アメリカには、25〜30万人の多発性硬化症患者がいると言われています。 多発性硬化症が進行するのは20歳から40歳までの年齢であり、最初に診断されたときには多くの人が雇用されています。 このことに加えて、アメリカ障害者法も多発性硬化症患者への職場環境整備について知ることがいかに重要であるかを示しています。
多発性硬化症患者への環境整備を考えるとき、そのプロセスは個別対応を基本に管理しなければなりません。 多発性硬化症の症状は多様であり、軽い運動障害だけのものから、運動・視覚・認知機能が制限されるものまであります。 効果的な環境整備を選択するには、その人固有の能力と障害の程度を考慮し、問題のある業務を特定すべきです。 そのため、患者本人がプロセスに参加することが望まれます。
すべての多発性硬化症患者が職務遂行に環境整備を必要とするわけではありませんし、必要な場合も、ごく簡単なものが大半です。 環境整備を必要とする人たちについては、以下に一般的な機能障害、症状、考慮すべき問題点、考えられる環境整備法についての基本情報を提供します。 これは参考例に過ぎません。 この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。
さらに、多発性硬化症患者への環境整備に利用可能な製品に関する情報も掲載しています。 この情報は、製品や取り扱い業者のほんの一例で、ここに紹介した以外にもたくさんの製品や取り扱い業者があります。 ここに紹介した以外にもたくさんの製品や取り扱い業者があります。
この文書には追加情報のための問い合わせ先リストがあります。
多発性硬化症
多発性硬化症(MS)に関する以下の情報は、いくつかの出典から編集したもので、出典の多くは問い合わせ先リストに列挙してあります。この情報は、医学的な助言を意図したものではありません。 医学的な助言が必要な場合には、適切な医療専門家に相談してください。
多発性硬化症とは?
多発性硬化症は、中枢神経系の慢性疾患です。 この病気は、中枢神経系にあるミエリン(神経細胞を保護する皮膜状の蛋白質)の損傷を引き起こします。 ミエリンが損傷すると、神経の中を伝わる信号が、途切れたり遅れたりして、体中のさまざまな部位で、いろいろな神経障害が起こります。 現在のところ、病気の進行速度、重症度、発現する症状などを予測することは不可能ですが、研究と治療法の進歩により、今後の展望が望めます。
多発性硬化症の症状とは?
多発性硬化症には、症状が定期的に重くなったり軽くなったりするという特徴があります。 軽い症状の例として、四肢のしびれ、重い症状の例として、麻痺や視覚障害などがあります。 この他にも、疲労、失調症、筋肉の麻痺、けいれん、しびれ、不明瞭言語、視覚障害、麻痺、筋痙直、膀胱もしくは腸の障害、性機能障害などがありえます。
多発性硬化症の初期症状は歩行困難がもっとも多く見られます; しびれなどの違和感や、「足元がおぼつかない」感覚; 神経炎(視神経の炎症)による痛みや視覚障害など。
比較的まれな初期症状の例として震えの他、以下のようなものがあります; 失調症; 不明瞭言語; 脳卒中の症状に似た突然の麻痺発作; 認知能力の低下。
多発性硬化症の原因は?
いくつかの研究では、多発性硬化症は単一の原因でおこるのではなく、いくつかの原因が重なった結果であると示しています。 おそらく遺伝的な特徴が多発性硬化症の発症に大きな役割を果たしています。全てが遺伝的にコントロールされるわけではありませんが、第一親等以内に多発性硬化症の患者がいる場合、発症のリスクは20-40に達します。 ウイルスやバクテリアなどの環境的要因からの汚染も一因となります。ですが、何らかの要因が特定されているわけではありません。 また、身体の防衛機構(自己免疫システム)によって不当な攻撃を防御する通常の免疫反応の制御がうまく機能していない、ということが要因として考えられます 。
どのような人が多発性硬化症にかかるのか?
世界的には、多発性硬化症は40度より下の地域や赤道近くよりも、緯度40度以上の地域に多く認められます。
アメリカでは、37度線を越えている州に頻発しています。 37度線はニューズポートニュース(ヴァージニア)からサンタクルーズ(カリフォルニア州ランニング)までをさらに広げた、ノースカロライナ州の北端の境界からアリゾナ州の北端まで東西に沿って伸びています。 37度線より下の地域での多発性硬化症の罹患率は10万人あたり57〜78人です。 37度線より上の地域での罹患率は10万人あたり110〜140人になります。 全国的には多発性硬化症患者は25万人から35万人と考えられます。
多発性硬化症が進行する危険性が高い地域で生まれたため、低い地域に移動する場合でも、もしその移動が15歳より前のものであったら、移動したからといっても危険性が減るわけではありません。
多発性硬化症は白人(特に北ヨーロッパ期限の人)に共通しており、イヌイットなどの特定の集団にはほとんど認められません。
多発性硬化症は男性と比べて助成には2倍多く見られます。
多発性硬化症の発生・広がりは特定されはしますが、どのくらい重要かはわかっていません。
ある集団では、遺伝的特徴が多発性硬化症に結びついています。ある特定の遺伝的な特性が他の疾病と比べて多発性硬化症を持っている人に頻繁に見られます。
発症年齢は20〜40歳が一般的ですが、より年齢が上の人でも発症する場合があります。
多発性硬化症の治療法は?
多発性硬化症の治療法は全くありませんが、ここ3〜5年の間にいくつかの薬品 (Avonex, Betaseron, Copolymer) が改良され再発治療に用いられています。 これらの薬品の他、様々な治療法があります。例えば、作業療法、理学療法、言語療法、ペイン管理、運動などは一般に多発性硬化症の症状を改善します。
職場環境整備において考慮すべき問題
どのような症状や機能制限が見られるのか?
機能制限は患者ないし患者の職務遂行にどのような影響を与えているのか?
機能制限のために特に問題が出る職務は何か?
問題を避けるために、どのような環境整備が利用可能か? 環境整備の候補案を決定する際に、Job Accommodation Networkなどのリソースはすべて活用されているか?
環境整備案について患者本人と相談したか?
すでに実行中の環境整備の効果を評価し、他の環境整備が必要かどうか判断するための、機能障害患者との定期的な打ち合わせは行われているか?
上司や同僚への、多発性硬化症、その他の機能障害、アメリカ障害者法などについての講習は必要か?
多発性硬化症への環境整備の検討
(注意: 多発性硬化症において以下の機能障害や症状の一部、場合によっては全部が進行することがあります。 機能障害は患者によってさまざまです。 多発性硬化症患者すべてが職務遂行に環境整備を必要とするわけではなく、必要な場合も、ごく簡単なものが大半であることに注意してください。 以下は考えられる可能性のほんの一例です。 この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。)
日常生活の活動:
付き添い介助人の利用を認める
介助動物の利用を認める
機器が利用可能であることを確認する
休憩室の近くに座席を移動する
通常より長い休憩を認める
適切な公共サービスに相談する
認知障害:
可能であれば、職務上の指示を書面で与える
職務を重要度で分ける
柔軟なスケジュールを認める
息抜きのための定期的な休憩を認める
手帳や電子手帳などの記憶補助機器を用意する
気を散らす要因を最小限におさえる
自分のペースでの職務負担を認める
ストレスを軽減する
制度を充実させる
疲労および衰弱:
肉体の酷使やストレスを避ける
定期的に休憩時間を設けて職場から離れる
柔軟な労働時間と勤務外時間の利用を認める
自宅勤務を認める
人間工学に基づいた職場設計をする
徒歩による移動が必要な場合は、電動車いすなどの移動装置を支給する
精密動作障害:
人間工学に基づいた職場設計をする
コンピュータの操作方法を変更する
電話機の操作方法の変更
ひじ掛けの導入
書字補助具、握り補助具の導入
ページめくり機や書見台を用意する
筆記助手を手配する
粗大動作障害:
職場での移動をしやすくする:
職場近くに駐車場を確保する
出入りをしやすくする
自動ドアを取り付ける
職場および休憩室への出入りをしやすくする
他の仕事場所までの通路を、移動しやすいようにしておく
座席への移動をしやすくする
車いすやスクーターが使われるときは、机の高さを調節する
物品が手の届く範囲にあるかどうか確認する
他に受け持っている仕事場、オフィス機器、休憩室などに近い位置に職場を移動する
熱過敏症:
職場の温度を下げる
冷却ベストや冷却用装身具を使う
職場でファン/エアコンを使う
柔軟な勤務スケジュールと休憩時間の利用を認める
熱い気候の間、自宅での仕事を認める
言語障害:
マイクロフォンやその他のコミュニケーション機器を導入
電子メールやファックスなどの視覚コミュニケーションを利用する
コミュニケーションをあまり必要としない部署に配置転換する
定期的な休憩時間を認める
視覚障害:
手持ち式/スタンド式/光学式の拡大鏡で印刷物を拡大する
活字の大きな印刷物や、画面読み取りソフトウェアを用意する
コンピュータの画面にちらつき防止フィルタを取り付けて、ちらつきを抑える
職場の照明を調整する
頻繁な休憩を認める
多発性硬化症患者への環境整備の例
ある政府機関の苦情受け付け担当者は、多発性硬化症による視力障害のため、書類の読み取りが困難であった。その機関では、スタンド式の拡大鏡と手元照明を座席に設置した。
ある出版会社の管理職員は、多発性硬化症患者で、車いすからトイレへの移動が困難であった。 会社はトイレに手すりを設置した。
ある弁護士は、多発性硬化症患者で、上半身の筋力低下のため打ち合わせ先に書類を持って行くことが困難であった。 弁護士事務所は、車への積み下ろしが容易な、携帯用の台車を購入した。
ある集配センターの係員は、多発性硬化症による疲労のため、通常の生産水準での勤務が困難であった。会社は、ストレスや身体的な負担を減らすため、業務の集中しないシフトへの移動を行った。 勤務シフトの変更により、休憩回数も増やすことができた。
あるエンジニアは、多発性硬化症患者で、暑さに対する過敏症であった。 建物内のほかの部屋よりも気温を低く設定した個室を用意してもらった。 建物内での移動を減らすため、同僚との連絡にはできるかぎり電話や電子メールを利用することも推奨した。
ある看護士は、多発性硬化症患者で、職場での移動に支障があった。 病院は、院内の通路を広げて車いすでの通行を容易にし、調節機能つきのキーボード台、モニター台、電話台などを設置した。 さらに、柔軟な勤務スケジュールを認めて治療が継続できるようにした。
ある事務員は、多発性硬化症による認知障害のため、職務への集中や仕事の予定の記憶に支障があった。会社は防音パネルを設置して雑音を減らした。 さらに、毎朝その日の予定を紙に書いて渡し、それぞれの職務の概要を説明したノートも用意した。
ある教員は多発性硬化症患者で、疲労すると発音が不明瞭になってしまい、生徒とのコミュニケーションに支障があった。 学校は携帯マイクを用意し、これによって声を届かせるために緊張する必要がなくなった。また、規則的に休憩を取れるよう、時間割も調整した。
機器
機能障害を持つ人々への環境整備に利用可能な機器は、数多くあります。 JANの検索機能付きオンライン環境整備(SOAR)で、さまざまな環境整備の可能性を探索できます。 多くの機器取り扱い業者リストにアクセスできます; しかしながら、JANではウェブサイトで利用できるもののほかにもたくさんのリストを用意しています。 特別な環境整備条件がある場合、特別な機器を探している場合、取り扱い業者の情報が必要な場合、医師への紹介状を請求する場合は、JANに直接問い合わせてください。
機器:
コンピュータ用代替入力機器
コミュニケーション補助具
冷却衣服
調節可能なテーブル
ページめくりと書見台
マジックハンド
電動スクーター
寄りかかりいす
筆記支援用具
問い合わせ先リスト
(完全なリストではありません)