災害医学・抄読会 090130

災害とは

木村拓郎、小野真理子・監修 いのちとこころを救う災害看護、東京、学習研究社、2008、p.1-7


災害の定義と種類

 自然現象によって人的・物的被害、また、これらに伴って生じる各種の機能麻痺被害を災害という。

 災害対策基本法では、災害を「暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害をいう」と定義している。

※「その他の異常な自然現象」:冷害、干害、雹害、霜害、旋風、地すべり、山崩れ、がけ崩れ、土地隆起、土地の沈降などをさし、ありとあらゆる自然災害が対象になっている。

※「政令で定める原因」:放射物質の大量放出、多数の者の遭難を伴う船舶の沈没、その他の大規模な事故(旅客列車の衝突転覆、航空機の墜落など)が含まれる。

災害の種類別特徴

A.自然災害

(1)地震の被害

 地震が発生する場所を大別すると海底の深い場所で発生する海溝型の地震と、内陸で発生する直下型の地震の2つに分けることができる。

  1. 直下型地震

    直下型地震の被害の特徴は、甚大な被害を受ける範囲が限定的で、その区域はおおよそ15〜20km四方である。被災した地域からすこし離れると被害は極端に少ない。

  2. 海溝型地震

    海溝型地震は直下型地震に比べ、被災する地域が非常に広範囲になるのが大きな特徴である。

  3. 建物被害

    建物に被害をもたらすものの一つとして地盤の液状化現象がある。これは、砂粒同士の摩擦による結合が離れることにより起こる。
    阪神・淡路大震災では24万棟もの建物が全半壊した。

  4. 都市火災

    地震時の火災発生の特徴としては、同時に多数の火災が発生することである。震災時には消火栓が使用不能になり、しかも消防隊も不足するため火災は延焼し、多くの家屋を焼失することになる。   阪神淡路大震災では通電火災が問題となった。これは一度停電し、その後電気が回復したときに無人となった屋内の電気ストーブなどから発火したものである。

  5. ライフラインの断絶

    地震によって、電気や水道などのライフラインも被害を受ける。地震時には、建物やライフラインが被害を受けることによって、都市の機能は麻痺状態に陥る。しかも、ひとたび被災するとその影響は、数ヶ月から数年先まで残ることになる。

(2)津波災害

 津波は、主に海底の断層が地震で上下方向に変位したときに発生する。発生した津波の速度は速く、時速740kmとジェット機なみの速さになることもある。

 人的被害は、非難が遅れて流速の速い津波にのまれて犠牲になることがあるほか、破壊された家屋の木材の破片や船舶、車両が漂流するため、これらに巻き込まれて負傷する人が多発する。

(3)水害

 近年、過去の観測記録を超えるような豪雨が頻発している。

 2000/9/11 東海豪雨災害 観測史上最大の総雨量500mmを記録。18,000戸が被災。
  2004/7/12 新潟・福島豪雨災害 一時間あたりの雨量が87mm。14,000戸が被災。16名が犠牲となった。

 犠牲者のうち多くが70歳以上の高齢者であった。寝たきりや一人暮らしの高齢者、いわゆる災害時要援護者が逃げ遅れて犠牲となった。このことから、国は豪雨時などに災害要援護者を優先的に避難させる「避難準備情報」のシステムを2005年からスタートさせ、また、2007年には「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」を公表した。

(4)土砂災害

 土砂災害の種類には 1.土石流、2.地すべり、3.がけ崩れがある。現在これらの災害が発生する危険か所は全国に50万件以上あり、毎年1000件の土砂災害が発生、そのたびに多くの犠牲者が出ている。

  1. 土石流

    長雨や集中豪雨などによって、土石と水が一気に下流に押し流される現象をいい、その速度は時速20〜40kmである。
    2003/7/20 熊本県水俣市 14戸が全壊。15名が死亡。6名が負傷。

  2. 地すべり

    大量の土塊が比較的ゆっくり移動するのが大きな特徴で、斜面の勾配が緩やかなところでも発生することがある。この現象はいったん動き出したら人工的に停止させることは極めて難しいとされる。
    1985/7/26 長野県地附山 47棟が全壊。老人ホームの入所者26人が犠牲となった。

  3. がけ崩れ

    急傾斜地で起こることが多く、崩壊の規模は比較的小さいが、降雨などによって急激に崩落するのが特徴である。

(5)噴火災害

 火山の噴火とは、火口から高温のマグマ物質や、その火山体を構成している岩石の破片や、火山ガスを放出する現象である。

B.人為的災害

(1)大型交通災害

 列車災害や航空災害がある。

(2)特殊(NBC)災害

  核災害、生物兵器災害、化学災害は、放射性物質、生物剤、化学剤に起因することから、頭文字をとってNBC(nuclear, biological, chemical )災害という。
 1995/3 地下鉄サリン事件
 1999/9 JOC臨界事故
 2001/9 米国では同時多発テロ事件後に炭疽菌による事件が発生


災害救急医療活動の準備 個人の準備

石川 清ほか、丸川征四郎・編著 経験から学ぶ大規模災害医療、大阪、永井書店、2007、p.19-30



場面別トリア−ジの特徴と実際 ドクターカーの場合

丹野克俊、EMERGENCY CARE 2008年夏季増刊 34-39


ドクターカーとは

 ドクターカーとは、一般的に医師を含めた医療スタッフが病院外の救急現場に向かい活動する際に用いる車両と、そのシステム自体のことである。車両は救急車である場合がほとんどであるが、病院自体が病院所有の救急車を持つ場合と、救急隊が病院に寄り医療スタッフを乗せて現場に向かう場合(ピックアップ方式)がある。

ドクターカーの役割

 このシステムの目的は、一般の救急隊員や救急救命士のできない救命処置などを、救急車で病院へ搬送するよりも早く医師が提供することにある。その対象となる疾患や状態の例を以下に挙げる。

・急性呼吸不全 ・急性循環不全 ・心肺停止状態 
・多数傷病者  ・閉じ込め事故
・救急搬送に長時間を要する地域で途中に容態変化が予想される場合

ドクターカーでの出動における現場活動の特徴

 内因性疾患は屋内で、外因性疾患は路上などの屋外で発生することが多い。どちらにしても救急隊などがすでに現場にいることが多く協力して活動することが必要である。そのためには災害医療の際の体系的対応としてCSCATTTを念頭におく必要がある。

C:Command and Control(指揮命令、統制・調整・連携)
S:Safety(安全)  3S(自分の安全、現場の安全、生存者の安全)
C:Communication(情報伝達)
A:Assessment(評価)
T:Triage(トリアージ)
T:Treatment(応急処置・治療)
T:Transport(搬送)

ドクターカーにおけるトリアージ

 トリアージ…災害時に多数傷病者が出ている際、治療や搬送の緊急度・優先度の選別を行うこと。

 トリアージに関しては、現場の活動状況、救出見込み時間、救急車の数、病院の受け入れ状況など、ゴールまで絵を描きつつ何が優先されるのかを考えて活動を行う必要がある。地域によっては、医師1名、看護師1名といった出勤形態もあり、その場合は看護師が上記の医師の役割を一部担うことになる。以下にドクターカーにおける看護師の役割を列挙した。

  1. ドクターカーの資器材管理を行う
  2. 出動時、医師・救急隊・運転手と連携を図る。
  3. 出動時、傷病者に対しての看護を実践する。
  4. 患者の家族や関係者に対しての看護を実践する。
  5. 出動記録、管理日誌、薬品使用通知書を記載する。
  6. プレホスピタルケアにかかわる研修・訓練などに参加し知識と技術を向上し実践に生かす。

おわりに

 いまだ全国でドクターカー・システムが整っているとはいえない現状であり、看護師の役割は今後さらに検討されることになるだろう。現場の状況が複雑であるほど、日常診療におけるパートナーとして医師は看護師を必要としている。そのため、看護師はドクターカーに同乗して現場活動を行うためには現場特有の状況に精通する必要がある。日常の訓練などにより救護活動における共通認識を持っておくことが、現場での活動の成否につながる。


シリア・アラブ共和国への救急医療体制支援

浅井康文ほか:日本集団災害医学会誌 13: 198-203, 2008


はじめに

 2003年3月21日にバグダットへの空爆で始まったイラク戦争は、同年5月のブッシュ米国大統領の戦闘終結宣言にもかかわらず、5年半以上経過した現在もまだ混迷が続いている。筆者らは開戦1日目に成田を発ち、イラクよりの難民流入が想定される隣国シリアのハッサケ県立病院で救急医療の支援を行った。

経緯

 シリア政府から日本国への医療援助要請を受け、国際協力機構(JICA)より救急医療体制支援・専門家チームとして、シリア北部にあるハッサケ県立病院へ出向した。今回の目的はアル・ホール難民キャンプ近くにあるハッサケ県立病院での救急医療の支援と、イラク戦争で多数の難民が出た場合にハッサケ県立病院が後方病院として働くための医療技術レベルの確立の2つにあった。

救急専門家チームの構成

 救急医療体制支援専門家チームの構成は、医師1名、救急専門家看護師1名、助産婦の資格を持つ看護師1名、薬剤師1名、調査員1名の計5名。空爆が始まった翌日の2003年3月21日から、イラク戦争激化による日本政府からの退却命令が出る4月3日までシリアで活動した。

ハッサケ県への移動

 目的地のハッサケ県はシリアの北東部で、ダマスカスから直線で約500Km北東、イラク国境から約70Km西に位置する。ハッサケ県は14の地域より成り、多くのクルド人が住み、ハッサケ市から約50Km離れ、イラク国境より20Km離れている地点にアル・ホール難民キャンプがあった。

救急医療体制

 ハッサケ県立病院は160床あり、医師110名が勤務していた。24時間救急患者を受け入れる部屋があったが救急処置室とは遠く離れていた。救急処置として大きな救急用品の箱があるが、薬は効率的に整理されていなかった。一般外科、泌尿器科、眼科、産科などの手術が行われていたが、胸部外科はなかった。麻酔の際に麻酔記録簿を記載していなく、その必要性を指摘した。特に心臓病関係の設備が不備で、急性心筋梗塞に対する冠動脈拡張術やステントを施行するための、心臓カテーテル検査の設備および指導が必要であった。手術を必要とする先天性心疾患患者は、ダマスカスへ搬送していた。ダマスカスまで救急車で約7時間かかるが、ヘリコプターなどによる航空搬送は行われていなかった。滞在中にハッサケ県立病院中庭でのテント設営、機材のデモンストレーションを行い、非常にたくさんの人が集まってくれ、強い関心を示してくれた。また、最終日には緊急の事故に対して約100人もの医師や看護師など病院関係者が集まっており、救急時の救急時の召集はしっかりしていると確認した。

救急車と救急機材の調査

 救急車はハッサケ県内に15台あり、その4台が1993年に日本のJICAからの寄贈である。酸素ボンベや心電図モニター、除細動器などを備えた心疾患用の救急車が1台のみで、その他の車はモニター設備がなく患者搬送用であった。救急処置室での要望品として気管挿管のための喉頭鏡、中心静脈カテーテルセット、超音波装置、除細動器などが挙げられた。病院内の医療器具として腹腔鏡(セットと専門医師の指導)、人工呼吸器、透析装置などが必要であった。病院内設備ではMRIや心疾患用のカテーテル検査室を要望していた。その他救急車やストレッチャーなども希望していた。このように今回はハッサケ病院関係者と良くコンタクトがとれ、救急医療の現場、システム、手術現場を見ることができ、討論し、技術指導を行うことができた。

難民支援

 アル・ホール難民キャンプには2003年4月1日現在では3名のイラクからの難民と、3月27日のバクダッドからの難民3名、合わせて6名のみであった。高等難民弁務官事務所前で患者診察用と患者待合室用の2つのテント設営を行ったところ、たくさんのユニセフ、UNHCR関係者が集まり、非常に好評で皆関心を示していた。

考察

 シリア政府は、人道的立場およびその他の政治的配慮からイラク難民受け入れの姿勢を表明していた。今後難民増加の場合、アル・ホール難民キャンプで重症患者が出た場合に、後方支援病院としてハッサケ県立病院の果たす役割は大きい。これにはUNHCR、ユニセフ、保健省、企画庁などの横の連携が不可欠である。

 今回はハッサケ県立病院関係者と最終的には良くコンタクトがとれ、救急医療の現場、システム、手術現場を見ることができ、討論し、技術指導を行った。救急では心臓病関係の設備が不備で、特に心臓カテーテル検査の設備が必要である。また日本から寄贈の救急車も旧式となっており、救急車の寄贈は非常に意味のあるものである。

おわりに

 2003年、シリア政府の日本国への医療援助要請を受け、救急医療体制支援・専門家としてシリア北部のハッサケ県立病院へ出向し、救急医療体制の支援とレベルアップ、難民支援の後方病院としての医療レベルアップの指導を行った。ハッサケ県立病院は医療水準の高い病院ではないが、アル・ホール難民キャンプ・支援病院として、地理的に最適な病院であった。今回のミッションではJICAの研修で日本を訪問した医師の協力が大きかった。今後、現地医師・看護師を日本の救急病院へ研修に派遣し、技術指導をすると、技術移転がスムーズに行えると思われた。シリアへ出向して5年半以上が経過し、その時の支援が継続していないが、当時のシリア国民の友好を思いだすと共に、混迷する中東情勢に接するにあたり一刻も早く中東に平和が訪れることを願う。


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