第63回
2008年8月1日

千葉大学医学部付属病院におけるAiセンターの概要と理念

千葉大学医学部附属病院長
河野 陽一

最近「医療崩壊」といったセンセーショナルな言葉が、新聞などのメディアでよく目にするようになりました。医療崩壊の一つの要因として、医療への検察(司法)の直接的な介入が上げられます。医療が高度化するに従い医療自体が内包するリスクは高いものになり、当然医療者は医療の安全対策を必死に進めています。しかし、社会が要求する「安心で安全」な医療の認識と医療現場の努力との間にはまだ十分な一致を見ていないのが現状です。このような社会の流れの中で、2006年2月に帝王切開中の出血による産婦の死亡に関して福島県立大野病院産婦人科の医師が逮捕され、社会に大きな波紋を投げ掛けました。日本産婦人科学会は直ちに「県立大野病院事件に対する考え」を公表しましたが、医療者は医療を十分に理解していない警察が直接医療現場に立ち入ることに非常な不安と危機意識を抱きました。現在も医療の現場に大きな影響が出ており、リスクの高い診療科の医師が立ち去る現象が引き起こされ、医師の地域的偏在や特定の分野における医師不足の要因となっています。そこで厚生労働省は「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案」を提示し、死因究明制度を整備することで、医療の社会への透明性と医療者と司法とのバランスを取ろうとしています。

このような医療を取り巻く社会状況の基で、千葉大学医学部附属病院にAi(エーアイ:オートプシーイメージング)センターが設立されることは大変大きな意義を持っています。Aiは、体表からの検視に加え死亡時画像検査をすることにより正確な死因を究明することが出来るだけではなく、画像情報が死亡時の客観的なデータとして保存され、医療関連死などが疑われた場合でも、公平、中立的な立場で検討することが可能となります。今後画像診断法の進歩に従い、Aiより得られる情報は、より活用の広いものになるでしょう。このように侵襲性が低い手技で客観的な情報が得られることにより、社会への説明責任も果たしやすく、遺族の方々との意志の疎通もより深いものになると思います。

千葉大学医学部附属病院では、すでに多数の死後画像検査を施行しており、大学病院において稼動している施設は他にはありません。本書には、経験と集積した情報を踏まえて Aiの重要性と可能性が分かりやすくまとめられており、現在の重要な医療問題の解決に向けた大きな展開につながることを期待しています。