最近の医学の急激な進歩により、前立腺がんに対する治療成績は著しく向上し、現在、局所前立腺がんに対する10年、15年生存率は、それぞれ90%、80%程と非常に良好です。このため長期生存する前立腺がんサバイバー*が急増しています。こうした前立腺がんサバイバーは長生きする分、心筋梗塞、脳卒中や糖尿病などの生活習慣病、骨粗鬆症、さらに二次がん(二つ目のがん)にかかるより高い危険性にさらされています。一般に前立腺がんの患者さんは、前立腺がん自体の悪化が原因で亡くなることはせいぜい3割程度と言われています。実際、長期生存する患者さんは、これらの前立腺がん以外の病気で亡くなることがしばしばです。しかし、こうした状況は生活習慣、あるいはライフスタイルの在り方や改善によって予防することが可能です。前立腺がんの患者さんは、がんだけでなく生活習慣病の予防に努めることが基本で、すなわち動物性の食物を少なく、野菜や果物が豊富で植物性の食物を中心とした食事に心がけ、適度の運動を含め活動的なライフスタイルを身につけることが大切です。前立腺がんを含めて、一般にがんの再発を予防するための対策はまだ十分に証明されていませんが、最近こうした健康的なライフスタイルが、前立腺がんの再発・転移の予防に繋がると考えられています。
*がんサバイバーとは
米国では、がんと診断された患者さんは、診断時から亡くなるまでの残りの生涯は、よく「がんサバイバー」、"cancer survivor"と呼ばれています。
2006年、米国がん協会は、「がん治療中および治療後の栄養と身体活動: インフォームド・チョイスのための米国がん協会ガイド」(「Nutrition and Physical Activity During and After Cancer Treatment: An American Cancer Society Guide for Informed Choices.」)(CA Cancer Journal for Clinicians, 2006; 56:323-353)を発表しました。その中でがんサバイバーのための食事と運動に関する情報を、31ページにわたり詳細に報告しています。しかしこのレポートは医療関係者向けに作成された学術論文です。そこで前立腺がんサバイバーのための食事や運動に関する情報を、Q&Aを含めて抜粋して邦訳、さらに患者さんやその家族の方々にも十分に理解し易いかたちでまとめてみました。
食事や運動に関する対策は、決して通常の治療法に置き換わるものではありません。前立腺がんの患者さんは医療機関において適切な診療を受けながら、がんの再発を予防、生活の質(QOL)を改善し、ご自身の健康を維持・増進するために、あるいはご自身にあった新しいライフスタイルを作るために、情報をお役立て下さい。
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