災害医学・抄読会 091211

集団災害発生時の医療機関の対応

(石井美恵子、看護 61(10): 66-81, 2009)


はじめに

 1995年の阪神・淡路大震災を契機に、集団災害発生時の対応策が様々な分野で検討されてきており、医療のその1つである。

 DMAT体制が充実し、国内での緊急医療救援体制は飛躍的に整備されてきている。しかし、災害には必ず被災地内の自助努力という時期が存在する。DMAT体制、広域搬送計画が推奨、整備されてきているのに対し、被災地内での災害拠点病院の対応計画や整備が遅れている感じがある。そこで、今回は災害発生時の医療機関の対応がどうあるべきであるか、「救急外来での来院被災傷病者への初期対応」「災害対策本部の役割」「医薬品・医療資器材の調達」の3項目をマニュアルの要点を紹介する形で考察していきたい。

救急外来での来院被災傷病者への初期評価

1.安全の確保

 まず、医療活動を行う自分自身の安全確保を行い、二次災害が生じないよう心がける。その後に、病院の出入口を閉めることで、病院外の混乱を院内へ持ち込まないようにし、場所の安全を確保する。

2.指揮命令系統

 指揮者は、臨床能力だけでなく、管理能力や応用能力も要求される。また、迅速な組織の立ち上げや体制の確立のため、災害病院にいて被災していない人の役割分担、使える医療資源での訓練を、短時間で決められる計画を立て訓練を行っておく必要がある。

3.情報収集と評価

 各員が被災状況の情報収集をしながら集合場所に向かい、集合したら報告を行い、集計して本部へ連絡する。

4.トリアージ

 大量の傷病者発生と医療資源の被災という需要と供給の絶対的な不均衡を出来る限り回避するために、不可欠な傷病者の選別が必要である。トリアージは目的ではなく、より多くの傷病者によりよい予後をもたらすための手段である。

5.治療

 緊急度に従って治療を行うが、診断より治療が、確定治療より生命安定化の治療が優先される。

 赤タッグ・黄タッグの傷病者は、気道確保・輸液・酸素投与・胸腔ドレナージ・心嚢ドレナージ等の生命の安定化と移動のための安定化を図る治療のみを行う。緑タッグの傷病者は、自宅や避難所の救護所で処置・治療を行ってもらうのが理想であり、黒タッグの傷病者は原則として心肺蘇生を行わない。

6.搬送

 傷病者の次のエリアへの搬送が必須であり、トリアージと治療の人手を移動に取られないように専任の搬送班が必要となる。

7.診察不能時

 部門または病院として、負傷者受け入れが不可能な場合、病院に集まっている傷病者を治療可能な施設へいただくよう掲示・アナウンスする必要がある。

8.事務系職員

 事務系職員は、院内搬送・トリアージの介助、ライフラインや資機材薬品等の調達管理、情報担当等など、多岐にわたる全体を左右する業務があり、平素からの訓練が必要となる。

災害対策本部の役割

1.災害対策本部組織図

 必要な情報(連絡先・マニュアルのページなど)はフローチャートにして明記しておくのが望ましい。

2.本部の設置基準

 災害医療体制にシフトするのに大切なことは、災害の種類、被害の大きさ、拡大のリスクを見極めることである。

3.本部の構成員

 病院長、副院長、看護部長、事務部長であることが望ましいが、不在であるリスクが大きいので代行の職員を医師に限定せずに三番手くらいまで決めておくのが望ましい。

4.本部の任務

 1)病院全体としての意思決定、2)被害状況の情報収集と伝達、3)地域行政機関への連絡、4)災害時医療体制の確立、5)医療救護班の受け入れ、派遣の決定、6)施設復旧と緊急資材の調達、7)院内各部門との連絡調整、G院内スタッフ・資機材・薬剤の再配置 などが挙げられるが、本部は災害時医療体制にシフトする必要があるのか、診療継続ができるのかを判断、決定しなければならないため、院内外の情報収集が重要となってくる。

5.本部の設置場所

 防災センターなど、情報通信手段が整備された場所が望ましい。

6.院外情報収集

 把握すべき情報として、@災害の状況、A被害の状況、B運搬能力、C地域の医療ニーズ、D地域の医療能力、E被災地外の対応体制 などが挙げられる。

7.院内外への情報発信

 本部で決定した事項は適宜、院内外へ情報発信する必要がある。

8.薬品などの調達

 不足ないし、不足が予測される資機材については、管轄の行政災害対策本部等に確認をして調達する。

9.他の医療機関への患者の転送調整

 多くの医療資源を必要とする重症患者を抱え込まないためにも、速やかに状態安定化の治療だけを行って、被災地外へと転送する必要性も出てくる。

医薬品・医療資機材の調達

1.医薬品および医療資機材の備蓄

 医薬品の備蓄は、通常は3〜4日程度、保管しておくことが推奨される。災害においての急性期は外傷などの外科措置の患者が大多数を占めるので、それに見合った医薬品等を備蓄する必要がある。しかし、院外処方が進んできており、経営面からも過剰な在庫を抱えるのは困難であるため、医薬品をある程度限定して、外用処置用の消毒薬、洗浄薬、抗生物質の外用剤および内容剤、また、医療器具、衛生材料などは災害用に通常の使用量より多めに備蓄しておく。備蓄についての情報は職員全体が認識しておく必要があり、具体的な内容を明確にして保管場所に明示しておく。災害発生時、備蓄場所からの補給は病院災害対策本部の判断で行われ、各部署が勝手に補給することは避けるよう努める。

2.医薬品・医療資機材の調達

 通常の取引業者と災害時の優先供定を結ぶ。災害時に本当に供給可能か、納品までの所要時間、緊急連絡先、発注方法などを取引業者との間で確認・協議して協定を結んでおく必要がある。

 現在の備蓄量と今後の予想使用量を検討し、不足ないし不足が予測される場合は速やかに災害時優先供給協定を結んでいる業者に発注をかける。地域などの広域災害であれば、全国規模で支援物資が集まることが予想されるので、原則的には広域災害時の調整にあたる都道府県災害対策本部(医療救護本部)に依頼することになるが、実際はその対応を待つ時間的余裕がないことが多いので、通常は早期の補給として取引業者。近隣病院、近隣拠点病院、市区町村災害対策本部、都道府県災害対策本部の順番で連絡する。


災害発生時の避難行動―火災の場合

(玉井 潔、、丸川征四郎・編著 経験から学ぶ大規模災害医療、大阪、永井書店、2007、p.83- 92)


はじめに

 施設が災害に罹災した場合、施設内の人員は緊急に避難しなければならないが、有床病院では一般社会とは比較にならないほど身体的弱者が多数収容されており、災害を罹災することにより受ける人的被害は想像を絶するものとなる。本稿では災害や事故の中でも発生確率が高く、過去に多くの死傷者を出している火災とそれに伴う避難の方法などについて述べる。

火災の教訓

 過去の事例では小さな不注意、防災設備の不備、初期対応の不適など日々の防火意識の欠如が火災を発生させ、また被害の拡大をもたらしている。不特定多数の人が出入りする病院では火災の危険は常に存在すると認識し、日常の防火管理や訓練の実施が必要である。このように日ごろから火災発生を防止し、かつ発生時には被害を最小限にとどめるために必要な万全の対策を樹立し、実践することを「防火管理」という。

【火災】 

人間のいるところに人の意図に反して発生する

●燃焼と消火

 燃焼の条件には「可燃物」、「酸素」、「熱源」が必要で、これを燃焼の三要素という。また消火とはこの三要素の全部または一部を除去することで、主に以下のような方法がある。

 a)冷却消火法 : 熱源から熱を奪い燃焼物を発火点以下にする。
 b)窒息消火法 : 燃焼に必要な酸素の供給を断つ。
 c)除去消火法 : 未燃焼可燃物を燃焼部分から切り離す。
 d)希釈消火法 : 可燃性ガスの濃度や可燃物の組成を燃焼限界以下に希釈する。

●火災の性状

 a)耐火建物(コンクリート等)の火災特性

  1. 耐火建物は木造および防火造に比べ気密性が高いため燃焼速度が遅く、フラッシュオーバー現象までの時間が長い。その時間はおよそ3〜10分くらい。
  2. 煙が外部に出にくく、空気の流入も少ないため、濃煙、熱気が滞留しやすい。
  3. 開口部である窓ガラスなどが破損すると空気が一気に流入し、急速に燃焼する。
  4. 階段、エレベーターなどを経て火災、煙が上階に拡散し、立体的な火災に拡大する。

 b)耐火建物の火災進行状況

【煙の危険性】 

「煙は恐ろしい」が十分に理解されるべきである

 近年の火災事例では、火災初期の煙によって逃げ場を失い死亡する例が多い。耐火建物では初期に発煙量が多くなる。煙の流動速度は水平方向では毎秒0.3〜0.5mであるが、階段など垂直方向では毎秒3〜5mである。階段を上下するときの速度が毎秒0.5m程である人間が煙から逃げ切るのは難しい。また発生する煙はそれ自体が人体に対して有害であることも忘れてはならない。

【火災時の心理と行動】 

人は火災時、腰を抜かす、声を失うなど冷静にはなれない

 人は生命の危機に直面すると、本能や感情に基づき危険を回避しようとし、衝動的になる。

●火災時の行動特性

 a)日常動線志向性 : 本能的に日常使い慣れた経路を利用して避難する傾向にある。
 b)帰巣性 : 内部を知らない建物だと、入ってきた経路を戻ろうとする傾向にある。
 c)向光性 : 煙に視界を遮られたり照明が消えた暗闇では、明るい方に向かう傾向にある。
 d)危険回避性 : 煙や炎が見えない方向へ行く傾向にある。目前の危険のみから回避する。
 e)追従性 : 自らが判断せず、先頭者や大勢にただ闇雲に追従する傾向にある。

●パニック

 パニックは危険を回避しようとして群集が混乱した状態で、火災時の避難行動でのパニック発生要因は以下のものの組み合わせであると言われている。

 a)避難動機 : 煙や炎から避難行動を起こす際、これらを見ただけで錯乱することがある。
 b)外的要因 : 避難中の停電や悲鳴などの外的要因がパニックの引き金になることが多い。
 c)火災情報の不足 : 情報不足や不適切な情報によって不安が増大しパニックになる。
 d)避難行動の阻害 : 避難経路が煙や炎で遮断されたり、避難口が施錠されていた場合、心理的混乱を増大させパニックに陥ると言われている。

【避難施設】 

Two-opposites side Exitの確保と確認は避難の大原則である

 火災が発生した場合に混乱なく速やかに避難するための施設を非難施設といい、避難通路、避難口、階段などがある。病院などの施設では有効な避難路が確保されるように管理することが条例などで規制されている。

【避難の時期】 

ベルが鳴り、館内放送があれば、これに従い速やかに避難する

 過去の火災例では避難の時期を逸したことが被害を大きくした要因である。火災が発生した場合、直ちに施設内にいる人たちに事態を知らせ、避難行動を促し、避難誘導を開始する。

●避難開始の指示命令者

 消防法で、30名以上を収容する病院は防火管理者を選任するとともに、定められた消防計画により自衛消防隊を組織しなければならない。施設全体の避難開始の指示命令者はこの自衛消防隊長となるが、その権限を行使できる地位と指揮能力を有し、常駐するものでなければならない。また階ごとに上席にある者を地区責任者と定め、指示命令がなくても火災の状況により避難開始命令を発動できる体制も必要である。

●避難命令の伝達

 施設内全体には非常放送を使用し、部署ではメガホンを使用して伝達する。また伝達に際しては、簡潔でわかりやすい内容を2回繰り返す。そして発信元を明確にし、落ち着いた命令口調で伝達することが重要である。

●避難開始

 避難順序第1位が出火階・直上階とし、続いて上層階、最後に下層階とする。火災でエレベーターが使用できず、階段による避難が困難なベッド上の患者や短時間で避難できない場合は、消防隊が救助活動可能なベランダなどへの一時的な避難も考慮しておくことが重要である。

まとめ

 火災が発生しないという保障はない。不幸にして火災が発生しても法令を遵守し、防火管理の徹底を図れば、その被害の拡大を抑え軽減を図ることは可能である。病院はその性質上、「避難弱者」が多く存在しており、それらの患者の非難は容易ならざるものがある。病院施設における避難行動は、それぞれの所属施設において入院患者の避難方法を日頃から確立しておくべきである。


NBC災害

(奥村 徹ほか、山本保博・監修 精神・中毒・災害、東京、荘道社、2007、p.276-282)


 NBC(nuclear:核、biological:生物、chemical:化学)災害とは、核、生物、化学物質による災害である。作為的でない事象も作為的な事象(テロリズム、事件)も含まれる。日本では松本・東京地下鉄両サリン事件以降、従来から言われていた核の脅威や原子力災害、高度工業化社会に伴った化学災害に加え、国際テロの頻発で、生物・化学テロの脅威が現実のものとなっているが、欧米に比べ関心が低い。NBC災害対応医療の基本方針である「危険・災害から被災者、救助者、医療従事者、医療機関を守る」という概念が重要であり、このため一般災害に加えて個人防護、検知、ゾーンニング、除染という戦術が必要になってくる為ここではこれらを軸に概説していく。

1.個人防護

 まず初動対応要員は自らの安全を守らなければならない。基本的に特定の空間で一度に複数の被害者が発生した場合、まずは化学災害、テロを疑う。個人防護衣の分類は米国環境保護庁(EPA)の防禦分類に従う。

 基本的にホットゾーンであればレベルAで対応しなければならない。ウォームゾーンであればレベルBorCで対応する。病院前徐染ではレベルCで対応するのが国際的スタンダードであるが、厳密にいうとレベルC防護衣は吸収缶の種類と濃度が分かっている条件下で使用されるべきである。よってもし装着者の体調に変化が生じた場合は速やかにレベルを上げるべきである。災害時には防護衣の着用によって、コミュニケーションや容体観察が取りづらく処置も困難になる為、装備面の充実とともに訓練を繰り返すことも重要である。

2.検知

 検知が適切におこなれない場合そこにある危険を適切に認識することができず、自分だけでなく周りも危険にさらしてしまう。簡易検知(現場検知)はそれ以上でもそれ以下でもなく、偽陽性・偽陰性の可能性が生じることも各関係機関で念頭におかなければならない。またそれに加えて現場検知・簡易検査に関する情報が各関係機関でリアルタイムに共有されることも重要である。さらに簡易検知された原因物質情報が臨床的に矛盾しないものであるかを医療機関では検討を加えなければならない。

3.ゾーンニング

 ゾーンニングとは汚染の高い順から、ホットゾーン(危険区域)、ウォームゾーン(準危険区域)、コールドゾーン(非危険区域、安全区域)に区分けして往来を制限して汚染・危険を囲い込む考え方である。

 ホットゾーンから一刻も早く被災者を避難させるために欧米では、Upwind(風上へ)、Uphill(より高いところへ)、Upstream(より上流へ)としている。なおホットゾーンとウォームゾーンの境界線をホットゾーン警戒線といい、ウォームゾーンとコールドゾーンの境界線をウォームゾーン境界線という。つまり被災者の倒れているもっとも外側の線がホットゾーン境界線となる。ウォームゾーンはそこで除染を行うため除染区域ともいう。

4.除染

 除染は大別して3つ存在し、gross decontamination(粗除染)は肉眼的に明らかな汚染物を可及的に素早く除去することである。dry decontamination(乾的除染)は着衣を交換する除染である。特に気体汚染の場合乾的除染で十分であるとされている。wet contamination(水除染)は液体汚染の場合の除染である。これらを使い分けて除染を行っていくことになるが、あくまでその際の能力と被災者数のバランスで行える除染は変わってくる。例えば数千人規模の災害が起きた場合集団除染の効率を高めるために歩行可能な被災者は医療の対象とは考えずにセルフサービスで除染を行うことと割り切る必要がある。

(図)テロの除染選択基準例―省略―

 除染設備が配備されている地域は多くなくこのような地域では体育館、公民館、プールなどを利用して効果的な集団除染体制が組めるように準備しておく必要がある。また除染中留意しなければならないのは被災者の容体によっては呼吸補助、痙攣のコントロールなど医療行為が必要になる場合があるということである。このため除染中の容体観察は重要になってくる。ただし医師の間でもどこまで医師が前面にでるかはコンセンサスが得られておらず、また循環もある患者への気管挿管や薬物の投与が医師以外に認められていないという問題点も存在する。このようにNBCの分野は国際的にも研究は発展途上であり常に最新の知識を入手しなければならない。


阪神淡路大震災における聴覚障害災害時要支援者の調査研究

(矢部多加夫ほか、日本集団災害医学会誌 14: 75-81, 2009)


はじめに

 聴覚障害者は36万人と増加傾向にあり、中等度難聴ないし身体障害者認定に満たない高度難聴聴覚障害者を含めると潜在的な聴覚障害災害時援護者はかなりの数になる。聴覚障害災害時要援護者への災害情報伝達支援機器開発を目的として、平成7年1月17日発災の阪神淡路大震災について調査研究結果を報告する。

調査対象

 阪神淡路大震災に遭遇した、神戸市、宝塚市とその近畿地域在住で兵庫県難聴協会を通じて協力の得られた中等度・高度難聴ないし聾難聴者を対象に調査を行った。

調査方法

 アンケート調査用紙郵送による回答集計及びヒアリングを実施した。アンケートは350通発送し、回答は185例(回答率52.9%)であった。

 平成14年10月〜平成16年1月の期間にアンケートを発送・回収・データ整理、ヒアリングを行った。対象に高齢者が多いためか未記入による欠損地が多く、統計学的検討は不可能であった。また、複数回答項目のため合計数が一致しない点があった。

調査項目

1.聴覚障害

 年齢、性別、聴覚障害の程度、失調の時期、難聴の程度、身体障害者手帳、補聴器の使用、日常会話、住まい、聴覚障害者用機器の使用

2.災害準備

 日ごろの備え

3.災害時の状況

 被災時の状況、災害情報(入手、方法、入手までの時間)、被災状況相談依頼、補聴器使用の可否、被災孤立状況(孤立状況、通知方法、救出者、救出までの時間)、自宅で必要な機器(外部連絡用、家庭連絡用)

4.避難状況

 避難状況(避難の有無、避難情報入手方法)、補聴器使用(可否、その理由)避難所での説明状況(説明者、説明方法、説明理解)、避難所での会話方法、避難所で必要な機器

5.災害後について

 震災を契機に準備した機器(有無、外部連絡用機器、家庭内用機器)

6.要望

 最も必要な災害情報、聴覚障害者用機器、自治体に望む機器

結果

1.聴覚障害

 回答185名中148名(80%)が60歳以上であった。女性:男性=76:109

 障害者等級 2級26名 3級8名 4級18名 6級25名 なし101名 (n=178)

 発症年齢 10歳以下13.2%  50歳以上58.2%(n=182)

 補聴器 使用88.3%  不使用11.7%(n=171)

 視覚障害 有り81.4% なし18.6% (n=161)

2.災害準備

 準備 していた5.5% あまりしていなかった23.1% していなかった71.4%(n=182)

3.災害発生状況

 住宅損害 一部33.7% 半壊24.3% 全壊27.6% 全焼1.7%(n=181)

 負傷 無傷72.6% かすり傷13.6% 打撲6.9% 骨折1.9%(n=159)

 災害発生直後の情報 入手58.1% 不可41.9%(n=160)

 入手までの時間 災害直後47.2% 半日後29.8% 1日後13.7% 1週後1.2% それ以降3.7%(n=161)

 入手方法 テレビ29.7% 親族・友人21.1% ラジオ14.5% 人づて11.4% 民生委員9.5% テレビ文字放送1.9% 消防1% 福祉関係者1% その他9.9%(n=317)

 被災状況の相談 した54% しなかった46%(n=161)

 補聴器の使用 使えた78.7% 使えなかった21.3% 紛失15名 破損4名

 必要とおもわれる機器 地域ネットワークシステム27.2% 聴覚障害者用通信装置19.4% フラッシュベル19% 福祉電話 17% 文字放送デコーダー 11.5% その他5.9%(n=253)

4.避難状況

5.災害後について

6.要望

考察

 発症年齢は10歳以下が13.2%、50歳以上が、58.2%で先天性聾難聴と加齢による老人性難聴ないし中途失聴者を含む中高齢難聴者が多い事情を反映した結果と思われた。8割以上の回答者は補聴器を使用し、口頭で意思疎通しているものの、3割程度の回答者は筆談、手話でコミュニケーションをとっている。また同時に視覚に障害がある回答者が81.4%と多く、災害時要援護者支援機器を考える場合、視聴覚障害を念頭において振動・触覚などの体性感覚をも利用した支援機器を想定すべきなのかもしれない。聴覚障害被災者では一戸建て住宅が61%で独居14%であった。住宅損壊は87%にみられたが、幸いにも今回の調査では重症例はなかった。災害情報入手は58.1%が災害直後に入手しているが、残りの41.9%は情報入手に半日以上かかっており、中には一週以上(3.7%)との回答もあった。入手方法として文字放送を含むTVニュース(29.7%)親族・友人(21.1%)ラジオ(14.5%)民生委員(9.5パーセント)からが多かった。ヒアリングでは情報機器が使えず援助が遅れたとの意見が多く寄せられた。神戸市のような大きな政令指定都市では近隣の結びつきが少なく親族、友人、民生委員による聴覚障害者の所在・生活の把握が十分でなかったためと考えられ、支援機器利用に先立ってはまず、個人情報に留意した登録過程が必要だと思われる。

 避難所に避難した回答者は74名(44%)でありそのうち3割は補聴器が使えず口頭の説明は2割が分からなかったとしている。

 要望として、災害情報としては、詳細な地域の災害状況、避難情報、詳細な地域の交通網や電話回線の混雑状況、避難所での設備としては、補聴器用予備電池、予備の補聴器、高齢者にもみやすい大型テレビ・表示装置、筆記用具、ラジオ、携帯電話などであった。

 今回の調査では、対象が障害者認定に満たない中等度程度―高度難聴聴覚障害者が多く88.3%が日常補聴器を使用しているにもかかわらず、災時には紛失・故障・ハウリング・補聴器装用下では情報収集が不十分であったとしている。むしろ実際には、手話通訳や文字放送付きテレビ、筆談、FAX等の視覚情報を活用していた。聴覚障害災害時要援護者支援機器開発では、補聴器が利用可能な中等度―高度難聴者においても聴覚情報に合わせて視覚情報利用する危機が被災時には有効であると考えられた。具体的には各自治体が事前に登録した利用者にブルーツース等を搭載した携帯端末とフラッシュランプ、振動伝達器をつけた文字情報表示ディスプレーを配備し、発災時には地域防災ネットワークから携帯電話網を介し、強制的に端末に災害避難情報を伝える情報機器などが考えられる。

結論

 高齢中等度難聴の被災体験者では、8割以上の回答者は日常補聴器を使用しているにもかかわらず発災時・避難時に必ずしも十分には機能しておらず、高度難聴〜聾被災者ばかりでなく補聴器が利用可能な中等度〜高度難聴者においても視覚情報を利用した情報伝達支援機器が有効であると考えられた。アンケートの要望結果からは情報伝達支援機器として、登録聴覚障害者に配布した情報端末とフラッシュランプ、振動伝達器搭載文字情報表示ディスプレーと各自治体運営地域防災ネットワークを携帯電話網で連結したシステムと機器などが有望と想定された。

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