災害医学・抄読会 090313

災害看護の発展と今後の課題

(山本捷子、小原真理子ほか監修 災害看護、東京、南山堂、2007、p.9-15)


 近時、世界各地で自然災害が相次いで起こり、また、各腫の紛争が繰り返されて、苦しむ人々が増え、広く世界に支援を求めている。

 2004年の史上最大規模となったスマトラ島沖地震・津波災害をはじめ、戦争災害、人為災害では部族間の武力紛争やテロ、またHIV/エイズの蔓延などの危機が発生している。これら災害は、貧困が人的・物的被害を拡大させ、災禍の復興を遅らせている。

 国レベル、地域レベルでの対策には限界で、人道の見地から世界中がボランティア支援を行う義務があるといっても過言ではない。

 人道的支援を行う国際機関として赤十字があり、その中にICRC(国際赤十字委員会)と国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)がある。災害看護の発展を考える時に、その国際機関の発症と活動を概観しないで今後を展望することは、思想的・哲学的基盤が弱くなり、視野が狭くなる恐れがある。

1.国際的組織・赤十字活動

a. 赤十字社の誕生と赤十字国際委員会

 スイス人であるアンリー・デュナンは、イタリア統一戦争の悲惨な有様を経験し、負傷者の敵味方の差別なく、「トゥッティ・フラテルリ(みんな兄弟)」を合言葉に、救護活動を行った。

 ジュネーブに戻ったデュナンは、戦争犠牲者の悲惨な状況を伝える本を出版した。この中で、1)戦場の負傷者と病人は敵味方の差別することなく救護すること、2)そのための救護団体を平時から各国に組織すること、3)この目的のために国際的な条約を締結しておくこと、と述べている。この構想をジュネーブ公益協会が取り上げ、「赤十字規約」を採択し、ICRCを活動させ、人道法が守られるようになった。

b. ジュネーブ条約(1949年)

 1) 陸の条約、2)海の条約、3)捕虜の条約、4)文民の条約
が調印され、これがさらにジュネーブ条約追加議定書に発展した。

c. 国際赤十字・赤新月社連盟

  1. 各国赤十字社・赤新月社

     1863年に赤十字規約が成立すると、各国は戦時救護団体を組織し、赤十字社という名称を用いた。そして、日本赤十字社は1886年にジュネーブ条約に加入した。

     【赤十字マーク】
     赤十字マークはアンリー・デュナンの祖国スイスに敬意を表して、のスイスの国旗の配色を逆にして作られ、「保護の標章」として、定められている。

     各国赤十字・赤新月社は、1)紛争や災害時に、傷病者の救護活動、2)赤十字の基本原則や国際人道法の普及・促進、3)平時における災害対策、医療・保健、社会福祉、青少年育成などの業務を行っている。

  2. 国際赤十字・赤新月社連盟

     2006年10月には186ヶ国が加入している。

d. 日本赤十字社の活動

 (1) 国際活動:1)国際救援、2)開発協力、などを行っている。

 (2) 救護活動:救護活動は赤十字の中核的な活動であり、地震、火災、風水害などの様々な災害救護はもちろん、伝染病流行時の患者救護、船舶の遭難、交通災害など、多種多様な救護活動を行っている。

2.看護専門職と災害看護

 1995年の阪神淡路大地震では、ネットワーク構築の重要性と危機管理の貧困さが問題となった。災害救護法には災害時の看護の理念が定められており、日本看護協会は、災害看護を、「災害時に看護に携わる者が、知識や技術を駆使し、他の専門分野の人々と協力のもとに、生命や健康生活への被害を少なくするための活動を展開すること」としている。

 災害時には、どの段階においても看護の役割として、様々なニーズが発生する。看護師は、災害時の健康障害に対応する基本的専門能力の上に、災害の特徴と固有な技術を身につける必要がある。そのレベルは、救急救命においてリーダーシップをとれる能力が望まれるので、そのためには日頃からの研鑽が必要である。

3.災害看護の課題

 日本赤十字社の教育機関では、災害活動など広く社会に貢献できる看護師を育成している。しかし、災害の被害の多様化、その規模の拡大から教育の限界を感じている。このためには、災害救護に関する基本教育、卒後教育、専門家を含めリーダー教育が必要である。学問的体系の中にはさらに、「災害教育カリキュラム案」の他に、危機管理から支援システムまでを包括したネットワーク構築、法規、国際情勢と災害に関与する国際機関などについての内容を網羅し、防災から短期・中長期にわたる災害救護の全貌を学問領域に包含することが重要である。

 しかし、災害看護教育を展開する前提条件として、疾患の重症度が判断できるほどの判断能力を育てる必要があり、また救急看護の技術も災害看護額とタイアップして、確実に身につける教育を行わねばならない。

 そして、看護の心を育むことが必要不可欠である。災害ボランティアや防災訓練への参加などボランティア精神をはぐくむことが肝要であり、課題でもある。

 災害救護の発展は、まさにアンリー・デュナンの「トゥッティ・フラテルリ(みんな兄弟)」の思想を哲学的基盤に据え人道を発展させ、災害と救護の対策を可能な限り推し進めることに他ならない。看護専門職は、災害看護額を確立し、組織だった教育を構築し展開する必要がある。また、各保健医療機関の看護職は他機関と共同し、責任を持てる能力維持と研究開発を行い、社会に貢献することが重要であると考える。


災害発生時の医療施設における初動対応

(切田 学、丸川征四郎・編著 経験から学ぶ大規模災害医療、大阪、永井書店、2007、p.125-130)


 医療施設は、災害情報が入ると迅速に負傷者受け入れの態勢と共に、医療チームの派遣も整えなければならない。そのため、初期対応では、災害に関わるあらゆる情報の入手と伝達が最も重要なこととなる。

1.災害現場へ派遣する医療チームの装備

 まず、医療チームが二次災害を被らないよう予測性・即応性・準備性を考慮した医療装備をして出向することが重要である。災害現場では負傷者の呼吸・循環を迅速に安定化させ、災害現場外へ搬送するために必要な医療資器材を携帯する(表1)。除細動器などは活動の物的負担となるので携帯は必須ではない。医療資器材以外では、自分たちの移動や食糧確保のために現金を携帯しておくことが重要である(表2)。

2.災害現場派遣医療チームの安全確保

 災害現場は危険な状況のことも多く、基幹病院は災害現場派遣医療スタッフ用に安全な服や靴を整備しておくべきである。ただし、発災の1~3時間は災害対策本部や消防本部も混乱しているため、正確な災害情報や必要な装備について基幹病院へ発信できない。そのため、先発医療チームが軽装備でいち早く出発し、後発医療チームに必要な装備や物品を連絡して災害医療活動を引き継ぐのが現実的である。

3.災害現場初動

 災害現場では「最大多数の負傷者に最善の医療を実施する」ためにトリアージを実施している。効率よく行うためには、以下のことを整備・確認する必要がある。

  1. 医療指揮官と指揮系統の明確化

     災害現場では複数の公的機関(消防、警察、行政など)や施設(医療、発災元企業など)が業務を分担して実行しているため、指揮系統を明確にしておかないと現場トリアージ活動の不手際・遅れにつながる。医療指揮官は災害状況や搬送先医療施設への交通状況などの評価に基づいて各機関・施設との調整を行い、トリアージ実施者に指示を出す、といったように現場トリアージ活動の全体を管理・監督する役割がある。

  2. 災害状況の評価と基幹病院への伝達

     災害状況(災害の種類、負傷者の人数・緊急度・重症度、搬送先医療施設への交通状況など)を迅速に、繰り返し評価し、基幹病院へ発信していくためには、1つの基幹病院に災害状況を連絡し、そこがハブとなって他の病院へ発信していく方法が良い。

  3. 負傷者救護所の設置

     負傷者を災害現場から退避させるため、二次災害を受けにくく、平坦な屋外に救護所(二次トリアージ、応急処置を行うところ)と待機所(歩行可能な負傷者、軽症・無傷の負傷者を集めるところ)を設置する。

  4. 搬出路・搬送路の確保

     負傷者の動線を一方向となるように整備する。

  5. 災害現場救助従事者の安全確保

     装備が不十分な救助従事者は災害現場の危険区域内で活動させるべきではない。


表1 医療資器材
(●必須、◎必要に応じて)

●気道確保:気管チューブ
●換気補助:バッグ・バルブマスクセット
●緊張性気胸対応:胸腔穿刺針
●脊椎固定:頚椎カラー
●点滴セット、輸液剤
●強心剤
●疼痛緩和:鎮痛剤、安静剤
◎除細動器
◎酸素ボンベ
◎リザーバー付マスク


表2 医療資器材以外に携帯すべきもの
(●必須、◎必要に応じて)

●はっきりわかる身分証明書
●携帯電話
●メモ帳(記録保存が最良の防御となる)
●カメラ(デジタルカメラ)
●懐中電灯
●現金
◎録音機
◎アクションカード(現場で行動すべき内容を記載したもの)




トリア−ジ

(石井美恵子、EMERGENCY CARE 22: 32-37, 2009)


1.災害時のトリアージ

1)ふるい分け(SIEVE)

 災害現場のトリアージポストや救護所などで行われる。傷病者を大きく継承とそれ以外に分ける方法(図1)。

2)並び替え(SORT)

 治療や搬送の優先順位を決めることが目的。緊急度・重症度によって並び替える(図2)。

2.病院でのトリアージ

 人為災害の局所災害では、すでに一次トリアージがなされた傷病者が運ばれてくることが多いが、地震のような広域災害では近隣住民が病院に駆けつけてくることもあるため、「ふるい分け」が必要なのか、「並び替え」が必要なのかを状況を判断して決めなければならない。

3.病院でのトリアージの準備

 平時の救急患者搬送よりも多くの救急車が到着することを踏まえ、病院構内の人や車の動きを管理する必要がある。

 病院の構造に合わせて傷病者の入り口、トリアージポスト、赤のゾーン、黄のゾーンを決定する。

 要緊急治療群である赤のゾーンに最大限の人員を配置する必要がある(人数のみならず外傷患者の初期診療や看護の実戦能力も加味)。人員、医薬品、資器材、治療環境を分析し、受け入れ可能な患者数を判断する。

 一次トリアージがなされた傷病者を病院に受け入れる場合には、受信という手続きを踏むことになるが、傷病者数があまりにも多い場合には、初期の段階ではトリアージバッグをカルテの代用とする場合もある。

4.病院でのトリアージの実践

 原則的には赤タッグを装着しているすべての患者のPrimary surveyを完了してから、Secondary surveyに進む。Primary surveyの途中で赤と判断することもあるだろうし(大量の気道出血やショック等)、他の赤タッグを装着しているすべての患者のPrimary surveyが完了していなくてもSecondary surveyに進むこともあり得る。その場で医療対応に当たる人員間で共通認識を持つことが重要である。

5.赤ゾーンでのトリアージ

 赤タッグの傷病者の「並び替え」を目的としたトリアージが必要になる。医療対応能力とのバランス、病院の損壊状況によっては、根本治療といった最良の医療を提供できない可能性もあるので、医療対応能力を分析して対応の範囲を見極めることが必要となる。傷病者に対する対応が不可能ならば、搬送の優先順位を決め、搬送先と搬送手段を確保する。

6.トリアージタッグの取扱

 一次トリアージがなされて病院に搬送され、二次トリアージを行って赤から黄に変更するというようにカテゴリーが変わる場合には新しいトリアージタッグを装着する。また古いものと混同しないように番号等を記し、誤認されないために同一部位に装着する。

表1.トリアージのカテゴリー分類

優先度分類色別区分身体状況
第1順位要緊急治療群I緊急処置が必要な傷病者
第2順位準緊急治療群II数時間程度待機可能な傷病者
第3順位軽傷群III外来通院等で処置できる傷病者
第4順位救命不能群0救命の可能性のない傷病者


備蓄とライフラインのバックアップ

(佐藤和夫ほか、LiSA 15: 752-756, 2008)


新潟県中越地震と中越沖地震とは

 新潟県中越地震(にいがたけんちゅうえつじしん)は、2004年(平成16年)10月23日(土)17時56 分に新潟県中越地方を震源として発生したM6.8、震源の深さ13kmの直下型の地震である。新潟県中 越沖地震(にいがたけんちゅうえつおきじしん)は、2007年(平成19年)7月16日10時13分23秒 (JST)に発生した新潟県上中越沖を震源とする地震である。

 災害時の病院機能の維持には堅固な建物、設備が必要であるが病院でのライフライン(電力・ガ ス・水・食料・薬剤および診療材料)の確保は病院機能の維持には必要不可欠である。そこで長岡 赤十字病院の対策について紹介する。

各ライフラインの供給について

【電力供給】

 電力供給は平時の70%はガス自家発電設備より設けていて、残りは商用電力(2回線で供給)でカ バーしている。災害発生時に商用電力が供給不能になった場合にはA重油を燃料とする非常用発電機 が瞬時に発動して院内の医療用及び保安用電力としてバックアップ供給されることとなっている。

 また瞬間停電に関しては無停電電源設備によって手術室、ICU、NICU、PICUには途切れることなく電力を供給できる仕組みになっている。

【ガス供給】

 医療用ガスとして液体酸素タンク、液体窒素タンクを屋外に設置し酸素および人工空気を製造して 各部門に供給している。

【水の供給】

 市の水道管より貯水槽に貯水しているが、病院の必要量の1.5日分までしか貯留できないため市の給水車より最優先に給水を行ってもらった。給水用のペットボトルは別途備蓄している。

【食料の備蓄】

 入院患者に対する食料は726床のすべての患者の1日分の備蓄がある。調理場は地下につくってある ので地震の影響はあまり見られない。エレベーターの使用が不可になると食料を運べなくなるので 備蓄食料に頼らないといけないのが難点である。

【薬剤および診療材料】

 通常の在庫により1週間は対応できる見込みである。また薬事協会、医理科機器同業組合との協定により支援要請に対応できる形となっている。

まとめ

 ライフラインの供給は病院機能の維持に極めて重要であるのは言うまでもないが、災害時の情報収 集も極めて重要である。状況を職員、患者に知らせるための拡声器やテレビ・インターネット回線 の確保、院内PHSの機能の向上など情報面の強化も課題の必要といえよう。また医療廃棄物の保管ス ペースも十分に確保するべきである。

 この問題は新潟県のみでなく全国どの地域にも大規模地震が発生する可能性があるので各病院で体 制作りが重要である。愛媛大学医学部付属病院の災害時の備蓄やライフラインの確保について見学 したときに、この長岡赤十字病院と同じくらいの体制ができていると感じた。愛媛県では南海地震 が発生する可能が高く、県内各病院の災害対策を万全にするのは急務であろう。


災害各期における必要なこころのケア

(前田 潤、小野真理子・監修 いのちとこころを救う災害看護、東京、学習研究社、2008、p.80- 84)


 そもそも心のケアを理解するためにはまずストレス概念を理解する必要がある。ストレスとは、ボールに例えると外力を加えるストレッサーによってボールの中に発生するゆがみの力(応力)のことであり、この力によってボールがゆがんだ事をストレス反応と呼ぶ。このストレス概念から考えると、心のケアとはストレス反応を軽減することであり、ストレッサーあるいはストレスに対する働きかけであることが分かる。

 また、ストレス反応は正常な反応であることを忘れてはいけない。特に災害は大きなストレス事態であり、災害による恐怖・自ら及び家族や知り合いの生命の危機・身体の損傷・家屋や財産の喪失などこれまでの日常を突然奪われてしまう。このような事態では身体及びこころに影響を受けないはずがなくストレス反応が生じるのは当たり前なのである。

 災害によるストレスを分類すると 1)危機的ストレス、2)避難ストレス、3)生活再建ストレス に分けて考えることが出来る(参照)。

 ストレスによって起こるストレス反応は全ての人に見られるわけではなく起こる時間なども目安はあるが個人によって差があり、かつ時間経過によって変化していく。この反応は心拍数の増加、不眠、集中力の低下や悲しみなど身体、思考、感情、行動などあらゆる形で現れる。

 これらストレス反応は正常なストレス反応であるが、時間の経過と災害からの復興とともに徐々におさまっていくものである。しかし、災害時に受けたトラウマ体験によって強いストレス反応を示したり、時間が経過すると共にストレスが深まる場合がある。これをトラウマ的ストレス反応と呼ぶ。この反応は専門的治療を要する状態であることを意味し、過覚醒、再体験、回避といった反応を基本としている。これらの状態が1か月以内に自然に治癒するものを急性ストレス障害ASD(Acute Stress Disorder)、1か月以上続く場合には外傷後ストレス障害(PTSD:Post-Traumatic Stress Disorder)を考慮する。

 災害は大きなストレス事態であり、被災者は影響を受け様々なストレス反応を示す。多くは正常反応であるが中には反応が持続、あるいは遅延することがあり早期からの質の良い支援は必要かつ有効であり、予防ともなる。

 こころのケアとはストレスの軽減をはかる支援活動であり、全ての支援活動がこころのケアであるともいえる。心理・社会的支援といった狭義の心理療法や心理カウンセリングではなく、被災者のおかれた社会的ストレス要因も含めてその軽減を図ることをこころのケアと考える。

 これまでに述べた災害ストレスとストレス反応からそれらに則した一般的な対応、心構えについて以下に述べる。

1.急性期:発症直後〜数日

 危機的ストレスにさらされ、緊急対応が求められる。適切かつ迅速な処置や対応、優しい言葉かけや親切で親身な態度が求められる。特に緊急時には処置に追われ軽傷者や無傷の人を軽視してしまうことがある。しかし、身体は無事でも大きなショックにさらされている場合もあるため親身に声をかけていくことが大きな支援となる。

2.反応期:1〜6週間

 不安定でもそれなりに生活が秩序をもってくる時期であり、被災者同士の助け合いや協調性が満ちる時期であるが、たまっていた疲労が実感されるようになり身体症状となることもある時期である。支援者の存在を知らせ、住宅の片付け等を行っている被災者に配給を行う等の工夫が重要な被災者への心理・社会的支援となる。

3.回復期:1〜6か月

 被害の全容が明らかになり、被害の個別性も明らかになる。急性症状は少ないものの、この時期の被災者は被害の程度が大きくかつ長期の避難生活を強いられて様々なストレスに持続的にさらされ将来への不安を抱いている。支援者には親切で親身な態度はもちろん必要とされるが、被災者がこれまでどのような体験をし、それらにどのような対処をしてきたのかを聞き、尊重する態度が被災者を支えることになる。一方で無理に話を聞きださない姿勢も大切である。この時期に外傷後ストレス反応を示す被災者がいる場合には、精神科医や心理学専門家等の介入を考える。

4.復興期:6か月以降

 被災地域は復興に向けて動き出し、社会の関心も薄れていく時期である。地域の通常機能の多くは回復し、医療従事者も地元のスタッフとして住民としての被災者と接することとなる。しかし、日常の中で現在の患者と被害との関連を意識することがこの時期では重要である。ふとした瞬間に災害時の記憶が蘇り、それがストレス反応として現れることもあり、本人もつながりを意識できないでいる場合もあるのである。

 災害との関連でこころのケアについて述べてきたが、災害のストレスは災害規模、災害の種類、被災地域、個別的な被害によって異なり、実際に求められる対応も異なってくる。そしてこころのケアは狭義の心理療法から広義の支援活動全般まで幅広い意味をもっていることを改めて知っておきたい。

 また、被災者だけでなく支援者である医療従事者もストレスにさらされている。その反応は被災者と変わりなく、スタッフにもストレスに対する支援が必要であることに留意する。

ストレス分類ストレッサーストレス分類ストレッサー
危機的ストレス生死の危機にさらされる、けがをする生活再建ストレス孤立感
大事な人、家、思い出の品を失う不公平感
大事な人の危機に遭遇する終わりのなさ
助けられなかった無念再建に向けた様々な手続き
避難ストレス食糧、飲料水、生活物資の不足新しい環境に適応する
トイレ、入浴の困難  
集団生活、知らない人と過ごす
プライバシーの欠如
病気やけがの人がそばにいる


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