第152回
2024年06月01日

医療事故調査・支援センター年報から読み解くAiの動向

三重大学病院 副病院長
Aiセンター長
兼児敏浩 先生

 2015年に医療事故調査制度が発足して以来、注視し続けてきた数字がある。事故調へ届け出された事例のAiと解剖の実施率である。大前提として、「事故調届け出事例は、当該施設が最大限の努力を払って死因究明を行うべき事例であり、本来であれば、Ai・解剖ともに実施率は限りなく100%に近いことが望まれる事例である」ということがある。
 届け出事例の絶対数そのものが低調であることは、この制度の大きな問題点であり、多くの議論がなされているので、ここでは論及しない。それでは、Ai・解剖の実施率はどうだろうか。下表に2015年から2023年までのそれぞれの実施率を示す。

事故調Ai実施率

1.Ai・解剖ともに未実施事例について
 Ai・解剖ともに未実施事例は40~47%程度ある。これは、前述した通り、「当該施設が最大限の努力を払って死因究明を行うべき事例」であるにも拘らず、4-5割の事例は、カルテの記載事項と関係者との面談で得た情報のみで死因究明に係る調査をしなければいけないことを意味する。事故調の届け出件数が低調なことに匹敵する由々しき事態である。

2.解剖実施事例について
 死因究明の鍵となる解剖実施率が、29~41%程度であることは由々しき事態であることには変わりはないが、それでも一般的な剖検率よりははるかに高いことから現場での努力は窺える。解剖担当医の不足、設備の不足に加えて、解剖を基本的には忌み嫌うにわが国の国民性にも関係していることも想像できる。しかし、後述するAiの実施率からも現場は解剖の承諾を得るための最大限の努力をしているか否かについては疑問が残る。なお、2021年ころからさらに解剖に実施率が低下していることはコロナ禍の影響がある可能性もある。

3.Ai実施事例について
 Aiの実施率が、32~39%で推移しているが、解剖とは異なり、人員や設備面の問題が少ないこと、ご遺族からの承諾が得られやすいことを考えると著しく低いといわざるを得ない。6割以上の事例でAiが未実施であるがその原因を考察してみたい。

①解剖があれば、Aiは不要と認識がある。
 解剖のみの実施事例が16~24%存在するが、このカテゴリーの多くは解剖があればAiは不要という誤った認識によるものと考える。

②Aiをしたくても手順が未整備である。
 その気になれば”我が国のどの地域であっても、ほぼ、CTの撮像は可能であるので、ハード面での言い訳は成り立たず、手順が未整備のケースである。CTの設備はあっても、読影の問題等でAiを施行していない施設は院内で“やる気”と手順を整備すればよく、精神科単科病院やクリニックのように自施設にCTの設備がない場合は、少しハードルはあがるが、Aiの実施が可能な施設と契約あるいは連携をしていれば解決可能な事象である。結局は強いやる気がないカテゴリーなのかもしれない。

③死因究明におけるAiの有用性について認識がない、無知である、やる気がない。
 Ai・解剖とも未実施事例の多くを占めると推測されるが、解剖の項の述べた通り非常に由々しき問題である。

4.総括
 以上より、解剖の実施率を上昇させるためにはハード面での困難さが存在するが、Aiの実施率は基本的には“やる気”さえあれば上昇させることは難しくないはずである。にも拘らずAiの実施率が、4割にも満たない状況が続いている現状の責任の一端はわれわれ本学会の会員にもあると考える。