阪神・淡路大震災(田中 裕、山本保博・監修 精神・中毒・災害、東京、荘道社、2007、p.319-323) |
震災後15日間に被災地内病院48施設、後方病院47施設で、入院治療を受けた傷病者は6107例であった。6107例のうち外因例(外傷)は2718例であった。受傷機転は屋内における倒壊した家屋や家具の下敷き・打撲によるものが大半であった。外傷の受傷部位では、四肢外傷、軟部組織損傷、脊柱外傷の順で多いが、これらの致命率は低く、むしろクラッシュ症候群や頭部・胸部・腹部外傷で臓器損傷を伴った者の致命率が高かった。疾病例の入院患者は残りの3389例であった。疾病による入院患者数は、震災後1週間は同程度で推移し、その後徐々に減少した。避難所生活の高齢者で、脱水に陥った症例や脱水を契機に脳梗塞を発症した症例の入院も震災直後から1週間は継続し、その後減少した。肺炎などの呼吸器感染症による入院は震災直後徐々に増加し1週間後が最も多く、消化管潰瘍による入院は、震災後徐々に増加して1週目よりも2週目のほうが多かった。急性疾患の発症率と家屋の被害状況との間には有意な相関を認めた。
b.死亡例
震災後早期(1月25日まで)に死体検案が行われた3651例については、ほとんどが瞬間死 であった。死亡推定時刻から瞬間死を免れたのは135例(3.7%)であった。
入院加療された全6107症例中、2209例(38%)が震災後15日間に被災地外の後方病院に 転送された。震災直後、被災地内の大規模病院は、クラッシュ症候群や臓器損傷などの致死 的外傷を含む大量の外傷患者とともに、心筋梗塞などの重篤な急性疾患患者の入院を受け入 れた。震災後数日から被災地内病院の多くは機能を回復し、また、救急搬送システムの回復 と相まってこの時期に至ってようやくクラッシュ症候群や臓器損傷、あるいは虚血性疾患や脳出血といった重症患者の後方病院への転送が徐々におこなわれはじめた。クラッシュ症候群の患者総数372人のうち187人(50%)、他の外因疾患患者総数2436人のうち702人(26%)、疾病患者総数3389人のうち1401人(41%)が後方病院へ搬送され、総合すると6107人の患者のうち2290人(38%)が後方病院へ搬送された。
b.転送手段の実態
後方病院への搬送手段は救急車による搬送が計596例で全体の26%、病院車による搬送は70例と全体の3%であった。一方、自家用車などを用いた私的な搬送手段により645例で全体の29%が搬送されている。ヘリコプター搬送は、震災後の15日間で計73例と全体の3%に過ぎなかった。
a.現場での観察のポイントと行動について
現場では、迅速で適切な観察により患者の状態を把握し、適切な医療機関を選定して、現場で行うべき必要不可欠の処置を施し、生命予後に関係のない観察処置をすべて省略して搬送を開始することが重要である。
救急事故現場の安全を確保し救急隊員自身の二次災害を最大限に予防する。
脊髄損傷によって引き起こされる四肢麻痺などの恒久的障害は、現場活動中、搬送途中、病院初療中に発生する比率が予想以上に高いことを認識する必要がある。ロングバックボードへの全脊柱固定を推奨しており、重篤な臓器損傷が潜在している場合に、搬送時の不用意な患者移動による衝撃を回避する。
病院前外傷救護標準化プログラムでは、この概念に則った高次救急医療施設への搬送基準が定められている。
長時間重量物の下敷きになったという受傷機転が明らかな場合には、本症候群の可能性を念頭におき医療施設を選定する。クラッシュ症候群の場合、救出後も一般に意識は清明で血圧も保たれており重篤感が乏しいので注意を要する。運動・知覚麻痺はほぼ全例に認められ、脊髄損傷と間違えられる場合もあるので注意する。
b.直接来院する患者への対応
直接来院する患者に対しては、まず一次トリアージを行い、心・呼吸停止例には蘇生術を実施せず、あらかじめ定めた遺体安置所に収容する。非緊急治療郡には施設内に収容せずに、自身による被災地外医療機関の受診もしくは帰宅を指示する。
c.情報伝達と転送手段
被災地内災害拠点病院から被災地外の災害拠点病院に緊急治療群を転送するとき、収容の可否を確認する最小限の情報交換が必要である。搬送手段は原則として、管外から応援に入った救急車やドクターカー、もしくはヘリコプターとする。このとき、被災地内災害拠点病院の負担を軽減するため、各災害拠点病院の患者収容状況やさらなる患者収容の可否の確認、搬送手段の要請・確保などの連絡・調整は、基幹災害医療センターが行うのが望ましい。
地震、台風あるいは火山噴火などの天災は制御不能だが、それらによる被災の規模は制御可能である。制御の方策は、災害に備えての予防策の実施、発災時に被害の拡大を抑制する事である。今回の出典は、被害拡大の抑制、復旧に関して被災病院という立場からまとめてあった。
被災状況を把握し、災害現場の医療需要を知る事は、被災拡大の防止のために不可欠であるが、正確な情報を知ることは現場にいても、離れた場所にいても非常に難しい。というのも、その情報が情報発信者の観察能力や災害医療に関わる知識と理解に依存し、加えて、情報の伝達中に情報の脱落・歪曲・途絶などの情報の混乱が起こるからだ。これに対する改善策は、発信者が誰か、現場を直接見た人かなどの情報源と信頼性を付記して伝達する必要がある。これは、日常の救急診療にも必ずメモをとる、復唱して確認するなど通ずる所がある。
二次災害による被害拡大の予防には防犯システムが正常に機能している事も極めて重要である。もし機能していなかったら、強制的に機能させる、予備機能を作動させる、様々な代替手段を調達する事などが被災の拡大を防ぐためには重要である。代替手段の調達は防犯システム以外でも重要で、エネルギー・通信・診療などの代替手段を準備しておくことは、二次災害と被災の拡大を防止する最も有効な手段といえる。
最後に復旧についてであるが、阪神・淡路大震災での被災病院での復旧から記述されている。その要点は、インフラの復旧と診療体制の復旧についての二点である。まずインフラの復旧についてであるが、どのインフラを優先的に復旧するか、復旧にはどのような工事が必要かなどの復旧計画が重要課題となった。また、診療体制の復旧にも、インフラの復旧が必要不可欠であると記述されていた。インフラ復旧前は、入院患者・職員の安否確認、建物・施設、ライフラインの状況確認、外来診療の在り方などについての対応が検討された。病院機能の復旧速度は、建物・施設、ライフライン、診断装置、治療装置、などの復旧速度に依存するため、被災を最小限に抑える事、被災時の具体的な復旧手段を準備する事が迅速な病院機能の復旧に繋がる。
B)化学剤
災害対策本部 → 情報管理・安全管理を主とし、関連機関との連絡、傷病者、入院
患者情報、各部門の状況、職員、物品理を管理する。
情報部門 → 被災情報、安全情報、患者、職員、物品などの情報を収集し、対外的な情報、要請を行う。
トリアージ部門 → トリアージポストの設置、トリアージタッグの運用、方法を司る。
重症、中等症、軽症患者対応部門 → 重症は初療室、緊急治療室へ、中等症は処置待
機ゾーンで対応、軽症は院内外にすかを決定する。
患者搬送部門 → 「赤」の患者を優先し、重症度、マンパワー確保のより搬送者の人を決定する。
誘導・案内部門 → 救急搬送路の確保、院内外の誘導を行う。
物品搬送部門 → 物品の保管・備蓄状況、搬送先を把握する。
家族・マスコミ対応部門 → 家族、マスコミへの対応を行う。
物品 → 搬送用ストレッチャー、毛布、布団、酸素ボンベ、レスピレーター、モニター、血圧計など。
被災拡大の抑制と復旧
(丸川征四郎、丸川征四郎・編著 経験から学ぶ大規模災害医療、大阪、永井書店、2007、p.93-102)
災害現場の医薬品使用 特殊災害における対応
(渡邉暁洋ほか、薬事 48:2069-2077, 2006)1.災害の分類
2.2.NBC災害とは? 核(Nuclear)、生物剤(Biological)、化学剤(Chemical)による災害
3.NBC災害対応
4.生物剤・化学剤の効果、医療対応
災害マニュアルの作成と人材育成
(菊池志津子、小原真理子ほか監修 災害看護、東京、南山堂、2007、参考文献…
災害マニュアルの作成と人材育成
(菊池志津子、小原真理子ほか監修 災害看護、東京、南山堂、2007、p.195-199)
1.災害対応マニュアルづくりのポイント
2.マニュアルに盛り込むこと
連絡体制 → 連絡網、電話、トランシーバ、FAX
部門 → 役割、構成人員、役割
物品 → 保管場所、使用先の明記、運搬、補充、トリアージタッグや災害用カルテなどの帳票類
患者 → 入院、外来患者への対応、緊急度・重症度別の患者の流れ、搬送、対応方法
その他 → 増床体制、遺体安置3.新設部門
4.マニュアルづくり、これも大事
5.大地震の場合
6.人材育成(災害分野)