第67回
2008年12月1日

Aiにおける日本救急医学会と日本医学放射線学会の連携の必要性

筑波メディカルセンター病院
塩谷 清司

平成20年4月に開催された日本医学放射線学会総会では、オートプシーイメージング・救急というセッションが設けられ、日曜日午後の最後のセッションだったにも関わらず、立ち見が出るほどの盛況であった。平成20年10月に開催された日本救急医学会総会では、蘇生7 画像(座長 札幌医科大学放射線科 山 直也)というセッションで、オートプシーイメージングに関する発表があった。演題名と発表施設を以下に列挙する。

  • 死亡後CT(PMCT: postmortem CT)により門脈ガス像が認められた病院前心肺停止患者の検討(北里大学救命救急医学)
  • 死後のCT画像撮影による死因推定(大阪大学高度救命救急センター)
  • 院外心肺停止患者におけるオートプシー・イメージングの診断精度(市立小樽病院麻酔科)
  • 内因性疾患による来院時心肺停止症例におけるAutopsy imagingの有用性(三重大学集中治療部)
  • PMCT(Post Mortem Computed Tomography)による死因検索の有用性(大分大学救命救急センター)
  • 内因性心肺停止症例に対するPostmortem CTの検討(聖隷浜松病院救急科)
  • 来院時心肺停止症例における死後CT所見の意義(手稲渓仁会病院救命救急センター)

死後CTは、今後裁判員制度でも活用が予想される。認めた所見をどのように解釈すればよいかということについて、救命救急医と放射線科医が議論して、コンセンサスを得ておく必要がある。

日本では監察医制度が普及していないこと、反対にCTの設置台数が世界一であることから、来院時心肺停止患者の死因を特定または推定し、より正確な死体検案書を記載するために、日本の救命救急病院は死後CTを施行してきた。しかし、大きな学会において死後CTに関する一般演題で一つのセッションが成立するようになったのは、ごく最近(ここ1年くらい)のことである。 ほとんどの救命救急病院が死後CTを施行していることが判明(注1)したために演題が出しやすくなったことや、日本は死因不明社会であるという認識が広まり、それに対処しなければならないという社会的機運が高まってきたことが背景にあると考えている。

注1のアンケートでは、死後画像を取得する際の問題点(複数回答可)として圧倒的に費用拠出が挙がった。 最近、日本救急医学会の理事の方々とお話する機会を得たため、死後CTはその費用拠出のみが問題として残されていることを訴えた。 すると、「放射線学会と一緒に声明を出して国に申請しましょう。」とのお言葉を頂いた。また、10月18日に開催されたつきじ放射線研究会(テーマ:Ai)における議論がきっかけとなり、日本放射線科専門医会・医会会長の中島康雄先生からも救急医学会関連の交渉事を担当するとのお言葉を頂いた。 来院時心肺停止患者に対する死後CTは、死因のスクリーニング、解剖に回す症例のフィルタリング、解剖が施行された場合のガイド、補完という役割を果たしている。死後CTの費用拠出に関しては、葬祭業のサービス、保険会社の支払い条件に義務付けなどの案が出されているものの、国民全ての利益(社会の安寧秩序維持、死者の尊厳保持、公衆衛生の向上)に関わることなので公的拠出が望ましい。 看護師等による静脈注射は、行政解釈と医療現場における実態との乖離が著しいために、行政解釈が変更されて可能となった(注2)。 死後CTを施行しないと死体検案書の診断名は死因不詳だらけになってしまい、その有用性ゆえに広く施行されている死後CTの現状を考えると、学会が連携して正式な公費負担(保険請求できること)を実現することは可能であろう。

  • 注1:2005年にオートプシーイメージング学会が日本の主要な救命救急病院を対象に行ったアンケート調査は、回答施設の9割が死後に何らかの画像診断(8割が死後CT)を行っていることを示した。このアンケート結果は、阪本奈美子他原著論文「全国救命救急センターにおける死後画像取得の現状と課題についてのアンケート調査結果報告」として日本救急医学会雑誌に投稿、査読中の状態である。
  • 注2:看護師等による静脈注射の実施については、昭和26年の厚生省医務局長通知以降50年以上にわたり、看護師等の業務範囲を超えていると行政解釈されてきた。

一方、平成13年度に実施された看護師等による静脈注射の実態についての厚生労働科学研究の結果では、

  • (1)94%の病院の医師が看護師等に静脈注射を指示している、
  • (2)90%の病院の看護師等が日常業務として静脈注射を実施している、
  • (3)60%の訪問看護ステーションで静脈注射を実施しているということが明らかとなった。

行政解釈と医療現場における実態との乖離が明らかとなったことから、平成14年に看護師等が行う静脈注射は診療の補助行為の範疇として取り扱うと行政解釈が変更された。