災害医学・抄読会 991029

雲仙・普賢岳火砕流災害

蓮本正詞,日本救急医学会災害医療検討委員会・編 大規模災害と医療,東京, 1996, pp 50-58


(災害前)

 1990年11月17日噴火の開始→噴火活動があって避難することを想定しての防災マニュアルの作成。

 1.対策本部の体制 2.警戒時の体制 3.避難勧告時の体制 4.班編成と任務 の4つの骨子からなっていたが危険が迫っているという認識はほとんどなかった。

 1991年5月緊急医療救護対策要領の作成。

  1. 負傷者が多発し、特別な医療救護対策が必要なときは医療救護対策本部の設置
  2. 副院長を班長とする緊急医療救護班の設置
  3. 臨時病室の設置
  4. 対策本部員等の連絡網
  5. 関係機関との連携、情報の収集

の5つの骨子からなる。

(災害当日)

 1991年6月3日火砕流発生。被災者が搬送される。搬送されてきた負傷者 は、全身熱傷で、気道損傷を負った人がほとんど。救急処置は、洗浄、気道確保、血管確保、尿道カテーテル留置、冷却という一連の行動にパターン化。技師またはその他の各職員についても、たとえば放射線技師は情報収集、電気担当職員は酸素ボンベの準備というふうに、前から役割を大体決めていた為、手際よく仕事ができた。救急処置後、移動可能な患者は後方機関へ搬送。

(一次救護活動が上手く言った理由)

  1. 事前に救護対策の準備・確認がなされていた。
  2. 月曜日で本院の手術予定がなかったため、医師の力が結集でき、手術室が利用できた。
  3. 看護婦の日勤と準夜の者が集合した時間帯であった。
  4. 1日の業務の終了時間帯で、他の全職員が、一斉に応援態勢にはいれた。
  5. 負傷者の病態が全身熱傷、気道熱傷・損傷であり、治療内容が素早く手順化された。

(病院までの搬送手段)

 実際に負傷者を収容した車は、ほとんど民間車で、ライトバン、ポンプ車、自家用車、軽トラック、普通ワゴン車などであった。消防車や救急車も現地に災害救助に向かったが、道路が狭くUターンができず、ほとんど民間の車に頼らざるを得ない状況であった。

(災害後の問題点)

 1.指揮系統の確立 2.緊急時連絡体制の確立 3.交通手段の確保 4.災害時対応要員の確保体制 5.患者転送体制の強化 6.医療消耗品の供給体制の整備 7.医師派遣体制の強化 があげられた。

 今回の反省点の一つとして、ヘリポート利用が考えられるようになり、県外の高次機能の病院にも重症者の受け入れをお願いするということでヘリ搬送体制が確立された。

(災害医療についての考察)

  1. 医療従事者は集団災害について関心を持ち、学ぶべきである。
  2. 医療現場を中心にした救護活動の組織作りをすべきである。
  3. 早めに医療現場に見合った救護活動の準備をしておくべきである。

 結局、災害を学び、役割を認識し、実践するということに尽きるといえる。

(トリアージ)

 災害時発生時などに多数の傷病者が同時に発生した場合、傷病者の緊急度や重症度に応じて適切な処置や搬送を行うために傷病者の治療優先順位を決定することをいう。

優先度分類区分疾病状況診断
第1順位緊急治療I生命、四肢の危機的状態で直ちに処置の必要なもの気道閉塞または呼吸困難、重症熱傷、心外傷、大出血または止血困難、開放性胸部外傷、ショック
第2順位準緊急治療II2〜3時間処置を遅らせても悪化しない程度のもの熱傷、多発外または大出血、脊髄損傷、合併症のない頭部外傷
第3順位軽症III軽度外傷、通院加療が可能なもの小骨折、外傷、小範囲熱傷(体表面積の10%以内で気道熱傷を含まないもの)、精神症状を呈するもの
第4順位死亡0生命兆候のないもの死亡または明らかに生存の可能性がないもの


日本赤十字社の対応と今後の課題

来栖 茜、日医雑誌 122: 789-92, 1999


 1995年1月17日の阪神淡路大震災では医師会関係者・消防隊員・警察官・自治体職員・自衛隊員らをはじめ多くの人が献身的に働いたにも関わらず、6000人以上の犠牲者を出した。震災から4年経った今、もう一度大震災における救護のあり方について現実に即した検討が必要なのではないか?まず日本赤十字社の体制・対応について述べた上で、今後より迅速で効率的な救護を行うにはどのような課題があるのか、震災直後の問題点を中心に述べる。

I、日本赤十字社の救護体制とその大災害で果たすべき役割

 日本赤十字社は都道府県ごとに47の支部を持ち(支部長は都道府県知事)、また92の病院を有する非政府組織である。災害救護活動が本来の使命であり、災害発生時には、災害救助法や災害対策基本法により、いつでも被災者の救護にあたらなければならない。そのため、平時からそれぞれの赤十字病院には5個以上の救護班を常備している。(救護班は医師1名、看護婦3名、事務職2名からなり、その登録班数は全国で468班、6224名)また本社および支社には災害救助物資を十分備蓄し、医療セット、簡易ベッド、患者搬送用担架、テントなどの救護機材や、救急車を含む救護車両も整備してある。また救護班の班員は迅速かつ円滑な救護活動が行えるように本社及び支部が単独あるいは合同で行う救護訓練や研修を通じて災害対策のための知識・技術を赤十字以外の病院の医療従事者よりも豊富に身につけている。したがって、災害がおきたときに災害地の赤十字支部・病院は自治体や医師会などとの協力の下で、発災直後の救護において中核的役割を果たすことが出来る。

 しかし、現地の混乱や地理の不案内なども考慮すると、災害地外の救護班が迅速に出動しても、現場に到着し活動を開始するのに6時間はかかる。この時点で重傷者の後方病院への搬送が完了していなければ、救護班は病院における重傷者の治療、後方搬送を支援しなければならないが、本来救護班は自治体などの組織的な救護が軌道に乗るまでの発災後の3日間を中心に避難所における住民への食料・水・毛布などの配布、さまざまな慢性疾患患者の治療に当たるべきである。大災害、とりわけ大震災で救護班が実際に出来ることは何なのか、被災地の住民が救護班に期待しているものは何なのかをもう一度検証しておく必要がある。

II、阪神淡路大震災における日本赤十字の活動

 発災当日1月17日、10府県支部から20個班の救護班が現地入りし、救護活動を行った。その後も1月21日から救護班を増強し、被災地に12の拠点救護所を設置した。通信手段の途絶により被災地支部から本社への連絡の無い中、本社から岡山や大阪などの近隣支部への派遣要請が出たのは発災当日の昼近くであった。日本赤十字社の救護業務命令では、被災地支部からの要請を受けて本社から近隣支部へ救護班の派遣を要請するという命令系統の問題があった。この経験から現在では災害地の支部と連絡の取れない場合に救護班は本社あるいは各都道府県にある支部からの指示がなくても、所属している病院の院長の判断で出動できる体制に改められている。

III、災害地における責任分担と自力更正

1. 責任の分担

 阪神淡路大震災の時被災地はパニックになり、そのなかで軽傷者も含めた負傷者が病院に殺到した。これは現場におけるファーストエイドとトリアージが住民の間に浸透していれば解決できたであろう。また、病院も十分な備えのない中大混乱に陥った。そのような混乱を避けるためには災害地における責任分担が極めて重要である。

(1)現場でのファーストエイドとトリアージ

 すべての負傷者が多数病院に殺到するのを防止するために住民同士がその場で協力し合って、負傷者に対してのファーストエイドをおこない、負傷者をトリアージすることが重要である。阪神大震災後、病院でのトリアージの重要性が強調されてきたが、より重要なのは現場におけるトリアージである。しかし、ファーストエイドの知識の全く無い物がファーストエイドやトリアージを現場で行うのは難しい。したがって、その講習会の充実が極めて重要である。我が国でも行われてはいるが、受講者の数は少数にとどまっているのが現状である。 現場におけるファーストエイドやトリアージでは、何と言っても頼りにされるのは地域に根ざしたクリニックの医師であり、現場でのリーダーシップを発揮するべきである。クリニックも機能を発揮できるとは限らないので、地域のコミュニティセンターなどを、いざという時のファーストエイドやトリアージを行う場所として決めておき、さらに地域におけるいざという時の対応も、住民や自治体と協議して決めておくことが望ましい。しかし、重傷と判断した場合は、必要に応じてファーストエイドを行った上で、出来る限り迅速に災害拠点病院に送らなければならない。

(2)病院の責任分担

 中小の病院は原則として中等度の負傷者の治療を分担すべきである。しかし、重傷者は拠点病院に搬送すべきである。災害拠点病院の基本的な役割は重傷者に対して災害地の病院で適切な治療を行いつつ、すみやかに災害地域外へ送り出すことである。重傷者に対して災害地の病院で適切な治療を継続することは、人的にも物的にも不可能に近く、阪神大震災でも、重傷者に対する治療成績は災害地域外の病院の方がはるかに優れていた。

 重傷者に対する治療は遅くても数時間以内に行ない、短時間のうちに災害地域外の病院へ後方搬送しなければならない。そのために、大災害時には情報伝達のネットワーク化と決定権の分散化が大切である。また、重傷者は出来る限り迅速に、どんなに遅くてもその日のうちには災害地域外へ搬送し、中等症は可能ならば災害地域内で治療を継続するか、数日のうちに災害地域外へ搬送する。軽傷者は基本的には災害地域内で治療する。という原則を徹底化する必要がある。

2.自力更正

 災害地では圧倒的に人手が足りず、食料や水、毛布なども不足する。災害地域外から救護が始まるのは最短でも6時間後からであり、組織的な救護は発災後3日までは期待できない。その間、災害地域における自力更生が必要で、自治体や病院だけでなく、住民一人一人、クリニックの医師もこの考えを持ち普段から備えておかなければならない。また、人手を補うにはボランティアの積極的な活動も欠かせない。特に災害におけるファーストエイドの知識や技術、経験が豊富な災害ボランティアが極めて重要である。また勤務地は災害地域外にあるが災害地域内に居住している医師・看護婦が病院に駆けつけれくれれば、圧倒的な人手不足もかなり解消できると考えられる。

おわりに

 阪神淡路大震災の発生から、大災害における救護の問題点を指摘する多くの優れた論文がみられるが、それら論文の指摘した問題点の多くはいまだ解決されていない。今、阪神淡路大震災クラスの地震が起きると、同じ惨禍が繰り返される危険が大きい。普段から災害にどう備えるか、発災後度のように対応すべきかは、金銭のみでは解決できない、日本人のリスクマネージメントのあり方を問うものである。


第3章.人々に心理的サポートを提供する

国際赤十字・赤新月社連盟.世界災害報告 1998年版、32-41


はじめに

 世界災害報告では、毎年、災害対応に関する将来的な問題を取り上げるとともに、前年の災害の経験からも紹介している。

 いくつかの報告の中から、心理的サポートについて以下に述べる。

人々に対する心理的サポートについて

 災害は、単に生命を奪い、財産を損なう物理的事象ではない。災害が地域社会を襲うと、人々は強烈な心の乱れを体験する。心理的・情緒影響から立ち直ることは、物質的損害に対処するよりもはるかに長い時間を要する。

1)誰が被害を被るのか

 災害は、直接の被害を被った者ばかりでなく以下のような広範囲な人々に心理的な影響をもたらす。

  1. 直接的な被害者
  2. 調査者、目撃者や傍観者、あるいは家族、友人、同僚のように直接的被害者と関わった人々をはじめとする、間接的な被害者
  3. 救援者や救助者

2)救援者はいかに対処するか

 救援者は、遭遇する状況によって、外傷性ストレスを体験したり、活動継続に困難を感じる場合がある。現在、重点が置かれつつある分野は、人々が緊急時にどのような反応を示す可能性があるかを理解し、ストレスの長期的作用を防止し、解決する方法を知っておくことで、人々が自主的に対処できるように訓練することである。ストレスは救援関係者の間で主要な病因となっており、その蓄積は重大な病を引き起こすことから救援関係者のためのサポート・ネットワークが存在する。

3)どのように反応するのか

 人々は高いレベルのストレスを体験すると、極めて個人的なパターンで予測可能な反応を示す。反応は、以下の4つに分類される。

  1. 認識レベルの反応
    その災害に関する夢や悪夢を繰り返し見る、心の中でその災害を取り巻く事象を再構築し、結果を異なるものに変えようとする、物事に集中したり思い出すのが困難になる、など。

  2. 情動反応
    感情麻痺になる、孤立感を感じる、特に音やにおいでその災害のことを思い出した時に恐怖や心配の感情が起こる、日常生活にやりがいや楽しみを失う、など。

  3. 行動反応
    自分自身や自分の家族の安全に対して過剰防御になる、時々非常に警戒したり、すぐに驚いたりする、寝つきが悪かったり、安眠できない、など

  4. 肉体的反応
    不眠症、頭痛、胃痛、筋肉の緊張、心拍数の増加、体温の変動、など

4)心理的サポートとは

 心理的サポートは、ストレスやトラウマを生じさせる、危機的な、あるいは生命が脅かされる状況におかれた人々に対して、誰もが提供できる心理・社会的援助として定義することができる。このようなサポートの目的は、苦しんでいる人のために安全と、保護と、希望を創り出すことである。

 心理的サポートによって、以下のことが実現可能となる。

  1. ある程度の即時の救済
  2. ストレスから生じる長期的な心理的問題の危険性の緩和
  3. 個々人とその家族が直面する肉体的・物質的必要性に対する、より有効な対処

5)どのように援助するか

 サポートの提供者は、自らの能力と災害の情動的側面に対処する方法を検証した上で、被災者たちが災害直後の時期に旨く対処できるように彼らを援助する方法を実践したり彼らに教えたり、災害の衝撃から回復しようとする人々を支援したりする。被災者を援助するにあたっては、人間として(専門家や担当機関の人物としてではなく)存在することを学ばなくてはならない。「いかに存在するか」が最も重要であって、何をなすかは必ずしも重要ではない。

 心理的問題に対しては、肉体的に必要な援助が提供されている限りは、災害救援の緊急段階で対処しなければならない。そうすることが、多くの被災者たちが将来専門的治療を必要とするような重大なトラウマに陥るのを防いでくれる。

 心理的救急法の分野で成すべき仕事は、災害の危険性にさらされている共同体が、自ら団結して、その構成員を支援できるようにする事である。また、援助機関や救助団体にとっては、救援活動が戦闘の中心に近づき、他の厳しい任務を引き受けるにつれて、スタッフの健康、安全、有効性と言う観点から災害の心理作用はますます関心が高まっている。

 災害対策、救援、復興の重要な側面として心理的サポートが果たす役割については、学ぶべきいくつかの教訓がある。

   


第12章.より良い救援活動のために重要な統計を用いる

国際赤十字・赤新月社連盟.世界災害報告 1998年版、p.132-67


 「世界災害報告」では、災害発生に関するデータ、それが人々に与える影響、それが国にもたらす被害額に関するデータを5つの主要な情報源から得ている。各組織について以下に記す。

災害疫学センター(CRED)

 ルーヴェン・カトリック大学(ベルギー)の公衆衛生学に本拠地をおく CREDは、既存の災害記録、情報ネットワーク、コンピュ−タ−システムを利用して、世界災害対応データベースシステムを開発した。現在、1900年以降の災害事象に関する 11500件以上の記録を保有し、更新、修正、検索の機能を持つ。入力されたデータは、重複や矛盾がないかどうか、あるいは欠けているデータの補充のために常に見直されている。

米国難民委員会(USCR)

 USCRは、非政府組織(NGO)であるアメリカ移民・難民サービスの公的情報と市民参加の部門である。USCRの活動は大きく分けて2つある。一つは難民、亡命者、国内避難民に影響を及ぼす問題を報告することであり、もう一つは、住み慣れた土地を追われた人々に対して適切かつ効果的に対応して、その人々の必要に応えるように、一般市民、公的な政策決定者と国際社会に働きかけることである。

人権侵害の根本的原因に関する学際的研究プログラム(PIOOM)

PIOOMは、オランダのライデン大学によって1988年に設立され、人権とその侵害について研究している。人権侵害は、紛争の激化の指標として扱われることが少なくなく、武力紛争の結果として現れることが多い。このように紛争力学の監視を行って、人権侵害の根本的原因を探ろうというのが PIOOMの取り組みの中心である。

経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)

 開発援助委員会は、開発途上国が自らの能力を高め、総合的な開発戦略を立てることを支援し、さまざまな論題の中で開発援助の財政的側面、統計的問題、援助の評価、開発における女性の問題について研究している。

世界食料計画(WFP)の国際食料援助情報システム(INTERFAIS)

 包括的で総合的な情報データベースによって、食料援助のマネージメント、調整、統計分析の改善に際して、食料援助の割り当てや輸送の監視を可能にしている。


阪神淡路大震災から学ぶこと 避難所の運営・医療


避難所の運営について

1.避難所生活の組織化

 学校が避難所になった場合、被災者の組織化、避難所の運営に教員の果たした役割が非常に大きいようだった。このことは、もし今後何かあったときのためにも参考になるし、地域によりマニュアル化しいてもよいと思う。

2.救援物資の配布状況

 送られてくる救援物資特に個人的なものに中には、1つの箱の中にたとえば食料、衣類等が混在していて、それらを避難所で配布する前に、非常に手間をかけて仕分けをしなければなりませんでした。また、マスコミがたとえば衣類がないといえば衣類が全国から大量に届けられました。このようなことに関しては、たとえば救援物資は、地区ごとに集めて送ることなどを災害発生時にマスコミが訴えるなどしたらよいと思うが、難しい問題だと感じた。

3.避難状況に関する実態

 阪神淡路大震災は、明け方に発生したわけだが、神戸市と北淡町では避難するときの意識について違いがある。避難する場所を選んだ理由として神戸市、北淡町ともに、「自分あるいは、家族で決めた」と答えた人が過半数を超えていたが、「役所・消防・警察等の指示に従った」と答えた人は、神戸市では、わずか3%であったが、北淡町では、26%であった。これはどちらが良いと判断に難しいが、とりあえず公共施設 に問い合わせてみるべきだと思う。

4.避難所生活に対する実態

 避難所に避難した後、時間が経つに連れて避難生活で困ったことがどのように変化したかというと、被災直後では、「飲料水」、「食料」、「余震」などの問題が挙げられていた。

 しかし、被災後1〜2週間たってくると「トイレ」、「風呂」などのプライバシーの問題が大きくなってきた。さらに時が経つと、「生活再建」、「仕事」、「人間関係」など問題が多様化してきていた。多様化している問題に関して、他人には解決することが難しく、避難所から出て行けるめどを早目に付けることが重要だと思われる。

避難所の医療について

1.地震発生の時間帯による災害に特徴

 阪神・淡路大震災は午前5時46分に発生しているので、2時間後には、夜が明けてくる。つまり、明るい時間帯が夕方まで続くわけで、直後の救援活動を明るい中で行うことができた。このように時間帯によって、ラッキーな部分とアンラッキーな部分とがあります。午前5時46分に発生したということは、まだ社会が動いていない時間帯に起こったため、家族全員がそろっており、家族離散する危険性が低かったわけだが、その反面一家全滅というリスクを背負っていました。つまり時間帯などの状況の違いによって、被害はもっと大きかったかもしれないし、小さかったかもしれない。

2.地震発生の季節帯による災害の特徴

 阪神・淡路大震災は1月17日に発生したわけだから、非常に寒く、そのため風邪が非常に多くかぜぐすりが足りなくなるほどであったが、逆に、下痢や、集団食中毒などが、おきなかった。季節によって被害や症状は、かなり異なると思うがどの季節なら良いとはいえないと思う。

3.避難所における医療救護活動

 避難所の置ける医療救護活動は、救護班が主に行ったわけであるが、ピーク時で1200ヵ所に30万人の避難民が発生していたので、すべてに医療救護班が出動し、救援物資を届けることは、物理的に無理な面もあった。赤十字社では全国動員をかけて、3ヶ月間で約900班の医療救護班が出動し、医療関係者だけでも延べ6000人が出ていました。しかしそれでも充分とはいえませんでした。これに関しては、もっと救護班を増やすことしか解決法はなかったかもしれません。また,応援の医療救護班は、現地の医療機関が復活したら当然引き上げなければ行けないしそれを目標にやっているわけですが、いざ撤退するとすると避難民は不安がりました。避難民にとって医療関係者が常駐しているだけで、安心感を持つものでその撤退の時期を決めるのは、非常に難しいのです。避難民の気持ちは分かるのですが、避難民の自立を促すためにも、救護班の判断のみで撤退した方がよいとのいます。

おわりに

 避難所の運営、医療について、マニュアル化されるべきこともあると思うし、医療関係者だけで解決できない問題もあると思う。


トリアージタッグの活用法

益子邦洋、日医雑誌 122: 793-6, 1999


はじめに

 災害発生時には、現存する限られた医療スタッフや医療資器材などの機能を最大限に活用して、可能な限り多数の傷病者の治療を行い、一人でも多くの命を救い、社会復帰をめざすことが最大の目的となる。そのために、傷病者の傷病の緊急度と重症度に応じて治療の優先順位を決定し、搬送、病院選定そして治療をスムーズに行うことが求められる。その基本となるのがトリアージである。トリアージは災害現場だけでなく、搬送中や被災地医療機関そして後方受け入れ医療機関においても行われなければならない。

トリアージを行う主体と目的

 トリアージ実施者には、その場に居合わせた者のうち、トリアージに最も豊富な経験と知識を備え、決断力を有するものがあたる。トリアージ実施者とその目的は実施場所で異なり、災害現場では救急隊員(救急救命士)、医師が中心となり、主として搬送順位、搬送医療施設を決めるために行う。医療機関ではトリアージ実施者は医師が中心となるが、看護婦・士、病院管理事務職員が協力し、治療順位とその病院施設での対応可能性を決定するために行う。

トリアージの原則

 トリアージの原則は、簡単な処置で対応の出来る軽傷者と既に死亡している傷病者を除外し、緊急搬送治療が直ちに必要な傷病者と、様態は落ちついているが注意の必要な中等症患者を選別することである。トリアージに当たっての注意点は、全体の傷病患者の搬送治療状況を把握し、混乱を避けるためにリーダーシップをとる人物(トリアージリーダー)が必要であること、トリアージを行う者は治療行為などは行わず、トリアージのみに専念すること、そして人材や医療資器材などの状況、搬送状況、災害地域内或いは後方医療施設受け入れ体制によりトリアージ基準が変化することなどである。

災害発生地でのトリアージ

 災害現場では、最初に到着するのは救急隊員(救急救命士)である場合が多く、彼らがトリアージを行うことになる。医師が現場に到着すればその医師にリーダーシップを委ねる。そして医療救護にあたるスタッフは、医師の指示の下にトリアージに協力する。災害現場で行われる重症患者のための医療行為は呼吸管理、圧迫止血など非常に限られている。従って、応急救命処置の必要な患者の選別と、どの患者の搬送を最優先するのかを判断することがトリアージの目標となる。

 この場合、地域医療施設の受け入れ能力に関する情報が必要となる。実際には、後方医療施設の受け入れ状況を確認するために、無線などの通信手段による災害対策本部や後方医療施設とのコミュニケーションがより重要な役割を果たす。また、家族からの問い合わせに対応するため情報担当者を定めておき、情報の収集・処理・伝達と、傷病者の搬送・収容先などの情報提供に努めることも大切である。

医療施設でのトリアージ

 災害発生時に患者の集中が予想される医療施設においては、平時にトリアージリーダーを決めておく必要がある。トリアージリーダーは、患者の数、傷病の程度、傷病の種類などから患者全体の治療のニーズを迅速に把握しなくてはならない。それに基づいて、その医療施設での治療限界と、診療不可能な患者をどの後方医療施設に転送するのかについて迅速に判断する必要がある。その際に看護部、病院管理事務職員と施設内で綿密な連携をとる。具体的には、実働スタッフ人員数、災害傷病者用病床数、非常時の召集可能スタッフ人員数の割り出しとスタッフ召集、医療資器材、ライフライン稼働状況の調査、後方医療施設や地方自治体への連絡網についての情報管理などについてである。

後方医療施設でのトリアージ

 後方医療施設では、患者搬入時に再度トリアージを行い、重症患者は直ちに治療を開始する。この場合、搬出医療施設から患者情報があらかじめ得られていることが望ましい。特に、血液浄化法や高気圧酸素量法など特殊な治療法の適応の有無についての情報は後方医療施設の選別の重要な判定要因となりうるし、各専門科からの応援態勢を事前にとっておくことが可能となる。必要があれば、適切な医療施設への再転送を行う。

トリアージタッグとその活用法

 大災害時には多数の医療従事者や医療救護班が被災地に参集し、共同作業を行っている。それゆえ、各場面におけるトリアージの結果を誰が見ても容易に理解でき、直ちに次の行動に生かすことができるよう表示されている必要があり、この目的で用いられるのがトリアージタッグである。トリアージタッグは3枚綴りで、3枚目の「収容医療機関用」の裏側には医療情報や特記事項などが記載でき、カルテとして利用することも可能なほか、傷病者の安否情報として利用することも可能である。

 原則として負傷者の右手首に付けることになっているが、この部分が負傷したり切断されている場合には 左手首、右足首、左足首、首の順で付ける部位をかえる。

まとめ

 トリアージは災害発生現場から決定的な治療の行える医療施設に至るまで、多くの段階で行われるものであり、種々の状況によりその内容が影響を受ける。従って、トリアージリーダーを要として、トリアージチームを構成する各員による、それぞれの役割の理解と連携とが重要である。


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