災害医学・抄読会 090619

自宅および家族を災害から守る備え

(宮崎明浩、小原真理子ほか監修 災害看護、東京、南山堂、2007、p.22-29)


1.自宅の備え

 阪神淡路大震災での経験などから、平成18年4月に中央防災会議が発表した「首都直下地震の 地震防災戦略」の中で、住宅や建築物の耐震化率を75%から90%にあげることや家具の固定率 を60%にあげることで死者数が減らすことができるとされています。また平成18年から10年 間でこれらの目標値を達成することで想定される死者数を半減させようとしています。

 また個人でできることとしても、自宅の耐震度の強化、家具の転倒防止策、窓ガラスに飛散防止 フィルムを貼る、地震発生時の避難経路、避難場所など普段から家族で講じて対策を練ることが重 要です。

2.火の始末

 大規模地震が発生した場合、火災は大きな脅威となります。また、道路の損壊、建物の倒壊、断 水など消火活動も難しいものとなることが想定されます。

 そこで出火防止に努めることは勿論初期消火のタイミング(1.グラッときたとき、2.大きな揺れが やんだとき、3.燃え始めたとき)について理解することも重要です。またすぐにできる具体的な実践 としてふろの残り湯の活用、キッチンなどに消火器を置くこと、ブレーカーを切って避難すること などが挙げられます。

3.安否の確認

 災害が発生し、自らの安全が確保できた後最も気になるのは家族の安否です。電話がつながりに くいなど連絡がつかなくなる場面も出てくることが予想されます。そこで事前に話し合い、連絡方 法を決めておくことも重要です。

1)災害用伝言ダイヤル171や携帯電話の災害時伝言板サービスの利用

 大地震が発生すると電話がつながらなくなることもあるのでNTTや各携帯電話会社による災害時伝言サービスを利用する。

2)遠くの親戚・知人を利用する

 被災地には電話がつながらなくとも、被災地から被災地外へはつながりやすいことが多いので、こ のことを利用して互いの安否や連絡先、避難先などを言づけておくという方法もあります。

4.避難先

 住まいの区市町村の避難場所について、場所やどのような時にはどこに集合するかなどを確認し ておくことが大切です。できればその場所までのルートをいくつかみつけることと、そのルートの 安全性についても確認しておく必要があります。

 一方で家族がそろっていない時に災害が起こることを考えて、どのような時はどの避難場所で落 ち合うのか、なども決めておきましょう。

5.非常持ち出し品

 震災で倒壊した建物などからの救出は、震災後、72時間を過ぎると著しくその生存率が下がる ことから、欧米ではこの時間を「黄金の72時間」と呼んでおり、この間には救出・救助活動が最 優先で行われます。また各防災機関の救助活動が軌道に乗るまでにはある程度の時間を要します。 このため、避難所や家庭にいる被災者の方までに救援の手が回りにくいことがあります。震災後の 三日間くらいは自力で生きられるように備えたいものです。

6.近隣との協力

 阪神淡路大震災で倒壊建物から救出された人は推定で約1万8千人とされており、そのうち約1万 5千人は近隣住民が助け出しています。近隣住民の協力は災害救護において不可欠な要素です。普 段から近隣と交流を心がけ、地域の防災訓練などに参加してみてください。


 「人は、いざというときに普段していること以上のことはできない」ですから、普段から今まで述 べてきたことを準備し、実際に練習することが重要です。

 また、多くの人はとっさのときに思うように行動できないものですから、目に付く場所に「地震の 心得10か条」を貼っておくことや伝言ダイヤル、連絡先、避難先のメモを作っておくことも役立 ちます。

地震の心得10か条

  1. わが身と家族の安全
  2. グラッときたら火の始末
  3. あわてて外に飛び出すな
  4. 戸を開けて出口の確保
  5. 屋外では頭を保護し危険なものから身を避けよ
  6. 百貨店・劇場などでは係員の指示に従って行動を
  7. 自動車は左に寄せて停車規制区域では運転禁止
  8. 山崩れ・がけ崩れ・津波に注意
  9. 避難は徒歩で持ち物は最小限に
  10. デマで動くな正しい情報で行動を


わが国の災害医療体制

(近藤久禎、月刊薬事 48: 2027-2036, 2006)


 日本の災害医療の課題を明確にし、現在の災害医療体制を構築する契機となったのは、阪神、淡路大震災である。阪神、淡路大震災では24時間以内に広域に搬送することにより緊急医療を確保する必要があった傷病者は380名、その後72時間までに必要とする傷病者は120名と見積もられる。しかし、実際に震災当日のヘリコプターによる搬送は1名、72時間以内では17名であった。これを教訓に被災地で発生した大量傷病者の広域搬送の必要性が強く認識された。このような広域搬送を行うためには、1)災害拠点病院の整備、2)広域災害・救急医療情報システムの確立、3)緊急派遣医療チームの整備が課題となる。

1)災害拠点病院の整備

 わが国においてはこの阪神、淡路大震災の教訓を受け災害医療体制の核として災害拠点病院が整備されてきた。この災害拠点病院は、以下の要件を満たす必要があるとされている。

  1. 高度の診療機能
  2. 地域の医療機関への応急用資器材の貸し出し
  3. 自己完結型の医療救護チームの派遣機能
  4. 傷病者の広域搬送への対応
  5. 要員の訓練、研修機能

 実際の災害時には、この災害拠点病院を中心に、被災地における応急処置、患者の広域搬送、医療支援チームの派遣が行われる。災害拠点病院は2005年12月現在、549病院が指定されている。

2)広域災害・緊急医療情報システムの確立

 阪神、淡路大震災では、病院の被災情報、患者受け入れ情報を医療機関、消防機関、関係行政機関が共有できなかった。これを教訓に整備されたのが広域災害・緊急医療情報システムである。このシステムは、厚生労働省などの関係省庁、都道府県関係部局、災害拠点病院などの関係医療機関をインターネットで結ぶ情報ネットワークである。このシステムにおいて、病院の被災状況、患者受け入れ情報、医療支援の情報が共有される。

3)緊急派遣医療チームの整備

 災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team:DMAT)とは、災害の急性期(おおむね48時間以内)に活動できる機動性を持った、トレーニングを受けた医療チームである。阪神、淡路大震災以降、広域医療搬送などの災害医療の担い手として整備の必要性が指摘されていたが、2004年の新潟県中越地震の教訓から、災害時の医療支援を行うための訓練された医療チームの必要性が強く認識され、国によるDMATの整備が開始された。DMATの活動は、平時における医療機関と都道府県との協定に基づき、被災都道府県からの要請を受けて行われる。初動期における派遣要請の連絡については、厚生労働省を介して、広域災害緊急医療情報システムにより、各医療機関に形態やメールにより連絡される。

 DMATの活動としては、被災地内の活動と広域医療搬送に大別される。

 被災地近隣地域のDMATは、災害拠点病院など被災地内に設けられるDMAT域内活動現地本部に参集する。そこで指示・調整を受け、被災地内で活動する。被災地においては、多くの重症患者が病院に殺到していることが予想される。このような病院における診療の支援はDMATの重要な役割だと考えられる。また、消防ヘリ、救急車などによる近隣、域内の後方搬送時の介助、場合によっては被災現場における活動もDMATの活動となる。

 被災遠隔地のDMATは、おおむね全国に6箇所程度設けられる終結拠点に参集する。そこから自衛隊機や民間機により域内の広域搬送拠点に参集し、SCU-DMAT本部の指示、調整を受けて活動する。広域搬送拠点においては、SCU(ステージングケアユニット)における医療スタッフとしての機能を果たすことが期待されている。具体的には、患者の搬入、応急処置、広域搬送のためのトリアージ、患者の搬出などに携わる。また、航空機搬送においては、航空搬送時の重症患者の搬送介助を行う。


広域医療搬送

 広域医療搬送とは、重傷者の救命と被災地内医療の負担軽減を図るため、重症患者搬送に従事するDMAT、救護班を被災地外から派遣し、重症患者を被災地外の災害拠点病院などへ搬送し救命することである。広域医療搬送は以下の流れで行われる。

  1. 地震発生後、速やかに広域医療搬送活動に従事するDMATなどが被災地外の拠点に参集し、航空機などにより被災地内の広域搬送拠点へ移動。

  2. 被災地内の広域搬送拠点へ派遣されたDMATなどは、拠点内に患者を一時収容するSCUの設置を補助するとともに、一部は被災地の都道府県が調整したヘリコプターなどで被災地内の災害拠点病院などへ移動し、広域医療搬送対象患者を選出し、被災地内の災害拠点病院などから被災地内広域搬送拠点まで搬送

  3. 搬送した患者をSCUに収容し、広域搬送の順位を決定するための再トリアージおよび必要な追加医療処置を実施

  4. 搬送順位に従って、広域搬送用自衛隊機で被災地外の広域搬送拠点へ搬送し、広域搬送拠点から救急車等により被災地外の医療施設へ搬送して治療する。


政府の大地震対策

 今世紀前半にも発生の恐れがあり、発生した場合に甚大な被害が予想される東南海、南海地震については2003年9月の「東南海、南海地震等に関する専門調査会」から被害想定が公表され、現在この被害想定に基づいて広域医療搬送計画を作成中である。

 また、ある程度の切迫性が指摘され、首都に高度に集積する各種中枢機能に大きな被害を及ぼす恐れがある首都直下地震に関しては、2005年2月の首都直下地震対策専門調査会から首都直下地震の被害想定が公表され、現在この被害想定に基づいて広域医療搬送計画を作成中である。


透析室災害対策 フローチャートで災害をイメージしよう

(赤塚東司雄、透析ケア 12: 659-669, 2006)


 災害時発生の超急性期から災害復旧時までの14日間のもっとも特徴的な状況を取り上げながら、災害そのものがイメージできるように今回のマニュアルは作成された。

  災害をイメージすることがとても重要である。なぜならば、もし災害をきちんとイメージできないままにマニュアルをつくると、使用の耐えないものになるからである。災害による被災という緊急時を平和な平常時の思考で対処することに、災害対策の失敗の原因の大半が起因すると考えられる。だから、災害のイメージを十分構築できること、この作業だけで、災害対策の半分以上が達成されたのも同然と言えることになる。

 「災害にマニュアルなし」という言葉は正しいものであるが、粛々とみんなできちんと対応できるようなマニュアルはつくれない、という意味であり、災害時の基本的な動作というようなものは絶対に必要である。基本的な動作を身につけて、それらを現実の災害の時に応用するのである。多様な災害にきちんと対応できるのは、決りきったマニュアルでなく、災害を乗り越えようとする人々のイマジネーションである。

【災害発生直後】

 災害直後、いわゆる「超急性期」には、まず以下のような観点から必要な情報を収集し、状況を分析することが重要となってきます。

1.勤務している病院地域の震度はいくつだったのか?自宅の震度はいくつだったのか?

→ 一口に震災といっても震度によって大きく状況が異なり、震度別にスタッフ召集をする必要があり、また、連絡網はあっても意味がないことを念頭に置いとくべきである。

 震度5強以下では深刻な問題は発生しないが、震度6以上では透析室インフラに一定の被害が確実に起きていると考えられる。

 スタッフ召集は、震度6弱以上でスタッフが、震度5弱から5強にかけては管理職のみが全員集合します。このとき、集合できなかったスタッフは何らかの被害を受け、出勤できないと判断し、もっとも多忙で重要な被災直後の時間を、スタッフ集めなどという不毛な時間にあててはならないことが重要といえる。また、震度5弱から5強にかけては全員集合するのが管理職のみであるのは、この程度の被災では支援透析のための手配や、迅速可能な患者連絡の必要でないので少人数でも対応可能だ、ということである。

2.あなたは透析室にいる?いない?

→ 災害時にはスタッフ各自の家族を守ることが必要になるため、災害時どこにいるかによってはじめの行動が決まる。勤務中であれば、病院スタッフとしての使命を果たすことが求められる。自宅にいた場合、自宅の状況及び家族の安否を確認し、緊急の対応が必要ないと判断できる段階で、できるだけ早く病院に向かうことが大切である。休務中かつ外出中であれば、基本的に家族の安否確認・自宅の状況確認をして、ある程度不安解消をしてから病院に向かうほうが良い。

3.地震発生は透析中?非透析中?

 → 災害時には、透析室にいない患者のほうが多い。透析室だけでなく、自宅で被災した患者群を指揮下におくことが重要である。透析中であった場合でも、被災時に透析室にいる患者よりも、いない患者のほうが多いという事実に思い至るべきであり、迅速に彼らを指揮下におき、安心感を与えて、パニック状態からの心理的な復帰を容易にすべきである。

【災害発生より数時間〜半日経過】

 必要なスタッフが集合した後は、組織的に動けばよい。まず、自施設が透析可能かインフラを確認した後、透析日でない患者に連絡する。このとき、患者個々からの連絡がひっきりなしに入ると連絡がつかないため、患者を地域ごとにひとまとまりでグループ化をしておき、そのグループ内で一定の情報収集をしてもらい、その後まとめて連絡をとるにする。こうすることにより、情報収集が円滑にいくだけだはなく、患者同士で連絡を取り合うことができるために患者を精神的にもずっと安定させることができる。

あなたの施設は?都市型or地域密着型?

→ 地域密着型に比べて都市型でははるかに個人を把握しづらいため、患者ごとに連絡方法を確立する必要がある。地域密着型では、face to faceの関係を有効に活用することができ、事後も円滑にいきやすい。これに比べて、都市型では、幅広い地域に患者がちらばっており、患者をグループ化することが難しい。しかし、それでも患者をグループ化しておき、施設から遠くに離れた患者についても対応をきめておかなければならない。

【災害発生より2〜3日目】

 災害急性期に関しては、自施設が透析可能かどうかによってその対応は変わってくる。支援透析依頼をする場合、スタッフはその作業により多忙な毎日を送っていることに加えて、この時期が1回目の支援透析となるため、スタッフの緊張感は最高潮となる。しかし、激しいストレスにさらされている患者の健康状態に悪化して当たり前という気持ちで警戒しておくことを忘れてはならない。また、支援する側も、施設のスタッフだけでなく通院する患者を含めた総力戦になる。

【災害発生より4〜7日目】

 この時期には、通常、透析施設は復旧しており、患者は支援透析を終了している。この時期に至っても、支援透析をしなければならないのは、阪神淡路大震災などの巨大災害を除き、ライフラインが大きく被災して復旧が遅れているケースだけである。「透析医療が災害で大きな被害を受ける原因は、主にライフラインの途絶による」といわれているが、巨大震災を除いては、実際はRO・透析液供給装置の固定の不十分などの災害対策ができていなかったという原因のほうが多かった。対策を十分にすれば、透析不能になることなく切り抜けられることができるということになる。

【災害発生より8〜14日目】

 通常の巨大震災では事態が収束に向かっているため、この時期になって注意するべきことは、避難所生活を続けている患者の健康状態だといえる。


災害時のトリア−ジにおける諸問題 1)黒タッグ装着と医療者の責務

(林 靖之、EMERGENCY CARE 22: 224-230, 2008)


<JR福知山事故の概要>

   2005年4月25日、JR福知山線で列車脱線事故が発生し、死者107人、負傷者562人が発生した。この事故では近隣の消防本部、医療機関から多数の応援が現地に集結し、わが国で初めて黒タッグが使用された。

<医療チームの現場活動>

 事故発生後最先着した兵庫県災害医療センターの医師が医療コマンダーとなって傷病者のトリアージ、緊急処置、病院への搬送が行われた。

<事故後の活動>

 事故後、事故調査への協力、学会発表、論文執筆、マスコミ取材対応、ご遺族との面談などを行った結果、今回の事故で生命兆候のない傷病者に黒タッグを装着し、病院に搬送しなかったことは、現場近辺の医療機関に混乱をもたらさず、Preventable Trauma Death(避けられた外傷死、PTD)の発生を予防することができたとする調査結果が報告された。

<ご遺族との面談>

 当時の現場活動を報告し、黒タッグを装着せざるを得なかった経緯について説明した。それに対してご遺族は傷病者の見覚えの有無とその時の状況、受傷時の車内での状況について質問されたが、黒タッグを装着した負傷者については、受傷時の状況などについては全く把握していなかったため、ご遺族の質問には全く返答ができずに、終了した。

<黒タッグ装着に関する問題点>

1.一般の外傷により傷病者が発生し、死に至るプロセス

2.今回の事故における問題点

<望ましい黒タッグ装着と医療者の責務>

1)黒タッグの装着はブロンズエリア内の前進指揮所が望ましい。

⇒・当然生存者が優先されるが、生命兆候のない負傷者についても時間の許す限り受傷時の状況を確認して黒タッグを記載し装着すること。

   ・装着された黒タッグには遺体安置所などにて負傷部位などの情報がさらに記載され、適切な方法で保存されること。

2)前進指揮所で黒タッグを装着するのは消防職員、看護職員が望ましい。

  ⇒本来は医師が望ましいが、医師が必ず災害現場に最先着できるわけでもなく、医師の数が限られている場合が多いため、そのような場合、医師は救命のための医療行為を優先すべきである。

3)トリアージタッグを装着すべき時は生命兆候がないと判断したら、厳然と黒タッグを  装着すること。

 ⇒ここで赤タッグをつけてしまえば現場に混乱をもたらすだけであり、逆効果。ただし、黒タッグを装着した者の責務はあくまで傷病者自身に対して限るものであり、ご遺族に対するケアは黒タッグを装着したものを含む救助者とは別の専門家が対処するべきである。

<おわりに>

 今後災害現場で黒タッグを装着する機会があると考えられる者は、黒タッグ装着の重 要性を十分理解し、活動していくことが望まれる。


国際緊急援助隊

(小井土雄一、プレホスピタルMOOK 4 多数傷病者対応、永井書店、東京、2007、p.158-163)


1.国際救急援助隊とは

 国際緊急援助隊(Japan Disaster Relief Team ; JDR)は、海外で発生した災害に対し日本政府が派遣する災害救援チームである。国内には多くの国際災害救援にかかわるNGO(非政府組織)が存在するが、JDRは唯一のGO(政府機関組織)である。世界の災害現場で多数傷病者を診療し、その活動は内外で高い評価を得ている。

 JDRは医療チーム、救助チーム、専門家チームから構成されており、総合的な緊急援助体制を確立している。

 JDR医療チームの隊員は、国際災害において医療活動を行いたいという有志によって構成されている。しかし、派遣される場合は日本国として公的に派遣されることになる。職種は医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、レントゲン技師、救急救命士など。

 実際の派遣時においては21名のメンバーで派遣される。JDR医療チームは災害急性期医療チームであり、派遣期間は原則2週間。継続的な医療ニーズがある場合には二次隊が派遣される。

 救助チームは被災地での被災者の捜索、発見、救出、応急処置、安全な場所への移送を主な任務としている。チームは警察庁、消防庁、海上保安庁の救助隊員から構成され、被災国の要請から24時間以内に日本を出発することを目標としている。活動期間は要救助者の生存可能期間から72時間。

2.諸機関の連携をいかに確立するか

1)日本国政府と被災国政府の連携

 出動には、被災国政府から日本国政府あるいは国際社会に対して要請が出されることが、国際緊急援助隊の派遣実施にあたっての前提となる。よってまずは被災国あるいは国際機関との連携が必要。被災国政府からJDRの派遣要請が出された場合は、外務省国際緊急援助室とJICA(国際協力機構)・JDR事務局との緊密な連携のもとに、外務大臣によってJDRチームの派遣の可否が決定される。出動を決定した場合は派遣命令をJICA・JDR事務局に出す。(図1)(※JMTDR:国際救急医療チーム)

2)JDRチームと現地対策本部、国際機関、他の医療チームとの連携

 災害発生時、被災国に負担をかけないように、国連人道問題調整部(UNOCHA)が中心となり、被災国に代わって、被災国と海外からの救援チームの受け入れ調整業務を行っている。UNOCHAの海外チームに対する業務は以下の通り。@被災情報についての調査の支援、A被災情報などに関する情報の国際社会への発信、B海外の救援チームの適切な配置調整。被災地に満遍なく医療提供できるように医療チームを配置する。(GapとDuplicationの回避)、C海外の救援チームと被災国対策本部のインターフェイス機能の実施。国連が海外救援チームの窓口(インターフェイス)になるため、被災国は国連に連絡を取れば、それぞれの海外救援チームには連絡をとる必要がなくなる。

 UNOCHAはこの4つの業務を行うために、被災現地にOSOCC:On-site Operations Coodination Center(臨時現地事務所)を立ち上げる。OSOCCは各国チームの登録、情報提供などの調整を行う。実際にはOSOCCは被災国空港にReception/Departure Centerを置いて対応している。海外医療チームは被災地に到着後、まずReception Centerに行き自チームの活動登録を行った上、被災情報の詳細を聞き、活動場所などの指示をもらう。OSOCCは、各海外医療チームの規模、能力を聞き出し、適切に配置すると同時に被災国にも報告する。(図2)

 現地においては各医療チーム間の連携も重要。これを担うのが、現地災害対策本部あるいはOSOCCが主体となり開かれるドナーミーティング。各医療チームはドナーミーティングで情報を提供し合い、有機的により効果的な医療支援ができるようにしている。

3)トリアージ・現場治療・搬送の傷病者の流れをいかに早期に効率よく確立するか

a)JDRのトリアージ

診療開始時には受付に長蛇の列ができあがり、待ち時間が長くなることで、重症患者をも待たせる可能性がある。それを防ぐために、トリアージ担当を置き、注意を払い重症患者が列に紛れていないかチェックする。みつけた場合はすぐに診療テントに運び込み診療を開始する。宗教的に女性の意思表示が難しい国では、女性と女性の抱いている子供に注意する。

b)JDRの現場治療

 JDRの診療は基本的にはテントを張りフィールドクリニックにて行う。傷病者を受け入れるために活動場所(サイト)をどこにするかは重要。診療所設置場所の最低条件として、1)セキュリティー:治安がよく、必要な安全対策を施すことにより安全の確保ができること。また、二次災害の危険が少ないこと。2)医療ニーズ:その地域に医療を必要としている被災者が大勢いること。3)プレゼンス:活動形態がGOとしてのプレゼンスを示すのに適切であること。を挙げ、ほかにも、診療活動を行うに足るスペースが確保できること、水はけの良いこと、医療廃棄物の処理に便利であること、これらを条件にサイト選定を行っていて、サイト選定は多数傷病者を受け入れる準備として最も重要である。

 次に重要なのは診療所の設営。傷病者・スタッフ・物品の動線を意識して、各セクションを配置していく必要がある。例えばイスラム圏では男女が一緒にならないような工夫する。

c)搬送の傷病者の流れ

 現行のJDR医療チームは病床を持たず手術なども不可能であるため、その場合は後方搬送が必要になる。重症患者をみつけてから後方搬送先を探すのは大きく時間をロスし患者を危険にさらすことになるので、現地入りして活動場所が決まった時点で、後方病院をいくつか確保している。機能している機関病院が近い→陸路搬送。病院が遠方→軍のヘリコプターの協力などを受けて広域搬送。よって、事前に後方病院と搬送手段を確保しておくことが重要である。

おわりに

 多くの災害を経験し、その対策に長けた日本は、世界の被災国に救援の手を差し伸べるのは当然であるが、特にアジアにおいてはアジアのリーダーとしての責務がある。

 現在、JDR医療チームは近隣諸国の大災害においては、多数傷病者受け入れと同時により重篤な患者にも対応できるように、手術、透析、病棟をもつフィールドホスピタル化への機能拡充も検討している。


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