個人、家族、コミュニティーのもっとも基本的なニーズの1つは、安全で快適な 生活空間である。緊急項目としての避難所は「家」である。家は防護手段であり、安 全で、プライバシーが保たれ、環境から守ってくれるものである。家並みはコミュニ ティーを構成する。このような広範なニーズは、避難所を計画し、提供する上で、数 平方メートルの生活空間と水の入手のための用件と同様に重要である。
B 人々が別の場所へ避難し、その受け入れ側地域社会に留まる場合
避難民が、家族あるいは歴史、宗教その他の絆を共有する人々とともに受け入れ 先の地域社会に吸収された場合は、事態はスムーズに運ぶ。
地元の人々と避難民の双方が実質的に災害の被災者であるため、政府や担当機関 は、必要性に応じて全住民に対して援助を提供する必要がある。
安全の問題、環境に対する長期的作影響、さらに避難所、診療所、学校、商店の すべてを共有することができれば、援助に総合的に取り組むことができ、被災者が自 分の家に戻った後も受け入れ側地域社会にポジティブな影響を持続的にもたらす可能 性がある。
C 人々が集団で別の場所に避難し、その集団のままそこに留まる場合
受け入れ側政府がキャンプ地を選定する場合が多く、通常水辺や衛生設備のある 箇所に設置される。
将来のキャンプ地と定住地の最初の選定は、その後の環境ダメージに関するアセ スメントを実施し、環境管理分野の専門家に相談することが必要である。緊急を要す る段階では通常生命を救うことに重点が置かれるが、有効な環境アセスメントと事業 計画は、救援活動の全期間を通じて環境に及ぼす結果の質と全体コストを決定する上 で重要な決め手となる。
したがって、キャンプでは女性とその安全確保には特に配慮しなければならない 。女性はキャンプの同じ場所にグループで生活させ、夜間は地元の警察によってキャ ンプ内をパトロールする必要がある。
既存の家を使用することは、常に最前の短期的解決策であり、それが利用できな い場合は、シート、テント、仮設住居、安定した煉瓦でできた建造物が利用可能であ る。被災者自身が持つ既存の建造物を修理するか、または受け入れ家族の施設を拡充 することを優先実施すべきである。
環境を損なうことなく、不慮のけがや疾病を減少させ、安全性、人間の尊厳、プ ライバシーを尊重するためには、避難民が家族のために十分な避難所を得なければな らない。家庭には、肉体的安全と精神的安全、プライバシー、気象からの保護が必要 である。
家族ごとの避難施設は、複数家族の共同避難施設よりもよい。たとえ大型テント にいくつかの家族が収容されていたとしても、生活空間を家族単位のセクションに分 けることは可能である。人間の尊厳と各家庭の特性を重んじるなら、人々が自分のも のだといえるスペースは必要であろう。
家を出てきた避難民家族には、家事用品(ストーブ、鍋、バケツ、洗面器、スプ ーン、皿、コップなど)や清潔に保つための石鹸を提供する必要がある。
避難所は、水、食料、医療と並んで、災害の初期の段階において生き残るための
決定的な要素である。避難所が、人々の心の状態、病気に対する抵抗力、環境に対す
る防御力、家族の生活を支える能力に影響力を及ぼし、それによって人々が生き残る
チャンスを著しく増大させることができるのだ。
医師8名(麻酔科3名、脳外科2名、整形外科1名、外科2名)を市立芦屋病院へ派遣し、治療ならびにトリアージを行い、1月18日19名が大阪市立大学医学部附属病院へ緊急入院した。
1月20日と21日にクルーザーによる海上搬送で六甲アイランド病院よりクラッシュ症候群を含む腎不全患者6名を緊急入院させた。うち1名は緊急血液透析後、和歌山医大高度集中治療センターへ転送した。
大阪市立大学医学部附属病院のICUは8床、救急病棟は18床である。市立芦屋病院からの患者のうち、重症の6名は救急病棟へ入室させ、軽症と思われる患者は整形外科、脳外科のなどの病棟に振り分けた。患者振り分けは救急部の医師が行い、各病棟との交渉は医事課が行った。呼吸不全、ショック、クラッシュ症候群などの最重症患者計4名はICUに入室した。一般の術後患者はできるだけICUに入室させない、あるいは状態が安定すれば速やかに各病棟へ帰室させることで外科系各科と合意した。1月18日〜21日の間のICU入室患者は計11名であり、クラッシュ症候群7症例、人工呼吸患者4症例であった。この間ICUは常に満床であったが、患者の入・退室は頻繁であり、19日2名入・退室、20日4名入・退室、21日1名入・退室した。このようにICUを核として患者をうまく病棟、関連病院に振り分けることが災害時の救急医療において重要である。
大学病院はベット数が多く、人的資源も豊富であり、診療科も多い。一般に満床率は高いが、多くの関連病院を持っているので、患者移送を円滑に行えばその収容力は大きいと考えられる。災害時に大学病院を基幹病院として、各救命救急センターとの緊密な連絡のもとに救急医療を行うことが重要である。
到着後、高カリウム血症を呈した症例は6例であり、血清カリウム値 6 mEq/L以上の4症例に対してブドウ糖/インスリン持続静注ならびに緊急血液透析を施行した。また8症例はすべて急性腎不全の状態にあった。到着時の BUN 48 - 111 mg/dl、血清クレアチニン 1.9 - 9.6 mg/dl であり、8名中6名は乏尿であった。非乏尿患者2名は輸液、利尿薬、ドパミン持続静注により尿量の増加を認めたが、6名の乏尿患者は尿量の増加を生じなかった。結局8症例すべてが血液透析を必要とした。死亡症例はなく、全ての患者が血液透析から離脱した。入院後20〜52日で血清クレアチニン値は正常となった。
受傷部位より末梢の動脈拍動を触れなかった4症例に対し、全身麻酔下に緊急筋膜切開術を施行した。術後拍動が再開したが、呼吸、循環動態、電解質値に変化はなかった。感染なども生じず6〜8週間後に創を閉鎖することができた。患肢の切断を必要とした症例はなかったが、筋力低下、知覚異常がすべての患者で続いている。
今回の症例におけるクラッシュ症候群の特徴は意識レベルはほぼ正常であり、循環動態が安定しており、代謝性アシド−シスを認めなかったことである。このため高カリウム血症の状態でありながら、患者は一見正常のように見えた。
今回の8症例では血清クレアチンキナーゼ値と血清カリウム値の間に強い相関があり、筋細胞崩壊により血清カリウム値が上昇したことが示されている。一方、カリウム値と血清クレアチニン値は有意な相関を示さなかった。またミオグロビンは筋損傷の鋭敏な指標であると言われているが、今回の症例では血清ミオグロビン値と血清カリウム値ならびに血清クレアチニンキナーゼ値に有意な相関が見られた。
阪神淡路大震災は平成7年1月17日午前5時46分に発生した兵庫県南部を震源とするマグニチュード7.2の大震災で、最大震度7を記録し、日本で初めて近代的な大都市を襲った直下型地震である。この地震による死者は6,400人を超え、全半壊20万戸という未曾有の大災害をもたらした。
2.患者資料保存:
患者保存資料のうち現物保存を行っていた資料は破損ないし、散乱し、ビデオテープも含めて、全て壊滅状態であった。
フロッピーディスクをデータベースとする電子ファイリングシステムを用いた資料は破損を受けることはなかった。
3.スライド標本:
病理標本や血液像は、多くが破損してしまった。
4.患者血清保存:
血清を3〜4ヶ月保存していたが、水冷式冷凍庫のため、水の供給ができない原因で、全てこれらの試料は使用不可となった。
自動機器を中心に機器のほとんどすべてを電気に頼っている。震災後挫滅症候群の診断を始め、被災者の救急対応にとって検査の重要性は周知である。特に緊急検査室には停電しても自家発電が作動するように空冷式に変更した。
断水対策:
水を必要としない緊急測定機器を常備して置く必要がある。
医療機器対策:
床にボルトを打ち込んで機器を固定するのが望ましい。緊急検査に必要な機器(自動化学分析器、自動血球計算機、交差試験関係、心電計、超音波装置)にはバッテリーなどを搭載し、それが数日間使用できるものが望ましい。しかし、実際には自家発電コンセントの確保が先決であると考える。冷蔵・冷凍庫は固定の必要があり、水冷式から空冷式への変更が望ましい。水を必要としないドライケミストリーが開発されているが、ランニングコスト等でなかなか導入されていない。震災当初は、医療機器メーカー並びに代理店も被災したため、連絡がとれず、早期の点検修理が困難であったので、充分に話し合う必要がある。
患者試料保管対策:
電子ファイリングシステムの利用も一例としてあげられ、現物保存の試料については、保管庫等の転倒防止金具や耐震マット等の設置が必要である。
連絡網対策:
電話以外の連絡方法を考えておく必要がある。
【トリアージとは何か】
患者の医療優先順位を決めるための医学的ふるいわけ
【目的】
負傷者数が、即時に対応できる習熟した対応人数を上回る場合に、大多数の患者に最善の診療を行うこと。
【優先順位】
優先度1(即時):救急治療を直ちに必要とする傷病者
【選別】
○第1段階:ふるい分けトリアージ
歩行可能 = 優先度3(猶予)
○第2段階:選別トリアージ=より丁寧な再度のトリアージ
*トリアージ用外傷スコアー Triage Revised Trauma Score
呼吸数・収縮期血圧・Glasgo Coma Scaleの3つの観察項目を点数化し、分類する。障害の性質は全く加味されない。
【トリアージラベル】
非常に目立ち、容易にかつ強固に付着し、優先度の変更が可能なもの。
【トリアージの構想】
図―省略
大事故災害が発生すると、非常に多数の負傷者や病人に対し、処置を施さなければならない。処置の内容は、事故災害発生直後から救急隊員の到着までの間にその場にいる人によって行われる初期処置と、救急隊員らが到着してから行われる処置に分けられる。
事故災害現場での処置の目的は、受傷前の状態に戻すことにあるのではなく、十分診察され治療を受けられる施設への移動に十分耐えうるようにし、安全に病院に到着できるようにすることである。
そしてまた、これらの応急処置の大部分は、事故現場で事故発生直後数分以内に始められるものである。
ここでの、医療対応の管理には (1)トリアージ、(2)治療、(3)搬送といった、医療支援の順序を忘れないことが必須である。そして現場で施される処置の程度はトリアージの優先度(患者の治療優先順位)に対応する。
緊急サービス部門が到着し、医療サービスの指揮命令系統が構築されると、高度な救護活動は、負傷者避難救護所で行われる。緊急サービス部門の人々は全て救命応急処置の訓練を受けており、特別な技術をもっている。そして、これらの人々は救急救命訓練が適切な水準に達していることを認定されている。
したがって、現場での処置は気道、呼吸、循環に関した処置に限られる。また、脊椎損傷がある場合には、増悪しないための処置が必須である。
以下に具体的な処置を示す。
a.気道
基本的処置として、下顎挙上、顎突き出しによる気道の開通があげられる。高度処置としては、口・咽頭エアウェイ、鼻・咽頭エアウェイ、経口気管内挿管、外科的なものとして輪状甲状軟骨穿刺、輪状甲状軟骨切開術があげられる。
b.呼吸管理
基本的処置としては口対口換気、口対鼻換気がある。高度処置としては、口対マスク換気、バッグ-弁-マスク換気、胸腔穿刺、胸腔ドレーン留置があげられる。
c.循環
基本的処置は、外出血処置である。高度処置としては、輸液準備、末梢静脈路確保、中心静脈路確保、骨髄内輸液、除細動があげられる。
d.脊椎
基本的処置としては、用手的頚椎固定である。高度処置は体位変換、頚椎カラー装着、脊椎板装着、迅速救出があげられる。
最後に、大事故災害時の問題点の一つとして指揮者の欠如があげられている。事故現場においてはトリアージや指揮をすることよりむしろ治療の必要性を感じるものである。しかし治療は階層的な医療援助の第二段階であり、第一段階であるトリアージによる治療の方向付けが絶対的に重要である。
阪神・淡路大震災と集中治療:大阪市立大学集中治療部での受け入れの状況
行岡秀和、ICUとCCU 1995 6 19, 499I 災害医療について
II クラッシュ症候群について
地震に対して器械はこうあるべきだ
―臨床検査技師の立場から―
田中千鶴見ほか、医器学 67: 62-7, 1997震災の影響
1.医療機器(破損機器)施した対策
復旧・回復状態
今後の対策
停電対策:まとめ
医療機器、コンピュータ関係、冷蔵庫類、試薬棚は固定し、動かないようにする。生理機能検査等の画像やパターンのデータも光ディスク等をデータベースとする電子ファイリングシステムを用いた試料保管を勧めたい。さらに重要なことはライフライン確保があれば、現状の機器を臨機応変に使用することで対応できるのではないかと思われる。大事故災害:第16章 トリアージ
小栗顕二・監訳、大事故災害の医療支援、東京、へるす出版、1998年、p.107-16
優先度2(緊急):4〜6時間以内の加療を必要とする傷病者
優先度3(猶予):数時間以内の加療を必要としない、余り重篤でない傷病者
優先度4(待機):非常に重篤な損傷のため、現状では生存し得ないか、他の多くの傷病者の治療ができない程大量の医療資源の投入が必要な傷病者
歩行不能 → 気道確保下の自発呼吸なし = 死亡
気道確保下の自発呼吸あり → 呼吸数 <10,>29/分 = 優先度1(即時)
呼吸数 10-29/分 → 毛細血管再充満 2秒以上 = 優先度1(即時)
毛細血管再充満 2秒未満 = 優先度2(緊急)
+
時間・状況が許す限りの解剖学的情報大事故災害:第14章 現場での医師および看護婦
小栗顕二・監訳、大事故災害の医療支援、東京、へるす出版、1998年、p.94-81)事故直後の初期の応急処置
大事故災害時において、事故災害直後の最初の処置は、事故災害が起こった時にすぐ近くにいた人によって行われる。また、自身も負傷している事故の生存者である可能性もある。事故直後の応急処置を行う人は基本的な応急処置の訓練を受けている可能性もあるが、このような事態に不慣れな人による場合が多い。2)救急隊員による応急処置
救急隊員が事故現場に到着することにより、本格的な高次救命処置が可能となる。救急隊員には、病院外での全ての処置を行う全般的な責務がある。さらに救急隊の業務は、現場に送り込まれた医師や看護婦により追加補足される。3)現場での処置
ほとんどあらゆる処置が病院到着前までに行われる。処置の目的はあくまでも病院への負傷者の安全な搬送にあり、実施される処置の程度は搬送が可能であることが確認された者に限られるべきである。