阪神・淡路大震災では、第一義的な調整、指令を行うべき県庁、市役所が被害を受けたこと、通信が混乱したこと、ほとんどの施設が非常用の通信手段として通常の電話回線を考えていたことから、医療情報を正確に把握できなかった。そのためこの大震災を契機として、災害医療システムの構築や医療情報収集のための手段を確保することが急務であることが明らかとされた。
医療情報を収集するための手段を確保するため、災害時における公衆回線の優先使用、携帯電話、インターネットなどのパソコン通信、防災無線等の複数のフェイルーセイフ機能をもった情報伝達機能の確保が必要である。
医療システムの構築については、諸外国に学ぶところも大きいと考えられるが、我が国の実情に見合ったものを早急に確立すべきである。アメリカの災害対策機関FEMAを参考にして日本に対応できる組織を考えるならば、各省庁の協力による総合調整の強化、救命救急センターの活用、医療機関・医療関係団体と消防や警察との連携強化、救命救急士・自衛隊・消防団の活用などが必要である。
大災害に対する準備は、計画、訓練、備蓄の3要素から成り立っており、医療機関における災害対策は大地震を想定した防災計画の策定が急務である。作成にあたってのガイドラインは厚生省より発表されている。とりわけ災害医療においては、1)災害に共通する災害サイクルの認識、2)トリアージへのアプローチ、3)病院防災の備えが必要である。
救援の要素 | 疾病のメカニズム | 特徴的な疾病 |
---|---|---|
避難所 | 混乱、混雑 | インフルエンザ、感冒 |
飲料水 | 汚染 | 下痢 |
食料品 | 幼児食、古い食料品 | ストレス過食 食中毒、寄生虫 |
易感染者(高齢者) | 免疫不全 | 結核、肝炎 |
疾病保持者の参加 | 細菌、ウイルス、寄生虫 | 結核、インフルエンザ、寄生虫 |
抗生物質 | 過剰投与 | 耐性菌 |
阪神・淡路大震災を契機として我が国では、大災害における災害医療のあり方についての再検討が活発に行われるようになってきた。数多くの尊い命を無駄にしないためにもより良い災害医療システムの構築が急務と考えられる。
一方、先の阪神大震災の記録によると、彼災地域は被災直後の数日間は交通網、
情報網ともに遮断されている。つまり、彼災直後の数日間、その地域外部からの公的
私的食料援助が届かない時期一援助の空白期聞一がある事がわかった。
そこで、彼災
着が食潰間題について椙互に助け合い生き延びるための地域住民自立型の自衛システ
ムが提案されている。このようなシステムについて、場所、物、人の要件を具体的に
整えうる基盤として学校給食システムが注目される。
1、震災発生〜3日前後
2、4日目前後〜1週間前後
3、災害直後の公衆栄養問題に対する地域保健所の実情と対応
災害直後の公衆栄養問題に対する地域内自衛システムの検討
丸谷宣子、日本公衛誌 45: 99-103, 1998I、はじめに
II、震災直後(約1週間)における
公衆栄養問題の時系列的変化
III、災害直後の食糧問題に関する具体的提案
(1)即時に利用可能な食橿、本の傭蕃 (2)傭蓄食糧、水の衛生管理 (3)地域在住の乳幼児、高齢者、在宅患者の栄養指導と特殊 栄養対応食糧の調達 (4)大量調理(炊き出し)施設(切り替え可能な熱源、水源、 調理器具、什器、食糧情報発受信装置、下水・ゴミ処理機能など)とその保守管理 (5)大量調理(炊き出し)実施の人的要件(指導者、献立作成の専門的知識、調 理作業の人手)の充足 (6)平常時における公衆栄養活動の連携と訓練 (7)(1)〜(6)の要素のシステム化と行動マニュアル |
このシステムが活用される時には交通手段も分断されている可能性が高いことから、 システムは<近隣生活圏>に設定されなければならない。これは「住まいを中心に日常生活が営まれる概ね小学校区を中心とした圏域であり、住民が主体となって日頃のまちづくりや相互の助け合いにより 災害時のさまざまな自主生活が営める圏域」という概念である。
以上を、公衆栄養問題の場所・物・人という要件と考え合わせると、公立学校給食の持つ機能が注目され る。
(1)場所的要件としては、地域の公立学校の給食調理施設ないし は学校給食センターが利用可能である。
(2)物質的要件として、学校給食付設の食 糧貯蔵庫を拡充、整備すれぱ、非常用食糧の流通型備蓄を確保することが可能である 。
(3)人的要件として、学校栄養士は校区在住の在宅栄養士とのチ ームワークを中心に、非常時に協力できる地域住民とのネットワークの育成、非常事 件用調理設備の保守管理、非常用備蓄食糧の衛生管理にも当たるなどの諸点が可能で ある。
これらはさらに総合化してシステム化することと、具体的活動マニュアルが必 要であり、資金的問題に関しては、公的資金で出資すぺきものと考える。
今回の地震による人的被害の多くは、人家が密集した地域、人口150万都市の神戸市
を中心として阪神地区を東西に横走する形で震度7の地震に見舞われ、多くの建物が
一瞬にして倒壊したことによる損傷が主体であった。家屋倒壊数18万棟以上という
状況からも、また特に老朽化した木造住宅の倒壊による損傷で、甚大な人的被害がも
たらされた。
(1)死体検案からみた損傷の特徴
(2)医療機関での外傷患者からみた損傷形態とその特徴
骨折を合併した負傷者が多く、部位は骨盤、下肢、脊椎など下半身が多く、上半身は少なかった。この事と、負傷者の救出遅延等が関連して、次に述べる挫滅症候群が多数発生したと思われる。
(神戸市内64病院の集計:1,098名)
(神戸市内医療機関アンケート調査)
治療法は、数時間以上家屋などの下敷きになった場合、その救出段階より輸液療法を
開始し、病院へ搬入後には大量輸液を基本とした循環管理を行うことにより、急性腎
不全への移行を防ぐことが重要である。急性腎不全をきたしている場合、血液浄化療法
が必要であるが、被災地の医療機関では、ライフラインの寸断により、かかる治療は
困難であり、できるだけ速やかに被災地外の医療機関に搬送すべきである。
大学病院では、断水のために血液透析療法を施行できなかった。そこで代用手段として
血液濾過などを施行した。比較的軽症であった例に対しては輸液や、ウリナスタチン、
ドパミンを使用した保存的治療を行った。治療成績と転帰を示す。
今後の地震災害に備えて、医療情報ネットワ−クシステムや広域搬送システムの確立
とともに、挫滅症候群の早期診断法と、治療法の確立が重要な課題であると考えられる。
東京都リハビリテーション病院は、平常時は東京都内におけるリハビリ専門病院として機能している。しかし、災害時には、白鬚東防災拠点として機能し、東京都震災予防条例に基づいて指定されている白鬚東地区の避難場所を利用する住民に対し医療救護活動を行うことになる。このため、東京都リハビリテーション病院では、災害の規模と被害を想定し、その場合における警戒宣言発令時の体制、救護活動体制を作り、さらに日頃の訓練及び教育体制を整えている。
地震災害にみられる損傷の特徴
石井 昇、大震災における救急災害医療、へるす出版、東京、1996年、p.2-111.地震災害時の損傷の一般的な原因
2.阪神・淡路大震災における損傷の特徴
分類 人数 (%) 骨折 585 46 打撲 390 31 圧挫 145 11 切創、挫創 110 9 熱傷 24 2
分類 人数 (%) 多発骨折 8 頭部、頸部 2 鎖骨、肋骨 11 上肢 5 骨盤、恥骨 24 下肢 27 脊椎 23 3.挫滅症候群について
血液濾過透析施行例 13例 死亡 2例 転送 11例(死亡 2例)
保存的治療例 19例 軽快 8例 死亡 4例
転送 7例(死亡なし)
合 計 32例
死亡 8例(25%) 東京都の災害医療拠点病院の例
半田幸代、看護展望 20: 1217-1222, 1995[災害時における基本機能]
[警戒宣言発令時の体制]
[救護活動体制]
[訓練及び教育体制]
[まとめ]