災害医学・抄読会 090227

災害の歴史に学ぶ災害看護

(山本捷子、小原真理子ほか監修 災害看護、東京、南山堂、2007、p.2-8)


時代災害看護の哲学主な災害看護組織日本における事象例海外の事象例
古代
(〜5世紀)
  • 手当、介抱など
  • 見知らぬ他人への慈悲
  • なし

  • 「古事記」のオオクニヌシノミコトの火傷を二人の女神が世話をした。
  • 光明皇后の命で貧しい人に薬を与える「施薬院」や病人を世話する「療病院」が作られた。
  • 聖書ルカ書に通りがかりのサマリア人旅人の、けがをして倒れていた他人に対する手厚い看護が描かれている
中世
(6世紀〜15,6世紀)
  • 予測された人災や災害に対する準備
  • 私的集団による医療

  • 十字軍の従軍看護団
  • 医療救護団「チュートン騎士団」(ドイツ)
  • 修道騎士団「聖ヨハネ騎士団」
 
  • 十字軍遠征に伴い病人や負傷者の看護を行った。
  • ホスピタル騎士団とも呼ばれた聖ヨハネ騎士団はエルサレムに現在もエルサレム眼科病院を経営している。
  • 聖ラザロ騎士団は4世紀に病院を開いた聖バシリウスの教えに立ち戻り軍事活動を辞めてハンセン氏病専門の救護をした。
近代
(17〜19世紀)

  • 公の組織(国家、社会)として傷病人を守る義務の芽生え
  • 組織化された医療と看護
  • 医療の国際中立化(ジュネーブ条約;1864)
  • 赤十字社の設立(現在191カ国が加盟)
  • エカテリーナ女王の看護団活動(帝政ロシア)

  • 戊辰戦争(1868)の負傷者を武士の家族や地元の女性が介護した。
  • 濃尾大地震(1891)で近代看護婦による初の災害救護活動が行われた。
  • 三陸大津波(1896)は死者2万人、被災者30万人を出し看護婦が救護した。
  • 日本赤十字社で戦時に備えて救護看護婦養成を始め(1890)、日清戦争、日露戦争、および二つの大戦で救護を行ったり、東南アジアの地で兵士の救護に従事した。
  • クリミア戦争でナイチンゲールが活躍した。ナイチンゲールはセント・トーマス病院に看護婦学校を創立した。
  • ナポレオン戦争でトリアージの概念が発案された。
現代
(20〜21世紀)
  • 患者の治療を受ける権利および人権の尊重
  • 組織化されたケアも含めた看護
  • NGOやボランティアの活用化

  • 国境なき医師団の創立(1971、フランス)
  • AMDA(1984、日本)
  • 世界の医療団(1980、フランス)
  • 関東大震災(1923)後に済生会や日赤病院の巡回診療が行われ、また公衆衛生や母子保健活動がはじまった。
  • 阪神大震災(1995)でボランティアの活躍が関心を引く。また、被災後のこころのケアが注目された。
  • 第二次世界大戦後に「災害医療」の概念が生まれた(1955)。
  • NATOが正式な災害医療マニュアルを作成した(1962)。
未来
(21世紀〜)

  • 心身両方の被害をケアする災害看護
  • 標準化された、より効率的な防災の研究
  • 災害看護教育が普及して看護教育必須となる
  • 災害医療の国際化
  • 国際ボランティア活動の高まり
  • 新潟中越地震でボランティアの活動や慢性疾病を持つ被災者への看護などが注目された(2004)。
  • 9.11後(2001)災害医療の重要性が再認識された。
  • スマトラ沖地震・インド洋大津波災害(2004)には、日本も含め多くの団体が救援活動を行った。
  • イラク戦争の兵士や現地住民のこころのケアやPTSDが注目される
将来への課題
  • 災害が及ぼすこころの影響と適切な関わり方について実践や研究を積み重ねる必要がある。
  • 急性期だけでなく回復期や復興期でのリハビリテーション介護を活発化する。
  • 災害による被害をできるだけ少なくするとともに「災害サイクルに対応した看護」を目指す。



病院の準備

(甲斐達朗、丸川征四郎・編著 経験から学ぶ大規模災害医療、大阪、永井書店、2007、p.31-41)


 阪神・淡路大震災以降、政府は約550の医療機関を災害拠点病院に指定し、院内災害対応計画および院外災害で発生した多数病傷者受け入れ計画の策定を義務づけた。しかし、諸外国では病院の設置基準としてこれらの災害対応計画が義務づけられているのが通常であり、日本も全ての医療機関で災害計画を策定する必要性があるといえる。

1.病院の災害対応の必要性

 災害の種類は、医療機関での火災、列車事故、航空機事故、大型交通事故、地震など、その医療機関の立地条件によってさまざまであり、医療機関ごとにどのような災害の危険性があるかを認識する必要がある。いったん災害が発生すると、病院の災害対応準備や災害拠点病院の指定の有無とは関係なく、患者が近隣の医療機関に殺到する。従って、全ての医療機関がその病院の規模や役割に合った災害対応の医療計画を立てる必要がある。

2.病院の脆弱性

1)病院建築

 地震災害で、病院が医療活動を行うことを制限されてしまうこともある。入院患者が転院を余儀なくされるといったような事態を防ぐために、地震発生が危惧されている地域の医療機関では、医療従事者自身が病院の耐震基準を知る必要がある。

2)ライフライン

 医療機関は、高度な医療水準を確保するため、電力、水、ガス、通信などのライフラインに依存している。災害時にはこれらのライフラインが使用できなくなり、病院機能が著しく低下する危険性もあるため、災害時に使用できるかということを検討したり、使用できなくなった場合の対処法を決めたりしておく。

3)医療機関の電子化

 最近の医療施設では電子カルテ、オーダリングシステムなど、多くがコンピュータ化されているが、災害時に停電でコンピュータが使用できない場合に備えて、手書きの災害用カルテ、指示簿、検査伝票なども準備しておく。

4)医薬品・衛生材料の備蓄

 昨今では、デッドストックを減らすために、医薬品・衛生材料の備蓄は減少しており、地方自治体ごとにランニング備蓄や備蓄庫で保管している。備蓄医薬品などの供給要請ルートなどを事前に確認しておく。

3.病院災害対応計画

 病院災害対応計画を作成する際、各部・各役職の多くの者が参画し、相互理解を深め、病院の機能・脆弱性について認識を共有することが重要である。

1)院内災害対策本部の役割・機能

  1. 指揮と統制(Command and Control)

     指揮とは院内の指揮命令系である。通常は、統括指揮者の下に、医療・看護・事務の責任者が配置され、各部門で指揮命令系をつくる。重要なことは、人員不足のことを考えてポストに優先順位を付けておくことである。統制とは、上記の3部門を最終的に統括指揮者が責任を持つ体制である。災害時には、部門ごとに独立した指揮命令系を持ってそれぞれの任務につく。このような体制をとることが、少ない人員で災害対応を行うのに非常に重要である。

  2. 安全(Safety)

     災害時の安全確保の優先順位は、@Staff(職員)、ASituation(病院)、BSurvivor(患者)の順である。まず職員の安全が図れて初めて災害対応が可能となる。また、院内災害対策本部に安全担当者を配置する。

  3. 情報伝達(Communication)

     災害時には、院内の被災状況、職員や患者の人的被害、実働可能な職員数などの情報が必要となるため、各部門のポストに任務を与え、誰に何の情報伝達をするかということを事前に決めておく。また、院内災害対策本部に情報担当者を置く。

  4. 評価(Assessment)

     さまざまな院内情報より、病院が十分に機能するかどうかを判断し、災害規模、ライフラインの状況などの院外情報をもとに、病院としての戦略・戦術を立てる。

2)ゾーニング

 院内災害対応計画で、治療区域、トリアージ区域などを適切な場所に設定し、人手不足になりがちな災害時でも効率よく治療が行われるようにする。

3)手術室・ICU・病棟の災害時使用の確立

 手術室・ICU・病棟の災害時の使用の優先順序を決めておく必要があり、入院患者の早期退院などのベッドコントロールを行う者を事前に決めておく。

4)広報・メディア対策

 報道機関や被災者家族からの問い合わせに対応するために、災害対策本部内にメディア・広報担当者を置き、事前に業務内容を決めておく。

4.地域の災害医療計画

 市町村や都道府県は必ず地域防災計画に基づいて災害医療計画を策定しており、各医療機関の役割や連携、医薬品などの備蓄・供給体制などが決められている。広域災害時には1病院での対応では限界があり、地域内での自病院の役割を考えた病院災害対応計画をつくる必要がある。

5.災害訓練

 災害対応計画を立案しただけでは意味がなく、立案したら実行し、実行後に計画の妥当性を検討し、不備な点を改定するという作業を行わなければならない。そこで、災害訓練が重要である。関係者と話し合う机上訓練や、実際にトリアージなどを行う実働訓練を行うことで、災害対応計画の周知徹底と災害医療教育、計画の問題抽出と見直しが可能となる。

 災害は発生頻度が低いものであり、医療関係者の災害に対するモチベーションは、維持しづらい ものがある。しかし、日頃から災害時の医療計画に対する意識を高く持つことが、災害時に適切に医療を行うために最も重要なことである。


被災現場でのトリア−ジ 1)トリア−ジの作業

(川嶋隆久、EMERGENCY CARE 22: 180-191, 2009)


トリアージの概念

 大規模事故・災害時には、傷病者数と対応能力との不均衡が生じ、日常の対応が困難となる。多数の傷病者に対し、限られたマンパワーと資源でどのように対応するかが課題となる。大規模事故・災害の7原則CSCATTTのうち、トリアージは医療支援の3T(Triage, treatment, Transport)の最初に位置する。

 トリアージの目的は、多数の傷病者に対して、最大多数の生命を救い、最大多数の傷病者に最善を尽くすことにある。トリアージは3R (Right Patient、Right Place、Right Time)を基本とする。

被災現場でのトリアージの流れ

■誰がトリアージするか(トリアージオフィサー)

 被災現場でのトリアージは、最初に駆けつけたトリアージオフィサーがまず被災現場で行い(一次トリアージ)、以降、現場救護所(二次トリアージポスト)、医療機関への搬出時など、それぞれの段階でそれぞれのトリアージオフィサーにより二次トリアージが繰り返し実施される。

■一次トリアージ

 救急隊が先着することが多いため、救命救急士が最初のトリアージオフィサーになることが多い。

 最初のトリアージ(一次トリアージ)は傷病者が発見された場所で実施されることが多いが、搬出人員がおり、かつ狭い場所に多数傷病者がいて導線が確保できない場合や火災・化学災害など傷病者を一刻も早く現場から脱退させた方がよい場合は、まず安全な場所(一次トリアージポスト)に搬出してから行う。被災現場では傷病者が多いため、迅速性、簡便性、安全性、再現性のある一次トリアージ(ふるい分け法、Sieve法)を実施する。トリアージに際し治療や応急処置は行わないが、舌根沈下を認める傷病者に対する気道確保(エアウェイの挿入、回復体位)と外出血に対する圧迫止血(傷病者自身またはバイスタンダーが実施)は許容される。

 一次トリアージを受けた傷病者は現場救護所に搬送される。

■二次トリアージ

 現場救護所(二次トリアージポスト)で行われ、医師、看護師によって実施されることが多い。一次トリアージを受けた傷病者を再トリアージし、重症度の順位付け、応急処置、医療機関への搬送順位決定を併せて行う。ここでは生理的スコアに可能な限りの解剖学的評価を加え、選別(並べ替え)トリアージ(Sort法など)を実施する。つまり、同じカテゴリーの中でも優先順位をつけ、「限られた資器材と搬送手段の範囲で、どの傷病者に資器材を投入し、同じカテゴリーの中でもどの傷病者から優先的に搬送・治療するかを決定する」必要がある。

■搬送トリアージ

 搬送トリアージオフィサーは、現場救護所でのトリアージオフィサーからの情報と搬送可能医療機関情報をリアルタイムに入手し、搬送順位を決めていく。特定の医療機関に傷病者を集中させることなく、受け入れ可能な医療機関を最大限に活用するために必須のトリアージである。現行では消防関係者が適任であろう。赤のカテゴリーから搬送するが、同じカテゴリーのうちどの順番でどの医療機関に搬送するかを決定する。

トリアージタッグの記入方法

 トリアージタッグの表面はトリアージ実施者が記載し、裏面は災害現場や収容医療機関で行った応急処置の内容、搬送・治療上の留意点を記載する。3枚複写式となっており、1枚目は災害現場用、2枚目は搬送機関用、本体は収容医療機関用である。収容医療機関用タッグは簡易カルテとしても活用される。

 トリアージタッグは外れないように右手首、困難な場合はほかの上下肢、頸部などに吊るしておく。

1タッグNo. 2氏名・年齢・性別・住所・電話 3トリアージ実施月日・時刻
4トリアージ実施者氏名 5搬送機関名 6トリアージ実施場所 7収容医療機関名
8トリアージ実施機関 9トリアージ区分 10傷病名 11特記事項 12人体図 を記載する。

○トリアージ結果変更時の記載方法
 新しいトリアージタッグを持っている場合は、古いトリアージタッグに大きく×印をつけ、その上から新しいトリアージタッグを吊るす。新しいトリアージタッグがない場合は、変更点を二重線で消し、修正する。この際、変更点と修正者氏名を追記する。

一次トリアージを踏まえた二次トリアージの方法

■一次トリアージ

 一次トリアージでは迅速(1分以内)かつ簡便に赤タッグの傷病者を選別し得るかに主眼が置かれる。

 一次トリアージの方法として、START方式(Simple Triage and Rapid Treatment)が広く普及している。この方式では 1)呼吸の有無、気道確保の要否、呼吸数≧30あるいは呼吸数<10、さらに、10≦呼吸数<30の者については 2)脈拍数(<120、≧120)、爪圧迫解除後の血流の再開速度(Capillary Refilling Time:CRT)が2秒以内かどうか、3)簡単な命令に応ずるか、4)歩行できるか、の順に観察して重症度と緊急度を判断する。

 最近では英国MIMMSが使用するTriage Sieve(ふるい分け)法も使用されている。これは、歩行可能な軽症と無傷者を除外し、(1)呼吸の有無、(2)呼吸数(≦10、11〜29,30≦)、(3)CRT(≦2、>2)または脈拍数(<120、≧120)の順に観察して重症度と緊急性を判断するものである。

 START方式とSieve法の大きな違いは、Sieve法では歩行可能かどうかを最初に評価し、命令に従うかどうかの評価がないことである。最近ではSieve法とSTART法を組み合わせたSTART法変法が普及しつつある。つまり、歩行可能な軽症と無傷者を除外し、i)呼吸の有無、ii)呼吸数(≦10、11〜29、30≦)、iii)CRT(≦2、>2)または脈拍数(<120、≧120)、iv)命令に従うか、の順に観察して重症度と緊急性を判断するというものである。

■二次トリアージ

 Sort法は英国MIMMSが進める二次トリアージ法であり、トリアージ用改定外傷スコア(Triage Revised Trauma Score:TRTS)を用いた生理学的評価法を採用している。これは、呼吸数、収縮期血圧、意識レベル(Glasgow Coma Scale:GCS)の3項目をスコア化し、合計点で評価する簡便なものである。

 SAVE法(Secondary Assessment of Victim Endpoint)はSTART法に続いて行う二次トリアージ法であり、広域搬送を前提とした選別トリアージ法である。傷病者を 1.どのような医療を受けても死亡、2.治療の有無に関わらず生存可能、3.限られた現場医療により生存の可能性、の3群に分け、第3群を優先的治療群とする。

 日本DMATなどでは、生理学的評価(第一段階)、解剖学的評価(第二段階)、受傷機転の評価(第三段階)、災害弱者の評価(第4段階)を加味し、最終的なカテゴリーを決定している。

小児のトリアージ

 小児用の一次トリアージとして、Pediatric triage tape(PTT)を用いたSieve法と、Jump START法がある。

 PTTは1〜10歳の小児の場合、身長が年齢、体重、バイタルサインに正比例するという概念に基づき、寝かせた小児の横にPTTを敷き、テープと小児の踵が一致するところが身長に応じたアルゴリズムとなる。小児用に修正した正常域は、身長50cm ⇒ 呼吸数20〜50/min-脈拍数90〜180/min、身長80cm ⇒ 呼吸数15〜40/min-脈拍数80〜160/min、身長≧100cm ⇒ 呼吸数10〜30/min-脈拍数70〜140/minである。

 Jump START法は、小児は成人と呼吸数が大きく違うこと、環境により体温とともにCRTが変化しやすいこと、歩けない者がいること、呼吸原性の心停止が少なくないことなどから考案された。気道を開通させて無呼吸であれば脈拍を確認し、脈拍が触知できれば人工呼吸を5回吹き込み、呼吸が再開すれば赤とする。呼吸回数は15〜45回/minが正常域である。意識レベルはAVPU(A: 覚醒、V: 呼び掛けで覚醒、P: 疼痛刺激部位に手に持ってくる、U: 無反応)で評価する。


警察広域緊急援助隊

(警察庁警備局警備課災害対策室、プレホスピタルMOOK4号 Page 149-157, 2007)


1.設置経緯

 平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災は、人的・物的に甚大な被害をもたらし、 大規模災害発生時における各種警察活動に多くの教訓を残した。とりわけ、災害初期 の段階において被災情報の収集・被災者の救出救助・緊急交通路の確保などにあたる 警察官を迅速かつ大量に投入する必要性が痛感された。警察庁ではこの教訓を踏まえ、 国内において大規模な災害が発生した、もしくは発生しようとしている場合(大規模災 害発生時)に、都道府県警察の枠を越えて広域的に災害対応にあたるエキスパート部隊 として平成7年6月、各都道府県警察に広域緊急援助隊を設置した。

2.態勢強化

 警察庁では、平成16年10月に発生した新潟県中越地震における警察活動の教訓を踏 まえ、平成17年4月に12都道府県警察の広域緊急援助隊に、極めて高度な救出能力 を持つ「特別救助班 Police of Rescue Experts:P-REX」を新たに設置した。 また18年3月には、迅速かつ的確な遺体の検視・遺族などへの安否情報の提供など を実施できるようにするため各都道府県警察の広域緊急援助隊に「刑事部隊」を新た に設置した。

3.編成・任務

 全国47都道府県警察合計で約4700人いて、警備部隊・交通部隊・刑事部隊の3種の部隊で構成されている。

a)警備部隊

 被災者の救助などにあたる部隊であり、部員は機動隊員または管区機動隊員の中から指定される。被災地での活動期間は概ね72時間を目途としているがその間、自己完結型の活動を行い、指揮所・宿泊所の設営、食糧・飲料水の補給などについては、原則として被災地を管轄する都道府県警察の支援を受けることなく自ら実施する。同部隊の基本となる活動単位は1個小隊(20人程度)であるがその構成および任務は以下のとおりである。

  1. 先行情報班

    ヘリコプターなどで被災地などに直行し、被災状況・道路状況などにかかわる情 報やその他部隊活動に必要な情報の収集・報告にあたる。

  2. 救出救助班

    速やかに被災地に赴き、ファイバースコープ・レスキューツール・エンジンカッ ター・バックボードなどの救出救助装備資材を駆使して被災者の救出救助などに あたる。

  3. 隊本部班

    被災県警察との連絡調整、食糧・飲料水などの管理・配布など部隊活動の支援にあ たる。

b)交通部隊

 緊急交通路の確保などにあたる部隊であり、隊員は交通機動隊員または高速道路 交通警察隊員の中から指定される。被災地での活動期間は概ね1週間を目途として いるが、その間の食糧・飲料水などは原則として自ら用意する。

  1. 先行情報班

    交通対策班に先行し、緊急交通路として確保すべき道路の被災状況などにかか わる情報の収集・報告にあたる。

  2. 交通対策班

    緊急交通路として確保すべき道路の応急対策、緊急交通路の交通規制、緊急通行車両の先導などにあたる。

  3. 管理班

    被災県警察との連絡調整、最新の交通情報の収集、食糧・飲料水などの調達・配布 などの部隊活動の支援にあたる。

c)刑事部隊

 遺体の検視、遺族などへの安否情報の提供などにあたる部隊であり、隊員は、検視 などの業務についての必要な知識および技能を有する警察官ならびに被害者支援 に関する知識および経験を有する警察職員の中から指定される。被災地での活動期 間は概ね72時間を目途としているが、その間の食糧・飲料水などは原則として自 ら用意する。

  1. 検視班

    遺体安置場所における検視または死体見分にあたる。

  2. 遺族対策班

    被災者の心情に配慮したうえで、遺体安置所における遺族などへの遺体の引き 渡しにあたるとともに、災害警備本部または行方不明者相談所など相談業務担 当部門と連携し、遺族などに安否情報の提供を行う。

4.特別救助班(P-REX)

  特別救助班は、平成16年10月に発生した新潟県中越地震の際、極めて危険かつ困難な現場において被災者を迅速的確に救助する特別な部隊が必要との教訓が得られたことを踏まえ、平成17年4月に設置された。特別救助班は、極めて高度な救出救助能力を持つ部隊として、12都道府県警察(北海道・宮城・警視庁・埼玉・神奈川・静岡・愛知・大阪・兵庫・広島・香川・福岡)の広域緊急援助隊におかれ、合計18班・約200人体制で編成されている。

活動

兵庫県尼崎市で発生したJR西日本福知山線列車事故、山形県東田川郡庄内町で発生したJR東日本羽越線列車事故などに出勤し被災者の救助などにあたった。特別救助班は、平素から廃屋などを活用した実践的訓練、関係他機関との合同訓練などを積極的に行い、救出救助能力の向上に努めている。

5.広域派遣にかかわる措置

  警察庁・関係都道府県警察では、

6.まとめ

  近い将来発生が予想される東海地震、東南海・南海地震、首都直下地震などの大規模地震に対して、政府を挙げた諸対策が推進されていることなどを踏まえ、警察では一人でも多くの被災者を 救出救助するため、今後も警察広域緊急救助隊の救出救助能力のさらなる向上などに努めていく ことにしている。また、現実にこれらの大規模地震が発生した場合に備え、警察広域緊急救助隊 をはじめとした全国規模の警備部隊を被災地に迅速に派遣するための広域派遣計画の策定を推 進し、有事即応態勢に万全を期することにしている。


国際医療救援における予防接種プログラムの作成

(伊藤由紀ほか、日本集団災害医学会誌 13: 43-49, 2008)


 国際医療救助において、派遣先は衛生環境の低下した地域がほとんどであり、救援活動を行う者の感染症対策が重要となる。医療救助活動の海外渡航の決定は出発までの日数が短いため、派遣対象職員に対して派遣決定時に最大の免疫状態を期待できる計画的な予防接種が必要である。今回、名古屋第二赤十字病院国際医療救援部において国際医療救助予防接種プログラムが作成された。

対象

 日本赤十字社が実施する研修を修了した、緊急時に国際医療救援に派遣可能な職員。男性14名、女性14名。職種は、医師9名、薬剤師1名、看護師11名、技術職4名、事務職3名であった。

方法・結果

1)接種ワクチンの選定

 渡航先の感染症の流行情報をInternational Travel and HealthおよびHealth Information for International Travelから調査した。救助活動の対象となりうる渡航先、滞在期間、活動内容を考慮して、A型肝炎、B型肝炎、破傷風、ジフテリア、ポリオ、狂犬病、黄熱の7種類を選定した。

2)ワクチンの接種スケジュール

 生ワクチン接種後の生ワクチン、不活性化ワクチンの接種には最低4週間、不活化ワクチン接種後の生ワクチン、不活化ワクチン接種には最低1週間の間隔が必要であり、それらを踏まえてスケジュールを以下のように作成した。肝炎ワクチンは、プログラム開始前に抗体検査を行い、抗体陰性患者に予防接種を行った。

3)ワクチン管理

 国際医療救援部と薬剤部の間で連携し、専用の伝票を作成した。保管管理は薬剤部で行った。

4)ワクチン接種不適職員・要注意職員の選定

 接種日に予診表を用いて行った。
 接種不適職員 ・・・該当3名、原因はすべて発熱
 接種要注意職員・・・該当10名、うちアレルギー症状経験5名、基礎疾患有6名、けいれん経験1名であった。

5)副反応調査

 接種後副反応出現の有無について調査用紙に記入してもらい、回収した。回収率は82.5%。副反応発現頻度は27.3%。主なものは発熱、接種部位の変化であった。症状はいずれも軽微で、経過観察のみで数日後に焼失した。狂犬病ワクチンとA型肝炎ワクチンを同時に接種した場合に副反応の報告数が多かった。

6)有効期限の管理

 摂取したワクチンの回数およびロット番号の管理を行い、免疫状態の有効期間を算出した。

7)派遣決定時の対応

 インターネット上の厚生労働省などのホームページから現地の感染症情報を入手し、ワクチンの追加接種などを行った。

予防接種プログラム開始後の職員の派遣と予防接種実施

 派遣者は医師2名、看護師7名、助産師2名、技術職3名であった。派遣中または帰国後に感染症を発症したものはいなかった。

(1)アフガニスタン医療復興支援事業

2001.11.〜2004.6.:看護師1名派遣
 予防接種プログラムが終了していない時点での派遣決定であったが、ワクチン接種歴があったため、A型肝炎ワクチンのみ追加接種して出発した。

(2)ジンバブエへの派遣(エイズ視察)

2002.10.30.〜2002.11.14.:医師1名派遣
 予防接種プログラムが終了していない時点での派遣決定であり、時間的猶予がなかったため免疫グロブリンの追加接種15%γ-グロブリン3mlの筋肉注射を行った。

(3)アフガニスタン医療復興支援事業

2003.9.〜2004.3.1:看護師1名
 予防接種プログラムが終了していたため、十分な免疫状態で派遣。追加ワクチンなし。

(4)イラン南東部地震被災者救援事業、初動班〜第5班

2003.12.〜2004.3.:医師1名、看護師3名、助産師2名、技術職2名、事務職1名
 予防接種プログラムが終了後の派遣決定のため、十分な免疫状態で派遣。追加ワクチンなし。

(5)アフガニスタン医療復興支援事業

2004.9.〜2004.12.:医師1名
 予防接種プログラムが終了していない時点での派遣決定だった。不足していたA型肝炎ワクチンの接種をおこなって派遣した。

(6)スマトラ島沖地震・津波被災者救援事業、初動班〜第6班

 予防接種プログラムが終了後の派遣決定であったが、亜熱帯で水害地域への派遣であるため、これらワクチンを追加接種して派遣した。

考察

 今回、作成した予防接種プログラムは計画的な予防接種方法である。国際医療救助活動を行う派遣対象職員に対してあらかじめ必要な予防接種を計画的に行えば、派遣決定時に最大の免疫状態を期待でき、現地で安全で健康な救助活動を行うことができる。

 海外渡航に必要な予防接種は、渡航先とその滞在期間、渡航先での行動様式などにより適切に対応すべきである。スマトラ島沖地震の救援活動時には、水害地域の派遣であったのでコレラワクチンを追加接種した。このように派遣先の保健・衛生状況を調査し、必要に応じて追加ワクチンの接種を行う必要がある。

 本プログラムを終了させるのには約9ヶ月を要した。より短期間で終了させるには同時接種や接種間隔の短縮が必要である。本プログラムにおいても複数のワクチンの同時接種を行った。狂犬病ワクチンだけは他のワクチンと併用すると副反応が強く出現する傾向にあったが、ワクチン接種全体としては同時接種は比較的安全であった。

 副反応はいずれも軽微で、経過観察のみで消失したため、本プログラムが比較的安全に行われたと判断した。安全に行われた理由としては、与診表による健康状態の把握がある。アレルギー情報のみならず体質の把握もできた。

 以上より、今回作成した予防接種プラグラムは、国際医療救援を行う上で標準的な感染症対策として有効な予防接種プログラムであると考える。


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