災害医学・抄読会 110909


東日本大震災における医療活動に参加して 災害医療のアマチュアが現場へ

(志賀 隆、週刊医学界新聞2011 年4月25日)
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02926_02

 3月11日に発生した東日本大地震のニュースは志賀隆氏の住む米国にもすぐ届いた。志賀氏はマサチューセッツ総合病院の救急医であるが、災害医療ではアマチュアである。また、国際保健等の活動の経験は多少あり、医療ボランティアにおける、1)自給自足できない状況で現地に行くべきでない、2)善意からの行動が必ずしも良い結果につながるわけではない、3)相手のニーズに合わない一方的な支援はかえって迷惑である、などの問題点は理解していたので被災地での医療活動参加を迷っていたが、「もし災害現場に行きたいのであれば,徳洲会グループの災害医療支援チーム(Tokushukai Medical Assistance Team;TMAT)に参加できる」という、メッセージが届き、TMATから学び、少しでも現地の方々の助けになればと思い、参加した際の報告である。

 地震直後に現地入りしたDMATの報告では、「津波による被災が甚大であり、トリアージ上ブラックの人が多く、迅速な医療介入が必要なレッド・イエローはほとんどいない」とのことであった。災害のゴールデンアワーは72時間とされており、DMATの基本的活動も72時間以内である。志賀氏は道すがら72時間後に何ができるのかを考え続けていた。そして、新潟中越地震時の友人の経験を参考に、1)被災者や被災地の医療スタッフにとって助けが来ることは精神的支えとなる、2)72時間が経つと被災が終わるわけではなくその後もニーズはある、3)現地で情報収集し、それを共有することが将来につながる、と考え現地へ向かった。

 13日に成田空港に到着した志賀氏らは支援物資の詰まった救急車でベース病院である仙台徳洲会病院に深夜に到着し、現地リーダーの医師から現状説明を受けた。翌日早朝に志賀氏らのチームは、補給物資を届けるべく、気仙沼市南部の本吉町の本吉病院ヘ向かった。同院はやや低地にあり、海岸からは離れているが、近くを流れる川を逆流した津波で1階は水没しており、CTや胸部X線、検査室、事務室などが大きな被害を受けていた。TMATはここでERとしての機能を提供し、同院職員との有機的な連係がとられていた。

 その後、階上町で小学校に仮設クリニックを設営し、診療と巡回を開始した。TMATの医師や管理栄養士らが現状をすばやく説明し、ミッションや被災地での援助隊の原則が伝えられた。災害医療活動には、チームの組織化が不可欠である。TMATは海外を含めた災害医療の経験が20年近くあり、インシデントコマンドシステムに基づいた有機的な組織が出来あがっている(表)。全ての部門に歴戦の猛者がおり、衛星携帯電話を使った効果的な情報交換がなされ、リーダーの指示のもと組織が迅速に行動していた。

表.TMATの体制


  • コマンド:東京本部,仙台徳洲会病院本部
  • プランニング:現地リーダー医師・仙台徳洲会病院本部
  • オペレーション:大船渡市、気仙沼市(階上町,本吉町)、本吉郡南三陸町の4つの現地部隊
  • ロジスティクス:野口幸洋管理栄養士をトップに、緊急車両25台を有機的に利用
  • ファイナンス:東京本部より統括

 経験のみならず、TMATは災害に備えた自前のコースを持ち、サバイバルの基礎やSTART法によるトリアージ、災害時の公衆衛生、衛生携帯電話の使い方、インシデントコマンドシステム、巡回診療時のノウハウや心得、過去の徳洲会の災害支援のシナリオに基づいたシミュレーションなどの講習を行っている。

 津波の被害が大きかった今回は、地震による外傷はそれほど多くなく、診療開始当初は感冒、便秘、頭痛、不眠、裂傷や打撲などでの受診が多かった。1日当たり100人程度の診療に加え、近隣の避難所を往診した。限られた薬剤・医療資源による最低限の診療であったが、精神も肉体もぎりぎりの状態にあった避難所の方々に大きな安堵感を与え、ほぼ不眠不休で対応してきた救護スタッフや避難所本部の方々に精神的なゆとりが生まれたとのことである。

 診療が軌道に乗り始めると、縫合セットや喘息の吸入薬、各種内服薬などが必要となり、毎日本部に向けて補給を要請した。災害現場において独自の物資補給能力を持つことは極めて重要であり、TMATの効率的なシステムが改めて強く印象づけられた。

 慢性疾患患者の薬について、開業医や市立病院とどのように連携していくかも課題であった。また、TMATに参加する医師も2−3日単位で徐々に入れ替わっていくため、診療をスムーズに引き継げるよう、医師、看護師、ロジスティクスなど部門ごとに分かれ、マニュアル作成が始まった。この過程で、災害後に地域のために奮闘されている開業医、非常に困難な状況のなか日々力強い機能回復をみせる気仙沼市立病院など、刻々と変わる情報をアップデートすることになった。

 組織間の情報共有については、東京都医師会指導のもと、気仙沼市民病院に毎朝各支援団体が参集し、支援すべき場所と支援チームの決定、気仙沼地域の補給状況、市民病院の復旧状況の共有が行われていた。また、対策本部、救護、補給、医療班など複数の分野の団体が部門ごとに集まり、活動報告や1日あるいは中期的な方針の検討を行っていた。

 更に、避難所には1000人を超える方々が避難しており、感染症を防ぐため発熱や嘔吐への対策が必要となったため、TMAT本部、避難所対策本部、救護担当のスタッフで、インフルエンザ疑いの場合の対応、井戸水での手洗いによるノロウイルス予防などについて検討した。亜急性期の感染対策については承知していたつもりであったが、いざ各部門と検討して方針を決めるとなると、その重みを改めて実感した。

 今回、急性期の活動においてDMAT(重症患者を迅速に搬送するシステムなど)やNGO(機動力、補給力、コミュニケーション力に優れたTMATなど)の重要性を学んだ。平時に、災害に備えたコミュニケーションツールの作成やシミュレーションを行うことは肝要であるが、実際の災害時には情報が氾濫し、平時以上に行政機能へ過度なストレスがかかるため、DMATやNGOなど、臨機応変に現場で対応する能力が求められる。また、最も被害が甚大な地域こそ、メッセージを発信できない可能性もある。自衛隊、市町村行政、医療班、NGOなどが横の連係を保ち、能動的な情報収集と情報共有を行うことが必要となる。災害医療において,急性期の診療が重要であることに疑いの余地はない。しかし、被災地の方々が日常生活に戻られるまでが広い意味の災害医療であり、急性期から亜急性期、そして慢性期とバトンを渡していかねばならない。



岐阜DMAT

(平山宏史、石原晋ほか・監修 プレホスピタルMOOK 9 DMAT、 東京、永井書店、2009、243-251)

医療チームの立場から

●はじめに

 岐阜医療圏には地域災害拠点病院とは別に、基幹災害拠点病院と岐阜大学医学部附属病院高度救命救急センターがある。それら医療機関を中心に12チームのDMATがあり、不測の事態に備えている。特に岐阜大学医学部附属病院はDMAT3チームを擁しており、岐阜県の災害医療の中心的存在として機能している。

●岐阜DMAT:実際の活動状況

 岐阜大学DMATは岐阜県と協定を結んでおり、岐阜県知事の要請により出動するのが原則となっている。しかし、2008年9月現在、DMAT待機要請がかかった地震災害(能登半島地震、中越沖地震、岩手・宮城内陸地震)に対しては、出動準備を行ったのみで、知事からの出動要請はなく、現地への出動までには至っていない。

 地震災害以外での岐阜大学DMATの活動としては、岐阜県内での集団災害への対応を行っている。1例として、岐阜県某市にて2008年2月に起こった大型バス衝突事故が挙げられる。

●岐阜大学DMATのスキル向上

(1)Off the job training

 岐阜大学DMATでは、災害関連コースに参加することによって、スキルの向上に努めている。特に、MIMMSは英国のAdvanced Life Support Groupが提供する集団災害に対する世界標準といえる医療支援指針である。このコースで、世界基準の災害医療を学び、国際的にも活躍できる人材の育成を行っている。

(2)防災訓練参加

a) 院内防災訓練

年1回行われており、企画・開催している。あらゆる災害の想定で行われている。

b) 地域防災訓練

 岐阜医療圏で行われる災害訓練も含め、近隣地域で行われる訓練にも岐阜大学DMATは参加している。毎年行われている岐阜市防災訓練では、地元岐阜市医師会と協力し、訓練を行っている。

●岐阜大学DMATからの発信

(1)「岐阜市医師会向け災害医療コース」の開発

 災害時においては、DMATのみではなく、一般診療所や病院の医師の協力も不可欠である。岐阜大学DMATチームは、医師会員が現実の災害現場でどのような医療活動をすべきなのかという観点から、「岐阜市医師会災害救護マニュアル」を作成した。それだけでは、周知徹底が不十分と考え、岐阜市医師会員を対象に約2時間30分の「医師会向け災害医療コース」を開発し、2007年7月と8月に上記コースを岐阜市医師会医師対象に行った。

 コース内容としては、イントロダクション・指揮命令系統(講義)、現場活動(ビデオ)、準備・装備(講義)、トリアージ講義・実習(テスト)、無線の使用(講義・実習)、岐阜DMATの紹介(講義)としており、最後に岐阜県のDMATの紹介を行っている。このコースを行うことによって、地元医師会員にDMATの役割を理解して頂き、災害医療の意識を高め、結束力を生み、災害時において円滑に医療活動が行える可能性がある。

(2)救急医療情報共有支援システム(GEMSIS)の開発

 現在岐阜大学では、救急医療情報共有支援システム(Gifu Emergency Medical Supporting Intelligent System)を開発する。GEMSISとは、救急・災害医療において、ITを用いた情報支援システムである。GEMSISを用いると各医療機関の空床状況・人的資源・疾患の専門性などの情報をリアルタイムに把握でき、搬送病院の選定を行うことができる。災害現場においては、無線LANを用いたAd hocネットワークシステムGEMSIS PLUSが使われる。ICカードをトリアージタッグに用いることによって、災害現場において入力された被災者の情報を医療機関および関係機関で共有でき、情報管理が円滑に行える(図6)。

●おわりに

 今後、東海・東南海地震が高確率で起こることが予想され、岐阜県も被災地域となる可能性が高い。今後は、関係各位(県下および近隣県DMAT、救急・消防、警察、自治体、医師会など)と連携を強化し、また自らのスキルを向上させ、ハード・ソフト両面の充実を行い、災害発生時に対応していく。

自治体の立場から

●今後の課題と展望

(1)DMATの充実強化

 岐阜県においては、現在6ヵ所の指定病院で10チームが編成されているが、災害時に継続的な医療救護活動を実施するためには、さらにチーム数が増加することが望ましい。DMAT隊員の要件については、厚生労働省等で実施する隊員養成研修を修了したものとされており、岐阜県においても災害拠点病院や救命救急センターに対して当研修の受講を推奨しているが、最近では受講を申し込んでも採択されないことが多く、研修機会の拡大が必要である。

 またDMATの機能については、当初より進化。複雑化しており、初期に研修を受講した隊員についても最新情報や課題を共有する機会が必要である。

(2)運用計画について

 現時点における県知事によるDMATの出動要請は、災害救助法が適応される程度の県内の災害が想定されている。また県外で同程度の災害が発生した場合には、被災都道府県のほか厚生労働省からの出動要請によることとなるが、この場合の費用負担や隊員に事故があった場合の補償などについても明確にしておく必要がある。

 さらに災害救助法が適応されない程度の災害や大規模事故などの場合の出動要請基準や具体的手続きなどについて消防機関との連携も含めて定めておく必要がある。



災害時における小児の問題とその対策

(松本安代、災害人道医療支援会ほか・ 編 グローバル災害看護マニュアル、東京、真興交易医書出版、2007、p.144-151)

1.はじめに

 大規模な自然災害や人為災害が発生した際に、最も健康被害を受けやすいのは、日常的に弱者の立場に置かれている子どもや老人である。災害が長期化すればするほど、災害による直接の健康被害よりも、災害発生による混乱や生活環境の変化に伴う健康への影響は大きくなっていく。そのため、災害発生直後だけでなく、亜急性期から移行期、そして数カ月から数年間続く慢性期・復興期に問題となる健康被害を見越した対策が必要となってくる。

2.途上国における小児死亡原因と低栄養

 毎年、全世界で1000万人以上の5歳未満児が死亡していると推定され、そのほとんどが途上国で起こっている。子ども死亡のおよそ半数は予防可能な感染症であり、その死亡の60%が低栄養と関連していると推定される。

 平常時でも小児の疾病構造は、途上国と先進国とでは大きく異なっており、途上国では感染症の占める割合が大きい。図-1は、5歳児未満の主要死亡原因を示したものであるが、先進国ではあまり致命的にならない感染症による死亡が約半数を占めている。

低栄養は、乳幼児期に顕著に見られるがその原因としては、

  1. 食事のバリエーションが乏しい
  2. 家庭内における食料分配の不公平(大人優先)
  3. 離乳食の概念が乏しい
  4. 病時食が不適切(経口補液が不十分)
などが挙げられる。必ずしも貧困で食料が購入できないことのみが低栄養の原因となっているわけではないことに留意する。

a)低栄養の判断-身体計測

 低栄養かどうかを判断するには身体計測を行い栄養状態の評価をする必要がある。

b)栄養状態の評価

 栄養状態の評価には、年齢対身長、年齢対体重、身長対体重、中位上腕周囲径といったいくつかの指標があり、これらを組み合わせて現状を評価する。短期間の食料不足には年齢対体重を、身長体重を測定できない時、1~4歳児の場合は中位上腕周囲径を使用する。身体計測の参照値として国際的には米国立健康統計センターが出しているNCHS値を使用することが多い。

3.乳幼児救急

 乳幼児救急患者には、1)自分の症状を正確に伝えられない、2)病状の進行が速い、3)軽症と重症の差が極めて小さく軽症に見えても実は重症だったりする、4)適切な処置が施されれば回復が早い、などの特徴がある。このため、家族からの問診だけで乳幼児の重症度を推測することは難しく、必ず視診、触診、時に聴診をして臨床症状のチェックを行い、重症度を判断する必要する必要がある。

a) 初期評価と救急蘇生

 意識障害の急病人が倒れていたり、運び込まれてきたりした場合、大人では不整脈や心筋梗塞など、循環系の異常による循環不全が原因であることが多い。そのため、いかに早く除細動器の手配をするかが救命率を上げるためには欠かせない。

 一方、小児や乳幼児が意識障害に陥った場合、原因が循環器系統の異常による場合はあまり多くなく、感染症や中毒、脱水などが原因となることが多いため、大人とは初期の対応が異なってくる。呼吸不全がはじめの症状として現れるため、まずは気道確保を行った上で呼吸状態の評価をすばやく行い、呼吸状態を改善させることが大切である。

4.乳幼児救急の現場におけるケア

 診療所に全身状態が不良な乳幼児が運び込まれたときに医療者がまず行わなければならないのは、1)保温、2)補液、3)酸素である。

 1)保温:保温することにより、末梢の血管が開き全身の循環が改善するため、体液がアシドーシスに傾いて呼吸状態が悪化するのを防ぐ作用がある。

 2)補液:大人と比較して体の水分量が多く不感蒸泄が多いため、水分が取れない状態が続くと容易に脱水に陥る。保護者から水分摂取の状態を聞き、体重から補液量を決定する。

 3)酸素:上で述べた様に全身状態の不良な乳幼児は呼吸不全を呈していることが多く、四肢末端が冷感で口唇のチアノーゼを見たら、直ちに酸素投与を行う。原則として、酸素投与している場合、指先や足先で経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定し、95%〜99%を保つようにモニターし、酸素中毒の発症に注意を払う。

5.災害現場における対策

a)環境評価と感染症流行の予測

 被災地の保健衛生状態は、国や地域によって大きく異なる。また、雨季や乾季といった季節による環境の変化も大きく、現地の風土病や今後発生する可能性のある感染症を把握しておく必要がある。

b)安全な水の確保

 避難地は人口が密集しているため、生活排水による水源の水質悪化が懸念される。どのような病原体によって水が汚染されているかを調査することは、その後の対策を図るために必要不可欠である。水がめにボウフラや小昆虫が発生している場合は、ネットで濾過するか、水面に油を薄く引くことにより窒息させる。赤痢、コレラなどの細菌汚染に対しては、塩素のような残効性殺菌剤で消毒する。水源がランブル鞭毛虫やクリプトスポリジウムといった原虫に汚染されている場合は、塩素系薬剤は無効のため、飲用する水を1分間以上煮沸するなどの方法が必要である。



CSM(Confined Space Medicine)

(秋冨慎司ほか、大橋教良・編 災害医療、東京、へるす出版、2009、p.99-106)

はじめに

 1995年の阪神・淡路大震災では、瓦礫の下から助け出された方が、クラッシュシンドロームにより現場で、そして病院に搬送された後で次々に亡くなった。その当時、クラッシュシンドロームはわれわれ救急医療関係者には一般的ではなかったが、のちに現場での医療、つまり「瓦礫の下の医療(CSM)」の実践こそが、クラッシュシンドロームの最善の治療であることがわかり、その実践こそが必要とされてきた。

CSMの実践

 CSMはConfined Space Rescue(CSR;瓦礫救助)の1パートであり、消防隊との緊密な連携なくしては、その成功はあり得ない。したがってCSMを実践・成功するためには、二次災害を防ぐうえでも、救助隊や機動隊との訓練を定期的に行い、常に連携することが必要不可欠である。実践の目的から行動までを簡単に説明する。

1. 目的:3Tの遂行

(1) triage(トリアージ):重症度・緊急度とともに、救出の難易度に対する見込み時間から総合的に判断する。

(2) treatment(治療):要救助者を安全に救出するために必要最低限の治療。

(3) transportation(搬送):救出までの時間と搬送方法を考慮。

2. 絶対必要条件

 3Tを遂行するためのKeywordである、Command&Control、Safety、Communication、AssessmentのなかでもとくにSafetyには守るべき3つのSがあり注意する。

 (1)Self(自分自身):進入指示があっても本当に大丈夫か、個人装備は大丈夫か。

 (3)Survivor(要救助者):救助中や救出中にバイタルサインの安定化や安全が確保されているか。

3. Hazard(危険)

 (1) 暗い、狭い、暑い、寒い、水、雪
 (2) 鋭利な障害物
 (3) 低酸素、有毒ガス
 (4) 漏電
 (5) 血液、体液
 (6) 非日常的、極限的な環境

4. クラッシュシンドローム

 圧迫障害された骨格筋に再灌流が加わり、高カリウム血症、代謝性アシドーシス(ともに致死性不整脈を生じる可能性あり)、循環血液量減少性ショック、ミオグロビン流出による急性腎不全などを生じる。

 これらに続いて、四肢のコンパートメントシンドローム、多臓器不全、DICになり、死に至る。骨格筋の約30%(上肢が片方で15%、下肢が片方で30%)が、2時間以上挟まれると、クラッシュシンドロームに陥る可能性がある。また、そのまま救助された場合、START方式のトリアージで黄色に分類される可能性がある。二次トリアージで受傷機転をしっかり聴取し、確認しなければならない。

5.目標

 (1)早期に要救助者の状態安定化を図り、安全・迅速に救出活動を行うようにする。

 (2)瓦礫内に侵入する前に、内部の状況を正確に把握する。
 この目標を達成するためには、DMAT隊員の現場における役割を5つに分けること、およびCSMの6つの重要ポイントが大切である。

 1)DMAT隊員の現場における5つの役割

  (1)Provider(実施者)
  (2)Anticipator(介助者)
  (3)Equipment/Supply officer(装備/資器材担当官)
  (4)Recorder/Safety officer(記録/安全管理担当官)
  (5)Medical officer(医療指揮官)

 2)CSMの6つの重要ポイント

 (1)バイタルサインの安定化:安定化には水分補給および輸液、酸素投与、保温がある。
  (2)要救助者自身の安全管理
  (3)ペインコントロール
  (4)骨折部の固定および四肢の切断
  (5)要救助者からの状況聴取
  (6)負傷者に対する精神的サポート

●CSMにおける医療者の安全管理

 前述したようにCSMの実践の条件として、現場の安全性が確実に確保できることであり、その方法の1つにショアリングといわれる倒壊建物の補強安定の技術があり、現在日本の救助への導入が図られている。そういった補強がない現場で自分たちが怪我をする可能性があるならば、瓦礫の中への進入は控えるべきである。

 しかしながら、救助を待っている人たちの救命および機能予後の改善のために行う医療がCSMであり、医療を介入し早期治療を開始することが大切である。そのためには警察や消防、およびその他の関係機関との良好な関係を築き、さまざまな機会を通じて総合理解と連携を図ることで、多くの直面する課題を克服できる可能性がある。



災害発生時に看護職員が活用できるアクションカードの考案とその使用経験について

(中川経子ほか、日本災害医学会誌 15: 210-217, 2010)

1.はじめに

 近年、非日常の災害発生に対し、アクションカードの有効性が取り上げられ、日本集団災害医学会で報告がなされているが、病棟看護師のためのアクションカードの報告がなされていなかった。そのため、今回災害発生時に有用な看護師用アクションカードを考案し、二通りの想定で訓練を行い、利便性について検討した。

2.目的

 災害発生時に病棟看護師が用いるための災害対策マニュアルに沿った対処行動ができるようなアクションカードの考案及び検討。

3.方法

 (1)病棟看護師用アクションカードの考案及び作成

 (2)2回の防災訓練で検証

4.病棟看護師用アクションカードの作成

災害対策マニュアルに沿ってアクションカードを作成した(Table.1)。

5.災害訓練での検証

 (参考例:Fig.1)

(1)H19:模擬病棟での夜間災害(首都直下型地震)を想定した訓練
(2)H20:産科病棟での昼間災害(首都直下型地震)を想定した訓練
(3)それぞれの訓練に対するアンケート

6.結果及び考察

 携帯型アクションカードを役割ごとに作成し、その担当部署にあった役割に対する具体的な行動・指示を記載し病棟看護師それぞれが携帯した。2回の防災訓練では地震後の火事や水漏れも想定したが、カードにそれらへの対応を追加記載することで状況に即した行動をとることができた。また、アンケートでもアクションカードの使いやすさに対して高い評価が得られ、カードのおかげで適切な行動がとれたという声が聞かれた。これらより、カードに記載した内容は妥当だったと考える。

 今後時間帯や病院施設の変化によって記載内容を変える必要があると考えられる。

7.おわりに

 今回考案したアクションカードは各病棟の現状に合った内容で構成できること、首かけ式や記載式の形態などで利便性を確認することができ、その使用法を周知することで実際の災害発生時に病棟看護師の適切な行動が期待できる。


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