第117回
2016年5月27日

医療事故調査制度とAi

上尾中央総合病院 院長補佐 情報管理部長
長谷川剛 先生

医療事故調査に関する医療法の改正がなされ、現実に法が施行されてからすでに半年以上が経過した。報告の実数としては毎月30件前後が報告されている。厚生労働省では、ここまでの運用で問題となったことが議論されいくつかの省令改正を行うらしい。現時点での最新のニュースでは、運用において問題となった報告基準を標準化するために医療安全調査機構と医師会等の支援団体で連絡協議会を設置する。また遺族からの申し出を受けるルートが存在しないことが問題視され、遺族からの申し出があった場合は医療機関にそれを伝えるこことなる。医療関連死の医師法21条に関する警察届け出の問題の議論は据え置かれたとのことである。

私は現在おおむね週に1回医療安全調査機構に出向し、医療機関からの届け出に関する相談に対応したり判断についての合議に加わっている。率直にいって報告対象の判断については悩ましい問題が多い。例えば、高齢者の誤嚥による死亡や末期癌患者に行った処置後に急死した場合などは、これらをわざわざ報告して院内調査すべきか?という疑問が起こる。またハイリスクの手術やカテーテル治療時の死亡事例も、事前の説明段階で一般論としての死亡は承諾書に書かれていることが多い。だが個別事例に対しての説明がなされたかどうかは事後的に確認することは難しい。死亡のリスクを考えつつも多くのまともな医療者は患者をよくするために手術や治療に踏み切るからだ。当然医療機関側はこれらの報告については抑制的な考えを取りがちである。

「医療事故」という言葉も問題が多い。医療行為に起因する予期せぬ死亡という定義がなされたが、これは今まで安全管理で用いられた用語とは矛盾しているし、また一般の日常用語ともそぐわない部分がある。報告に際して家族への説明が必要になるが、そこで医療事故調査という言葉を使った場合、一般の語感からすれば「なにか病院でまずいことをやったのだな」と解釈されてしまう。

いろいろな問題を抱えている制度ではあるが、Aiの重要性は変わらない、いやむしろ増すばかりだ。患者が死亡した直後にAiによる客観的な画像が示すことができるメリットは大きい。今後調査方法についての議論も進められる予定だが、そこでもAiをできるだけ実施するように推奨される可能性は高い。

Ai学会として院内事故調査に関わるAiについての議論を深めていく必要があるとますます感じている次第である。