第6回
2004年3月1日

Aiの有用性 -法歯学の立場から-

東京歯科大 法歯学講座
花岡 洋一

歯科所見を含む口腔内所見が身元不明遺体等の個人識別(身元確認)に極めて有用性が高いことは、日航機墜落事故、阪神淡路大震災、新宿雑居ビル火災、NYテロ等での身元確認作業を通じ、奇しくも立証されている。また、こうした大規模な災害等以外でも、警察や海上保安庁からの身元不明死体における個人識別の依頼は後を絶たず、我々法歯学の研究グループが立ち上げたForensic Odontology network (FO net) のweb サイト(http://www.kyorin-u.ac.jp/legal/FOnet/)でも口腔内所見による公開捜査を継続中である。

口腔内所見による個人識別は、最終的に、該当すると思われる人物の生前所見(X線写真、カルテ等)と遺体の所見の異同識別によって行われる。従って、行政解剖あるいは司法解剖の対象となる異状死体も、その身元が不明であれば、口腔内所見が記録として残されていなければならない。しかし、現実問題として解剖術中に口腔内所見を記録することは、時間制限、専門家の不在、器財の不備等の様々な制約から事実上行われていない場合が殆どで、犯罪性が高いと推定された場合のみ、我々法歯学者らが遺体の検査に赴くこととなる。しかし犯罪性がないと推定された場合には我々への依頼もなく、極めて不備な口腔内所見しか残されていないのが現実であり、ましてや身元が判明している場合は、当然のことのように口腔内所見は残されていない。しかしながら、実際にはそれが別人であったことが後日判明し、個人識別をしようにもすでに遺体は荼毘に付され、口腔内所見の入手が不能であったという事実も少なからず存在する。

PMCTを含むAiが頭頚部に用いられた場合には、期せずして歯牙を含む顎骨の状態が記録され得る。無論Aiのメインが診断であることには疑いないが、副産物的に口腔領域の一部が記録として残され、これが個人識別における重要な死後記録となる可能性は極めて高い。私の経験した中に、本来は頚部ヘルニアや肺疾患の診断を目的として撮影されたレントゲン写真に、歯牙を含む顎骨の状態が写り込んでおり、これが生前の記録となって身元が判明した事例がある。これは期せずして生前記録となった事例だが、Aiは期せずして死後記録となる可能性を持っている。すなわちAiの普及は個人識別における死後記録の充実にも繋がり得ると考えている。