医療の質・安全学会でAi関連のシンポジウムを開催して

三重大学医学部附属病院
医療安全・感染管理部 Aiセンター
兼児敏浩

去る11月23-24日に大宮ソニックシティーで開催された第7回医療の質・安全学会において、「社会基盤としてのAi(エーアイ、オートプシーイメージング、死亡時画像診断)の必要性」と題したシンポジウムを企画・開催した。Ai学会の会員には馴染みの薄い学会であると思われるが、2500-3000人の参加があり、医師・看護師はもちろん、薬剤師・診療放射線技師・臨床検査技師等の医療職のみならず、事務職員や行政・保健所の職員も参加する大きな学会である。その名の通り医療の質・安全をメインテーマとする学会であるが、今回の学会長が工学領域出身であることに象徴されるように医療全般について学際的に広く考える学会でもある。

企画の動機は下記(抄録から抜粋)に示した通りであるが、主たる目的は「Aiについて多くの医療関係者に広く知ってもらいたい」である。Aiは本Ai学会をはじめ、放射線関連・救急医療関連・病理関連・法医学関連等の関係者の努力によりこれらに関係する医療関係者では認知され、日常診療・業務の一部になりつつある。また、患者・患者家族を含む多くの一般市民は海堂氏の著作物等を通してAiに対して興味を持ち、それなりの知識がある人も増加しつつある。しかしながら、医療関係者の大半は直接Aiに関わることはほとんどなく、興味のある一般市民よりもAiに対する認識・知識が乏しい現状がある。このある種のAiの認知に対する空洞現象を改善すべく本シンポジウムを企画した。シンポジストは本Ai学会の理事の各先生方に御願いした。シンポジウムの内容そのものは抄録がよくまとまっているので下に抜粋を示した。

(医療の質・安全学会誌 2012 vol.7 supplement 107-110 より抜粋)

2012年11月23日(金)10:00~11:00 シンポジウム4
社会基盤としてのAi(エーアイ、オートプシーイメージング、死亡時画像診断)の必要性
座長:
兼児 敏浩(三重大学医学部附属病院 医療安全・感染管理部)
長谷川 剛(自治医科大学 医療安全対策部)
  1. Aiについての基本事項

    ○山本 正二(Ai情報センター)

  2. Aiと医療安全・医療の質

    ○兼児 敏浩(三重大学医学部附属病院 医療安全・感染管理部)

  3. CTとMRIを使用したオートプシーイメージング
    ―救命救急センター、がんセンター、剖検センターでの経験―

    ○塩谷 清司1、小林 智哉2、河野 元嗣3、菊地 和徳4、早川 秀幸5
    (1筑波メディカルセンター病院 放射線科、2筑波メディカルセンター病院 放射線技術科、3筑波メディカルセンター病院 救急診療科、4筑波メディカルセンター病院 病理科、5筑波剖検センター 法医学科)

  4. 法医学におけるAiの役割 ―他分野との比較―

    ○飯野 守男(大阪大学大学院 医学系研究科 法医学教室)

  5. Aiのこれから

    ○長谷川 剛1、鈴木 義彦2
    (1自治医科大学 医療安全対策部、2自治医科大学 メディカルシミュレーションセンター)

シンポジウム開催にあたって(兼児 敏浩)

AiはAi-CT(死後のCT撮像)を中心にわが国で広く実施されるようになってきた。純然たる死因究明を目的として従来から実施されている救急領域に加え、事故・事件性の有無の精査目的で、警察が取り扱う異状死体・診療行為関連死事例への実施、教育目的で系統解剖事例への応用などAiの応用範囲は多局面で展開しつつある。これは、先進諸国と比べて極端に低い解剖実施率と抜群に多いCT機器設置台数というわが国特有の状況からは当然の成り行きであるとも考えられる。

これらの状況を追随する形で、放射線関連やAi関連の学会によってAiにかかる技術論的な整備が急ピッチで進められ、撮像の条件・手順から読影時の注意点などが、放射線科医、診療放射線技師によって標準化されつつある。

しかしながら、Aiの社会的な位置づけはいまだ確立したとは言えず、システムとしてのAiは、ほとんど整備されていないのが実情である。院内死亡患者にAiを実施する場合は、コストは病院の持ち出しとならざるを得ないことはシステムとしての不備を如実に示している。また、Aiは一般に知られていること以外にも大災害発生時の個人識別や小児虐待を見落としにくくするといった機能も期待されている。

ここでは、Aiの現状と特性を再確認しつつ、社会基盤のひとつとしてAiを整備していくことの有用性・必要性について広く検討したい。

①Aiについての基本事項(山本 正二)

Ai(オートプシーイメージング=死亡時画像診断)とは、CTやMRI等の画像診断装置を用いて遺体を検査し、死因究明等に役立てる検査手法であり、死因情報について遺族や社会の納得および知る権利を具現化するために必要不可欠なものである。Aiは、死因究明だけでなく、小児医療の向上、児童虐待の防止、在宅医療等高齢者医療の向上、犯罪の見逃し防止、被災者の身元確認など様々な社会的課題への対応にも有効な方策として今後さらに多くに施設で実施されることになるだろう。

Aiは検査の実施と読影という大きく2つのパートに分かれる。検査の実施は検査装置に熟知した診療放射線技師に担ってもらわなければならない。読影に関しては、各施設での読影の他に、第三者機関による読影が今後社会的にも必要となる。そのために、Ai情報センターが設立された。Ai情報センターは公平校正中立的な第三者機関として2010年に設立された読影専門の機関である。読影参加者として、筑波メディカルセンターの塩谷先生を始めとして10名のAiについての優れた知識を持つ医師が登録されている。遺族からの依頼の他、各医療施設で起こった医療関連死のAiや、警察からの依頼、裁判所からの依頼などを受け付けている。Ai情報センターの特長は、透明性を高めるため、複数の医師が一つの報告書(鑑定書)を作成するシステムを取っている点にある。また、こういった業務が可能になっているのは、各施設からの、Ai情報および画像のdicom dataを圧縮転送するシステムを採用しているからである。HP: http://www.autopsyimaging.com/も参照にして欲しい。

②Aiと医療安全・医療の質(兼児 敏浩)

多くの施設で死後のCTを中心としたAiは施行されているが、医療安全・医療の質にもAiは重要な役割を担うようになってきた。医療の質の向上にかかる最大の貢献は死因推定の確度を高め、行われた医療の妥当性の検証を可能とすることである。医療の質の向上は医療安全の増進に直結する。その他、剖検前にAiを実施することは安全に解剖を行うことに繋がり、Ai画像は若手医師の教育にも有用である。さらに、院内急変事例がAiで死因が明らかになればコンフリクトに繋がりかねない事例におけるメディエーション機能を果たすことになる。一方、Ai症例の増加に伴い、いくつかの問題点も明らかになってきた。死後変化や心肺蘇生の影響も考慮しなければいけない読影上の問題や通常検査で用いる機器を遺体に使用することに対する倫理的問題などについては、事例の集積ともに解決されつつあるが、コスト面の問題のついては多くの指摘のある通りである。医療安全上の問題として、(1)Aiを実施することによってはじめて見つかった医療事故に対する対処方法が十分でないこと、(2)Aiは医療事故を隠蔽する隠れ蓑にもなりうること、の2点が明らかになってきた。ここでは、これらの問題点を具体的に示しつつ、解決法を検討したい。

③CTとMRIを使用したオートプシーイメージング ―救命救急センター、がんセンター、剖検センターでの経験― (塩谷 清司)

【救命救急センター】日本の救命救急病院の多くは、来院時心肺停止状態で搬送され心肺蘇生術を施行するも死亡した患者(=異状死)に対し、その死因を特定または推定するために死後CTを施行している。日本では、監察医制度が普及していないこと、反対にCTの設置台数が世界一であることから、監察医のいない地域でも死因を正確に診断しようとする、そして、‘解剖はしてほしくないが死因は知りたい’という遺族の気持ちに応えたい救命救急医が、苦肉の策として死後CTを利用してきた。それが、数多くの死後CT(推計年間2万件以上)が施行されているという現状を生んだ。当院でも、上記異状死の全例に死後CTを施行している。また、入院患者の突然死例や検死を目的とした警察依頼の遺体の死後CTも施行している。死後CTによる外傷性死のスクリーニングでは、そのほとんどの症例で致死的損傷を同定することができる。非外傷性死のスクリーニングでは、脳出血、くも膜下出血、大動脈解離、大動脈瘤破裂といった出血性病変が診断できる。全死因に占めるこれらの割合は3割前後なので、死後CTの死因確定率も同じ率になる。死因として最も多い(いわゆる)急性心不全は、死後CTで冠状動脈内血栓塞栓や虚血心筋といった直接死因を描出できない。そのため実際の救命救急の現場では、既往歴(狭心症、心筋梗塞など)、原病歴(突然の胸痛を訴えたのち倒れたなど)、検査所見(心電図上のST上昇、心室細動など)、死後CT上の間接所見(ポンプ失調による肺水腫、著しい心拡大や左室肥大、冠状動脈石灰化など)を総合的に判断して、虚血性心疾患と死体検案書に記載している。解剖して死因を確定することができないまでも、このような客観的な方法で他の死因を除外した上で虚血性心疾患と推定することは、外表だけを見て急性心不全と病名をつけること(実際は死因不明)と、質的には全く異なる。

【がんセンター、剖検センター】病理解剖、法医解剖の前にはできる限りCT、MRIを施行している。MRIはCTと比較してコントラスト分解能に優れるため、CTでは評価困難な死因(例:虚血心筋、脳幹梗塞、頚髄損傷、肺動脈血栓塞栓、肝損傷など)が検出できる。

④法医学におけるAiの役割 ―他分野との比較― (飯野 守男)

法医学分野とその他の分野のAiの相違点について述べながら,この分野におけるAiの役割を述べる。法医学分野で撮影対象となる遺体の多くが異状死体である。その中には事件性のある遺体も少なからず含まれる。遺体の特徴として,死後経過時間が比較的長く,しばしば腐敗を認め,中には,ミイラ化や白骨化したものもある。また,事件・事故等により多数の損傷を受けた遺体も含まれる。このような特殊性から,一般医療機関の診療用機器で撮影することは現実的ではなく,遺体専用機の普及が進んでいる。

撮影後に司法解剖を予定している鑑定事例では,全例が犯罪死(もしくはその疑い)であるため,遺体そのものが犯罪の証拠となる。そのため,撮影の際は必要以上に遺体に手を加えたりしないよう注意が必要であり,付随する物品(着衣,成傷器,カテーテルやチューブ類等)も,犯罪死体を調べる上では非常に重要な証拠であるため,原則これらは取り除かない。証拠を全て残すため,法医関連症例では頭頂から足先まで四肢を含めた全身撮影を原則とする。

読影に関しては,医療機関で一般的に行われるAiと異なり,高度腐敗や焼損事例など,臨床現場では遭遇することのない身元不明事例も多く存在する。また,読影には死因のみならず,法医学的な視点からの診断も要求されるため,あらかじめ,遺体の発見状況などの情報を得ておく必要がある。

法医学分野におけるAiの有用性は以下の2点に代表される。

  1. 損傷の記録:通常の解剖では切開しない部分の骨折や出血等を知ることができ,解剖での所見の見逃しを防止できる。また,解剖によって所見が変わる病態(頭蓋骨粉砕骨折など)を記録することにもなる。
  2. 個人識別:焼死体や白骨死体など,身元不明の遺体では性別や年齢が問題となるが,そのような症例の多くは,内性器の特徴や,血管・骨の加齢変化,さらには骨の人類学的特徴から,Aiによって診断可能である。また,体内の手術材料も容易に同定可能である。その有用性は震災や航空機事故等の大規模災害・事故において特に威力が発揮され,演者が実際に経験した大規模火災(2009年,オーストラリアの山火事,犠牲者数173)においては死後画像診断が個人識別に多大な貢献をした。

⑤Aiのこれから(長谷川 剛)

Aiについて、多くの知見を有する演者の講演を受けて、総括的な話をする予定である。その前提としての命題を提示しておく。(死因不明社会2「なぜAiが必要なのか」講談社ブルーバックスより)命題1:Aiは現場のニーズからは必然のものである命題2:Aiの実施は、文化的・社会的な死の観念・慣習との軋轢を生じうる命題3:Aiは犯罪死の見逃し防止や児童虐待発見に有効である命題4:犯罪発見目的のAiは、検査主体と被験者家族の間で軋轢を生む可能性がある命題5:遺族の納得と死因が明確であることは必ずしも一致しない命題6:Aiは公の死因究明制度の検討の場でもほぼ認められている命題7:Aiはその可能性ゆえに既得権益をめぐる闘争を引き起こす命題11:Aiは対話を促進する命題12:Aiは前向き責任追及の環境で真価を発揮するシンポジウムではこれらのAiに関する命題とからめてこれからのAiについての展望を含めて総括的な話題を提供する予定である。

シンポジウムは学会初日の朝10時開始、しかも3連休の初日で天候は冷たい雨という人が集まるか否かという点では最悪の条件ではあったが、496名収容可能な会場に開始時こそ3割程度であったが終了時には7割以上の聴衆が集まり、“興行”としても成功であったと考える。

兼児、長谷川先生の挨拶の後、山本先生、兼児、塩谷先生、飯野先生、長谷川先生に御講演をいただき、長谷川先生の御講演の後半からそのまま質疑応答に移行した。北海道大学病院の安全管理者である南須原氏から、診療関連死でAiを行った場合、Aiで有意な所見がなかったときの取り扱いが問題であるというコメントがあったが、医療安全の視点からもAiは有用であるが、発展途上でもあることを再認識した質疑応答となった。また、聴衆の7割以上を占めた看護師にとって、法医学の分野の話を聴く経験はほとんど初めてであり、飯野先生の御講演に関して「衝撃的な写真、印象的なお話」という声が聞かれた。

「Aiについて多くの医療関係者に広く知ってもらいたい」というシンポジウムのミッションはその取り掛かりになるという点においては達成できたと考える。

小生はAi学会の理事であり、また、自施設ではAiセンターの副センター長でありながらAiをオーダーする立場でも読影する立場でもなく、Ai学会の中では異色の存在である。しかし、小生が帰属するこの集団は医療関係者の中では最もメジャーであることは紛れもない事実であり、この集団にAiについて認知・理解を深めてもらうことが小生のミッションであると考えている。この医療の質・安全学会でAi関連のシンポジウムを開催するのはやや無謀かとも思われたが、全体としても成功裏に終わったと考える。今後とも多くの職種が参加する学際的な学会でAiについて正確かつ最新の知見を広げていくような活動を行っていきたいと考えている。

最後に本シンポジウムに御協力を頂き、成功裏に導いていただいた、長谷川剛先生、山本正二先生、塩谷清司先生、飯野守男先生に厚くお礼を申し上げ、開催記とさせていだきたい。

2012年12月6日