蓄積性外傷疾患 (CTD) は、アメリカの職業病の50%以上を占めます。
労働統計局 (BLS) によると、CTDとかかわりの深い、もっとも一般的な繰り返し動作は、物を並べること、つかむこと、手でものを運ぶことなど
(たとえば、食料品の検品など) です。 タイピングなどの、機器を利用した繰り返し動作も、多くのCTD患者を生んでいます。
2001年の労働統計局の報告によると、離職中のCTD患者の数は582340人にのぼります。
この数字は、アメリカ障害者法 (ADA) の要求事項ともあいまって、CTD患者への職場環境整備について知ることが、いかに重要であるかを示しています。
蓄積性外傷疾患患者への環境整備を考えるとき、そのプロセスは個別対応を基本に管理しなければなりま
せん。 蓄積性外傷疾患の症状は多様です。
効果的な環境整備を選択するには、その人固有の能力と障害の程度を考慮し、問題のある業務を特定すべきです。
そのため、患者本人が環境整備プロセスに参加することが望まれます。
すべての蓄積性外傷疾患患者が職務遂行に環境整備を必要とするわけではありませんし、必要な場合も、
ごく簡単なものが大半です。
環境整備を必要とする人たちについては、以下に一般的な機能障害、症状、考慮すべき問題点、考えられる環境整備法についての基本情報を提供します。
これは参考例に過ぎません; この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。
さらに、蓄積性外傷疾患患者への環境整備に利用可能な製品に関する情報も掲載しています。
この情報は、製品や取り扱い業者のほんの一例です。 ここに紹介した以外にもたくさんの製品や取り扱い業者があります。
この文書には、さらに詳しい情報が必要な場合のための問い合わせ先リストがあります。
蓄積性外傷疾患
蓄積性外傷疾患に関する以下の情報は、いくつかの出典から編集したもので、出典の多くは問い合わせ先
リストに列挙してあります。 この情報は、医学的な助言を意図したものではありません。
医学的助言が必要な場合は適切な医療専門家に相談してください。
蓄積性外傷疾患とは?
CTDは、身体動作の反復によって発生し、悪化します。
長時間の持続的な肉体の使用あるいは肉体への負荷が、腱、筋肉、感覚神経などの組織の磨耗や断裂を引き起こします。
もっとも症状が出やすいのは、手首、手、肩、背中、首、目などです。 蓄積性外傷疾患は、特徴の似通った複数の障害の総称で:
反復性外傷疾患、過使用症候群、局部性筋骨格障害、職業性疾患などとも呼ばれます。
蓄積性外傷疾患の例
滑液包炎:
滑液包炎は、関節の擦れ合う場所にある、滑液包と呼ばれる袋 (滑液という液体が入っている) の炎症です。
いろいろな関節で起こり得ますが、肩と膝にもっとも多く見られます。
手根管症候群: 手根管症候群は、手にちくちくとした痛みやしびれを引き起こす障害です。
灼熱痛や手先の器用さの低下、場合によっては手の麻痺などを引き起こすこともあります。
正中神経 (手首にある、ブレスレットのような形の骨の中を通る神経) 、手根管、親指と人差し指から薬指までが分かれる部分などが圧迫されて起こります。
手根管にある腱が腫れて、神経を傷つけます。
肘部管症候群:
尺骨 (肘の外側) のあたりをどこかにぶつけたような痛みがあり、肘を通っている尺骨神経に障害が出ます。
尺骨のあたりというのは、もっと正確に言えば、肘の内部を通る尺骨神経が、肘部管と呼ばれる管の中に収まっている部分のことです。
亜急性肉芽腫性甲状腺炎 (デ・ケルバン症) :
ドケルバン病は、手首もしくは前腕部から親指にかけての腱が腫れて、痛みを引き起こす障害です。
上顆炎:
外上顆炎は、テニス肘とも呼ばれ、はけやローラーを使って塗料を塗る、チェーンソーを使用する、その他工具などを継続的に使用するといった、身体への負担
の大きい作業が原因でおこることがあります。
内上顆炎は、ゴルフ肘とも呼ばれ、斧で木を切る、チェーンソーを使用する、その他工具などを継続的に使用するといった、身体への負担の大きい作業が原因で
おこることがあります。
Guyon管症候群:
手根管症候群と似た障害で、症例数が多く、Guyon管 (手首にある管の名前) を通る尺骨神経が圧迫されて起こります。
ぶつかり症候群:
回旋腱板症候群とも呼ばれ、肩峰 (肩甲骨の上部) と回旋腱板との隙間が狭くなりすぎることによって起こります。
腕を上げるときに、肩峰周辺では腱がスムーズに動いているのが普通ですが;
腕を上げるたびに、腱と肩峰の間にある滑液包と腱の間に、軽い引っ掛かりを生じることがあります。 この引っ掛かりをぶつかりと呼んでいます。
腕を上げる作業や物を投げる動作などを反復的に繰り返すことで起こります。
顔面筋疼痛症候群: 顎関節症 (TMJ) とも呼ばれる、下顎骨と側頭骨の関節部分の障害です。
症状の例として、目のかすみや鼻の障害、下顎、頭、首、肩、耳などの痛みが挙げられます。
顎の運動、薬物療法、歯科矯正、場合によっては外科手術など、さまざまな治療法があります。
橈骨管症候群: 前腕部から肘にかけて痛みを引き起こします。
外上顆炎 (テニス肘) の症状と混同されることがあります。
腱炎: 腱の炎症です。
腱鞘炎 (腱滑膜炎) : 外傷、酷使、感染症などによって起こる、腱鞘の炎症です。
ばね指: ばね指は、指を曲げたりするときの腱の動きに影響を及ぼします。
この動きは屈曲と呼ばれます。
胸郭出口症候群 (Thoracic Outlet Syndrome (TOS) ) :
肩、腕、手などの障害です。
蓄積性外傷疾患の症状とは?
CTDの症状は、痒痛、圧痛、腫れ、不快感、関節が鳴る、刺痛、しびれ、まひ、関節の動きの制限、患
部周辺の協調運動への支障などです。 CTDにもっともかかりやすいのは、指、手、手首、肘、腕、肩、背中、首などですが;
その他の部分にも発症する可能性はあります。
症状があらわれる順序や、外傷がどの程度進んだ段階で症状が出てくるのかといったことは、一定してません。
ある外傷がわずか2週間で症状を引き起こすこともあれば、症状が出るまでに1年間かかることもあります。
蓄積性外傷疾患の治療法は?
蓄積性外傷疾患の治療法には、さまざまなものがあります;
運動療法が効果的な患者もいれば、外科手術が必要な患者もいます。 通常、患部を休ませることが第一です。
ビタミンB6による治療、消炎剤、イブプロフェン、ステロイド注射、交代浴 (温浴と冷浴を交互に行う) 、外科手術、職業習慣の改善なども、治療の選択肢と
なります。
蓄積性外傷疾患の原因は?
いくつかの原因がありえます。 精密ですばやい動作の反復;
不自然ないし動きが少ない姿勢での長時間の労働; 回復のための時間の不足 (休憩回数が少なすぎる) ; 不適切な設計の座席; 力仕事;
物を握っている時間の過多; 未熟な職業技術などが要因となります。 ある場合では次のような症状に関連することがあります:
骨折や脱臼、関節炎、甲状腺の不調、糖尿病、更年期や妊娠期のホルモン異常など。
この他のリスクファクターとしては、アルコール中毒、血友病、腫瘍、末端肥大症、 (成長ホルモンの分泌量が増える) 、多発性骨髄腫 (形質細胞の異常増殖に
よっておこる骨髄のがん) 、アミロイド症 (組織内に繊維状のタンパク質が蓄積する代謝異常の総称) などがあります。
職場環境整備において考慮す
べき問題
どのような症状や機能制限が見られるのか?
症状や機能制限は患者ないし患者の職務機能にどのような影響を与えているのか?
症状や機能制限のために特に問題が出る職務は何か?
それらの問題を解消するために、どのような環境整備案があり得るのか?
環境整備の候補案を決定する際に、Job Accommodation Networkなどのリソースはすべて活用されているか?
環境整備案について、患者本人と相談したか?
環境整備を実行に移した後、患者が環境整備の効果を評価し、追加の環境整備が必要かどうか判断する機会
を与える機能は働いているか?
上司や他の労働者には、蓄積性外傷疾患、その他の機能障害、アメリカ障害者法などについて、講習が必要
か?
蓄積性外傷疾患への環境
整備の検討
(注意:
蓄積性外傷疾患患者において以下の機能障害や症状の一部、場合によっては全部が進行することがあります。 機能障害は患者によってさまざまです。
蓄積性外傷疾患患者すべてが職務遂行に環境整備を必要とするわけではなく、必要な場合も、ごく簡単なものが大半であることに注意してください。
以下は考えられる可能性のほんの一例です。 この他にもたくさんの解決法や検討材料があります。)
疲労および衰弱:
肉体の酷使やストレスを避ける
定期的に休憩時間を設けて職場から離れる
柔軟な労働時間と勤務外時間の利用を認める
自宅勤務を認める
精密動作障害:
人間工学に基づいた職場設計をする
コンピュータの操作方法を変更する
電話機の操作方法の変更
ひじ掛けの導入
書字補助具、握り補助具の導入
ページめくり機や書見台を用意する
筆記助手を手配する
人間工学的な道具などで調整する
粗大動作障害:
職場での移動をしやすくする
職場近くに駐車場を確保する
出入りをしやすくする
自動ドアを取り付ける
座席への移動をしやすくする
物品が手の届く範囲にあるかどうか確認する
他の作業場所、オフィス機器、休憩室などの近くに座席を移動する
台車や昇降機を用意する
気温過敏症:
職場の温度調節を行う
服装規定を変更する
扇風機ないしエアコンの利用、もしくはヒーターの利用
柔軟な勤務スケジュールと休憩時間の利用を認める
極端に暑いまたは寒い天候時には自宅勤務を認める
常に換気をする
空調の吹き出し口からの風が直接当たらないようにする
個別気温調節装置を導入する
経営者が考慮すべき事項:
仕事の質を、働く人に合わせて調整するというのが、人間工学の考え方です。
職務上必要とされる身体条件と、実際に働いている人の身体能力に食い違いがあると、労災としての蓄積性外傷疾患が発生するおそれがあります。
勤務時間中同じ動きを反復しつづける、不自然な姿勢で作業する、重度の力仕事をする、重いものを何度も持ち上げるといったことが、蓄積性外傷疾患の危険性
を高めます。 これらの作業環境を改めれば、危険性を減らすことができます。 たとえば:
物を持ち上げるときの正しい動作、器具の調整、正しい姿勢、機器の適切な利用法など、人間工学の原理に
もとづいた教育を行う。
作業を中断して、肩を上下させる、首を回す、足首を回す、足を伸ばす、腕を伸ばしてストレッチをする、
手首を回す、指の曲げ伸ばしをするなどの、軽い運動をすることを認める。
このような作業の中断には特に規定がないが、一般的なガイドラインとして、15分から20分ごとに1分ないし2分の休みと、1時間ごとに5分から10分の
休みを取ることが推奨されている。 電子タイマーなどを利用すると、身体への負担が高まる前に休憩を取ることが容易になる。
眼の負担を和らげるために、いったん作業から目を離して遠く (少なくとも25フィート以上) を見たり、まばたきの運動をすることも必要。
作業に変化をつける。
45分に一回は、姿勢を変えることが必要である、たとえば、右手と左手の作業を入れ替えたり、体の動かし方を変えたり、立って作業したり座って作業したり
するなど。
手に合った道具 (人間工学的なもの) 、体格に合った姿勢 (自然な体勢) 、鋭利物への対策 (クッショ
ン) 、過度に力を入れなくても利用可能な道具 (人間工学的なもの) 、座席の高さの調整 (調節機能つきの机) 、運搬作業の削減 (台車の利用) 、工具の改善
(工具吊りや固定器具) などによって、振動を和らげたり、万一の際怪我が重くなるのを防いだり、物をつかむ動作を減らしたりする。
足を床かフットレストの上に置き、膝を直角に曲げて太ももが床と水平になるようにして、負担を減らす。
腰から背中にかけては、いすの背もたれで支えるようにし、肘も直角に曲げて前腕部が床と水平になるようにする。
手首は伸ばし、顔を正面に向けてやや見下ろす姿勢にする。
背もたれが背中を支え、かつ座面の前端が膝の裏に当たらないよういすの調整を行う。
マウスとキーボードは、同じ高さの使いやすい場所に、できるだけ離さずに置く。
肘は外側に向け、前腕は床と水平に、手首はまっすぐにする。
モニタを適切な角度に調整する。
画面が正面から見えるように、また画面の真ん中が目の高さになるようにする。
モニタから目までの距離は、一般に1.5フィートから2フィートくらいが適当。
蓄積性外傷疾患患者への環境
整備の例
あるジャーナリストは両手首に手根管症候群を抱えており、1日に2時間以上タイピングをしたり原稿を
書いたりすることができなかった。 会社は、デジタルテープレコーダーと書字補助具、代替キーボードを購入し; 音声認識ソフトウェアを導入したり;
休憩をとることも許可し; そして作業環境を再配置するためにオフィス機器も提供した。
あるライン組立工は、膝に滑液包炎を抱えており、立ったままの作業に支障があった。
工場は、寄りかかりいす、抗疲労マット、振動吸収機能のある靴などを購入した。
あるセールスマンは、肘部管症候群患者で、右手を動かすことができませんでした。
彼女は書類の作成のためコンピュータを操作する必要がありました。
会社は、左手用キーボード、フットマウス、組み立て式のキーボード台とマウス台、人間工学的ないすなどを購入した。
ある建設作業員は、ドケルバン病患者で、手持ち工具を長時間使用するとひどい炎症が起きた。
会社は、軽量工具や空気動力工具を購入し; 振動防止素材で工具や手袋をコーティングし; 工具吊りと固定器具を導入した。
ある配電盤オペレーターは、顎関節症患者で、電話の利用や会話に支障があった。
会社は、ヘッドセット、音声認識ソフトウェア、調整機能つき電話台、書字補助具、傾斜つきの筆記台を購入した。
あるトレーラー運転手は、胸郭出口症候群患者で、長時間の運転と荷物の積み下ろしが困難だった。
会社はトレーラーの後ろに小型のクレーンを設置し、アルミニウム製の軽量台車を導入した。
さらに、ハンドルを長時間握っている必要がないようにハンドルに取っ手を取り付け、シートを衝撃吸収機能のあるものに代えて疲労を軽減した。
ある事務員は、書類に社印を押す業務を1日に数時間こなしていたが、手根管症候群により物をつかんだ
りつまんだりする動作に支障が出てしまった。 社印に取っ手を取り付け。 さらにそれを振動吸収素材で包んで環境整備をした。
これに加え、社印の取っ手にテニスボールを半分に切ったものを取り付け、細かい手の動きなしに社印を取り扱えるようにした。
ある用務員は、回旋腱板症候群患者で、清掃のために手を伸ばしたり、清掃用具を動かすことが困難だっ
た。 学校は、清掃用具を、柄の長いもの、空気噴射式、軽量なものなどに取り替えた。 電動台車も導入した。
機器
機能障害を持つ人々への環境整備に利用可能な機器は、数多くあります。
JANの検索機能付きオンライン環境整備 (SOAR) <
http://www.jan.wvu.edu/soar>
で、さまざまな環境整備の可能性を探索できます。 多くの機器取り扱い業者リストにアクセスできます;
しかしながら、JANではウェブサイトで利用できるもののほかにもたくさんのリストを用意しています。
特別な環境整備条件がある場合、特別な機器を探している場合、取り扱い業者の情報が必要な場合、医師への紹介状を請求する場合は、JANに直接問い合わせ
てください。
機器の例:
コンピュータ用代替入力機器
人間工学的なオフィス機器
自立
生活補助具
ページめくりと書見台
寄りかかりいす
音声認識ソフトウェア
工具 (人間工学的/空気動力
式)
工具吊り
工具カバー
書字補助具
問い合わせ先リスト
(完全なリストではありません)