災害医学・抄読会 980320

携行機材と在庫管理

金田正樹、災害医療ハンドブック、医学書院、東京、1996年、p.176-182


 海外で自然災害や戦争などの大災害が起こった場合、国際救急医療チ−ム(JMTDR)が派遣されるが、こういう場合、テント診療所を設営して自炊をしながらの医療活動が求められる。JMTDRでは過去の経験から災害現場のニ−ズに適した医療機材と医薬品をリストアップしている。また、それらは医師3名、看護婦6名、調整員3名が、1日100人以上の外来患者の診察を2週間行えることを目安にしている。

(1)機材の選定

 機材の選定に際して考慮することは以下の通りである。

  1. あらゆる災害現場で自炊生活をしながら医療活動ができること
  2. 医療機材、医薬品が適切な量、種類であること
  3. 被災国の医療水準を越える医療行為をしない
  4. 外来のみを行い、入院患者は原則的に搬送する
  5. 撤収時には医療援助物資として供与できる

(2)大型機材について

a.病院用テント

 病院用の大型テントは、組立が簡単で中央に支柱がなく広いエア−テントを採用している。充気は、高圧ボンベ、電動ブロア−、フットポンプなどによって、数分で出来上がる。約30mm2の広さがあり、12名の患者を収容できる。

b.隊員居住用テント

 軽量で組立ても簡単な8人用キャンピングテントを採用している。

c.日よけテント

 待合室、荷物置場、軽症患者の処置などに幅広く使われる。

d.通信用機器

 インマルサットは、災害地から直接通信衛星を利用して日本と通話できる。携帯用発電機を電源として、通信機とアンテナを組み立てて使用する。また、個々の隊員が携帯用無線機ををもち、連絡する。

e.その他

 発電機、浄水器、パソコン、椅子、机など。

(3)医療機材について

a.医療器具

 災害現場では、局所麻酔や腰椎麻酔下に創処置や止血、骨折の副木固定など行い、観血的整復や開腹はしない。そのため、蘇生道具一式、外科手術セット、衛生材料、点滴セット、麻酔薬、ギプスセット、診察用具、記録用紙など基本的に創傷処置を主とした器具を準備する。

 また、災害が広範囲に及んだ場合の巡回診療の際に、外科的処置を中心としたドクタ−ズキットを携帯している。

b.医薬品

 良質な薬品で、現地到着後6か月以上使用期限があり、管理が適切にできる物を選定する。抗生物質は第一世代までとする。災害時には抗生物質と消炎、解熱鎮痛剤が多用される。

c.生活用品

 テント生活が必要な場合には最低限の日用品と1週間分のレトルト食品を持参するが、それ以降は現地で調達する。

(4)在庫管理について

 災害現場は混乱し、秩序を保つことは困難であるが、隊員の役割分担を決め、管理責任を持たせるようにする。医薬品や医療機材には、英文と和文のリストを作り、毎日チェックする。英文のリストは撤去時に残りの薬品や器具を被災国に供与する際に用いる。

 在庫管理をきちんと行うと、使用料が明確になる。また患者の性別、年齢、疾患名、投与薬剤、処置法などを分析すると、その災害の疾病構造がわかり、今後の改良点になる。


大規模災害時におけるヘリコプターによる患者搬送システムの確立について

小村隆史、日本災害医学会会誌 45: 179-84, 1997


大規模災害時 ⇒ 被災地域内の医療機関が壊滅
        たくさんの患者が押し寄せてくる
よって、患者を速やかに被災地域外へ搬送することが必要
しかし、陸路による搬送は渋滞などで機能しない恐れがある
◎ヘリコプターによる患者搬送

  が、災害時ヘリ搬送システムは未だ確立されていない。

1.阪神・淡路大震災の例

 負傷者数43177人、自衛隊の延べ派遣機総数13355機に対し、搬送件数は214例であった。自衛隊はヘリを多数(620機)所有しているが、搬送には活かされなかった。

(理由)

  • ヘリを使うという発想自体がなかった。
  • 目前の治療に追われていた。
  • 要請方法を知らなかった。
  • 電話が混線などで使えず要請ができなかった。
  • 患者の受け入れ調整が難航した。
  • 同乗する医師などの手配が難航した。

2.災害時のヘリ搬送システムはどうすれば可能になるか

#ヘリ搬送を可能にする一般的な条件‥‥‥天候・地理・航空機

#災害時特有の条件

輸送する患者のトリアージ
被災地域内にヘリポート適地を確保する
電話が使える
平素付き合いのない相手との調整をする
同時・大量のヘリの運行管理

☆自衛隊の能力

多数のヘリを提供できる
同時・大量のヘリの運行管理能力がある
搬送中の治療についてのノウハウをもっている
ヘリ部隊の長に救急患者、医師、付添い人をヘリに搭乗させる権限がある
通信衛星を用いた携帯電話の普及

 これらの能力を用いればヘリ搬送の将来は暗くない。

3.最も現実的かつ効果的な災害時のヘリ搬送システムについて

(1)関係機関があらかじめ災害対策を申し合わせておき、それに基づいた共同歩調をとる。

(2)共通の「あるべき姿」のイメージをもつ。つまり、災害発生から救助までの一連の流れ(ヘリポート、患者搬送、医療チームの投入、ヘリ要請の手続きなど)を取り決めておいて、それにあわせた行動をとる。

(3)各機関が情報を共有化しておく。

発災前‥‥‥ヘリポート適地に関する情報
      医療施設に関する情報
      飛行調整所の設定場所や連絡先についての情報

発災後‥‥‥患者に関する情報
      予定していたヘリポート適地の利用の可否の情報
      代替手段(陸路搬送など)に関する情報

4.残されている課題3つ

(1)搬送後のトリアージを「いつ」「だれが」「どこで」行うか。

トリアージを公正かつ効果的に行うには情報中枢が必要。自衛隊にはその能力はない。

(2)被災地域内のヘリポート適地を「だれが」確保するか。

被災者がスペースを占拠してしまうことなどが予想されるが、だれでもよいから確保し、その利用の可否情報を発信する。

(3)関係機関の連携

縦割社会でこれを具体化するのは、平素からの人間関係である。


挫滅症候群―救えたはずの子どもの命―

山田至康、救急医学 21: 320-3, 1997


挫滅症候群 Crush syndrome

 四肢をはじめとする身体の横紋筋が圧迫や挫滅を受けることによって生じる外傷性の横紋筋融解と、それに引き続くショックや急性腎不全を呈する疾患。阪神・淡路大震災において多数のクラッシュ症候群の患者の発生があり、災害医療の重要性が見直されるとともに注目を集めるようになった。

発生頻度

 中国Tangshan地震(1976年 );負傷者全体の2〜5%
 旧ソ連アルメニア地震(1988年);負傷者全体の4〜6%
 阪神・淡路大震災;5.7%(厚生省科学研究班中間報告)、6.0%

病態生理

 挫滅創 crush injuryを受けると、筋細胞の破壊・虚血が起こる。また、Caの筋細胞内への流入の結果、活性酸素の産生や細胞内エネルギーの消費による低酸素状態・細胞内浮腫が起き、白血球の活性化や浸潤も起こる。血流の再開により、破壊筋細胞からのミオグロビン、カリウム、リン、乳酸、プリン体、活性酸素、サイトカイン、組織トロンボプラスチン、逸脱酵素などが全身へ灌流される。サイトカインや組織トロンボプラスチンはDIC,MOFをきたし、大量のカリウムは心停止を起こす。ミオグロビンはミオグロビン円柱を形成し尿細管障害をきたすと同時に活性酸素を産生し、血管拡張因子阻害から腎血流の低下をまねき、急性腎不全にいたる。浸潤白血球は活性酸素の産生と血管内皮細胞への接着と微小循環の阻害をきたす。この結果、間質の浮腫とコンパートメント症候群に至る。また、体液の急速な障害部位への移動により hypovolemic shockを起こす。

※コンパートメント症候群

筋膜に区切られた部分(コンパートメント)の筋組織内圧が上昇し、悪循環の後に神経・筋の壊死をまねく。

臨床症状

受傷早期
全身所見;一般に意識清明、血圧・脈拍は保たれている。
局所所見;四肢を中心とした運動麻痺・知覚麻痺。皮膚に開放創(−)。
     高カリウム血症により不整脈・心停止。

数時間後:局所の著明な腫脹・硬結。輸液の不足でhypovolemic shockや腎不全。

一定期間後:感染症・腎不全・DIC・MOF

※受傷早期では局所所見は打撲のみで意識状態・全身状態も良好であるため、輸液のみで観察中に心停止をきたした例が阪神・淡路大震災では少なくなかった。

検査所見

治療

1、輸液

 ※マンニトールは電解質バランスの補正と尿量の確保ができた場合のみ使用。

2、血液浄化

3、その他

4、筋膜切開

まとめ

 筆者は阪神・淡路大震災において7名の小児クラッシュ症候群患者を確認したが、診断がつかず死亡した患者が多数いたものと考えられる。このようなことを繰り返さないためにも本症候群に対する正しい認識が求められる。


災害医療における情報管理

杉本勝彦、災害医療ハンドブック、医学書院、東京、1996年、p.138-42


 大量災害における情報管理部門は、救援活動の中で最も重要な機構の一部である。救援医療を行う面においてもその重要性に変わりはない。救援者は、災害によって大量に生じた負傷者に対応する救援すべき救急隊員、救急車、医師、病床、手術室、医療器材などを確保しなければならない。そしてこれらの器材や人員を効率よく配置し、機能させなければならない。また短時間にこれらを実働させるためには正確な負傷者の数、その中で重症度に応じた治療の必要性、被災現場から治療施設までの到着時間、後方施設や支援施設の準備状況、負傷者の家族に対する連絡などの数多くの情報を正確に提供しなければならない。特に治療が必要とされる急性期には、正確な情報を入手することが困難であり、このような状況で必要とすべき医療情報をどのようにして入手し、選択し、また提供するべきかをのべる。

災害医療で必要とされる情報は

  1. 被災者のなかにどれだけの負傷者がみこまれるか
  2. 負傷者のなかで実際に治療を必要とする人物
  3. 実際に治療を必要とする負傷者の中で必要とされる治療内容
  4. 治療を必要としない被災者をどのように扱うか
  5. 救援活動に参加する医療施設すべての収容能力
  6. 後方支援施設の収容能力と処理能力
  7. 治療が終了した負傷者をどのようにあつかうか
  8. 患者情報をどのように医療施設から提供するか

などが挙げられるが、これらの情報は図のように各区域別に情報の発生と供給を区別し効率よく交換しなければならない。

次に図に示した各区域での基本的な役割分担を解説する。

1)災害現場

 ここでの救護活動の目的は、一刻も早く被災者を安全な場所に移動させることで、被災者を発見したら、名前、年齢、救援された場所、時間、負傷状況を明記し、一次救護所に搬送する。

2)第一次救護所

 ここでの役割は、すべての被災者を集合させ治療の必要の有無を調査し、被災者の実数を把握することにある。医療活動では、BLSとALSを行う。BLSは当然ここで行われることが望ましいが、どの程度のALSを行うか、あるいは行えるかは、災害の規模と全体の救援体制によって決められるべきである。

3)基幹医療施設

 救援医療の中心となるこの場所は、必ず早期に設置されるべきである。ここでは、全体の作戦基地となり、どのような救援医療を誰が行うかを決定すると同時に、第一次救護所から搬送されてきた被災者に対する主要な医療行為は、すべて行う。またすべての医療行為の結果を記録し、その情報源ともなる。

4)後方支援施設

 基幹医療施設の支援を主に行い、基幹医療施設で治療が終了あるいは、必要なかった被災者を収容する場所である。また基幹医療施設で必要とされる器材や人員の供給源ともなり、他の地域から派遣されてきた救援要員や器材の受け皿としても機能する。そして生命に危険の無い被災者の治療がここで行われる。

 以上のように、基幹医療施設を中心とした(1)−(2)−(3)−(4)体制を整備して効率よく行うべきである。

 そのためには、各区域間の情報ラインの確保を最初に行い、このラインは有線であれ無線であれ、各区域間専用のCLOSEDである必要がある。

 また各区域間での医療情報のやりとりとは別に、すべての医療情報が集中して管理される医療情報センターを設置する。なぜなら、災害時には、驚くべき数の照会と人間と情報機関が災害現場に殺到し、これら第三者により、救援や医療活動が困難な状況に追い込まれることもしばしばあるからである。

 基本的には、この医療情報センターは、救援医療の中心となる基幹医療施設に設置する。


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