第90回
2011年8月5日

関連団体と連携を深めた「Ai研修・認定制度」の新たな展開に期待する

佐賀大学医学部附属病院放射線部 Aiセンター
阿部 一之先生

2010年6月より厚生労働省「死因究明に資する死亡時画像診断の活用に関する検討会」が9回にわたり開催され、2011年7月27日に報告書(以下、厚労省報告書)として公開された。死亡時画像診断にかかる諸問題について多方面から議論された委員の皆様のご苦労に対し深甚より謝意を申し上げる次第である。本報告書で提言された「Ai研修・認定制度の構築」に着目して、診療放射線技師の立場で過去の経緯を振り返りながら新たな枠組みへの期待について述べる。

1.Ai研修会の歩み

日本放射線技師会Ai活用検討委員会から研修会の開催について2009年度理事会に提案してから、2010年度に3回の研修会が開催され、多くの受講者を得て多くの成果を得ることが出来た。

  1. 札幌医科大学医学部放射線医学講座主催、オートプシーイメージング(Ai)学会、日本放射線技師会共催「「Aiに従事する医師・診療放射線技師の教育・研修会」(札幌市)
  2. 日本放射線科専門医会(JRC)主催「2010年度死亡時画像診断読影研修会」(福岡市)
  3. オートプシーイメージング(Ai)学会主催、日本医師会、日本放射線技師会共催「平成22年度Ai研修会」(千葉市)

本学会主催の「平成22年度Ai研修会」では、「司法解剖」「Aiにおける医療安全」「病理解剖」「警察医・検視」「Aiに関する看護学」「Aiにおける感染対策」「Aiに関する法令・倫理」「死後画像の特性」「死後画像の撮影の特徴」「救急現場における死後画像」「救急現場における死後画像」「児童虐待における死後画像」「Aiの概念及び現状」のプログラムで2日間行い、理解を深めるために「確認試験」を最終的に行った。

2.死亡時画像診断(Ai)研修・認定制度の構築に向けて

厚労省報告書では、

「死後画像の撮影においては、死後画像の撮影に特化した技術の取得が必要であるとともに、死後画像に関する関連分野の知識や倫理観に関する教育も重要である。このため、診療放射線技師個人による技術や知識の研鑽に向けた努力に加え、日本放射線技師会等が主催する研修等を修了した診療放射線技師が死後画像の撮影を行うことが望ましい。」
「死後画像の撮影・読影に関する知識や技術の向上のためには、関係学会や日本医師会の協力によるガイドライン等の作成や研修会や研究会等の開催が必要である。」(抜粋)
として、診療放射線技師の資質向上と研修の必要性について述べられている。過去のAi研修会の実績とプログラムを勘案しながら、本学会、日本医師会をはじめ関係団体と連携を深めながら研修会を開催して資質向上を目指すことを要望する。

次に

「死後画像の撮影に関する知識や技術の向上のためには、認定技師や専門技師について、日本放射線技師会の認定制度の中で検討すべきである。」(抜粋)
から、Aiの目的と知識、技能を習得して死亡時画像診断(Ai)を安全に遂行できる診療放射線技師を「Ai認定診療放射線技師(仮称)」とし、さらに高度な知識と技能を有し、指導的な立場とした「Ai専門診療放射線技師(仮称)」として日本放射線技師会で認定制度を構築していただきたい。

3.診療放射線技師養成機関でのAiにかかる教育の必要性

私は、2006年から佐賀県内の進学高校1年生を対象にした進路指導の一貫として「職業人に話を聞こう」というテーマで講演してきたが、質問の中で「Ai」という言葉への認知度は高く、先日、中学3年生から課題研究のため「Aiセンター」見学の希望があり、これには驚かされた。 2011年7月「日本放射線技師教育学会」教育セミナーで「Aiの現状と展望について」の講演を聴講した鈴鹿医療科学大学1年生から、「もっとAiを勉強するにはどうしたらいいですか?」というメールが届いたのに驚くほど、「Ai」が幅広く浸透しているのが実感された。

そこで、かねてから診療放射線技師の教育機関でのAiにかかる教育の必要性を痛感していた。診療放射線技師が医療現場に入る前の学生時代からAiの基礎知識、撮像技術・画像処理・画像管理や画像読影などの技能や、医療倫理学などの関連分野の知識を学べる機会を設けるとともに、臨床現場と教育機関との連携による、幅広い医療人としての診療放射線技師養成教育の拡充に期待するところである。Ai学会も「学生会員」を検討する時期に来ているような気がするとともに、入会を期待しているところでもある。

4.Ai学会の役割と期待

厚労省報告書では、

「また、診断精度を高めていくためには遺族の承諾を得て死後画像を収集し、死後画像の読影結果と解剖結果との比較・検証により、その精度の向上を図っていくことはもちろん、これらの分析結果を死後変化等に関する知見のデータベース化も念頭において、適切に蓄積・管理していくことも重要である。」(抜粋)
「今後、検討会報告書を踏まえ、医療機関外の死後画像撮影専用の施設における安全な死後画 像撮影のための基準についても、検討する必要がある。」(抜粋)
「加えて、死後画像の撮影・読影に関わる研究会や学会の必要性について、医学・医療界で検討がなされるべきである。」(抜粋)と述べられている。

死亡時画像診断(Ai)は、救急医をはじめ多くの臨床医はもちろん、画像読影の放射線科専門医、撮像を行う診療放射線技師、そして剖検時には、法医学分野や病理学分野の医師が積極的に関わりをもって行っている。Aiをおこなう上で、すべての職種が足並みの揃うような体制を整え、協力することが重要である。

Aiに特化した3D画像処理技術の応用やネットワーク化、地方の施設から検索できる症例別画像情報等のデータベース化などにも本学会で取組んでいただきたい。

最後に死亡時画像診断(Ai)が医療・医学の発展に貢献するには、個々人のたゆまぬ努力と研鑽は勿論のこと、Ai学会が「Aiの研修・認定制度」について 関連団体・学会と協調して推進することを強く切望する。