災害医学・抄読会 990319

阪神淡路大震災−その時に麻酔科医は?!−:1.震災の中にあって

加藤浩子、臨床麻酔 19: 944-9, 1995


 病床数1000床で神戸市唯一の救命救急センターである市立病院での災害当日からの状況を麻酔科医の視点で伝える。

1:医師の行動

 個人的判断により近くの病院で患者のトリアージや治療に参加した医師もいたが、多くの医師は情報の欠如や病院との連絡不能、交通遮断により出勤できなかった。

2:手術室とICUの被害状況

(1)建物の破損
手術室では室内照明用の天井灯を被うパネルが各部屋で数枚落下し、14室中5室で外周廊下側の自動ドアー開閉不良または不可になった。集中治療部は4つの柱があり、柱を中心に6角形のベッド配置をしているが、構築物の損傷はなかった。

(2)医療機器の倒壊

麻酔器2台、人工呼吸器2台転倒、体外循環用モニター1台が転落断線。
集中治療部ユニットに配置していた医療機器の転倒はなかった。その理由として柱を中心に6床ずつ放射状にベッドを配置していたことが考えられる。

(3)ライフライン(電気、水道、ガスなど)の中断

地震発生直後、停電となり自家発電装置が稼働したが、断水のために自家発電装置の冷却水がなくなり20分で停止した。
圧縮空気の供給が絶たれたため人工呼吸器も作動しなくなった。
吸引装置は自家発電が停止した時点で停止したが、コンプレッサーが空冷であったため断水の影響を受けず、電気が回復した時点で使用可能となった。

3:断水中の医療

電気はあるが水とガスのない状況での医療

患者の給食・排泄物の処理・病院の暖房

(1)手術室での問題点と対応

  1. 空調と暖房→なしですました
  2. 手洗い→給水を使用し簡易型のフィルターと汲み上げポンプつきの装置
  3. 高圧蒸気滅菌→業者委託

(2)手術状況(震災当日から42日間)

救急手術は111例でうち麻酔下管理を行ったのは65例

Table. Sixty-five cases of emergency surgery which underwent under the circumstances of neither water nor steam supply

Cardiovascular - 2Rupture of abdominal aortic aneurysm 2
Orthopedic - 26Fracture22
Amputation of lower limb1
Others3
Abdominal - 29Ileus7
Perforation of upper GI tract5
Intraabdominal bleeding4
Acute cholecystitis3
Acute appendicitis2
Cancer5
Others3
Obstetric and Gynecologic - 4Cesarean section3
Ectopic pregnancy1
ENT - 1Pharyngeal fistula1
Plastic -1Burn1
Neuro - 1Acute epidural hematoma1

(3)震災外科

{救急外来}

 当初は四肢の骨折、鎖骨・肋骨骨折とそれにともなう血気胸、脱水による急性腎不全などが主であった。その後、ストレスが関与していると思われる消化管出血、肺炎などの呼吸器疾患が多く見られるようになった。

{手術}

 骨折が最も多く、急性腹症(胃・十二指腸潰瘍の穿孔)、精神障害に随伴した自殺行為による外傷が通常より多かった。

災害対策

(1)病院全体としての対策

  1. 病院そのものが被災した場合の対応で、ライフラインの中断における医療、自給体制、病院機能完全停止時の対策(退院、転院)

  2. 災害により多くの負傷者を受け入れる時の対応で自然災害、人為災害の内容に応じたトリアージ体制と治療マニュアルを決めておく

  3. 直ちに医療救護班を派遣しなければならないときに備えるもので器財・薬品の調達法、チーム偏成、救急処置のマニュアルを作成しておく

(2)手術室における災害対策

 麻酔科医は日頃から手術室や集中治療部での防災対策を検討し、訓練する必要がある。

  1. 院内における各種医用ガスの供給システム、シャット・オフ・バルブの周知徹底をさせる
  2. 完全停電を想定した訓練をしておく
  3. 医療機器や器具は異なる動力源のものを複数保有しているのが望ましい
  4. 避難路の確認


避難所の救護医療とその問題点

石原亮介、外科診療 37: 1423-30, 1995


はじめに

 阪神淡路大震災における医療問題は大きく分けて二つに集約される。一つは震災直後から72時間にかけての災害医療における初動の問題であり、これには重症患者の救出、救急処置、トリアージ、輸送などの問題が含まれる。第二の問題点としては、被災者が劣悪な避難環境におかれたが故に発生した疾病とそれへの救護活動についてである。

震災直後の医療活動

 震災直後、地元開業医、地元在住医師らのボランティア活動により医療活動が開始された。震災翌日深夜以後よりようやく公的機関による組織の立ち上げが始まり、医薬品、水、食料の配布が始まったが、大避難所のみに限られていた。避難所を中心とした救護医療体制が完成するには、多くの自治体、大学を中心とした救護医療チームが配置に付くまでのおおよそ一週間を要した。この様に震災直後の地域医療体制は地域社会の崩壊とともに麻痺状態に陥り、平時のシステムはほとんど作動せず各病院、各個人の独自の活動によって支えられていた。

避難所の設置と救護所

 避難所は自然発生的に小中学校、地域福祉センターを中心に形成されていった。避難民を対象とした医療活動は当初は地元医師ボランティアによって散発的に行われたが、徐々に自治体、大学派遣救護班に置き換わっていった。これに日赤救護班、自衛隊救護班の巡回が加わることになる。組織が災害規模を把握し、救護班の派遣を決定し、組織化し、実際派遣するまで約一週間の時間を必要とするのである。比較的早く対応できたのは指導者(理事長・院長)がイニシアチブをとりやすい民間医療法人組織であった。

 救護班の配置過程においては行政サイドの対応職員の少なさ、情報不足から来るトラブルが見られたことも事実である。また、一部の情報ボランティア、組織においてもこの様な大災害における訓練不足、経験不足、軽躁的心理状態からくる混乱があり、これに拍車をかけたことも事実であった。

保健医療活動と福祉活動の連携

 特に高齢者を中心とした社会的弱者への対応は危機的状況においては遅れがちとなる。震災後10日を経て、保健婦、ボランティアの手で避難所及びその周囲におけるそれら社会的弱者の把握がローラー作戦としてようやく開始された。高齢者世帯、独居老人は体力的に物資の確保が困難であり、物資の宅配の必要性がある。老人では慢性疾患患者が多く、薬剤を希望するものが多いにも関らず、情報不足、体力のなさから不安を抱えながら生活している。このローラー作戦は地域医療体制への移行過程、移行後も地域医療保険福祉活動の主役としての役割を果たし続けている。

救護所医療の実態

 震災直後は外傷が、その後は呼吸器感染症患者が多数受診し、さらに喘息悪化、消化器症状、不眠等の不定愁訴が多く見られた。震災直後の混乱が落ち着くにつれ、高血圧、心臓疾患、肝臓疾患などの慢性疾患患者が従来処方されていた薬を求めるようになった。救護医療後長期化するにつれ呼吸器感染症への対応、慢性疾患に対する予約が二大業務となっていった。冬季に暖房施設のない避難所生活ではこの様な現象が見られるのは当然であり、これが夏期であれば食中毒などの大量発生が見られたであろう。

 開業医の立ち上がりに比し、地域中核病院は順調な回復を示したが、問題は、市民がその受け入れ体制に関する正確な情報と、アクセスの手段を失っていたということである。

地域医療司令部としての保健所

 保健所が地域保険医療の司令部として機能し得た最大のポイントの一つは地域医療システムを熟知し、地元医療機関との仲立ちができることであった。速やかな司令部機能の確立と、従来の固定観念にとらわれずに行動し得るコーディネーター機能の存在の重要性が改めて紹介され、これらが行政組織と両輪のごとく機能して初めて速やかなかつ効率的な危機管理が行われるのであろう。


災害医療における中毒情報センターの役割

大橋教良、外科診療 37: 1457-62, 1995


 化学災害とは、何らかの原因により環境中に放出された化学物質により同時に多数の急性中毒患者が発生する事態を指す。我が国では化学災害自体に対する認識が未だ十分とはいえず、したがって化学災害における中毒情報センターの重要性も広く知られているとはいえない。そこで最近の我が国の化学災害の現状と、中毒情報センターの役割について概説する。

<我が国の化学災害の現状>

 我が国では死者5名以上、または死傷者15名以上の多数傷病者搬送事例が、1992年度より1995年9月までの3年6ヶ月の期間に、81件発生している。このうち最も頻度の高い集団災害は大型の交通事故で54件であるが、次に多いのが化学災害の10件で全体の約13%を占めている。

 このように化学災害、あるいは何らかの化学物質が関与したために多数の傷病者が発生したと推定される事例は我が国では年に3〜4件程度は発生していることになり、決してまれな事態ではなく、むしろ2,3次救急医療機関では常に化学災害による被災者の来院を予測すべきであるといえる。

 これらの化学災害の発生要因としては、労働災害に属するもの(4例)、テロ(2例)、搬送中の事故(1例)などが重要であると思われる。

 産業事故あるいは労働災害は化学災害の発生要因としては最も一般的であり、産業事故では単に化学物質が流出するだけではなく、火災や爆発を伴うことが多いので、治療に当たっては急性中毒のみならず広範囲熱傷や多発外傷の合併にも注意を払う必要がある。

 化学物質運搬中の事故も化学災害の発生要因として重要である。最近の我が国の例では1例であるが、大量の可燃物、毒、劇薬に相当する化学薬品が高速道路網や鉄道を利用して、沿線の各消防本部がその実態を把握するのが不可能なまま運送されているのが現状であり、社会的にはきわめて重要なことと思われる。

 テロの2件は松本市サリン事件、東京地下鉄サリン事件であり、化学兵器が平時における無差別テロに使用された点で特異的である。しかし世界的にみれば紛争状態にある地域では枚挙に暇が無く、戦争やテロは化学災害の発生要因として重視されている。

 また、上記のような状況だけではなく、日常生活の中の思いもかけない状況下で化学災害、あるいは何らかの化学物質にによると思われる急性中毒患者が集団発生している事例にも注目する必要がある。

<化学災害と中毒情報センター>

 化学災害に対処するためにすべての医療機関が自ら化学物質に関する膨大な資料、情報を常時保有しておくことは事実上不可能である。むしろ、化学災害発生時に各医療機関が必要な情報を、いつでも速やかに入手できるような救急医療支援体制としての情報ネットワークを全国的に整備することが合理的かつ現実的である。我が国では各種の化学物質に関する情報を扱っている官公庁や公的機関はいくつか挙げられるが、このうち24時間体制で一般市民や医師に対して中毒情報を提供しているのは日本中毒情報センターだけである。

<地下鉄サリン事件における中毒情報センターの活動状況>

 地下鉄サリン事件は1995年3月20日に東京都内の地下鉄3路線5列車内で何者かがサリンを発生させた事件である。翌3月21日正午の集計で都内257医療機関を受診したサリン患者総数は死亡8名を含む5426名であり、そのうち1057名が入院した。

 この際、3月20日の日本中毒情報センターへのサリンに関する問い合わせは合計143件あり、そのうち医療機関からのものは125件であった。また、事件発生後5日間では合計212件のサリンに関する問い合わせがあり、そのうち156件が医療機関からのものであった。日本中毒情報センターに問い合わせをしてきた都内の医療機関のうち患者の診療数を確認できたものは56病院であり、この56病院全体で3207名のサリン患者が治療されていた。

 このように大規模な化学災害では、迅速な情報提供が非常に多数の患者の治療に影響を与える可能性がある、という意味で化学災害時の中毒情報センターの重要性が理解できると思われる。

<化学災害時の中毒情報ネットワークの今後の展望>

   現時点では化学災害発生時の第一報をいち早く中毒情報センターに送るシステムが確立されていないため、必ずしも迅速な対応ができないこと、中毒情報センターから各医療機関への情報伝達も電話もしくはFAXによるため、同時に多方向への速やかな情報伝達に限界があることなどが問題点として挙げられる。そのためパソコン通信を利用した情報提供システムを併用したり、各機関同士の連絡システムの確立が現在検討されている。

<まとめ>

 我が国では化学災害=中毒情報センターという概念はまだ一般に確立されているとはいえない。前述したように中規模の化学災害は毎年日本のどこかで必ず発生しており、救急医療においては常に化学災害に対応できる体制を整えておく必要があると共に、救急医療支援体制の一環としての化学災害時の中毒情報ネットワークの早期の確立が望まれるところである。


大事故災害:第13章 医療における命令と統制

小栗顕二・監訳、大事故災害の医療支援、東京、へるす出版、1998年、p.82-93


1. 医療活動の統制

 医療活動は救急隊災害担当官および医療災害担当官によって構成され、これら2人の担当官は、 お互いに密接に連絡し合うと共に消防および警察の担当官とも密接に連絡し合う。

(1) 救急災害担当官

 現場での救急に要する資材人員の供給の任にあたり、直接患者治療にはあたらない。医療災 害担当官や消防、警察各災害担当官と連絡を取り合ったり、他の救急隊担当官に重要な仕事を 委任する。

(2) 医療災害担当官

 現場における医療資材・人員の調達にあたる医師で、直接患者の治療にはあたらない。最も大 切な仕事は、現場での医療資源の調整をすることで、現場にやってきたすべての医師や看護婦 に仕事を担当させ、トリアージが迅速、正確、かつ繰り返し行われるようにし、最適と思われ る治療がすべての傷病者に行われるようにする。

(3) 看護災害担当官

 2つ以上の看護婦を含む医療チームが現場にいるときに任命され、現場にいる看護婦たちの 混乱を判断し、最適な治療地域へ割り当てる。決して移動医療班の一員にならず、直接患者治 療にはあたらない。また、鎮静薬を医療スタッフに対して分配する責任を持ち、各人に渡され たアンプル数の記録を保管する。

2. 救急隊と医療サービス部門の活動場所の計画

(1) 救急隊司令所
 移動式の指令車であり、常に灯った緑色灯で判別される。ここは医療関係の資材や人員がど のように展開し官制されているかの中心であり、同時に現場での通信手段の供給も行う。

(2) 前線指令所

 事故災害の作戦区域のすぐ近くか、中にあり、携帯通信手段を持った前線災害担当官が直接 指揮できるように設定されている。

(3) 救急車駐車区域

 救急車が救急車搭乗地点にくるように呼ばれるまで待機する場所である。

(4) 負傷者避難救護所

 救急隊と医師双方の災害担当官によって安全、交通、避難所、広さを考慮し設定され、傷病 者のトリアージと治療を行うことがその目的である。

(5) 救急車搭乗地点

 救急車が負傷者を負傷者避難救護所から病院へ搬送するために収容する場所である。

3. 救急隊の命令と重要な役割

 大事故災害時の命令と管理を容易にするために、救急隊は標準的に組織された命令組織を作って いる。

(1) 第一現場到着隊員

 大事故災害時の最初に現場へ到着する救急隊員は、通常、パラメディックと、救急隊員から 成り立っている。パラメディックは、より上級のパラメディックか救急隊幹部が現場に到着し て任務を取って代わるまで、救急隊災害担当官の任務を果たさなければならない。第一現場到 着隊員が患者治療に巻き込まれてはならないのは絶対に重要なことである。

(2) 救急隊安全担当官

 救急隊災害担当官に対して、医療関係者が全員適切な防護服を着ているかどうか確認するな どして、現場にいる医療関係人員の健康と安全を確保する。

(3) 現場情報連絡担当官

 現場での救急係官や医療スタッフとの情報伝達そして他部門の緊急チームとの情報伝達を供 給し、調整する。救急隊指令所から指令を送る。

(4) 前線救急隊災害担当官

 救急資材人員の管理について救急隊災害担当官に責任を持っている。前線救急隊指令所から 仕事をし、事故災害の作戦地域における救急隊災害担当官の目となり耳となっている。

(5) 負傷者避難救護所担当官

 救急隊災害担当官や医療災害担当官と連絡をとって、負傷者避難救護所を設定する。設定に あたっては、治療場所を供給するということが最優先である。

(6) 救急車搭載担当官

 救急車搭載地点で、警察と連絡をとって救急車の適切な順路と出口を確保できるようにした り、負傷者が優先度にしたがって搬送されるように努めたりする。

(7) 救急車駐車担当官

 救急車駐車地域で、車両類の最も有効な使用ができるようにしたり、適切な救急隊員を必要 としている現場へ送り込む。

(8) 一次トリアージ担当官

 最初に患者と接触する地点での傷病者のトリアージを監督する。

(9) 装備担当官

 全体をみて、現場に運ばれた装備に加えて追加の装備を供給する。

4. 医療サービスの命令系統

 医療サービスに配属された人員に対する命令系統は、救急隊によって作られた命令系統を補足す る。

(1) 前線医療災害担当官

 この医師は、作戦地域にいる医療災害担当官の目であり耳である。患者治療は直接担当せず、 ある病院からきた医療チームと個人でやってきた初療医の監督をする。前線救急隊災害担当官 と密接に協力して仕事をしなければならない。

(2) 二次トリアージ担当官

 この医師は、負傷者避難救護所担当官と一緒に避難救護所にいて、トリアージを監督する。

(3) チームリーダー

 各々の移動医療班や移動外科医療班のリーダーは、直接そのチームの安全に関して責任を持 っている。チームリーダーのみが任務を受け、チームのメンバーはリーダーから役割分担を受 ける。


大事故災害:第12章 現場での指揮と統制

小栗顕二・監訳、大事故災害の医療支援、東京、へるす出版、1998年、p.77-81


<全体的な責任>

 大事故災害の現場における全体的な責任は警察にある。ただし、火災が存在する場合には、事故現場に近い地域でのあらゆる統制に関する責任を消防隊に委譲する。

 効果的な命令を出すには、水平(各部門の災害担当官)および垂直(各部門の上下の命令系統)との緊密な連絡を必要とする。

<行動の統制>

 現場への立ち入りは、以下のような非常警戒線を設置することにより統制する。

 外側立ち入り禁止警戒線:事故災害現場全体を囲む直径数百mの範囲を通常囲んでいる。この警戒線のすぐ外までマスコミや野次馬が集まってくることが予想されるので、この警戒線はどのような危険からも安全な距離にあることが重要である。外側警戒線へ出入りは事故災害統制点で厳しく統制されるべきである。

 内側立ち入り禁止警戒線:この領域は、救助活動の場所である。ここへ入る人は名札をつけさせられる。

<命令階層>

 外側警戒線現場担当者が責任をもつ範囲を示すと共にシルバー(戦略的)命令の及ぶ境界でもある。ブロンズ(作戦的)命令の及ぶ地域は内側警戒線の内側に存在している。シルバー指揮官はブロンズの領域の中まで移動する場合もある。ゴールド(戦略本部)命令は現場から離れたところ(例えば警察署や町の公会堂)にあり、救急隊長や地域行政機構の首長が会合する。

<命令系統>

 シルバー司令官にあたるのが災害担当官である。警察や消防、救急隊においてはこの役割は上級の係官が行うが、臨床医や看護婦は必ずしも位階は必要でなく、むしろ個々の経験がより重要になる。災害担当官は現場の状況を俯瞰的に把握しておくべきであり、また、効率良く現場を統制するためには、担当官同士の緊密な連絡が必要とされ、定期的に会うように設定しておくべきである。各々のブロンズ指揮官はその地区の総括をしておき、シルバー指揮官に報告しなければならない。

 援護が欲しいという要請は、統制を維持するためにこの命令系統を通じて伝達されなければならない。例えば、1人の消防士が閉じ込められた負傷者を発見したとき、この消防署にとっては近くにいる医者を見つけて、その負傷者のところにつれていくことが理にかなっているように思える。しかし、もしこの医者がその仕事をするために、許可を得なければ、その医者は医療災害担当からすれば行方不明となってしまう。したがって、その消防士は、直属の消防前線災害担当官に知らせ、彼が前線救急隊災害担当官に知らせなければならない。前線救急隊災害担当官は、負傷者のもとへパラメディックをやって、患者の状態を把握させ、もし医者が必要であれば、前線救急隊災害担当官によって、前線医療災害担当官を通じて医者の派遣が要請される。


■救急・災害医療ホ−ムペ−ジへ/ 災害医学・抄読会 目次へ