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1991年よりコホート研究を継続し、科学的な根拠に基づいて住民の「ウエルビーイングと健康長寿」を実現します。
多世代コミュニティ・エンパワメント技術を活用しながら、当事者主体の街づくりを推進します。

住民主体のコミュニティ・エンパワメントのコツ

エンパワメントには、さまざまな「コツ」があります。そのエッセンスを、1)目標を明確にする、2)当事者を巻き込む、3)対象地域の諸機関をネットワーク化する、4)当事者の柔軟な参加形態が可能な形で組織化する、5)定期的に成果をフィードバックする、6)「楽しみ」をもたらす企画を実施する、7)発展可能性を継続的に提示する、の7点に整理しました。
以下にその内容を概説します。

1.目標を明確にします

長期間に及ぶ継続的なパートナーシップの実現には、参加者、実施者、専門職、研究者、支援施設機関、行政機関、研究機関など、すべての関連する人や施設機関に対して「目標」を明確にし、つねに「当事者」として共有できる環境を整備することが必須です。
もっとも初期の開始段階から、目指す方向性や理想を「目標」として十分に相互理解できる研究組織、実践組織を構築します。また当事者にとって参加の意義が明確になるわかりやすく具体的な「目標」を掲げ、動機づけに直結する方法を工夫したり、情報提供時には、継続的に「目標」を意識化できる機会の設定などが有効です。

2.当事者を巻き込みます

継続的なパートナーシップ事業においては、長い期間にわたり当事者とのかかわりを継続する必要があります。そのため、すべてのメンバーに「当事者」としての動機づけが必要です。事業をひとごとのプロジェクトとして受動的に参加するのではなく、自分たちのプロジェクトとして積極的な参加を促すため、当事者自らの意思が反映される環境整備が求められます。
当事者を巻き込む方策としては、プログラムの提供、健康長寿に向けた運動や健康イベントの開催、フィードバックによる当事者の意見の反映などを定期的に実施しています。

3.対象領域の諸機関をネットワーク化します

パートナーシップ事業の遂行には、対象圪域の諸機関との連携が欠かせません。関連諸機関をネットワーク化し「連絡会」のような形を設けることで、当事者の動機づけを維持するとともに、圪域ぐるみで「当事者意識」を持ち、プロジェクトを支える応援団として機能するようになります。また情報をオープンにし、「通気性」を良くすることが信頼関係の構築につながります。

4.当事者の柔軟な参加形態が可能な形で組織化します

社会背景の推移にともない、関連する当事者、施設機関、専門職などは対象とする専門領域は推移する可能性があります。核としての実施組織の一貫性に加え、その支援組織としての当事者、専門職は、当初より柔軟な形で出入りが可能なよう組織化することで、もっとも効果的かつ効率的な運営が可能となります。

5.定期的に成果をフィードバックします

当事者の動機づけを維持するためには、参加したことによる何らかの効果を、適宜感じられる環境整備が求められます。成果をカレンダーや口頭でフィードバックすることは、単なる情報提供にとどまらず、信頼関係の基礎ともなります。また定期調査のために来訪した際に、専門職が最近の様子をたずねたり、相談にのったりすることもフィードバックに含まれます。また情報公開やクレーム対応の仕組みづくりが欠かせません。

6.「楽しみ」をもたらす企画を実施します

当事者の動機づけは、「楽しみ」を付加することで倍加します。当事者同士楽しく過ごす機会、健康長寿に関する新しい知識や技術を学べる講習会などのイベントは、「楽しみ」の付加に貢献します。
また定期的なフィードバック時に用意される「プログラム」や「カレンダー」など、当事者が喜び、楽しむ企画を継続的に実施することは、ドロップアウトの予防に効果的です。

7.発展可能性を継続的に提示します

参加しているパートナーシップ事業の社会的な意義と評判は、当事者の動機づけに大きく影響します。実際、当事者の多くが「社会に役立つ」ことを望んでおり、その割合は年を追うごとに高まっています。
パートナーシップの成果をなるべく多くの機会をとらえて社会に発信し、さまざまなメディアなどを通じて、社会的に高い評価を得ることに努めます。また進行状況や発展可能性について、継続的に社会に発信する仕組みづくりが求められます。社会からの評価をはじめ、発展可能性を継続的に当事者に提示することが有効です。

 

以上、パートナーシップを基盤とした事業を継続するためのポイントを解説しました。これらはまさに、住民、行政、専門職、施設機関、研究者などすべてを「当事者」として巻き込む「コミュニティ・エンパワメントの仕組みづくり」といえます。
何よりも大切なのは、上記すべての当事者間の「信頼関係」であり、互いに「楽しむ」仕掛けづくりです。
孔子いわく、「これを知る者はこれを好む者に如かず、これを好むものはこれを楽しむ者にしかず」。参加して、単に知識を得ようとする人は続きません。好きになり興味を持つことで継続できます。しかし困難にぶつかればやめてしまいます。それを乗り越えて続けられるのは楽しんでいる人です。「当事者すべてが楽しむ」環境整備に向け、さまざまな知恵を当事者間で出し合うのも一つの方法です。
未来に向けて脈々と続くご縁、長いお付き合いの「縁パワメント」が、まさに要であると言えます。

<参考文献>

  1. 安梅勅江. 政策決定の科学的根拠に -コホート研究の役割. サイエンスポータル, 科学技術振興財団:http://scienceportal.jp/HotTopics/interview/interview29/
  2. 安梅勅江. コミュニティ・エンパワメントの技法. 医歯薬出版, 2007.
  3. Anme T, McCall M. Culture, Care and Community Empowerment: International Applications of Theory and Methods. Kawashima Press, 2009
  4. 安梅勅江.エンパワメントのケア科学-当事者主体チームワーク・ケアの技法―, 医歯薬出版、2004
  5. 安梅勅江.健康長寿エンパワメント-介護予防とヘルスプロモーション技法への活用 -, 医歯薬出版, 2007
  6. 安梅勅江.根拠に基づく子育ち・子育てエンパワメント―子育ち環境評価と虐待予防― 日本小児医事出版社. 2009