平成24年度Ai学術シンポジウム「児童虐待の見逃し防止に果たすAiの役割」感想

平成二十四年度Ai学術シンポジウムが七月一日,日医会館大講堂で開催されました。本シンポジウムは,日医,日本医学放射線学会,日本小児科学会,日本救急医学会,オートプシー・イメージング(Ai)学会,日本警察医会,日本診療放射線技師会の七団体の共催で行われたもので、200名近くの方が参加しました。今回のシンポジウムは、日本医師会会長選挙等があった関係で、アナウンスも6月になってからと、かなりばたばたしていましたが、Aiと児童虐待に関する関心の高さが予想以上にあるようで、これだけの参加者が集まる結果となりました。

冒頭のあいさつで横倉義武会長(羽生田俊副会長代読)は,「死亡時画像診断(Ai=Autopsy Imaging)の有用性については,医学的にも社会的にも有効な知見が集積されつつあり活用が期待されている。その中でも,昨今重要な社会問題の一つである児童虐待に関しては,Aiの活用により虐待の事実を明らかにすることで虐待行為を未然に防ぎ,虐待のない社会を作るための一つの方法として重要な役割を果たすものと考える」と、Aiへの期待を述べられました。引き続き、藤田一枝厚生労働大臣政務官(宮本哲也厚労省医政局総務課医療安全推進室長代読)からもあいさつがありました。医師会としてもAiに前向きに取り組み、そのことを厚生労働省も理解しているという流れですね(と私は思います)。宮本室長は、Aiに関して理解している方で、前回、今回とも最後まで、シンポジウムに参加していただきました。

第一部では,高杉敬久常任理事が進行を務め,六名の演者が講演を行いました(プログラム参照)。

郷原信郎氏(関西大学特任教授・弁護士・総務省顧問,同省コンプライアンス室長)は司法の立場から、「児童虐待死」を犯罪として立件することの困難性を示し、Aiが死因究明にもたらす効果は「死因究明の客観化」であり,児童虐待問題と刑事司法との不適合の緩和に役立つという内容の講演でした。海堂氏と以前にも対談をしており、Aiに関する理解が深い方でした。

相田典子氏(神奈川県立こども医療センター)は,児童虐待に関連する画像の読影には小児解剖・疾患、虐待診断の知識が必須であるが,現在,読影が出来る医師はごく少数であるとして,Ai読影医育成の重要性を訴えていました。現状では読影医不足は、致し方ないところで、それを補うのがAi情報センターなどの読影中央集中システムではないかと(笑)。生体読影で手一杯の先生には負担をかけないようなシステムを作らないといけませんね。

小熊栄二氏(埼玉県立小児医療センター)は、虐待の画像診断を行うことで、行政介入の根拠となる重要証拠の確保や育児支援の契機になるだろう、更に「小児の死亡全例にAiを行えば,体制が整っていない医療施設で見逃される虐待例の発見や、虐待の抑制につながるため、大きな意味がある」と述べていました。

金子一成氏(関西医科大学小児科)は,同医科大学病院で行われている児童虐待対策として、「児童虐待等対策委員会」の活動を示し、そこで使われている「児童虐待チェックシート」を紹介してくださいました。医師個人ではなく施設全体で虐待事例に対応することの重要性を述べています。現場の小児科の先生の意見を直接聞くことが出来、今後の参考になりました。

宮本医療安全推進室長は,現在行われている厚労省での虐待防止への活動を紹介、また,Aiの普及に関しては,平成二十四年度予算に,「死亡時画像診断システム整備事業」「死亡時画像読影技術等向上研修」などを盛り込み,その推進に取り組んでいることを示してくださいました。今後も引き続き、Ai予算確保よろしくお願いしますm(__)m

私こと山本(Ai学会)は,Ai情報センターで行われている活動を紹介し,「今後は,虐待防止につなげるためにも,小児死亡時のAi全例実施と情報の集約化・管理が必要である」と述べ,その実現には各施設でのAi情報の開示が必要と話しました。

第二部では,今村聡副会長が座長を務め,第一部の演者に、木ノ元直樹氏(弁護士)、溝口史剛氏(群馬県済生会前橋病院)を加えた八名で総合討論を行いました。

討論の中では、Ai読影の責任や読影可能な範囲を明確にして、厚労省等で開催される検討会の中で主張していく必要があることなどが確認されました。フロアからも質問がありましたが、以前のようにAiに懐疑的で本当に行う必要があるのかという質問はなく、いずれも実際にAiを行う上での現実的な問題についてのものが多かったのが印象的でした。

最後に、高杉常任理事が六月に国会で可決成立して間もない死因究明関連二法案にも触れつつシンポジウムの議論を総括し、閉会となりました。
やはり、日本医師会が主催としてシンポジウムを開催することの意義、社会的な波及効果を痛感しました。今後も連携を強めていけなければなりませんね。