10.  各消防機関の総括
 A. ドクターヘリ試行的事業に参画して           大磯町消防本部
 B. ドクターヘリの感想                     御殿場・小山広域消防組合消防本部
 C. 海老名市におけるドクターヘリコプター搬送報告書  海老名市消防本部
 D. ドクターヘリ試行的事業について            二宮町消防本部
 E. 伊東市で発生した減圧症患者の輸送に有効なドクターヘリについて 伊東市消防本部
 F. ドクターヘリの効果、今後の課題            湯河原町消防本部
 G. 新たな救命の可能性「ドクターヘリ」          藤沢市消防本部
 H. 東海大ドクターヘリ試行的事業報告書         小田原市消防本部
 I. 東海大学ドクターヘリ試行的事業を顧みて       秦野市消防本部
 J. ドクターヘリ試行的事業についての取り組み     足柄消防組合消防本部
 K. ドクタ−ヘリの試行的事業について          箱根町消防本部
 L. 東海大ドクターヘリ試行的事業を終えて        厚木市消防本部
 M. 東海大ドクターヘリ試行的事業報告書        上野原町消防本部
 N. ドクターヘリコプター試行的事業のまとめ       愛川町消防本部・署

11. 今後の問題点
 A.臨時ヘリポート
 B.情報交換
 C.医療機器、備品等
 D.ヘリの定員
 E.ヘリの稼動時間、天候の影響

12. 結語
 執筆者一覧(順不同)
A. ドクターヘリ試行的事業に参画して  大磯町消防本部
 東海大学病院でドクターヘリ試行的事業が実施された平成11年10月からの1年6ヶ月で当町においては、2回のシミュレーション実施と13件のドクターヘリ出動要請をお願いたしました。 13件のうち6件が直送、7件が転院搬送でしたが、転院搬送では搬送元の病院に着いてから消防隊にヘリポート確認要請を行うため、病院に待機する時間が長くなり医師に搬送を催促されることもしばしばありました。消防署としては、シミュレーション以外にも毎月消防隊と合同でドクターヘリ想定訓練を実施し、問題点についてミーティング等で検討を行い、また、家人への配慮としてインフォームドコンセントについて考え、ドクターヘリ要請時、患者の救命を第一優先とし、救急隊・消防隊が円滑に活動できるよう検討してまいりました。ドクターヘリ試行的事業が実施されたことに伴い、消防隊用にドクターヘリ支援出動報告書の様式を新たに作成し、これを活動記録として消防業務の中にドクターヘリ支援出動の位置付けを確立しました。ドクターヘリを要請した場合、早期に高度な専門医療が受けられるため、患者の予後が良くなる事も検証されています。また当町では、東海大学病院救命救急センターに搬送した場合、往復約1時間30分の時間を要するため、その間に高度救命処置を必要とする救急要請がありますと、その患者は高度救命処置が受けられない可能性が出てきます。ドクターヘリを要請すると、高規格救急車を長時間管外へ出動させなくて済むため、消防署・町民の双方に大きなメリットとなると考えられます。ドクターヘリを運用するにあたり、幾つかの問題点がありましたので、ここにその一部を提議します。
1) 医師と救急患者の引継ぎ方法
2) 使用した資器材の回収方法
3) 救急患者に家族が付き添えないため家族の不安感
4) 臨時ヘリポートの確保
5) 消防隊出動時の臨時ヘリポートの確認
以上のように様々な問題点もありましたが、それ以上に重症患者の社会復帰率が上昇する事が大切であると考えます。今回の東海大学病院におけるドクターヘリ試行的事業が様々な方面から検証され、より一層ハイパーされたドクターヘリを希望しますとともに、今後、神奈川県でのドクターヘリ運用事業を始めとし、ドクターヘリ事業が国や各都道府県の支援を受け全国的な事業となって行くことを期待します。

B. ドクターヘリの感想  御殿場・小山広域消防組合消防本部
*取り組み
 当消防本部としては、東海大ドクターヘリ試行事業の要請により、ヘリポート5箇所を選定及び依頼、関係機関との調整、救急隊員救助隊員・消防隊員の教育訓練等を実施する。
*効果
当消防本部の利用は11件、(内1件は天候不順により離陸できず。)交通4件、労災2件、一般1件、急病1件、転院搬送3件死亡者1人、重症者6人、中症者4人
御殿場市近郊には、三次救命救急センターが無いので、ドクターヘリを利用することにより、短時間で三次救命救急センターに搬送でき、管内に三次救命救急センターが在るような状況になり傷病者の救命・予後の軽減化が図れた。ホットラインにドクターヘリを要請した際対応が早く、スムーズに活動できた。
* 問題点・今後の課題
1) ヘリポートの選定については、ほとんどが専用ヘリポートでなく、グランドや駐車場なので実際に現地に行って使用可能か、人や車の排除が可能かを見極めてから東海大へ連絡をしなければいけないので時間経過を考えると専用ヘリポートが望ましい。(専用ヘリポートだと人・車の排除等がいらない)
2)夜間もヘリポートを指定しての運行は出来ないか?(例えば東名沿いを飛行し足柄S Aに着陸できないか?)
3)ドクターヘリが再開されるなら、ヘリポートの増設を検討したい。ヘリコプターと救急車との無線交信が出来れば、現場・傷病者の情報等を詳細に送れると思う。
4)傷病者をヘリコプターに乗せる際の、ストレッチャーの規格を統一していただきたい。
5)傷病者に、固定具などを装着した場合はそのまま搬送されてしまうので、予備の固定具が無い場合、処置できない状況が発生してしまう。
6)家族等が、一緒に乗れないため家族が病院に到着するのに時間がかかってしまう。
7)中規模の災害が発生した場合、現場にドクターヘリが出動しトリアージ・処置等を、実施していただきたい。(例として、東名高速道路上で発生したバス事故などの場合)
8)ドクターヘリに、現場(状況がイメージ出来る)がわかる救命士などの消防職員を乗せることにより、アドバイスが出来る事もあるので、ヘリコプターに乗せて出動してもらいたい。

C. 海老名市におけるドクターヘリコプター搬送報告書  海老名市消防本部
1) はじめに
 海老名市の救急体制の現状は、高規格救急車4台(予備車含む)で本署と北分署、南分署に配備し、救急救命士14名で常時1名以上の救急救命士を乗車させ、増加する救急需要に対応している。平成12年における海老名市の救急出動件数は3,916件であり、搬送先医療機関は市内医療機関に搬送が86%と大勢を占めている。三次医療機関は、東海大学病院救命救急センターと北里大学病院救命救急センターがあり、ともに緊急走行で20分前後の時間を要す。
2) ドクターヘリコプター(以下、ドクターヘリ)運用体制の検証
(ア) 臨時ヘリポートの検証
当初、市内3ヶ所に臨時ヘリポートを設置する。本署管内と北分署管内、南分署管内それぞれの公立中小学校1ヶ所を指定した。このことにより、平日は子供たちが授業中であり、騒音やヘリコプターへの興味などで集中力を欠くことがあったかに思われる。しかし、ドクターヘリや救急車、傷病者を目の前にし、一つの生命を救うことの大切さ、生命の貴さを考える機会になったのではないかとの思いもある。土、日曜日になると地元の少年野球、サッカーチームの練習や試合の場所となり、臨時ヘリポートの空地を確保するのには非常に苦労させられた。また、運動会などの学校行事にも対処しなければならないなどの問題も発生してきた。これらの諸問題から、第4の臨時ヘリポートを南分署内の訓練場の空地を整備し、シミュレーションを実施し設置に至っている。今後の課題としては、本署、北分署管内に上記の問題をクリアした臨時ヘリポートの設置が望まれる。
(イ) 救急隊と消防隊、通信指令室の連携
救急隊からのドクターヘリ要請が通信指令室に入ると、通信指令室担当員は臨時ヘリポート使用許可を得るために学校関係者に連絡、同時にドクターヘリ救急支援出場指令をする。指令を受け消防隊はポンプ車とタンク車で臨時ヘリポートに出場する。臨時ヘリポート到着後、安全の確保のため一般市民の避難誘導ならびに飛散物の除去作業と同時にタンク車にて校庭内に散水を行う。ドクターヘリ救急支援出場は21件(2件はヘリ対応できず)であり、ドクターヘリが離着陸した全てのケースで避難誘導ならびに散水を完了していた。今回ドクターヘリ運用に参加したことにより、通信指令室、救急隊、消防隊が連携し業務遂行にあたったことは、救急が消防全体の業務として機能し、職員が救急業務を再考したという点で消防全体の活性化につながったといえる。
3) ドクターヘリ搬送症例の検証
ドクターヘリ搬送症例は19件であり、救急現場からの直送が18例で転院搬送が1例であった。年齢は1歳から92歳までと幅広く、平均年齢は43歳と若年層の搬送が目立った。搬送患者は外因性疾患による搬送が17例、内因性疾患によるものが2例と圧倒的に外因性疾患の搬送が多く認められた。事故種別は交通事故が6例、一般負傷3例、労災事故3例、自損行為2例、急病2例、運動競技、火災、転院搬送が1例という結果がでた。海老名市における救急医療機関の特徴として、24時間対応の脳血管センターと循環器センターが併設された二次病院が存在するため、三次病院で対応する内因性疾患の多くを占める脳血管障害や循環器疾患の対応が、市内二次病院に搬送可能であることが、ドクターヘリ搬送症例で外因性疾患が多数を占めた要因と考えられる。年齢の若年化は、外因性疾患である交通事故や労災事故例が多いためと思われる。特殊病態にあっては、52歳の意識障害を伴う熱中症(重症)、自損行為による75歳女性の腹部刺創(中等症)、火災により受傷した41歳男性の気道熱傷(重症)が挙げられる。
傷病程度別からは、死亡2例、重症8例、中等症7例、軽症2例となっている。外傷患者に関しては、受傷機転などを考慮に入れてのオーバートリアージの概念もあるが、救急隊員における緊急度、重傷度のトリアージの大切さを痛感する。ドクターヘリ要請の判断をした1年半は救急隊員にとって貴重な経験となったと同時に、今後の救急業務に必ずや生かされると確信するものである。ドクターヘリ搬送の19症例と平成12年東海大学病院救命救急センター搬送の173症例を比較検討した。救命救急センター搬送の覚知から病着までの所要時間は平均39分、搬送時間は18分であり、ドクターヘリ搬送の覚知から臨時ヘリポートまでは平均30分、搬送時間は8分であった。覚知から病着までで9分、搬送時間で10分の時間短縮が見られた。救急車による陸路搬送は、救急車の防振ベッドの開発等である程度の振動は抑えられてはいるが、患者の負担はまだ大きい。また、市外の病院から帰署する時間帯は救急隊が1隊減になり、中小の消防本部にとっては課題となっている。これらの問題をドクターヘリが解消してくれたといえる。
ドクターヘリには救急医や看護婦のチームが搭乗し、高度医療資機材も搭載されており、ただちに高度救命医療がはじめられる体制となっている。いわば救命救急センターが市内に配置されたのと同等の意味を持つものと考える。
ドクターヘリには救急医や看護婦のチームが搭乗し、高度医療資機材も搭載されており、ただちに高度救命医療がはじめられる体制となっている。いわば救命救急センターが市内に配置されたのと同等の意味を持つものと考える。

D、ドクターヘリ試行的事業に就いて  二宮町消防本部
二宮町消防本部では平成11年10月より、運用が開始されたドクターヘリ試行的事業に関して、『3次病院対応と思われる重症患者に対し、医師との早期接触により、より早く高度な医療を提供できるもの』と位置づけ運用してきました。当町管内において、試行運用期間中の3次病院対応の救急出動件数(ドクターヘリ運用時間内)は39件であり、その内ドクターヘリ要請した件数は11件(28%)でした。
★ドクターヘリへの取り組みとして、下記の事項を念頭に行ってきました。
@ドクターヘリ運用マニュアルの作成
Aヘリポート確保の為、協力体制の構築
B消防隊・救急隊との連携
Cヘリポート周辺住民に対する協力依頼及び広報
D救命処置等、救急隊員の質の向上
当町では『ドクターヘリ要請した救急出動の場合』現場出発からヘリポート着まで、平均して約6.8分でした。救急車により東海大学救命救急センターへ搬送した場合、現場出発から病院着まで平均約20分かかり、治療開始が13分短縮された事になります。この13分は、患者にとって予後を大きく左右するものであり、重症患者及び緊急度の高い患者の場合、早い段階での医師への引き継ぎにより「治療開始時間の短縮」が、如何に重要で効果が大きいか件数が少ない中においても十分感じ取れました。当町では、臨時ヘリポートは町民運動場の1ヶ所ですが、救急隊の判断によりドクターヘリ要請を指令室が受け、関係機関に連絡し、臨時ヘリポート使用許可の承諾後、ドクターヘリを要請します。その間、救急隊は、現場で待機せざるおえなく、承諾を得た時点で、救急隊、消防隊(支援)がヘリポートへ向かいます。消防隊は、臨時ヘリポートが土のグランドであることから、ヘリの離発着時にかなりの砂埃が舞い上がるので、周辺住民に対する広報及びグランドへの散水などの支援活動を行います。そのため、ヘリが上空に到着していても着陸できない事もありました。今後、連絡の運用方法の改善を図ることにより、更なる時間の短縮は可能かと思われます。
ドクターヘリ試行運用期間に、当町の住民の方がホームページに『写真』等で紹介してくださっており、住民の関心度もかなり高く感じられました。また、救急隊員も医師の救急車内での迅速かつ的確な判断、処置を目の当りにし、ベテラン隊員から若い救急隊員まで、救急への意識の向上、研鑚を十分再確認したと思います。そして、救急現場のマンパワー不足を補うため、消防隊による支援活動の必要性を感じ、消防署全体の活性化にもつながったと言えるでしょう。指令室、消防隊、救急隊の連係等の課題点は多少なりともありますが、『搬送時間の短縮』『患者の早期治療』には、十分効果を上げていると確信しています。「助かる命を助けられる手段」として、ドクターヘリが試行的事業に終わらないことを強く希望します。ドクターヘリ試行的事業に係わりました東海大学救命センター長を始め、医師の皆様方及び湘南救急活動協議会の方々には、大変ご尽力を頂きまして有り難う御座いました。
★当町在住の高木氏に許可を頂きましたので、ドクターヘリと二宮消防署の連携の写真を添付させて頂きます。

E. 伊東市で発生した減圧症患者の輸送に有効なドクターヘリについて 伊東市消防本部
 伊豆半島の東海岸にある伊東市は、スキューバダイビングが盛んです。北の宇佐美地区から南の赤沢地区にわたり、伊東市の海岸線の端から端までにダイビングショップ、ダイビングエリアがあり、年間を通し約15万人のスポーツダイバーが訪れます。伊東市には、ダイバーズ協議会が設けられ、救出等緊急対処の訓練や潜水病の講話など東海大学病院の先生にお願いして、定期的に講習会を開き事故防止に努めています。また、事故発生時の対処等フローチャートも作成、特に潜水病については事故者用のチェックシートで、救急隊や医療機関に詳しい情報を提供していただいています。しかし、スキューバダイビング中の病気やケガ、溺水、減圧症状の出動要請は、年間十数件あります。特に減圧症で高圧酸素療法が必要な傷病者は、当市から道のり70km以上も離れた東海大学病院への搬送となります。ドクターヘリの試行的事業の開始される2ヵ月前の1999年8月21日、当市で水難事故が発生いたしました。事故は10時46分、ダイビング中にダイバーが急浮上、その後意識を消失し救急要請、10時53分現場着すると関係者がCPRを実施していました。10時59分CPRを継続し車内収容、モニターを装着するとVf波形がみられました。救急隊は、CPRを継続し車内収容、11時23分市内医療機関へ搬送しました。院内で除細動を9回放電したが依然Vf波形であり、県防災ヘリを要請し医師同乗で近隣の第三次医療機関へ輸送し、12時59分心拍は回復しました。意識レベル300で減圧症の疑いのため、県防災ヘリを再要請し、東海大学病院へ輸送したと聞いております。覚知から第三次医療機関まで2時間13分、さらに東海大学病院の高圧酸素療法を受けるまで、3時間以上が経過したと思われます。1999年10月からドクターヘリの試行的事業が開始され、伊東市では6人の減圧症患者をドクターヘリで輸送しました。要請してから30分以内にドクターの初期治療が開始され、高圧酸素療法も1時間以内に受けられ、低空飛行で患者に身体的負担も少ないため、ドクターヘリは非常に有効な輸送手段と思われます。
伊東市の減圧症患者のほとんどがスポーツダイバーで、発症は好天候の日が多く、運航時間の制限は概ねクリアされています。また、東海大学病院救命救急センターは、広範囲の重症熱傷や気管、食道異物、特殊疾患の受入れも容易です。当市においては、ドクターヘリ試行的事業での受入れ体制が、減圧症及び重症熱傷が原則でした。ドクターヘリの維持管理は莫大な経費が必要と思われます。財源の問題や地域の特性に応じた運航体制のあり方などの問題は、今後更に具体的な検討が必要と思われますが、当市においては、早期に重症疾患の受入れ体制が出来るドクターヘリ事業が復活出来ますことを希望します。

F. ドクターヘリの効果、今後の課題 − 湯河原町消防本部
平成11年10月から東海大学病院ドクターヘリ試行的運用が開始され、特に当町においては、重症患者に対する初期治療開始までの時間が短縮され、また救急出場件数が増加している昨今、いち早く患者を医師の管理下に委ねられ、次の出場にスタンバイできることは救急車の少ない当町では、大きな利点であった。 運用の実績は各方面から高い評価を受け、又マスコミ各社から取材等があり、救急医療システムの高度化を認識しつつ運用が軌道に乗って来た矢先、誠に残念なことに、打ち切りになってしまった。近い将来運用されることを信じ、当消防本部、署としての取り組み、問題点、今後の課題等を考慮してみた。まず、ドクターヘリと救急隊員との通信手段についてですが、傷病者を3次対応と判断した場合、ドクターヘリ要請時と、ドクターヘリへの引渡し時とでは、容体変化が少なからずある。傷病者の容態連絡、緊急連絡などを実施する際の通信手段がないので、今後ドクターヘリに消防無線の積載、携帯電話の使用等、通信手段の確保について、検討する必要があると考える。次に夜間飛行について考察してみると、昼夜を問わず発生する救急事象に対し、今後夜間においても運行される体制づくりを検討する必要がある。この場合、離着陸場の夜間照明施設の整備等支援方法も検討しておく必要がある。安全対策を第一とした上で条件さえそろえば、決して夜間飛行も可能になるのではないでしょうか。又、傷病者、関係者に対し、ドクターヘリ搭乗時の留意点、事故時の補償、基本的事項を、インフォームドコンセントの観点から把握してもらうためにも、救急隊員教育を充実させ、さらなる連携を強化させていかなければならないと思います。消防部内においても、ドクターヘリの効果と救急隊員の知識、技術の向上の必要性、判断の重要性を再認識し、今後のドクターヘリ本格導入に向け、ハード面、ソフト面の諸条件を整備、改善する必要があると思います。

G. 新たな救命の可能性「ドクターヘリ」 − 藤沢市消防本部
 生命の危機が切迫している傷病者等を救命し及び後遺症を減少させるためには、ALS開始までの時間短縮が最も効果的であり、不可欠である。また、この問題は救急関係者にとって、かねてよりの課題となっていた。この課題の解決へ向けて一挙に飛躍させるべく、1999年10月よりドクターヘリの試行的事業が開始された。東海大学救命救急センター及び湘南救急活動研究協議会を機軸として、やや足早に展開されたこの事業に関する本市の救急事務執行状況と今後の展望について述べる。
<取り組み>
 藤沢市としての取り組みは救急隊・消防隊・指令課との総合的な出動体制の構築、離発着場の選定、さらに、市民への広報、協力要請に主眼をおいた。1999年10月に県営、市営のスポーツ施設等5カ所の臨時離発着場を指定した。また、2000年4月には、ドクターヘリとの連携を強化し時間効果を最大限に発揮して、地域住民により迅速に高度な救急サービスを提供するため、市内小中学校グランド11カ所を追加指定、全16カ所とし市内全域に離発着場を均等配置して事業の効果的な推進を図った。また、新聞各紙、ケーブルTV等マスメディアを活用、「ドクターヘリ事業」を幅広く周知するとともに、離発着場におけるトラブル防止の為、市民の理解を求め認識を高めた。
<活動状況>
 1999年11月、12月にドクターヘリの要請要領・情報伝達方法・搬入要領及び、搭乗ドクターによるオリエンテーション等のシミュレーションが実施され、2000年1月には最初のドクターヘリ要請が行われた。1年6ヶ月の試行期間で合計11件の運用があり、その内訳は、交通事故による多発外傷4件、労災事故2件、一般負傷2件、加害1件、転院1件、火災1件(熱傷)であった。救急隊の現場到着からヘリ要請までの平均時間は約8分で、現場から臨時離発着場への平均搬送時間5分36秒、最長は10分、最短は3分となっている。
搬送風景
<効果>
 通常、救急車による東海大救命救急センターへの搬送時間は南消防署管内では30〜40分前後、北消防署管内では25分程であるが、ドクターヘリを活用することにより救急現場から平均5分30秒で救命救急センタードクターへ引き継がれ、医療行為が開始され12〜13分後には救命救急センターに到着している。このように緊急を要する傷病者に対して適切、有効な高度救急医療を早期に開始できるという意味から効果、有効性は多大であると認められる。救急関係者にとって今回のドクターヘリ事業の試みは、今まで行われてきた救急業務の変革とは異なった意味を持つものである。現在まで、主に消防サイドのみが取り組んできた治療開始までの時間短縮という重要課題に対して、ドクターが救急現場に出向き、病院から出て現場に近づいたという事が革新的であり、医師が救急現場により近づくきっかけとなったという意味からも大きな出来事である。また、何よりも救急業務を預かる者にとって、ドクターヘリのバックアップがあるということが何よりも心強く感じられた事も確かなことである。
<課題と対策>
・今後の課題
1 要請判断の正確性の向上、迅速化。
2 効率的、効果的な活用の意味からヘリ同乗医師との迅速、正確な情報交換手段の必要性。
3 救急現場への救命救急センター医師の出動、現場医療行為の実施。
・対策
1 救急隊員の知識・技術の向上や、ドクター・隊員等間のコミュニケーションの促進。
2 救急車とドクターヘリ間の通信手段の開発、導入。
3 救命率の一層の向上、早期ALSの開始の意味からも早期のシステム化が必要である。
<おわりに>
 前述のとおり市民、さらに、全国の救急傷病者の救命効果を向上させるうえにおいてドクターヘリ事業の効果が非常に高いものであることが認められる。この1年6ヶ月の知識、経験を活かし今後においても、その必要性、有効性等をあらゆる機会を通じて訴えていくことが、全国でも数少ないこの事業に携わることが出来た我々消防本部の使命と思っている。

H. 東海大ドクターヘリ試行的事業報告書 − 小田原市消防本部
 当市は、神奈川県の西部に位置し温暖な気候と四季折々の魅力ある自然環境に恵まれたところです。また、交通の要衝として鉄道5社が乗り入れ、県外からも多くの観光客が訪れ、首都圏への通勤、通学者などの多くの人々がこの地を利用し生活を営んでいます。約20万人の市民を災害から守るため消防職員213名で日夜、消防の任務に努力しているところです。当市の救急体制は救急車6台(非常用車両1台)、二交代で運用をし、平成12年の出動件数7,283件、搬送人員6,956人となっており、救急件数では、毎年約300件増加していることから救急需要は、今後、益々増加の傾向にあると思われます。市内には11の救急告示病院があり市民の救急対応にとどまらず隣接市町からの患者の対応にも御尽力いただいている状況であります。しかし、市民のライフスタイルが変わって救急事故事案も多種多様となり、一次や二次の医療機関で処置できない高度の医療を必要とする患者が多くなっているのが現状であります。ここ数年の三次医療機関に搬送している患者を検証してみますと、交通外傷を始め自損行為(急性薬物中毒等)、潜水病、心疾患、脳疾患等多岐にわたっている現状を見ますと、質の高い行政サービスを提供するには三次医療機関の役割が特に重要となってまいります。また、「三次医療機関に素早く搬送していれば社会復帰できたのでは?」との声を聞くこともあります。そういった中、ドクターヘリの試行的事業が1999年9月に当時の厚生省から民間ヘリを活用した救急ヘリ試行的事業・実施要領の発表がなされました。救急ヘリは、ヨーロッパで進んでおり特にドイツは先進的であり、その方式を参考にするとのニュースに、驚きを感じたものでした。更に岡山県の川崎医科大学付属病院と神奈川県の東海大学付属病院救命救急センターとで実施されるとの報道に期待と不安がいりまじったものでした。事業開始に先立ち、当市が特に重視したのは、臨時ヘリポートの指定及びヘリの離着陸時の安全管理問題でした。ヘリポートについては、砂塵問題や騒音問題が一番のネックになることから、周辺住民にどう説明し理解を得るかが重要課題でしたが、ドクターヘリの重要性を理解していただき、自治会などの承諾を得ることができました。また、支援消防部隊の運用については、以前から川崎市消防局のご協力によりヘリ誘導訓練を行っていた経緯もあり安全管理対策についてはスムーズに対応することができました。しかし、外国の事故事例も何件か報告されていることから、今後の安全管理体制には万全を期したいと思うところであります。また、ヘリの運行会社との訓練も十分に行い疑問点や問題点の洗い出しもでき、試行できる体制を整えることができました。実際に試行をしてみて、医師や看護婦(士)が同乗して来るわけですから、患者をヘリポートで医師に引き渡した時点で高度な医療がただちに受けられるという点で行政として大変喜ばしいかぎりでした。今後の課題とすれば、救急隊長の判断によりドクターヘリを要請していますが、判断基準の統一が必要と考えられます。当市においては、一応の判断基準はありますが、基本的には隊長個人の判断となり、統一的な運用が図れるような基準を整備する必要があると思います。例えばヨーロッパのように、救急要請の内容ごとの判断基準を示されればもっとスムーズに運用されると思います。また、三次医療機関への搬送も全県的な対応が良いのかと思います。例えば、東海大学付属病院救命救急センターが満床で、患者収容が不可能な場合、他の三次医療機関とのリンクも考えていただければより効果的に運用ができるものと考えます。今後、高度な救急医療体制を構築する上からもドクターヘリの本格的導入は不可欠ではないかと思います。私たち消防行政に携わる者として、地域特性や住民のニーズを敏感に察知し、今後も病院と連携を密にして救急業務の更なる発展・向上に力を注いでまいりたいと思っているところです。

I. 東海大学ドクターヘリ試行的事業を顧みて ― 秦野市消防本部
 東海大学ドクターヘリ試行的事業の実施期間中(平成11年10月1日から平成13年3月31日までの1年6ヶ月)における、秦野市消防本部救急隊のドクターヘリ運用状況について報告します。秦野市は、神奈川県央の西部に位置し、面積103.61平方キロメートルで、北方には神奈川県の屋根、丹沢連峰が控え、南方には渋沢丘陵と呼ばれる大地が東西に走っている県下唯一の盆地になっています。人口は68,334人(平成13年1月1日現在)で年々増加しており、「緑豊かな暮らしよい都市」を目指して発展しています。こうした中、当市における昨年1年間の救急出動状況は、総出場件数5,180件、搬送件数4,873件で、救急事故種別では急病が最も多く2,691件で全体の妬く55%を占め、以下、交通事故、一般負傷等の順となっています。この救急搬送患者の搬送先医療機関としては、市内医療機関が2,877人で全搬送患者の59%、市外医療機関が1,997人で41%となっており、比較的市外医療機関への搬送件数が多い状況にあります。今回のドクターヘリ試行的事業を運用するにあたり、まず、臨時ヘリポートについて地域性等から学校の校庭等7ヶ所を設定し、そのうち救急隊の配置状況や東海大学病院救命救急センターの方位、ヘリポート周辺住民等の環境、ヘリコプターの安全な離着陸の確保並びに消防隊による整備の利便性等を考慮して市の中心部に位置する某工場のグランドを関係者の理解と協力を得てメイン臨時ヘリポートとして選定し「ドクターヘリ運用マニュアル」を策定、シミュレーションを実施後の平成11年12月から運用を開始しました。この臨時ヘリポートの位置は、東海大学病院救命救急センターから直線距離が約11kmで、この間を救急車で搬送すると、20分から25分程度時間を要すところですが、ドクターヘリの場合、要請から約10分程度で到着できる位置にあります。ドクターヘリ運用開始当初は、当市が東海大学病院救命救急センターと比較的近距離にあることから、その効果について疑心暗鬼なところもありましたが運用を重ねていくうちに救命救急センターと救急隊との連携もスムーズになり、ドクターヘリ運用によって重症患者に対する医師(医療機関)による初期治療の開始が10分から15分間も短縮できるという現実から特に、生命危険が切迫している重症患者に対しては、救命とその予後に大きな効果が期待できるとの確信のもとに、全救急隊員(実動4隊)が積極的に運用をさせていただきました。試行期間中におけるドクターヘリによる東海大学病院救命救急センターの総搬送件数は485件でありましたが、このうち当市の搬送数は95件で全体の19.6%と、運用した各消防本部の中では最多件数となりました。ドクターヘリによる搬送患者の事故種別では、急病によるものが63件(66.3%)と最も多く、次いで交通、労災等による傷病者でした。急病では最も多かったのが心疾患で33件、次いで多かったのが脳疾患で24件であり、また、心肺停止状態にあった患者は19件となっています。このドクターヘリ試行的事業における効果については、東海大学病院救命救急センターにより、その効果が現実のものとして数値で示されたことからも、ドクターヘリ事業の必要性、重要性を再認識したところであります。当市の運用事例の中に「ドクターヘリ搬送によるクモ膜下出血による意識障害から社会復帰した症例」があり、マスコミで取り上げられ、当市救急隊の活動状況と合わせてテレビ報道がなされました。また、当市消防出初式においてドクターヘリと救急隊・救助隊・消防隊による合同訓練を多数の市民参観のもとに実施したことなどもあって多くの市民がドクターヘリの効果とその重要性について深く理解されたところでもあります。このようにドクターヘリ事業の実施を通して、ドクターヘリの必要性、重要性が広く市民に浸透し、そして、その成果をもとに本格的事業として全国的に展開されることとなったドクターヘリ事業が、残念ながら本県では、この平成13年度は事業見送りということになりました。当市としましては、試行的事業における運用実績からもこの本格的事業が早期に実施されることを期待するところであります。

J. ドクターヘリ試行的事業についての取り組み − 足柄消防組合消防本部
 足柄消防組合消防本部は、平成12年4月1日に旧南足柄市消防本部と旧足柄上消防組合消防本部との統合により発足し、ドクターヘリ試行的事業についても全署統一が図られ運用されてきました。統合以前は、旧両消防本部ともドクターヘリ試行的事業の運用開始にあたってのシミュレーションを実施し、その取り組みを開始したがその運用には若干の違いがあった。旧南足柄市消防本部は、ドクターヘリの使用時は必ず支援隊(ポンプ隊)が出動し、ヘリポート内の放水及び危険排除等を行っていたが、旧足柄上消防組合消防本部では、支援隊(ポンプ隊)は必要に応じてヘリポートに配備し活動を行っていた。当消防組合は神奈川県の西部に位置し、地域がら3次病院対応の傷病者においては、搬送に時間を要すため傷病者の程度によっては、2次病院に立ち寄り応急処置を施し搬送しているのが現状である。また、救急業務は傷病者の状態に適した応急処置と併せ選定医療機関に迅速に搬送することが救命率の向上に結びつくが、近年の交通事情の悪化に伴い医療機関への収容時間が長くなっていること及び急速な高齢化社会の進展に伴い疾病構造の変化等により、救急現場及び搬送途上における呼吸、循環不全に陥る傷病者のいっそうの増加が予想されております。ドクターヘリ試行運用については、平成9年12月「救急医療体制基本問題検討会報告書」において、通常の救急搬送にヘリコプターを積極的に活用する体制を整えておく必要があると指摘を受け、高度な医療を促進するためヘリ搬送体制を構築するという報告がされております。この運用は、平成11年10月から厚生省の試行的事業として、東海大学救命救急センターに導入し、開始されました。この間、県、市町村、医師会等の関係機関の協力により神奈川県西部、湘南、県央地区等の医療体制に定着しつつあり、当消防本部においても運用開始から平成13年3月現在で57件の利用となっております。ドクターヘリを使用することで搬送時間が3分の1程度に短縮ができ、早期に医師による救命処置が行えることにより、傷病者には病状の悪化と予後等が良好となり大きな効果が見られた。また、救急隊の活動時間が短縮でき、次の救急対応が早期に可能となり住民のニーズに答えられるものである。
(問題点)
・1件の救急事例で、隊員の出動人員が増加したために、他の災害発生時の対応に時間を要した
・臨時ヘリポートの場所として、グランドが多く、放水しても広範囲に放水できないため砂塵、ほこり等がひどく、臨時離発着場付近の住民に迷惑をかけている状態であった
・ドクターヘリとの連絡方法の工夫
(今後の課題)
・ドクターヘリ試行運用時と同じ昼間のみでなく、夜間においても使用できないか
・ドクターヘリの内容説明をしたパンフレットの作成
 メリット、デメリット(救急車での搬送との違い)、適応疾患、適応内容等住民への周知活動
・グランド等(臨時離発着場)の使用状況の事前把握
・ドクターヘリについての医師、看護婦と救急隊との定期的な勉強会

K. ドクタ−ヘリの試行的事業について − 箱根町消防本部
はじめに
当町は神奈川県の南西部に位置し、北西部は静岡県と界し、東部は南足柄市に、南東部は小田原市、湯河原町に接しており、東西11.5q、南北11q、総面積92.85qのうち山林原野・河川・湖沼等の割合は92.1%となり、大部分が山岳地帯となっている。管内を管轄する救急隊は4隊編成で救急救命士の数は現在7名で、高規格救急車3台と普通救急車1台の計4台で救急業務を運用しているが、町内には、二次医療機関がなく年間の救急件数の約70%が町外の救急告示病院等に救急搬送しているのが実情である。このような状況の中、厚生省モデルとして東海大学ドクタ−ヘリ試行運行事業が平成11年11月から実施されたことは、当町のような第3次医療機関である東海大学救命救急センターまでの搬送距離が長く長時間を要する地域、また山岳地帯のためにS字カ−ブの道路が多く、重症者の容体悪化が懸念される地域としてはドクターヘリの運行により、医師による早期治療と医療機関への早期収容に大変期待するものであった。この試行的事業も1年半をもって終了し平成13年4月1日から、本格運用への移行と成らず誠に残念でならない。
当消防本部としての取り組みについて
当初、明星及び仙石原中学校グランドのドクターヘリ飛行場外離着陸場の確保から始まり、運用に関するマニュアルの作成や消防隊との支援、連携などに取り組んできたが当町には、ドクターヘリ飛行場外離着陸場が二箇所指定されているが湯本地域は指定場所が無く、なお且つ箱根特有の気象条件によりドクターヘリが飛来出来ない場合もあるので、隣接市である小田原市消防本部の御支援協力を得て小田原市酒匂のヘリポートを借用させていただき、ドクターヘリ要請時の対応を図った。
活動状況及び効果について
 ドクターヘリの試行中、箱根町のドクターヘリを必要とする救急事案が13件あったがすべての、重症傷病者が長時間の搬送を余儀なくされる事案に対し迅速で効果的な救急医療体制により救命率の向上が十分に図られたものと思われる。また、重症の傷病者に対しての観察や救急処置等に対する救急隊員のストレス等が、搬送時間が短縮されたことにより肉体的、精神的に幾分楽になった感じがする。    問題点
 ヘリコプタ−搭乗医師等との気象条件(積雪)、着陸ヘリポートの変更、傷病者の容体、無線交信などができない事が不便であると思われる。また、救急現場によってはヘリポートまでの時間が20〜30分かかる地域もあり、ヘリポ−トを増設する必要性を感じるが、支援隊員にも限りがあり困難であると考える。
今後の課題
 夜間に就航できるよう専用ドクタ−ヘリの離着陸場の増設及び確保などが考えられるが、第一の課題は一人でも多くの尊い命を救命するために、ドクターヘリの本格運用に一日でも早く移行されることを期待してやまない。

L. 東海大ドクターヘリ試行的事業を終えて − 厚木市消防本部
 厚木市消防本部がドクターヘリを最初に利用したのは、試行開始後の4箇月を経過した平成12年3月14日で以後試行終了までに28件を数えた。 当初、基地から10km圏内であり数例あればとの予測は覆された思いである。現場で患者の容体から救急隊長が一刻でも早い医師への引き渡しの手段が増えた結果であると推測する。平成13年度からの本格実施についても引き続き運用できるものと現場の救急隊員はもとより職員全員が当然であるがごとく、新時代の救命救急医療システムの一翼を担うと信じており、中止の決定には「青天の霹靂」の思いであった。本事業は、国及び県の補助金により運営されていることから現場で救急医療に携わる者の希望では、どうにもならない事は十分承知しているが、救命救急の課題のひとつである地域の格差を解消するひとつの方法として、その役目は十分にある。救急業務活動に携わる消防関係者は、消防制度発足の基本である活動範囲の行政区、医療環境の充実度等地域差に関係なく「生命の尊厳」という概念に立ち、日本国民全体が前記で述べたように「地域間の格差を解消するひとつの方法」として賛同すべきと考える。現在、地域差の解消として進められているドクターヘリは、言いかえれば「ドーナツシステム」つまり、基地周辺の地域は空洞で旨味を味わえず、メリットは皆無でデメリットばかりである。一方、全国数箇所で実施されているドクターカーの運用は、「ドーナツシステム」に対して適切な表現が見つからないが「あんぱんシステム」と仮に表現する、中心部ほど旨味に味わえる。つまり、救急業務高度化の目指す一部として、この両システムの併用であれば理解を得やすく、国、県が両方のシステムに目を向ける事が救命率向上の更なるステップであると考える。

M. 東海大ドクターヘリ試行的事業報告書  上野原町消防本部
<経過>
 2000年5月に山梨県立中央病院から、ドクターヘリの範囲拡大による山梨県東部がそのエリアに入るとの情報を得た。7月5日にドクターヘリ試行的事業説明会が開催され、その後、要請基準を作成し、臨時離着陸場を1ヶ所指定して、9月22日にシミュレーションを実施し、運用開始となった。シミュレーションの結果、安全確保の消防隊と離着陸場周辺住民への広報隊を編成し、それぞれの任務を行うこととした。
 また、住民広報については試行期間中は行わず、本運用を待って全町に行うこととした。その後、2001年3月31日までの間、転院搬送3件、転送1件、直送3件、計7件の出動要請を行った。
内訳 転院搬送・・・多発外傷、頭部外傷、手指切断
    転  送・・・手指切断
    直  送・・・乳幼児CPA、多発外傷(CPA)、右下腿開放骨折
<事前の取り組み>
 当本部管内は、山間地にあるため離着陸場の選定に難渋したが、相模川河川敷に離着陸場を確保した。さらに、ヘリコプター飛来によるトラブル防止から、事前に離着陸場付近の住民に対し、ドクターヘリ試行的事業実施の協力を要請したところ、こころよく協力を得られることとなった。
<シミュレーション後の取り組み>
 シミュレーション及び事例を通しての検討会を実施した結果、最も近い3次医療機関まで40分以上かかることから、3次対応の判断をしたならば、積極的にドクターヘリを活用するとの確認を行った。また、現場広報の必要性から、広報隊を救急隊兼務(2次出場対応)として日勤の本部職員で編成した。
<現在までの問題点および今後の対応>
1. 住民の意見と今後の対応
運用開始後のトラブルとしては、乳幼児のCPA患者を搬送した際、第三者の住民から「消防では、死んだ人をそんなに遠くにつれていくのか?」との苦情が寄せられた。応急手当の普及啓発が不十分であることの現れだが、救急隊の任務、ドクターヘリ事業の目的など住民にコンセンサスを得られるような、応急手当啓発活動の実施、報道機関を活用しての住民広報の必要性を感じた。
2. 指令業務上の問題点と今後の対応
指令員による要請を行っていたが、情報が正しく伝わらない、医学用語で言葉がわからないなど情報の共有化に問題があり、救急隊が現場報告を行うよう改善していきたい。また、ドクターヘリ運用のうえでの救急事案の中心である指令業務が、消防隊、救急隊と兼務になっているため、未だ携わったことのない職員もいる。組織として個人にノウハウのフィードバックが行えるような、体制づくりを進めている。
3. 救急隊の問題点と今後の対応
ドクターヘリで搬送した救急事案に対しては、検討を行っているが、管内2次医療機関へ搬送された救急事案の検証は、行われていない。また、行われた検討にも医学的側面からの検証が不十分であるため、消防本部と医療機関の双方において観察、処置、病院選定など症例の検証が必要である。
4. 消防隊の問題点
当消防本部は、人員に余裕がないため(指令員を含め9~10人当直)、早急に専用へリポート設置による消防隊活動の簡素化が必要である。この点については、現在本部内で協議を進めているところである。
5. 地域医療機関との問題点と今後の対応
転院搬送における管内医療機関との連絡調整にも問題があった。ドクターヘリ要請後に消防隊及び救急隊の要請があったため、離着陸場の安全確保が遅れるなどのトラブルが生じたが、現在では事前に一報があり、解消されている。しかし、転送時の30分以上の院内待機は、ドクターヘリの最大のメリットである時間短縮ができず、ヘリ搬送の意義が薄れることから、ドクターヘリ事業主体等において病院間ネットワークを構築し、転送元医療機関における在院時間短縮などの対応が必要だと思われる。
6. 近隣本部との連携
当町周辺には、病院が少なく管内2次病院への近隣消防本部からの搬入も少なくない。当本部で確保した離着陸場が近隣本部救急隊の出場現場直近となることもあるため、今後は近隣本部との転送受け入れ、離着陸場の共用、消防隊応援体制の構築などを進め、県、市町村を超え、地域における協力体制の整備を図りたい。
<メリット>
今まで、重篤な傷病者は、直近の2次医療機関または遠方の3次医療機関に搬送せざるを得ない状況にあったが、ドクターヘリ試行的事業により、短時間のうちに3次医療機関へ搬送できるようになったため、結果に関わらず迅速で十分な医療を提供できるようになった。このことは救急隊員ばかりでなく関係職員全体の士気高揚に役立った。
また、救急隊の活動時間の短縮は、出場事案の重複を避けられるため、他事案、災害対応の面でも有効である。
<その他>
 休止期間中及びそれ以降において、防災ヘリでの東海大学病院への搬送は可能か?可能であれば、ドクターヘリでのノウハウを活かして実施していただきたい。 また、本運用前のシミュレーションは可能か?この休止期間をただの休止で終わらせることなく、次へのステップとして、さらに検討を重ね充実を図る必要を感じている。

N. ドクターヘリコプター試行的事業のまとめ ― 愛川町消防本部・署
平成11年10月13日から平成13年3月31日まで実施されたドクターヘリ試行的事業における取り組みは次のとおりです。
1) ドクターヘリの要請件数及び搬送人員
  要請件数  87件
  搬送人員  90人
(結 論)
ドクターヘリによって搬送した傷病者を、救急車によって搬送したと仮定し、比較分析した結果、死亡傷病者が10人、障害を残す傷病者が5人減少し、軽快した傷病者が、15人増加した。
1) ドクターヘリ試行的事業における取り組み(準備等)
ドクターヘリの運用により救命に大きな効果があることが実証されたが、本町においては、その運用にあたり次のような取り組みを行った。
@ 救急高度化対策の推進とドクターヘリの関係について部内で意思統一をはかった。
救命処置室が、市町村に存在する。したがって、迅速な医師の救命処置が、可能となり、救命効果を高めるものとなる。
A 離着場の確保
安全性の確保が取れる場所、周囲に影響の少ない場所、町内のバランス配置が充足する場所(救急出場現場からできる限り時間がかからないようにする。)救急応援協定を締結している清川村を含め、5箇所を選定した。
B シミュレーションの実施により、ドクターヘリへのストレッチャー搬入要領や安全確保等確実な運用の理解に努めた。施設の管理責任者の方にも、見ていただき理解と協力をもとめた。
C 指令室の役割を明確にし、要請時期等の的確化をはかる。ドクターヘリ要請基準の作成等により、119番入電時から、ドクターヘリ要請を意識した活動スタイルを構築。
D 消防隊の支援活動について徹底をはかる。救急特命出動として、次の支援活動を位置付けた。離着場の安全確保、散水活動、救急隊の補助活動等
ドクターヘリ試行的事業における評価
一年半にわたるドクターヘリ試行的期間の中で、本町においては87件の要請で、90人の傷病者が、ドクターヘリによって搬送されたところであるが、その評価は次のとおりです。
@ 救命に大きな効果が期待できる。医師の治療開始時間が、大幅に短縮したことによるものと思われる。
A 救急隊の緊張時間が短くなり、次の出動準備が早く整えられる。
B 医師との信頼関係が強まり、病院前救急救護体制の推進が図られる。
C 離着場の安全確保などにより、消防隊と救急隊の一体感が強まる。
D 住民の関心が強く、ドクターヘリへの期待が、運用をする中で高まった。
E 救命救急の課題のひとつである地域間の格差解消に貢献する。
F 新たな救命救急医療システム作りに貢献するものとなった。
救急救命士制度の創設により、救急業務も大きく変化し、病院前救急救護体制の充実は、時代の要請となっています。また、阪神淡路大震災後、ヘリコプター有効活用が議論され、消防法施行令においても位置付けられている。救命救急の取り組みは、救急救命士が行うことができる特定行為の見直しの議論も含めて、今日重要な課題となっている。ドクターヘリは、早期に医師の治療が開始され、医師の監視下におくという点で画期的であり、救命の鎖を強化するものであり、救急救命士との連携により、救命に大きな効果が期待される。また、自然災害が多発し、特に地震の活動期といわれている今日、平常時のヘリの活用により、災害時の救急医療対策に役立つものと考えられる。試行的事業の成功は、全国的運用に向けて根を張る大きな足跡を残したところであると考えられるが、残念ながら本格運用を前にいったんその足踏みを止めざるを得なくなりましたが、早期の導入が実現できることを心から町民の皆様が望んでいることを申し添えて、試行的事業の報告とします。

11.  今後の問題点
 今後解決して行かねばならない問題点として医療機関、消防機関双方から示されたものを以下にまとめる。

 A.臨時ヘリポート
 1) 数の不足、適地の不足
 傷病現場から臨時ヘリポートまでの平均的な搬送時間には問題ないが、地域や傷病発生場所によっては未だ搬送に長時間を要する場合がある。ヘリポートの増設を検討するとともに、隣接地域との共同利用、相互支援なども考慮する必要がある。
 2) 安全確保や粉塵飛散防止等の必要性と、これに伴う消防機関の負担増
安全確保や飛散物防止にかかる人員をなくすことは出来ない。ただし臨時ヘリポートそのものを整備することによって(水撒き装置など)、必要人員を少なくすることは可能と考えられ、検討の価値がある。

 B.情報交換
 1) 救急隊とヘリの交信手段(病状確認、事前打ち合わせ等)
 救急隊とヘリの無線通信については、厚生労働省、、郵政省、総務省などで、検討されているようである。早晩解決に向かうものと考えられる。
 2) 臨時ヘリポートでの申し送り(風、騒音、時間への対策)
 臨時ヘリポートでの申し送りは、風や騒音、時間の不足などによって困難な場合がある。無線通信による事前および離陸後の情報交換ができればかなり改善するものと考えられるが、その他にフォーマットの工夫、会話装置の考案、事後の連絡など考慮の余地がある。
 3) 消防機関と医療機関の意見交換、症例検討、勉強会等
 救急医療の質を担保し、向上させていくためには、また円滑な運用のためには、消防機関と医療機関が症例検討や意見交換を定期的に行って、継続的な改善を図る必要がある。一方、ドクターヘリは広域搬送を行うため関連機関の数が多く、全ての関係者が一同に会するのは年に数回程度が限界と思われる。印刷物やインターネットなどを用いた方法を同時に行うことも検討の余地があろう。

 C.医療機器、備品等
 1) ストレッチャーの共通化
 航空機に搭載する機器は航空法のしばりがあるが、共通化は技術的には不可能ではない。むしろ次の項にある返却の問題の方が難しい。
 2) バックボード等救急車使用物品の返却の問題
 全参加消防本部での使用物品共有化、共通化ができれば問題はないが、現実には困難がある。郵送や後日来院時の引き取りなど何らかの方法で返却するとしても、ある程度在庫は増やさざるを得ない。

 D.ヘリの定員
1) 付き添い、家族への対応
今回使用した航空機のうち定員の多い1種類では、1名の付き添いが可能である。ただし、この場合でも家族全員が添乗できるわけではなく、何らかの対応は必要である。
2) 複数名搬送
 複数の重症者を搬送するには、今回の事業で用いたよりも大きな機体を使用しなければならない。騒音、風、使用ヘリポート拡大などの問題があり、複数名搬送の頻度は低いこと、ドクターヘリの性格等から考えると、あまり大型の機体導入は妥当とは思えない。むしろドクターヘリの複数化、防災ヘリとの相互応援協定などの方が効率的である。

 E.ヘリの稼動時間、天候の影響
 現在の臨時ヘリポートでは、日没後にヘリの離着陸はできない。従って、稼働時間に季節変動を生じている。特に早朝と夕方は傷病発生頻度が高いので、冬季におけるこの間の稼働時間を増やす方策を考えることは重要である。使用頻度の特に高い臨時ヘリポートを中心に、夜間照明の設置等ヘリポート整備を行えば、薄暮時などにおける問題は解決する。夜間、悪天候時の稼動はその次に考慮すべき問題であるが、安全第一を原則に充分なヘリポート整備を行い、限定された施設間での搬送を行うことは検討に値する。
12.  結語
ドクターヘリを用いると、医療スタッフの同乗とヘリの迅速性によって初期治療開始までの時間が大幅に短縮され、重症例に対する救命効果が得られる。ドクターヘリにはこの点において他の救急ヘリとは異なる価値がある。様々な解決すべき問題が残されているが、早期本格実施が望まれる。
執筆者一覧(順不同)
東海大学医学部付属病院 湯河原町消防本部
病院長 藤沢市消防本部
救命救急センター 小田原市消防本部
看護部 秦野市消防本部
事務部 足柄消防組合消防本部
箱根町消防本部
大磯町消防本部 厚木市消防本部
御殿場・小山広域行政消防本部 上野原町消防本部
二宮町消防本部 愛川町消防本部
海老名市消防本部
伊東市消防本部 (株)朝日航洋


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