原因のいかんにかかわらず,概ね20名以上の多数の傷病者が発生した場合.
発生原因によって人的災害と自然災害に大別され,医療展開に大きな違いがある.
B.人的災害
具体的には,航空機や列車・自動車の事故,爆発など.
一般に直接被害が及ぶのは短時間であり,その被害範囲は限定される.
C.自然災害
大規模地震,異常気象による風水害など.
被害が及ぶ範囲は概して人的災害に比し広く,被災者は散在し,影響する時間もそれに比し長期に及ぶ.また,「ライフライン」の途絶のために,二次被害の発生頻度が高い.
厚生省では,災害時における医療・搬送体制の整備を目的として,各都道府県に1カ所の基幹災害拠点病院,二次医療圏に1カ所の災害拠点病院を整備することとしている.
A.災害医療に関連する法規
2)災害救助法
B.災害医療体制
災害発生時,1.探査と救出,2.情報とライフラインの確保,3.医療施設機能の早期回復,4.近隣府県からの救援,5.食料・飲料水・医薬品の供給,などの整備が必要である.
C.防災計画
「厚生省防災業務計画」が出され,厚生省は年1回措置状況を取りまとめる.
平時における連絡体制の整備,医療施設の安全性確保などについて具体策が講じられることになっているが,この計画もまだ始まったばかりである.
D.災害拠点病院
相当数の病床を有し,重篤救急疾患患者の救命医療を実施する高度の診療機能を有する災害拠点病院を整備する必要がある.
E.広域災害・救急医療情報システム
従来の「救急医療情報システム」は都道府県単位で,かつ通常の救急医療に限定した情報システムであったため,災害時に迅速・的確に救援・救助を行うために,被災地の医療機関の状況・全国の医療機関の支援申出状況を把握できる「広域災害・救急医療情報システム」整備が必要である.情報の発信は医療機関からなされなければならない.
F.緊急消防援助隊
最近の大規模災害の多発によって,災害対策基本法の一部改正,地震防災対策特別措置法の制定,消防組織法の一部改正,自衛隊法施行令の一部改正,ヘリコプターの効率的運用などが行われてきた.中でも,緊急消防援助隊は,国内の大規模災害における全国の消防機関相互の迅速な援助体制の確保のため新たに発足した.消防庁登録部隊と都道府県外応援部隊よりなり,指揮支援,消火,救助,救急の各部隊が編成されることになっている.
海外で大規模災害が発生したときの国際緊急援助体制には,国際消防援助隊がある.
A.探査と救出(search and rescue)
犠牲者発見や生死の判断の手段として,超音波探知装置,温度探知機,ファイバースコープ,救助犬などが有用とされている.
建物の倒壊,列車・航空機事故などでは,救助隊との連携が不可欠である.現場の状況により,生命が維持できるような処置を実施しながら作業を行うべきである.
B.災害弱者(CWAP)
概して初期対応は外傷患者が中心となり,概ね災害発生2日以降からは脱水や感染,精神反応などの非外傷患者への対応に移行してくる.このとき重視すべき被災者グループを災害弱者と呼び,小児,女性,高齢者,障害者・病人を対応順序とする.
C.トリアージ
トリアージは緊急度と重症度を即断して患者を振り分ける作業のことをいう.
医療の要否判定に始まりバイタルサインを中心とする生命予後の即断に及ぶ.
D.災害に関連する国際組織
2)国際赤十字関連機関
b)赤十字・赤新月社連盟(LRCS/各国赤十字社の連合体)
3)その他
b)国際救急医療チーム(JMTDR)
阪神、淡路大震災のことは 記憶に新しいと思われるが、これを契機に災書医療体制のありかたに関する研究会が でき、同研究会が平成7年5月29日に医療対策に関する緊急提言をまとめ、同年8月29 日に病院防災マニュアル作成ガイドラインをまとめたのでそれらに対する要約を述べ たいと思う。
まず、緊急提言の根幹をなしているthree c's についてまとめると
この提言のうち 3については、病院レペル災書時対応マニ ュアルの必要性が説かれており、それを受けて前述の病院防災マニュアル作成ガイド ラインがつくられた。
このガイドの要点は 3つからなっている。
b、病院防災マニュアル作成の際の留意すべき事項
c、防災訓練の実際について
つぎに、看護職員に期待される役割に ついて述べる。
災害医療対策は医師のみで対応できるものではなく、医療機関、医師 会、歯科医師会、薬剤師会、看護協会、地方白治体などの協カは必須である。そのと き医療関係者、看護職員にもトリアージ技術などの災書医学の知識が求められている 。一方、病院レベルでの防災のハード面については診療器具や機器設備の管理、ソフ ト面では災書時の既入院患者の優先や状況の把握それに患者の移送についてのマニュ アル作成およぴ訓練を行う必要があると恩われる。
最後に、このような提言を受け厚生省は平成8年度の概算要求において新規要求を計
上し、さらに広域災書救急医療情報ネットワークの整備の要求も行っている。災書医
療体制の新しい講築にむけて看護婦、救急関係者はもとより、一般市民の協力や支援
が望まれる。
阪神淡路大震災は近年、日本を襲った災害の中では最も深刻な被害を
もたらしたものであり、その衝撃は災害本体以外の部分でも各界に大き
な影響を与えた。日本という国全体の危機管理能力が問われた事件だっ
たといえよう。それは医療の分野でも例外ではなく、重大な災害に対す
る災害医学のあり方が問われた。
このような大きな災害が起こった場合には、一般の整備されている救
急体制などでは対応できるわけもなく、日ごろは内科、小児科、眼科な
どそれぞれの専門分野で通常の医療活動を営んでいたはずの医師や看護
婦をはじめとする医療従事者であっても、救急対応への即応を余儀なく
されるといった事態に陥ってしまう。この平和な日本の医療従事者たち
が、このような緊急事態に即応するのはなかなか難しいと思うが、神戸
協同病院の看護婦たちはそれを献身的な努力で為し得たようである。半
日がかりで病院にたどり着いた非番の看護婦もいれば、家が全壊して、
家族を避難所において病院にきた看護婦もいます。また、滅菌機器が底
を尽いたために姫路、岡山の関連病院へ行って、一晩かけて機器を滅菌
したスタッフもいる。この看護婦たちに共通していえるのは医療に携わ
る自分たちが患者を救わねば、この事態をなんとかせねばという強い義
務感、使命感である。また、災害時に最も重要な判断の1つに選別とい
う患者に治療の優先順位をつけることがあげられるが、これはアメリカ
では一つの資格として認められている程重要なことである。彼女たちは
非常事態の中でもう助からない状態の女の子に処置を施さなかったり、
比較的軽症な震災以前から入院していた患者を一時退院させてベッドを
開けるなど、気持ちの部分だけでなく、救急医学の基礎的な知識を持っ
ており、能力の面でもしっかりと緊急の事態に対応できるだけのものを
持っていた。
この震災で、対応の遅れを批判された日本政府や大病院にくらべて、
彼女たちの危機管理能力は非常にすばらしいものがある。当時、多くの
人たちがボランティアとして被災地に駆けつけ、救援や復興に活躍した
ことも考え合わせると個人レベルでの危機管理能力は高いが、大きな組
織になればなるほどそれが下がって行くようだ。この病院のように個人
レベルでの危機管理能力を組織としていかせるような組織作りが、緊急
に即応できる医療体制を確立する上で重要な点であろう。
医師を志す者の1人として、このような危機に対応する能力が自分に
あるかどうか、はなはだ疑問である。災害時に対応できる最低限の知識
を身につけておくことは、医師として当然のことであると認識させられ
たような気がする。
階層別に機能を集中させたコンパクトな型式の地下1階、地上12階建ての、市民病院においては、今回の震災から2つの間題を提起した。第1に、災害時の動線である。縦の移動はエレベーターに依存することが多いだけに、いったんエレベーターの運転が停止すると大きな支障をきたす。第2に、高層建築では地震の際 高層階ほどゆれが大きいため、病院施設の破損や入院患者の受傷がおこった。よって病院建築の高さにも設計の段階で配慮が必要である。
あと病院の立地条件を考えるとき、病院へのアクセスが複数の道路や交通手段で得られるのが望ましい。
停電対策として自家発電装置、無停電電源装置、非常照明用蓄電池を有していたがこれらの能力には限界があることを認識した。対策として、無停電電源装置の容量をさらに大きくするのもよいが、むしろ自家発電装置を大容量のものとし、複数設置や空冷式のものも併設してバックアップをより確実なものとすることが重要である。
また、緊急避難路は昼間であれぱ自然光が利用できるような設計になっていれぱと思われる。
2)給排水設備
震災による被害の最たるものは給水設備にあり長期にわたる断水は病院機能に多大の影響を及ぼした。水槽と配管の破損による断水、さらに漏水によるエレベーターや病棟の水損がおこった。
雑用水の停止は短時問のうちに病院の衛生状態を悪化させる。さらに末端の多くの機器の機能が停止する。この対策として、1、給排水施設の耐震性の強化と複数の給水路を保有すること。2、雑用水に下水処理水、雨水の利用。3、水冷式の機器については空冷式のものを併設するなどを考慮すべきである。
3)都市ガス・医用ガス
病棟のガス給湯器はすべて転落し使用不能となったことから、転倒防止策も検討を要する。また、液体酸素タンクは複数設置が望ましく、配管に捻じれが生じる可能性があるときはフレキシブル・ジョイントを使って余裕を持たせたほうが良い。
震災による液状化現象で、泥水湧出と屋上からの大量の漏水による浸水があった。そのため地下にある高度医療機器が被害を受けた。浸水災害では地下はもっとも被害を受けやすいので、予防策が望まれる。
2)医療機器の天井懸垂
天井懸垂機器は搭載物が比較的軽量で、高い位置に固定していると懸垂装置そのものが振動を吸収して搭載物の落下が少ないが、状況いかんでは必ずしも安全ではないと思われる。
3)手術室・集中治療部
この部が稼働中に災害が発生した場合に、避難はほとんど不可能に近い治療部門である。よって、最も耐震設計の重要度が高いといえる。またここでは特別に設置された電気、水、医療ガスのバックアップが必須であり、そのために複数の系統化がなされている必要がある。
4)院内余剰スペース
病院は災害により多数の負傷者を受け入れなければならないことがある。そこで救急で対応しきれない患者を
処置するための仮設診療場所となるスペースを保有するべきである。そこには電源だけでなく医用ガスや吸引のアウトレットを設備する。
あの時、何ができただろう
神戸協同病院看護部の場合
編集部、看護学雑誌 59: 484-7, 1995災害時レスキュー犬の現状
浅井康文ほか、日本集団災害医療研究会誌 3: 42-6, 1998要 旨
スイスの救助犬の現状
ドイツ救助犬の現状
日本の救助犬の現状
考察・結論
震災と病院の建築
―病院機能の立場から―
加藤浩子、大震災における救急災害医療、へるす出版、東京、1996年、p.144-501.病院の設置場所と基本構造病院
2.病院の設備と耐震対策
3.その他の対策
まとめ