序
以下に、糖尿病患者への環境整備を選択する際に、考慮に入れる問題点の例について基本情報を示しま
す。 環境整備に関する問題点を解決するには、患者本人からの意見を得ることが、有効な環境整備結果を達成するための、もっとも基本的な事項です。
まったく同じ環境整備を必要とする患者は2人といないということと、機能障害をもつ患者すべてが環境整備を必要とするわけではないということに注意してお
くことは、非常に重要です。 以下は環境整備の例です。
この文書は教育目的に用いることのみを目的としており、環境整備問題の最終的な解決方法であると見なすべきではありません。
ここに列挙されていない環境整備の例も、もちろんあるでしょう。
それぞれの環境整備例、機能障害患者に関わる法律、問い合わせ先などについての、より詳しい情報は、JAN ( (800) 526-7234) までお問い合わ
せください。
糖尿病についての一般的な情
報
糖尿病とは?
糖尿病は体が消費すべき糖を消費できなくなったときに起こる病気です。
人間の体は、成長や日常生活のエネルギーのために糖を必要とします。 体の中で食物をグルコース (糖の一種) に変化させて糖分を得ています。
グルコースを体に取り入れて消費するには、インスリンと呼ばれるホルモンが必要です。
すい臓が十分な量のインスリンを作れなくなったり、インスリンの効果自体が低くなったりして、血中のグルコースをエネルギーに変えることができなくなる
と、糖尿病になるのです。
糖尿病は、さまざまな影響を引き起こします。
目の障害、腎臓病、心臓病、神経の損傷、歯周病などを引き起こすことがあります (必ず起こるわけではありません) 。
糖尿病の種類
インスリン非依存性もしくはタイプ2
もっとも一般的なタイプの糖尿病です。
徐々に進行するのが普通で、40歳以上の人に最も多く見られます。 タイプ2の糖尿病にかかると、十分な量のインスリンが作られなくなります。
もしくは、インスリンは作られても、体内で適切にインスリンを使うことができなくなります。
インスリン依存性糖尿病もしくはタイプ1
突然発症するのが普通で、30歳以下の若い人においてはもっとも一般的です (若年性糖尿病と呼ば
れることもあります) 。 タイプ1の糖尿病では、すい臓のインスリンを作っている細胞が破壊され、最終的にインスリンが作れなくなるのが普通です。
妊娠糖尿病 (GDM)
妊娠期の女性に起こることがあります。
この状況は妊娠後期に血中のグルコース濃度が高まっておこります。 通常は、妊娠期間が終わると、血中のグルコース濃度は平常値に戻ります。
キーワード
血糖は摂取した食物から体が作りだす糖分の大部分を占めます。
血流によってグルコースを運び、細胞にエネルギーを供給します。 細胞でグルコースを消費するにはインスリンが必要になります。
インスリンは体内でグルコースをエネルギーに変えるのに必要なホルモンです。
低血糖症は血中のグルコース濃度が低くなりすぎる症状です。
患者には、怒りっぽくなる、疲労、多汗、空腹感、錯乱、虚弱などの症状が出るほか、意識を失ったり、けいれんを起こす例もあります。
糖分を摂取することが治療となり得ます。 例えば: 炭酸飲料、ライフセーバー、錠剤のグルコースなど。
高血糖症は血中のグルコース濃度が低くなりすぎる症状です。
インスリンの不足、過食、運動不足、疾病、ストレス、およびそれらの複合によって起こります。
強いのどの渇き、頻尿、疲労、視界のかすみ、嘔吐、体重の減少を始めとする症状があります。
神経障害は神経系の障害です。
糖尿病による神経障害もしくは腎障害は、腎臓が損傷すると発生します。
糖尿病の治療と管理
適切な薬物投与をすることが重要です。
アメリカ糖尿病協会は、糖尿病患者への薬物投与のガイドラインを定めています (問い合わせ先リストを参照) 。
治療には、以下のような例があり得ます:医師の処方によるインスリン服用; 健康的な食生活;
定期的な運動; 薬物の経口投与; 減量; 血糖値の定期的な測定;禁煙など。 バランスを保つことが鍵となります。
引用: Centers for Disease Control and Prevention。
Take Charge of Your Diabetes。 2nd edition。 Atlanta: U.S。
Department of Health and Human Services、1997。
この本はパブリックドメインとなっています。
誰でも、任意の部分または全部をコピーすることができます。 インターネット上の下記のアドレスからも利用可能です:
http://www.cdc.gov/diabetes/pubs/tcyd/index.htm
職場環境整備の際に考慮すべき問題点
個別的な診断結果や医学的条件
1. 患者の診断結果は?
インスリン依存性糖尿病もしくはタイプ1
インスリン非依存性もしくはタイプ2
2. 患者に見られる機能障害は?
低血糖症ないし高血糖症
疲労
腎臓障害
視覚障害
神経障害
認知障害
心理学的な障害がある場合
心臓障害
歯の疾病
3. 医師に禁止されている事項はあるか?
職務や日常生活について
1. どのような職業に従事していますか?
事務員、肉体労働者、セールス、専門職、医療関係者、教員など。
2. どのような職務を受け持っており、機能障害によって困難になるのはどのような仕事か?
交代シフトでの勤務
重機の操作が困難
運転が困難
長時間の肉体的活動が必要な職務
3. 通常は、どのように職務を行っているのか?
どのように職務を行っているのかについてはっきりとしたイメージを得るのに十分なだけの質問をする。
たとえば、利用可能な機器、実際に利用した機器、仕事のやり方など。
4. 症状は職務遂行能力に影響しているか?
疲労に伴なう問題
職務への集中の困難
吐き気
頻尿
視界のかすみ
手足の感覚の消失ないし痛み
めまい
5. 事故が起こる恐れはあるか?
どのような予防策をとったか?
6. すでに実施済みの環境整備は? (あれば)
7. 管理職職員や、場合によっては同僚職員への教育は必要か?
患者の職務に影響を与える機能障害などについての一般的な教育が、職場環境の改善につながることがあ
る。 その場合、機能障害を持った人が特定されてしまうようなやり方は避けるべきです。
多くの場合、機能障害への一般的理解の第一歩として教育を行うのが最善です。
糖尿病患者への職場環境整備例
以下のリストは、糖尿病の及ぼす影響と、環境整備実施のヒントの一例です。
低血糖ないし高血糖の症状がある場合
インスリンなどの薬品や食料の常備を認める
血糖値測定のための場所を用意する
薬の使用のための場所を確保する (インシュリン)
注射器や注射針を廃棄するための、適切な容器を用意する
発作後の気分転換ができるよう休憩場所を用意する
必要に応じた、食事のための頻繁な休憩を認める
疲労もしくは虚弱の症状がある場合
(心臓疾患が原因である可能性がある)
頻繁な休憩
激
しい活動を避ける
抗疲労床材やクッションカーペット
寝台つきの休憩所を用意する
立ったり座ったりすることを柔軟に認める
ジョブシェアリング
勤務時間を短縮して勤務日数
を増やす
視覚障害がある場合
(完全なリストではないので、さらに詳しい情報は視力障害患者への環境整備の例を参照http:
//www.jan.wvu.edu/media/Sight.html)
映像の拡大が有効な場合は、拡大装置やコンピュータ画面拡大ソフトウェアの使用という選択肢を検討する
映像の拡大が有効でない場合は、点字、触覚ディス
プレイ、音声出力装置などによる情報供給という選択肢を検討する
テープレコーダを用意する
読み上げ補助者を用意する
公共交通機関を利用した通勤のための、柔軟な勤務
時間設定
移動のため、介助動物を利用する
腎臓疾患がある場合
休憩設備を利用しやすくする
柔軟な勤務スケジュールや、治療のために時間を取
ることを認める (透析)
神経障害がある場合 (神経損傷)
手先の器用さが特に要求される職務を避ける
保護服や保護装置を用意する
鋭利なものを扱う職務を避ける
認知障害がある場合
指示を書面で与え、仕事に優先順位をつける
職務をなるべく秩序だてる
手帳ないし電子手帳を利用する
勤務時間に柔軟性を与える
気を散らす要因を最小限におさえる
心理学的な障害がある場合
ストレスを軽減する
カウンセリングやセラピーのために時間を取ることを認める
糖尿病以外に医学的な問題がある場合
柔軟で適切な勤務スケジュール
規則正しい勤務スケジュール
スケジュールの一時的な偏りを避ける (血行不良)
配置転換
その他
歯周病予防のため、歯を磨く場所を用意する
安全上の問題点を検討する
緊急時の対応手順と低血糖症ないし高血糖症の症状の見分け方について、職場への教
育を行う
糖尿病患者への環境整備について相談したい場合は、下記までお問い合わせください:
Job Accommodation Network
米国労働省障害者雇用政策オフィスのサービス
PO Box 6080
Morgantown、WV 26506-6080
800-526-7234 or 1-800-ADA-WORK (V/TTY)
304-293-7186
http://www.jan.wvu.edu
障害者雇用政策局
アメリカ労働省
200 Constitution Avenue、NW、Room S-1303
Washington、DC 20210
202-693-7880 (音声)
202-693-7881 (テレタイプライター)
202-693-7888 (ファックス)
http://www.dol.gov/odep/welcome.html
環境整備の例
糖尿病患者
(JANでの実例に基づく)
インスリン依存性の糖尿病と低血糖症を持つある看護婦は、体調の維持に障害があった (特に勤務中の定期的な食事) 。
血糖値を一定の基準値にコントロールできるまでの間、夜勤を避けたスケジュールに変更した。
病院では、これは非常に効果的な環境整備であったと報告している。 環境整備費用は: なし。
ある糖尿病患者のデータ入力係は視覚に障害があった。
会社側は、眼精疲労を軽減するために、書類置き場に照明を追加し、コンピュータの画面用のちらつき防止フィルタを購入した。 費用はおよそ: $30.
ある工員は8時間のシフトを休みなしに勤務することが困難であった (一般の職員は休みなしで勤務していた) 。
以下の環境整備を提案した: 出社を15分早め、退社を15分遅らせることで時間を調整し、休憩時間の取れる柔軟な勤務スケジュールにする。
ある糖尿病患者のカフェテリア店員は、長時間ひとつの場所に立ちつづけることが困難であった。 以下の環境整備を提案した:
抗疲労床材や寄りかかりいすの利用、頻繁な休憩。
ある研究者は、糖尿病による網膜疾患のために、紙の資料とコンピュータ画面間での視点の切り替えが困難であった。
以下の環境整備を提案した: 手元照明を利用する; コンピュータ画面にちらつき防止フィルタを使用する;
フレーム画面を使って、紙の資料とコンピュータ画面を同時に表示できる閉回路テレビを使用する。
ある組み立てライン作業員は、頻尿の症状と、脚部に神経障害があった。
定められた休憩時間以外は、持ち場を離れることができなかった。 以下の環境整備を提案した: 抗疲労床材の使用; 寄りかかりいすの利用;
休憩が必要であることを上司に伝えるための通信システムの導入。
糖尿病に関する情報源
(完全なリストではありません)