災害医学・抄読会 990709

大規模地震災害の医療展開と看護行動を考える

―阪神・淡路大震災の救援医療を体験して―

太田宗夫、看護 47: 32-8, 1995


<はじめに>

 災害時の医療に関する評価は、世界的基準に当てはめ厳しく評価すべきであって、精力を傾注したので結果は問わない、という姿勢であってはならない。厳しい評価によって世界的基準を修正する情報となり得る。

<大阪府立千里救命救急センターの救援医療活動>

 救命救急センターとして災害医療の認識が浸透していたため、重症者を受け入れる後方支援とドクターカーを駆使した被災地活動の二面活動が可能であった。

<医療展開の実態>

1)急性期医療展開の構図

 全体として、被災地を隣接する非被災地が救援するという、災害時の当然の構図となったが、一部の被災地では急性期医療の原則が認識されていなかったため、被災地内のみで可能な範囲内で対応したところもあった。

2)被災地の医療

 病院の損壊・マンパワー不足・ライフライン途絶・情報不足・搬送機能麻痺などの著しい医療機能低下が実際にみられた。

3)救援側の活動

 最重視すべき立ち上がり時期の救援は遅れ、本格的な救援活動のピークは翌日になった。被災地を隣接する非被災地が救援するという急性期医療の原則を認識しておく必要がある。

<得た教訓>

1)被災地の医療活動

 機能麻痺を前提とした3Ts(triage、treatment、transportation)の原則に徹するべきである。

2)地震災害に特徴的な外傷の認識

 クラッシュ症候群などの、災害時に特徴的な外傷を予め認識しておく必要がある。

3)基幹病院の被災軽減

 最初の数時間は、被災地の基幹病院で対応しなければならないため、被災時の機能低下を軽減できるよう改善を施す必要がある。

4)医療指揮機能の設定

 立ち上がりから避難者援助まで、全体を統合して指揮する機能を設定しておく必要がある。

5)救援能力の開拓

 2時間内の救出救助を目標に、速やかで大規模の救急医療チームの設置と速やかな搬送の実現が必要である。

6)災害プランの見直し

 これまでの災害プランは広域地震には通用しない空論に過ぎず、広域地震を想定して、地域単位かつ機能麻痺を前提としたプランが必要である。

<災害看護について>

 災害時の看護は、平時の救急看護に加え災害時特有の災害看護が必要であるため、平時の救急看護のレベルと災害看護という概念の浸透度に左右される。また時系列的な検討も必要であり、被災後の時間的な経過に相応する看護が必要である。

<地震災害の医療計画と準備性>

 災害時医療のソフト面は、マンパワー・備蓄・外傷種に応じた医療行動・患者の流れ・時系列的医療援助などを焦点とする準備性(preparedness)で論じられる。地域の準備性は、地域内の各施設の準備性の総和ではなく、実効果を目標にした地域全体の全体の医療計画の中で算定される。この計画は災害に対する認識に左右される。

<まとめ>

 阪神・淡路大震災における医療の反省点は、被害想定や災害に対する認識の甘さが焦点であり、また具体性の欠落した医療計画が対応のまずさをもたらした、と推測される。看護については単なる反省にとどまらず、災害看護という視点から、今後の戦略までを視野に入れて論議されるべきである。災害看護は、平時の救急看護さらには救急医療体制がその背景となっているので、救急医療体制の地域差をなくし、レベルの高い首都圏のレベルに引き上げるのが今後への第一歩である。


災害時医療への6つの提言

渡辺岳子ほか、看護 47: 39-45, 1995


 人工島にある神戸市民中央病院では地震によりライフラインが寸断された。そのような中で看護婦たちがどのように対応したか、救急部と病棟の視点からの報告及び、災害時への対処方法についての提言をする。

<地震発生後の状況>

 地震発生とともにライフラインが寸断された。病院の建物、設備の被害は莫大で、病院としての機能は麻痺した。電気の回復は数時間後だったが、交通遮断により患者の搬送ができず、薬品、衛生材料、食物などの物資の確保も容易ではなかった。

<救急部>

 21床の病棟と、10台の処置用のベットをもつ外来を有する。深夜の対応は病棟4名、外来3名の看護婦と医師3名。地震が起きた日の入院患者は20名で、喘息発作で来院した患者が1名いた。20分で電気が消えたが全員無事であった。

 救急外来においては窓がなく光りも入らないため、縫合処置にも懐中電灯を用いて手間取った。しかし救急外来以外の当直医や、夜勤明けで仮眠中の看護婦たちも応援に駆けつけ、大混乱の中で一斉に処置が開始し、2時間弱で140名もの患者の処置を施した。前日までの3連休で、器械類、衛生材料もすぐそこをついた。そんな中で光が入り出した救急車搬入口に処置室を作ったりして対応した。エレベーターも故障していたので動けない患者は家族や職員が背負って移動するなどして外来救急の混乱を治めた。しかし普通であれば3次救急の機能を発揮することで命が助かるような患者も亡くなってしまった。

 夕方になると壊滅状態の神戸市立西市民病院から約30名の患者の転送以来があり、病棟収容が困難であったにも関わらず、仮設病棟を設置して対応した。

<病棟>

 揺れには強いといわれていたが、ベッドが壁を突き破ったり、天井の一部が落ちたり、また屋上の貯水槽破裂による水浸しなど上部階ほど大きな被害を受けた。

 病棟での問題として、1)寒さをどうしのぐか、2)食事をどうするか、3)断水の水洗トイレをどうするかということがあった。1)については患者や職員が私服に着替えて毛布を増やしたり、電子レンジで毛布を作ったりした。トイレは深刻で、排泄物による臭いなどの問題に加えて院内感染上の問題が生じる。排泄物などは新聞紙で受けてナイロンでにおいを封じたり工夫して対処した。

<まとめ>

1、 いち早い体制作りが必要

 いち早い体制作りと組織活動への転換がその後に怒る事態を左右する。

2、 物資活用のアイデア

 ペットボトルで湯タンポなどを作るなど、知恵を絞ることが必要。アイデアしだいで院内感染などの重要な問題にも対応できる。

3、 病院の構築構造の理解

 病院構造上の理解があれば起こりうる事態を予測し対応できたかもしれない。ハードシステムが稼動しない時の補助システムも考えておく必要がある。

4、 情報

 今回の地震では最大の問題となったのが情報不足である。病院には警察や消防と同じように早い連絡がほしい。

5、 心のコントロール

 患者の安全確認を一番に行い落ち着きを促すことが重要

6、 防災マニュアル、防災トレーニング

 マニュアル通りに動けることは少ないが、意識下にマニュアルがあると応用が利き、有効な機転も生まれる。

 以上のようなことを具体的に考え、今後、救急体制・患者の搬送システムにおいても各施設における看護婦間の連携の構築を望む。


第2章 数百万人が交通事故で命を落とし続けなくてはならないのか?

国際赤十字・赤新月社連盟.世界災害報告 1998年版、20-31


 20世紀は交通事故死の100年ともいわれているが、年間の交通事故死亡者数は50万〜100万人に達するとも言われている。この数字は世界で9番目に大きい死因となっている。「全世界の疾患による負担」に関する大規模な調査によれば、交通事故の長期にわたる被害を算定し、負傷の影響もすべて考慮に入れると、世界死亡・障害の表で、交通事故は2020年までに臨床的抑うつと心疾患についで3位となり、呼吸器感染症、結核、HIVを上回るものと予測されている。

 北欧諸国では、過去30年間、車の増加にも関わらず事故死亡者数が抑えられてきた。それは、交通安全キャンペーン、運転者訓練、優れた車両整備、シートベルト法規、等のおかげである。一方、南の開発途上国では交通事故死が急増しており、全世界の事故死の70%を占めるようになっていった。交通事故も、他の災害と同様に貧困層、若年層といった、特定の集団に被害をもたらしている。15〜44歳の年齢層では交通事故は男性の死因の第1位、女性の死因の第5位になっている。

 発展途上国の高い事故死の理由に医療施設の乏しさが一因であることは否めない。特に路上事故の被害者は適切な救命処置、救急車・パラメディカル処置を事故後の「黄金の時間帯」内に受けられれば、生命が助かる可能性が増大する。しかし、多くが農村地帯で占められる開発途上国では経費がかかることから、医療施設の改善は困難が伴う。

 工学(車のデザインから街路灯まで)の向上により、事故死を減少させる事は運転者の行動を変える努力よりもはるかに有効性が高い。事故を防ぐ優れた設計の新しい道路計画や、現在の事故率を低下させる対症的な方法を通じた工学と計画の向上によって、人的ミスの発生を防ぎ、またそれが発生した時の状況をより受け入れやすいものにすることができる。事故の「多発地点」に街路灯の光を当てること、道路脇の障害物を取り除くことといった、簡単に手をつけられる方策は、ほとんどの国で有効である。しかし、路面の改修や、車線の拡大などは、逆に運転者がスピードを上げることにつながるため、逆効果になることがある。しかし、上記の様な極めて低コストの方法で成功を収めることは、利用者が危険性の高い行動をとり、警察力が限定されているような国(開発途上国)では難しい。また車両の安全性は、運転者の運転態度にも依存する所が大きい。シートベルト着用率の低さ、シートベルト不良など、ある種の安全対策には抵抗があることから、エアバッグなどの自動車装備の開発が促進されているが、それがかえって危険な行動に拍車をかけている。しかも、開発途上国では多くの危険を受けやすい道路利用者が依然として道路を利用しているため、全体の死亡率や負傷率に対してこうした車両の「安全性」はほとんど功を奏さない。また、運転者の道路安全教育を必須科目に含めている開発途上国は半数しかなく、それにも問題があると考えられている。

 では、どうしたら交通事故を減少させることができるのであろうか。

 開発途上国では、交通事故の17%は車両欠陥の為であると警察がみなしているが、欠陥車を減少させるには、車両検査センターの高価なネットワークより簡便な機械を用いて行う路上検査(視認による磨耗タイヤの発見等)の方が有用性が高い。また、交通警察の訓練と配備状況の改善により、事故の発生率を減少させることができる。また、速度制限の監視強化も重要である。また、移動電話などの無線通信のおかげで、事故通報の自動化、救急救命施設への瞬時の連絡が可能になった。しかしその反面、携帯電話(開発途上国で急速に普及しつつある)の使用は衝突のリスクを生み出し、そのリスクは飲酒運転と同じほどである。

 また、街灯の数がたりず、車両のライトでは足りないような国において、道路利用者を見えやすくすることは重要である。その為に、単車を黄色で塗装したり、法律により単車のライトは常に点灯させておくといった方法がある。

 交通問題に共に対処している地域の住民や組織にとって、リスクを解明しその認識を高めること、予防対策の推進、安全に関して公衆の意識と人目による圧力を育てること、救急処置、交通リスク、交通安全の教育を通じて被害者が自分で自分を守る方法を促進することが大切である。

 開発途上国では交通が莫大に増加しているが、衝突事故の損害額は南の国々がうける援助額にも匹敵している。交通事故は経済活動を破壊することで進歩を阻害し、弱い人々にその被害が及ぶ。交通事故は、様々な疾病を上回る危害を、死亡や身体障害の形で及ぼすものと予測されている。


第6章 国際援助を圧迫する世界的傾向

国際赤十字・赤新月社連盟.世界災害報告 1998年版、67-79


 21世紀を目前にした現在、国際援助の構造やシステムから優先順位や方針に至るまでを形成していくのは財源の減少、事業成果への期待、援助の政治的統合という3つの世界的傾向である。

 国際援助は、1992年のピークを境に、その後の5年間で実質総額が17%減少し、今後さらに減少が見込まれる。他方、開発途上国に対する年間の民間投資は、この10年間で急速に増加した。その額は現在2340億ドルで、政府開発援助(ODA)の4倍にのぼっている。しかし、これらの資金の流れは援助に代わるものではなく、開発途上世界におけるわずかな有望な投資に集中しており、民間投資は基本的なヒューマンニーズや複合災害の最大被害国には向けられていない。

 ODAの減退により、DAC(OECDの開発援助委員会)は、援助の焦点を絞り、その有効性を実証しようと試みてきた。そして、1996年には、OECDの閣僚らが、「21世紀を形作る:開発協力の貢献」を承認した。このビジョンは、人々が安全で生産的な生活を営める安定した国際秩序の構築をめざすことによって、戦闘、大混乱、貧困に満ちた未来を防止するため、開発協力が果たすことができる役割を概説している。現在では援助機関は援助に関して明確かつ達成可能な目標を設定し、その成果を示すことで脆弱な基盤にたつ公的・政治的支援を維持しなければならない立場におかれている。そこで、貧困と政情不安との関連性に注目し、人権・政治・紛争防止を推進する上で援助が果たす役割を探究し始めた。

 援助の経済的重要性が量的、質的に低下するにつれ、援助と開発協力に関する政策を外交関係という主流へ統合させることが、この10年間の主要な傾向となった。10年前は、ほとんどの政治家が、当時は軍事的意味合いの強かった"安全保障"と援助とのつながりを認めていなかったが、ソマリアやハイチで起きた紛争によって、貧困・脆弱な市民社会・政情不安との間の関連性が実証された。行政の立場では、救援、災害予防、復興、開発から民主化に至る流れを一連のものとしてとらえ、省庁のつながりを重視しはじめた。現場では、外交官、軍人、NGOなどの援助機関スタッフが互いに協力しあっている。今や、援助は、経済的に貧しい国々が国際経済に組み入れられるように支援することに始まって、地球環境への脅威の低減に至るまで、国際化された様々な難問に対処する上で重大な役割を果たすことを期待されている。

 国際化された世界において、持続可能な開発に強い影響力を及ぼしたいと願う援助国は、援助政策と防衛政策の間に一貫性が必要であると認識するようになった。同様に、援助を通じた介入と政治的関わりは、複雑に絡みあっているとみなされている。複合災害における経験は、冷戦後の外交政策と開発協力の統合という援助の傾向に拍車をかけている。援助戦略では、政治的対応、外交、緊急援助、開発を統合させる必要がある。これらの変化は、援助各国が複合災害に対する政治的解決策の模索にますます重大な関心を寄せつつある傾向を反映している。

 多くの国々では、赤十字・赤新月社とNGOが緊急援助資金の主要な受け皿となってきた。これらの援助機関は、緊急援助資金の執行だけでなく、政策対話、一般市民への啓蒙活動、紛争解決にも携わっている。NGOは、国家に積極的な利点を提供し、政府組織を経由しないで被災民に直接働きかけることができるとみなされてきた。緊急時に援助が流れ込んだという結果から、南側諸国ではNGOの数が大幅に増加した。

 しかし、政治的な面への関心が増大するにつれて、NGOの役割は次第に不確定になっている。NGOは実質的には国家から資金提供を受けていることが多いが、政治的に緊張した情況での一国のNGOの活動によって、政府の外交政策が形成、促進される可能性があり、政府がその援助を政治戦略や軍事戦略に組み入れることによって、NGOのあらゆる人道的性格が破壊され、信頼性を失う可能性があるためである。

 政治的影響を最大限追求するようになった政府は、その政治的事情に対する理解を、企業のようなより中立的な、あるいは柔軟な展望から深めてくれる他のパートナーを捜し求める可能性がある。あるいは、南側諸国における新たな援助機関のように、サービスプロバイダーとなる意志をもったNGOに対してより大きなサポートを開始することも可能となった。財源の減少、高い達成能力への要求、政治的統合という3つの傾向は、すでに既定のもので、最近ではそれが急速に進んでいることが示されている。そのため、多くの援助機関は、低コストで高品質な統合的援助を提供しつつ、独立性を保つ、あるいは諸機関が連帯して正義のために行動をとることを求められている。

 今後の課題としては、援助が最大限何をできるのか、どうすれば援助を改善できるか、誰が将来援助を実行するのか、の3点である。現時点では、被援助国、援助国、世界各国のNGO、多国籍機関の力量をどのように組み合わせるかについては、未だにコンセンサスが得られておらず、早急な課題となるだろう。


大事故災害:第18章 搬送

小栗顕二・監訳、大事故災害の医療支援、東京、へるす出版、1998年、p.122-7


 搬送は、大事故災害での医療支援のヒエラルヒー(triage, treatment, transport)の第3段階であり、医療サービスの指揮系統や統制の基本的な仕事の1つである。トリアージと処置の決定はどちらも搬送に影響する。大量の避難に対し、その行き先や搬送手段はこれらの初期の決定により規定される。

組織

 搬送を円滑かつ効率的に行うことは重要であるが、そのためには避難のための搬送の連携と現場での負傷者の移動を考慮しなければならない。つまり救急車の周回路(外側警戒線進入路→救急車駐車区域→救急車搭載点→搬出路)と患者の流れ(負傷者避難救護所→救急車搭載点)をどちらも効率的に組織化することである。

 避難救護所を介さない患者を含めて、患者の避難順序はトリアージ分類とその他の要素による。トリアージのふるいわけで優先度3(猶予、自力歩行可能)とされた被災者達は救急車搭乗場所に直接移動する。優先度1(即時)や優先度2(緊急)のストレッチャーでの搬送者は、避難救護所に運ばれ、そこから搭乗場所に移動する。図1の避難方法が搬送には患者の流れがもっとも効率的なので薦められる。最初の避難者は優先度3(猶予)の人たちで救急車を使用しないで病院へ搬送しうる。この場合、優先度1(即時)の人たちが様態安定化のために避難救護所に運ばれている間や救急車が現場へ急行している間のことである。これらの救急車が到着するまでに、優先度1(即時)の患者の搬送準備を完了させる。優先度4(待機)の患者は、優先度1の患者のあとで、優先度2の患者の前にその搬送を考慮する。

避難決定

 特定の患者を現場から移動する前に3つのかぎとなる決定がある。第一にトリアージの優先度、第2は処置と避難用器材の準備状況、最後は搬送先である。

 搬送先については、救急隊災害担当官が責任を持ち、専門医のいる施設を必要とする負傷者は、現場から直送されるべきである。処置と搬送準備は、搬送可能となる最低限のものに限られるべきである。

搬送方法

 搬送の必要性と可能性を評価する際に、救急隊災害担当官は搬送手段の選択の基準として3つの要素を考慮する必要がある。1収容能力、2有用性、3適性である。

 救急車は搬送能力の中心をなすが、他の乗り物が、状況に適している時は使用されるべきかもしれない。

 ヘリコプターはその役割は少ないが、特殊な状況下(路上搬送が不能な場合)では非常に貴重である。注意しなければならないのは、着陸地点から病院までの二次的搬送の危険性が短時間飛行のあらゆる利点を上回ることである。


■救急・災害医療ホ−ムペ−ジへ/ 災害医学・抄読会 目次へ