |
HEXA | テイ・ザックス病 (参照 HEXA Disorders.) | AR | テイ・サックス病では、肝脾腫および肺疾患は一般的ではない。 |
HEXB | サンドホッフ病 | AR | サンドホフ病では、肝脾腫および肺疾患は一般的ではない。 |
LIPA | ウォルフマン病 (参照 Lysosomal Acid Lipase [LAL] Deficiency.) | AR | LAL欠損症では、間質性肺疾患は一般的ではない;脾腫はASMDよりも軽度である。 |
NPC1 NPC2 |
ニーマン・ピック病C型(NPD-C) | AR | NPD-Cにおける特異的な神経学的所見 |
PRF1 STX11 STXBP2 UNC13D |
家族性血球貪食性リンパ組織球症 (HLH) |
AR | 家族性HLHは発熱および炎症を呈することがあり、ASMDで典型的に影響を受けない臓器が侵される可能性がある。 |
ASMD = 酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症
肝脾腫は、一部の感染症(例:EBウイルス、サイトメガロウイルス)にも伴うことがある。NPD-Aの乳児では、感染症の病因を評価する過程で診断が遅れることがある。
白血病などの造血悪性腫瘍は、肝脾腫と汎血球減少症を伴うことがある。間質性肺疾患や脂質異常症の存在は、ASMDと造血悪性腫瘍の急性期との鑑別に役立つ場合がある。
間質性肺疾患は、環境曝露、結合組織疾患、感染症など、多くの原因によって引き起こされる可能性がある。しかし、ASMDにおける肝脾腫の存在は、これらの他の原因による間質性肺疾患との鑑別に役立つ。
最初の診断に続いて行う評価
酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)と診断された患者において、重症度とニーズを把握するために、表3にまとめた評価が推奨される(診断時の評価として実施されていない場合)。
表3.酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症患者における初回診断後の推奨評価
評価する系/懸念される事項 | 評価 | 補足 |
---|---|---|
成長/栄養 |
|
NPD-A患者の場合:
|
18歳未満の小児の骨年齢 |
|
|
肝機能系 | 血清生化学検査(肝トランスアミナーゼ(ALT、AST)、アルブミン、凝固因子を含む):: | 肝機能障害の進行を評価する |
肝エラストグラフィーまたはFibroScan® | 肝線維化および肝硬変を評価する | |
肝機能低下の兆候が認められる患者において、線維化を確認するための非侵襲的な手段が利用できない場合、肝生検が適応となる場合がある。 | ||
肝脾腫 | 肝臓および脾臓の大きさの測定を含む放射線学的検査 | |
血液系 | 全血球算定 | 血小板減少症、白血球減少症、および貧血の評価 |
肺 | 胸部X線写真: |
|
肺機能検査:拡散能の評価を含む | 十分に協力できる患者に対して | |
視機能 | 眼科検査 |
|
神経系 | 包括的な神経学的所見による評価 | NPD-Aの診断が検討されている乳児では特に重要 |
高脂血症 | 空腹時の脂質プロファイル | NPD-B と NPD-A/B患者において |
心臓 | 心臓CT検査:冠動脈の状態 | |
骨格筋系 | 頻繁な骨折や四肢痛の有無を評価する | |
発達検査 | 発達検査 |
|
遺伝カウンセリング | 遺伝の専門家による 1 | ASMDの患者とその家族に、その病気の特性、遺伝性、および影響について情報を提供し、医療および個人的な意思決定を支援する |
家族支援 医療社会資源 |
By clinicians, wider care team, & family support organizations | 臨床医、より広範なケアチーム、および家族支援団体による評価
家族および社会的なありようを評価し、以下の必要性を判断する:
|
ALT = アラニンアミノトランスアミナーゼ;ASMD = 酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症;AST = アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ;DXA = 二重エネルギーX線吸収測定法;MOI = 遺伝様式;NPD-A = 乳児型神経内臓ASMD(ニーマン・ピック病A型);NPD-A/B = 慢性神経内臓型ASMD(中間型);NPD-B = 慢性内臓型ASMD(ニーマン・ピック病B型)
症状の治療
ASMDには根治療法はない。
標的療法
GeneReviewsにおける標的療法とは、疾患の発症メカニズムそのもの(その治療法が遺伝子疾患の1つ以上の症状に有意な有効性を示すかどうかは問わない)に焦点を当てた治療法であり、疾患の根本的な遺伝子的原因が不明な場合は考慮されない、あるいは治癒につながる可能性のある治療法を指します。—ED
ASMDに対するオリプダーゼアルファ(Xenpozyme®)によるERTは、米国FDA、欧州EMA、およびその他の世界の規制当局によって承認されている。この治療法は、肺、肝臓、脾臓、その他の中枢神経系以外の臓器におけるスフィンゴミエリン蓄積を軽減するのに役立つ。中枢神経系には影響を与えないため、NPD-AまたはNPD-A/Bの患者に見られる神経認知機能には無効でる。本疾患の中枢神経系以外の症状に対する、初めての疾患特異的な治療法となる。投与量については表4
造血幹細胞移植(HSCT)の結果(治療効果)は様々である。Shahら [2005] は、乳児神経臓型ASMD(NPD-A)に対するHSCTの成功例を報告した。移植が成功すれば、代謝異常が是正され、血球数が改善され、肝臓と脾臓の容積増加が軽減される可能性がある。ERTと同様に、HSCT後の神経学的要素の安定化は報告されていない。したがって、臨床的に明らかな神経疾患を有する患者に対するHSCTの実施は、実験的なものとみなすべきである。HSCTに伴う罹患率と死亡率はHSCTの適用範囲を制限しており、ERTが利用可能になった現在では、HSCTは廃止される可能性が高い。
表4.酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症の標的治療
標的治療1 | 容量2 | 考慮事項 |
---|---|---|
Olipudase alfa (Xenpozyme®) ERT 1 | 用量漸増:
|
|
ERT = 酵素補充療法IV = 静脈内投与
支持療法
生活の質(QOL)の向上、機能の最大化、合併症の軽減を目的とした支持療法が推奨される。理想的には、関連分野の専門医による多職種連携のケアがこれに含まれる(表5参照)。
表5.酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症患者の症状に対する支持療法
症状/懸念事項 1 |
治療 2 |
成長/栄養 |
---|---|---|
成長/栄養 |
|
|
肝機能障害 |
|
|
易出血性 | 出血が生命を脅かす場合の血液製剤の輸血 |
|
肺疾患 | 症状のある肺疾患患者には酸素補給。 |
|
進行性の神経症状 / |
|
NPD-Aの乳児に対する積極的な治療は正当化されない。そのような治療は、神経科医、セラピスト、家族と相談して現実的な目標を設定することで計画されるべきである。 |
高脂血症 | 高脂血症の成人は、血清総コレステロール値を症状かするための治療が行われる場合がある |
ASMDに特化した研究は行われていないが、ASMDの成人にはスタチンが使用されている。4 |
骨量の減少 | 骨量の減少と骨粗鬆症に対するカルシウムとビタミンD |
|
睡眠障害 | 必要に応じて鎮静剤の使用を検討 | 易刺激性と睡眠障害は、家族全員の生活の質に影響を与える問題 |
ASMD = 酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症、NPD-A = 乳児神経内臓ASMD(ニーマン・ピック病A型)、OT = 作業療法、PT = 理学療法
二次合併症の予防
肝毒性が知られている薬剤(例:高コレステロール血症治療のためのスタチン)を服用している人は、肝機能をモニタリングする必要がある。
サーベイランス
ASMD患者に対する臨床モニタリングに関する推奨事項が公表されている[Wasserstein et al 2019]。これらはERT(酵素補充療法)が利用可能になる前に公表されたものである。しかし、ERTを受けている患者であっても、標的治療および支持療法への反応や新たな症状の発現を評価するために、このような評価は依然として考慮すべきである。
表6.酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症患者に対する推奨サーベイランス
評価する系/懸念される事項 | 評価 | 頻度 |
---|---|---|
成長/栄養 |
|
毎回の診察時 |
心臓 | 心電図 | 毎年 |
心エコー | 2-4年後毎 | |
肝機能 | 血清生化学検査(肝トランスアミナーゼ(ALT、AST)、アルブミン、凝固因子を含む) | 少なくとも年1回 |
血液系 |
|
|
肝脾腫 | 肝臓および脾臓の大きさのX線検査 | ベースライン時および必要に応じて |
肺 | 息切れの有無を評価する | 受診毎 |
肺機能検査 | 毎年 | |
胸部X線検査 | 2-4年毎 | |
神経系 | 神経機能と頭痛の頻度を評価する | 少なくとも年一回 |
発達 |
|
受診毎 |
高脂血症 | 空腹時脂質プロファイル | 少なくとも年一回 |
筋骨格系 | 四肢痛を評価する | 受診毎 |
骨密度評価(DXAスキャン) | 2-4 年毎 | |
家族支援・ 医療社会資源 |
社会生活、家庭生活、学校や仕事に関連した活動の変化を評価 | 受診毎 |
ALT = アラニンアミノトランスアミナーゼ、AST = アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、DXA = 二重エネルギーX線吸収測定法、OT = 作業療法、PT = 理学療法
回避すべき薬剤/環境
脾腫のある人は、コンタクトスポーツを避けるべきである。
At risk血縁者の評価
ASMDの早期診断と標的治療を可能にするために、年齢に関わらず、リスクのあるすべての同胞に対する検査は正当化される。出生前診断が行われていない場合、リスクのある新生児の同胞については、新生児スクリーニングと並行して、家族性SMPD1病的バリアントの検査、または残存酸性スフィンゴミエリナーゼ酵素活性の測定を行うべきである。
遺伝カウンセリング目的でリスクのある親族の検査に関する問題については、「遺伝カウンセリング」を参照。
妊娠管理
ASMDの妊婦は、肺機能および血液学的状態の適切なモニタリングを確実に行うため、ハイリスク妊娠に対応できる産科医による出生前ケアが適応となる。オリプダーゼ アルファ によるERTは妊婦を対象とした研究は行われていないが、動物実験では胎児の発育に影響を及ぼす可能性があることが確認されている。したがって、妊娠中のERTは推奨されない。
妊娠中の薬剤使用に関する詳細は、MotherToBabyを参照。
研究中の治療法
幅広い疾患および病態に関する臨床試験の情報にアクセスするには、米国ではClinicalTrials.gov、欧州ではEU臨床試験登録簿を参照。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
乳児神経内臓型ASMD(ニーマン・ピック病A型、NPD-A)、慢性神経内臓型ASMD(NPD-A/B)、慢性内臓型ASMD(ニーマン・ピック病B型、NPD-B)を含む、酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)のすべての病型は、常染色体劣性遺伝形式をとる。
家族構成員のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
他の家族構成員
発端者の両親の同胞は、SMPD1病的バリアントの保因者となるリスクが50%。
保因者検出
リスクのある血縁者に対する分子遺伝学的保因者検査を受けるには、事前に家系内のSMPD1病的バリアントが同定されている必要がある。
注:酸性スフィンゴミエリナーゼ酵素活性測定による保因者判定は信頼性に欠る。
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
早期診断・早期治療を目的としてリスクを有する血族に対して行う評価関連の情報については、「管理」の中の「リスクを有する血縁者の評価」の項を参照されたい。
家族計画
DNAバンキング
検査方法論や遺伝子、病態メカニズム、疾患に関する理解は将来的に向上する可能性が高いため、分子診断が確認されていない(すなわち、原因となる病態メカニズムが不明である)発端者からのDNA保存を検討すべきである。詳細については、Huang et al [2022] を参照
出生前および着床前診断(訳注:日本で広く用いられているこの用語を訳として用いた)
分子遺伝学的検査
罹患家族においてSMPD1病的バリアントが同定されれば、出生前および着床前遺伝子検査が可能である。
生化学的遺伝子検査
羊水穿刺または絨毛膜絨毛採取によって得られた培養羊水細胞中の酸性スフィンゴミエリナーゼ酵素活性の生化学的検査を用いることで、25%のリスクを伴う妊娠の出生前検査も可能であり。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A:酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体座位 | タンパク | 座位特異的データベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
SMPD1 | 11p15.4 | スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ | SMPD1 database | SMPD1 | SMPD1 |
データは、以下の標準的な文献から収集されている。遺伝子はHGNC、染色体座位はOMIM、タンパク質はUniProtから取得している。リンクが提供されているデータベース(座位特異的、HGMD、ClinVar)の説明については、こちらをクリック。
データは、以下の標準的な文献から収集されている。遺伝子はHGNC、染色体座位はOMIM、タンパク質はUniProtから取得している。リンクが提供されているデータベース(座位特異的、HGMD、ClinVar)の説明については、こちらをクリック。
表B.
257200 | ニーマン・ピック病、A型 |
607608 | スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ1、酸性リソソーム性; SMPD1 |
607616 | ニーマン・ピック病B型 |
分子病態
SMPD1は、スフィンゴミエリンをセラミドとホスホリルコリンに加水分解するリソソーム酵素である酸性スフィンゴミエリナーゼ(スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ;EC:3.1.4.12)をコードしている。酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)は、細胞や組織にスフィンゴミエリンの蓄積を引き起こす先天性代謝異常である。 ASMDを引き起こす150以上の病的バリアントが発表されている[Simonaro et al 2002, Schuchman 2007, Zampieri et al 2016]。これには、ミスセンス、ナンセンス、フレームシフト、およびASMポリペプチドから1つのアミノ酸が除去されるフレーム内の3ヌクレオチド欠失の各バリアントが含まれる[Zampieri et al 2016]。スプライス部位の変異も報告されている。アシュケナージ系ユダヤ人集団とは対照的に(表7参照)、他の集団で研究された乳児神経内臓型ASMD(NPD-A)のほとんどの患者は、固有のSMPD1病的バリアントを有する。特定の集団において慢性内臓型ASMD(NPD-B)または慢性神経内臓型ASMD(NPD-A/B)を予測できるSMPD1病的バリアントも少数存在するが、NPD-Aと同様に、ほとんどの患者は固有のバリアントを有する。
疾患発症のメカニズム:SMPD1病的バリアントは、酵素の活性を変化させ、基質の加水分解を低下させ、細胞内、特に単球マクロファージ系において基質の蓄積を引き起こす。主要な基質(スフィンゴミエリン)の蓄積に続いて、コレステロール、リゾスフィンゴミエリン、リゾスフィンゴミエリン-509などの脂質も蓄積する。これらの蓄積脂質もASMDの病態に寄与する可能性がある。
SMPD1に特有の検査・技術的考慮事項
• SMPD1の父性インプリンティングが報告されていり[Simonaro et al 2006]。インプリンティングがASMD表現型に及ぼす影響は詳細に研究されていない。
• SMPD1の長さの多型により、2つのアミノ酸が異なるSMPD1バリアントを表すために、現在2つの番号体系が使用されている(表7参照)。
表7.注意すべきSMPD1病的バリアント
参配列 | DNA 塩基の変化 (エイリアス1) |
予想されるタンパクの変化 (Alias 1) |
コメント |
---|---|---|---|
NM_000543.3 NP_000534.3 |
c.416T>C | p.Leu139Pro (p.Leu137Pro) |
これらの病原性変異は、NPD-Bの軽症型と関連していることを示唆するエビデンスがある[Simonaro et al 2002]. |
c.592G>C | p.Ala198Pro (p.Ala196Pro) |
||
c.874C>A | p.Gln294Lys (p.Gln292Lys) |
|
|
c.911T>C | p.Leu304Pro (p.Leu302Pro) |
アシュケナージ系ユダヤ人のNPD-A患者における病原性変異の90%以上を占める3つの一般的な変異の1つ [Levran et al 1992] | |
c.996delC (c.990delC) |
p.Phe333SerfsTer52 (p.Pro330SerfsTer382 or fsP330) |
NPD-Aを有するアシュケナージ系ユダヤ人における病原性変異の90%以上を占める、3つの一般的な変異の1つ [Levran et al 1993] | |
c.1076C>A | p.Ala359Asp | チリにおいて、この一般的なSMPD1病原性変異について1,691人の健常者を対象としたスクリーニング調査で、ヘテロ接合性頻度は1:105.7であり、疾患発生率は1:44,960と予測された [Acuña et al 2016] | |
c.1267C>T | p.His423Tyr (p.His421Tyr) |
|
|
c.1426C>T | p.Arg476Trp (p.Arg474Trp) |
この病原性変異は、NPD-Bの軽症型と関連していることを示唆するエビデンスもある [Simonaro et al 2002] | |
c.1493G>T | p.Arg498Leu (p.Arg496Leu) |
アシュケナージ系ユダヤ人のNPD-A患者における病原性変異の90%以上を占める、3つの一般的な変異の1つ [Scott et al 2010] | |
c.1734G>C | p.Lys578Asn (p.Lys576Asn) |
|
|
c.1828_1830del | p.Arg610del (p.Arg608del or DeltaR608) |
|
NPD-A = 乳児型神経内臓ASMD(ニーマン・ピック病A型);NPD-B = 慢性内臓ASMD(ニーマン・ピック病B型) 表に記載されているバリアントは著者によって提供されている。GeneReviewsのスタッフは、バリアントの分類を独自に検証していない。
GeneReviewsは、ヒトゲノム変異学会(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に従う。命名法の説明については、クイックリファレンスを参照。
原文: Acid Sphingomyelinase Deficiency
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