第122回
2017年1月1日

医療事故調査制度施行後1年を振り返る
「医療事故」該当性の確定値とAi・病理解剖の実施率

亀田メディカルセンター
弁護士 水沼直樹先生

1 はじめに

医療事故調査制度は平成27(2015)年10月1日から施行され,実施から1年以上経過した。そこで,医療事故調査制度とこれに伴うAi等の実施について振り返ってみたい。具体的には,医療機関において「医療事故」の該当性がいかなる状況にあるか,当職の把握する複数の医療機関の実績を紹介したい(なお,2016年開催の医療の質・安全学会での口演を基調としている)。

2 調査方法等

各医療機関(A・B・C)で集計した「医療事故」該当性の結果,すなわち医療起因性及び死亡等予期性の率(最終確定値)及びその判断理由,Ai・解剖の実施率等を比較した。

調査方法としては,各医療機関において,死亡診断医が「医療事故」の2要件(医療起因性と死亡等予期性)を盛り込んだチェックシートに死亡経緯を申告したものをカウントアップし,医療安全管理委員会等の担当部局医師等が必要に応じて診療録を基に修正し,管理者が最終確定したものである。

対象医療機関は,A(約900床,三次救急・地方都市の基幹総合病院)・B(約850床,二次救急・大都市圏病院,3分の2ががん患者)・C(約500床,二次救急・地方都市の基幹総合病院)の3医療機関である。

3 結果

まず,平成27年10月1日から12ヶ月間死亡報告数(n数),医療起因性の有無,死亡等の予期性の有無,Ai実施率,病理解剖の実施率は表1のとおりであった(単位はn数を除き%)。A病院におけるAi実施の51%が救命救急科による実施であった。

(表1)
n数起因+起因 −予期+予期 −Ai+Ai −Sek+Sek −
A81019990101585694
B463595964595892
C56629887131585496

また,医療起因性「なし」の内訳,死亡等予期性「あり」の内訳は表2のとおりであった(単位;%)。

(表2)
原病進行CPA偶発症口頭説明カルテ記載医療安全
A857482737
B871未満5
C871未満12757511

さらに,A病院における医師からの申告の修正率(誤記等の修正を含む)は,全体の37%であり,うち医療起因性に関する修正が37%,死亡等予期性が63 %であった。

4 考察

医療起因性について,医療機関ごとにばらつきがあったのは,救急体制,患者層,地域性のほか,統一判断の困難性が考えられる。例えば,カテーテルによる血管損傷を,手技の誤りとみるか血管壁の脆さによる合併症とみるか,判断が異なり得る。現にそのような事例が報告された。A病院は院外CPAが多いが,三次救急医療機関であることによろう。なお,いずれの医療機関であっても85%前後で原病の進行と判断されたのは興味深いが,明確な理由は不明である。

また,死亡等の予期性も,ばらつきが認められた。ただ,3分の2をがん患者が占めるB病院で予期性なしとされた事例が少ないのは,死亡原因を予期しやすいがん患者の特性によるのではないか,換言すると,A・Cの総合病院では,患者の急変などその予期が相対的に難しいのではないか,と分析している。

興味深いのはAiと病理解剖の実施率が,予期性と相関していることである。すなわち,Ai実施率はA・C病院が高いが,病理解剖はB病院が高く,死亡等の予期性なしとした高低と相関している。これは,がん患者の死亡に対して,医師のAiに対する期待が乏しい反面,病理解剖に期待することが大きいこと,三次救急や地域基幹病院における二次救急においては交通外傷等も多く見られ,Aiに期待するところが大きいことなどがその理由と考えられる。

なお,死亡診断医師の申告内容が医療安全管理委員会により修正された修正率は大小含め3分の1程度であった。1つは,総合病院における死亡診断医は必ずしも主治医・担当医ではないため,死亡等の予期として口頭説明等を実施したか否かを死亡診断時に把握していないことによる。また1つは,医療起因性「あり」「なし」双方にチェックを入れる例も散見され,医師の調査制度への理解が乏しい可能性を指摘できる。

5 ふり返り

医療機関ごとに「医療事故」の該当性判断にばらつきがあることが判明したが,Aiや病理解剖の実施も,医療機関の規模,救急体制,地域性,患者層などの条件によってばらつきがあることが伺われた。近時,該当性判断にばらつきがあることを問題視する向きもあるが,ばらつく理由如何によってはばらつきそのものが否定される必要はなかろう。むしろ,比較的容易に実施できるAiがせいぜい15%程度しか実施されていないことを真摯に受け止めるべきではないか。そんなことを思う1年であった。