災害医学・抄読会 990205

広域災害時における医療機関の能力とその問題点

橋江隆夫ほか、北関東医学 44: 383-6, 1994


 広域災害時における救急患者対応能力について、群馬県内の54の救急告示病院に対してアンケート調査を行ったところ、そのうち40の施設(74%)から回答を得た。全体で、年間16,734件の患者がこれらの施設に救急車による搬送をうけた。46%の施設が100床以下であり、ほとんどの病院が夜間に当直医1人であったが、血液検査やX線検査は24時間可能であった。

 大きな災害によって、ライフラインが遮断された場合に、約半数の施設で入院患者に対する食料の自給が維持できないように思われたが、ガーゼや綿球等の医療材料の備蓄は7日以上の施設が大部分であった。40のうち19の施設で、近くにヘリコプターの着陸可能な場所があったが、緊急用無線を所有しているのは、2施設しかなかった。80%の施設に自家発電装置があったが、75%は6時間以下の燃料しかなかった。

 我が国は多くの火山帯を有し、世界でも有数の地震国で、噴火や地震、津波による災害が多く、台風の通り道でもあることから、風水害も多い。広域災害が起きた場合、国や自衛隊が救援活動を開始するまでの間、実際にはその地域が自力で救援活動を行わねばならない。特に、その地域の中核病院には患者(負傷者)が集中することになる。最近は、地方自治体主催の広域災害訓練が行われるようになってきたが、発生した負傷者を収容する医療機関の能力についてはあまり検討されていない。

 今回の調査では、一般の救急患者を受け入れる能力については問題はなかったが、近隣と交通が全く遮断された場合、救急病院の能力は極端に低下することがわかった。医薬品の備蓄は十分と言えるが、食料、自家発電用の燃料はすぐに欠乏状態に陥る。救援物資の供給が遅れれば、被災者を救護することはおろか、入院患者自体の治療を継続することが困難となる。また、昨今の医療費削減の状況を考えれば、個々の医療機関が、災害時の機能を維持する目的のために医薬品等の蓄えをすることは困難とおもわれる。それ故に、国はもちろんのこと、都道府県が救急病院の現有能力を把握しつつ、備蓄計画、搬送体制の確立などの大災害時の対策を常日頃からたて、災害時指揮系統の明確化といった非常時を想定した連絡、協力体制の確立が重要である。


震災の中の小児病院

―被害状況と今後の対策―

村田 洋、臨床麻酔 19: 950-5, 1995


要旨

 平成7年1月17日の阪神大震災は、全く想像もしていなかった事態となったが、幸運にも私達の病院の被害は軽微であった。しかし、病院の機能が回復するのには10日以上を要した。この震災の記憶が明瞭なうちに、当時の行動や施設の問題点を掘り起こし、今後同様な事態が発生したときにどのように行動し、何を改善しておくべきかを考えることは、被害を最小限に防ぐ方策であるとの認識の下に私見を報告する。

病院の被害状況

 兵庫県立こども病院は神戸市須磨区の高台にあり沿岸部に比べ被害は比較的軽度であった。手術部門、ICUの入った新館の被害はほとんどなかった。

 ガスや水道の供給は保たれたが地震直後に停電した。停電は直ちに自家発電装置により復旧したが、屋上タンクへの給水が行えなくなったためその後水使用が制約を受けた。そのため厨房や手術室の機能に支障が生じた。また、地震直後より通信状態が悪化し始め通話が困難になった。

 地震直後より負傷者の搬入が始まり、救急医療に従事した。病院の性格上小児患者の来院を想定して準備していたが連絡の不通、交通の寸断、負傷者は高齢者に多かったことなどから重症患児の入院は皆無であった。

想定しておかなければならない状態及び対策

 緊急事態に対しては病院全体として、また個人としてそれをあらかじめ想定した準備及び体制を整えておかねばならない

病院の体制

○施設

  • 病院建築物の耐震性の確保:古い建築物への対策は急務

  • 電源の確保:自家発電装置の充実と保守点検の強化、重油の備蓄

  • 給水設備の見直し:2−3日間の給水量を確保する。病院は莫大な量の水を 必要とする。

  • ガスの確保:ガスの停止は給食の停止につながる。特に小児病院ではガスは 不可欠。都市ガスだけでなくプロパンガスやガスボンベの備蓄が必要。

  • 通信手段の確保:電話回線の増加や携帯電話、パソコン通信の利用など

○医療

  • 薬物の備蓄:薬物の供給が途絶する可能性や外部病院への供給を考慮
  • 医療材料の備蓄:
  • 医療用ガス:
  • 医療機器:

○運営

  • 人員の確保:緊急時連絡網と連絡方法の確立

  • 緊急事態発生時の行動マニュアルの作成:作成と職員全員の理解、訓練

    • 入院患者の安全確保、避難方法・場所、新生児等への対応
    • 病院の建物・設備の安全確保、ライフラインの稼動状況の確認
    • 入院患者の生活維持、物資の確保と補給方法
    • 院外から救命・救急処置を求め来院する人々に対する対応
    • 人員、対応場所etc
    • 院外への医療活動

麻酔科医としての対応

災害時の小児病院の特殊性

 小児病院では他の施設とは異なった問題点が指摘できる

まとめ

 阪神大震災を経験し医療活動に従事し多くの生命を救ったが、これらは医療従事者や一般市民の献身的活動で成り立ったものであり組織的活動ではなかった。この大震災を教訓として行政は地域全体の防災計画、救命救急対策を早急に立案すると共に、病院単位で個々にその病院の実情に即した災害時行動マニュアルを作成、これに沿った実際的な行動訓練を繰り返し実施することで緊急事態にいつでの対応できるようにする必要性がある。これらは被害の実情の記憶の鮮明なうちに行う必要がある。


被災地における初期医療活動

小林 久、外科診療 12: 1399-1405, 1995


救急医療活動

【実態】