第93回
2012年3月21日

欧州放射線学会で見た"Forensic imaging"

亀田総合病院 救命救急科
伊藤 憲佐 先生

欧州放射線学会 (The European Congress of Radiology : ECR) 1)に参加し、"Forensic imaging"の講義を聞いて来たので、その内容の概略と私見を報告する。

ECRは欧州最大級の放射線学会であり、その規模は北米放射線学会 (The Radiological Society of North America : RSNA) に次ぐ世界で第二番目に大きいものである。毎年3月上旬にオーストリア、ウィーンで開催されている。本年度は102ヶ国、20023人の参加人数であった 2)

小生が聴講したのは放射線技師向けの生涯学習 (Refresher Course)であり、"Promoting best practice in forensic imaging"という演題であり、三名の先生が講演された。約200人が入る会場は、ほぼ満席でスタートした。

一席目はスイス、ベルン大学の Virtopsy メンバー、P. Vock 先生による "Forensic imaging: another important grwoing field"。以前に論文で発表されている Virtopsyについての内容 3) に、体表写真をテクスチャとして 3D-CT で得られたモデル表面に張りつけて評価する方法、体外循環ポンプを利用した死後造影 CT撮影、凶器などの 3D-CG化 等の最新知見を加えたものであった。
・講演開始直後に、「実際に forensic imaging を扱っている人は挙手を」との呼び掛けに対して手を挙げたのは、小生をめ一割に満たなかった。

二席目はアイルランド、ダブリン大の J. McNulty 先生による "The role of radiographers in forensic imaging"。死因究明に関する法制度、コロナー (Coroner) 制度についての説明に続き、死後単純レントゲン写真の撮影に国際的なガイドラインがなく、標準化されていない事、非事故による外傷つまり虐待の可能性をどう判断するかについての説明であった。
死後 CT、MRI については費用・設備の不足のため、あくまでもオプションの位置づけであるとの事であった。
・この講演では画像は単純レントゲンと実物の写真であった。この講演半ばから徐々に席を立つ人が現れ始めた。

三席目はイギリス、デボン大の E. Faircloth 先生による "The importance of standards in education and training in forensic imaging"。現在の問題点として、撮影法が標準化されていない事、教育・訓練の場がない事、死後画像を推進する人員が乏しい事が挙げられた。
主に災害時の身元確認作業(disaster victim identification : DVI)のための歯牙撮影の実際、ハンドヘルド・レントゲン撮影装置の紹介などに続き、人材育成のため、学生ワークショップ、Forensic imagingトレーニング・プログラムの整備について説明された。
・この講演でも、もっぱら画像は単純レントゲンと実物の写真であった。席を立つ人が増え講演終了時には六割ほどに聴講者は減っていた。 「放射線科医に加わってもらいたいが興味を示す人が少ない。放射線技師を教育する事を考えている」という発言があった。

以上から "Forensic imaging" についてまとめると、

  1. 主流は単純レントゲン写真である事、
  2. 放射線科医・放射線技師で実際に携わっているのは少数である事、
  3. いずれの講演においても臨床は関与せず、対象はあくまでも法医学領域に限られる事、
  4. 死後CTは一般的ではない事、

が解った。

一方、"Virtopsy" は "Forensic imaging"の領域に CT / MRI / 3D 再構成といった、最新画像技術を導入した物であると考えられた。

これらとAutopsy imaging (Ai) との大きな違いは、一般臨床医 (これには放射線科、病理科、救急科などが含まれる) との関係が乏しい点が挙げられる。これは日本と欧州の死因究明制度の違いが、大きく影響していると思われた。
"Forensic imaging", "Virtopsy", "Autopsy imaging"のいずれも、死後画像 = "Postmortem imaging"に含まれるが、それぞれの語が示す内容には差があるという印象を持った。

References)
  • 1) The European Society of Radiology; http://www.myesr.org/
  • 2) ECR 2012 国別参加者統計; http://www.myesr.org/html/img/pool/ECR_2012_CountryStatistic.pdf
  • 3) Dirnhofer R, Jackowski C, Vock P, Potter K, Thali MJ. VIRTOPSY: minimally invasive, imaging-guided virtual autopsy. Radiographics. 2006 Sep-Oct;26(5):1305-33.