第22回
2005年5月28日

CT・トロポニンT検査の死体検案への応用

熊本県警察医会 川口病院副院長
川口 英敏

日本の死体検案の現状をみると、従来より検案医や担当の警察官の知識・技術・経験により死体検案が行なわれていて、後頭下穿刺、既往歴等で死因が推定され、急速に発展しつつある今日の臨床医学に比べてかなり遅れている状況だと思われます。

当院では平成10年1月より、CPAOAで来院して蘇生しなかった症例に対してCT検査を行うという施行を開始し、その臨床経験25症例に関して第7回日本警察医会総会において「CT撮影の死体検案への応用」として発表しました(平成13年・札幌)。その後、「法医学の実際と研究47」に昨年、「病院内検屍57例へのCT撮影の応用」を報告しました。

そこで報告したことの結論としては、死後CTは内因死42例に関して21例が診断可能で、特に、胸部解離性大動脈瘤破裂8例、くも膜下出血6例等の出血性病変はほとんど生体と同じく診断可能でした。外因死15例では死亡までの状況は比較的明らかのものが多く、外表検査からでも死因を推定できるものが多かったのですが、CT撮影により、確定できました。

しかし死因を心筋梗塞とした19例中、1例のみはCTで心タンポナーデを認め心筋梗塞、心破裂と診断し、行政解剖で死因を確認しましたが、他の18例はCTにて所見がなかったため、死因を心筋梗塞と推定せざるを得ませんでした。

こうした問題点を解消するため、平成13年5月より心筋障害マーカーである心筋トロポニンTの迅速キット、「トロップT」の死体検案への応用を開始し、第8回日本警察医会総会において、「トロポニン検査の死体検案への応用」として30症例に関して発表しました(平成14年熊本)。現在用いられているGOT、LDH、CK等の逸脱酵素は心筋特異性が低く、死後の経過時間とともに値が自然上昇するため信頼性が低かったが、トロポニンTは心筋特異性が高く、94%が心筋繊維にあるため死後変化は少なく、死体検案の際の検査としては有用と結論付けました。

その後死後変化のほとんどない心臓から分泌されるホルモンの一種であるBNPの検査も開始して、第10回日本警察医会で「トロポニン、BNP定量等の死体検案への応用」(平成16年青森)として発表しました。

解剖という手段をもたない我々警察医の目指す所は、解剖をしないで、より解剖をした場合の死因に近づくということですが、筑波大学法医学教室の三澤先生の文献では、監察医制度のない県では正診率30~60%との報告があります(平成13年)。このような検査の死体検案への応用により、現在の検死の正診率は高くなってきたと思われます。

現在の当院での死体検案は、院内検死にはCT、トロポニンT、BNPを行い、院外検死に対しては、髄液検査、トロポニンT、BNPを行なっています。 本年1月江澤英史先生が当院に来院され、Ai学会の事を知り入会しましたので、今後、警察医の立場から参加していこうと思っています。