救急医療とは、発生した傷病者に対して十分な医薬品、医療資器材などの医療供給ができる環境下で、医療スタッフによって必要とされるすべての医療を施すことである(図1)。
無論予想外のことも起こり得るが、救急患者の発生は疾患、数ともに予測できるものであり、その対応環境は準備されている。つまり救急医療は救急といえども日常の医療の範囲内にあるものである。
災害医療は急激に増大した医療需要(傷病者)と医療供給の低下という環境の中で、限られた医療資源を有効に使い一人でも多くの命を救うための医療である。決して単に救急医療の規模が大きくなったものが災害医療ではなく、救急医療と災害医療の質は全く異なるものなのである。
災害対応の基本原則は、英国のMIMMSコース、米国のBDLS/ADLSに定められている(表2)。
この救助活動で特記すべきことは救急ヘリが医療チームとともに飛来し、生存者の半数強(59例)をヘリコプターで搬送し、傷病者を広い範囲に分散収容させ、傷病者集中による病院の診療能力低下を招くことがなかった点である。搬送能力が高ければ被災地内の災害現場から傷病者を被災地外の病院へ分散搬送し、災害医療から救急医療へ移行させることが可能となる(図2)。
(1)病院内での火災発生の危険性
病院内で火災を起こしやすい場所は調理場、機械室、電気室などである。その他には病室の電機器類、老朽化した配線、病院内改修工事に伴う火の使用などが原因となる。
(2)火災を知る方法
火災の発生は、人が直接発見する方法(臭い、煙、炎など)と自動火災報知設備(煙や熱を機械が感知してベルが鳴る)による方法とがある。前者は火災に至る前段階での発見が可能だが、後者は感知器が設置された部屋に煙や熱が充満してからでないと機能しないために発見が遅れる。
(3)火災発生時の行動
火災発生場所と規模について情報を収集する。収集した情報は病院内職員全員に知らせる。火災の場所や規模は刻々と変化するので継続して情報収集が必要である。
通報の遅れは大惨事を招くので、火災発生時はすぐに通報する。自動火災報知設備が作動した時点で消防機関へ連絡されるシステムをもつ施設もある。そして院内放送で収集した情報を院内に知らせる。一般に、目前に差し迫った危機がない場合、誤報と思い適切に行動しないものである。院内放送では、火災報知設備の作動場所だけでなく、作動の理由と病院の対応状況、取るべき行動についても説明する必要がある。
初期消火も重要である。スプリンクラーが作動し消火されている場合もあるが、基本的には火災現場に到着すると消火器や屋内消火栓を用いて消火活動を行う。特に、屋内消火栓は種類が様々で使用法がやや煩雑である。日頃から防災訓練に参加してその使用法を熟知しておく必要がある。
また、病院内での火災発生に対応するには、最前線で指揮を取る人材を育成することも重要である。現場の指揮者が連絡、初期消火、避難誘導などを的確に行える体制が整うことで被害を最小限に食い止めることができる。
(1)地震発生時の被害
一時的な被害として、建物の倒壊、危機の損傷、電力・ガス・水供給の停止、通信回線の遮断などがある。また、地震に伴う被害として、火災の発生、ガス漏れの発生、室内空調の停止、エレベーターの使用不能などがある。
(2)地震発生時の行動
地震発生直後は自分自身の安全確保が第一であり、揺れが収まってから院内の被害状況確認のための行動を取る。
(3)地震後取るべき行動
職員、避難経路、入院患者・来院者、ライフライン、院内設備、医療機器の被害状況や火災発生の有無を確認する。火気使用の厳禁は二次災害を防止するために重要である。また、火災の場合と同様に情報収集、通報、火災発生時には消火活動が重要になる。
(4)閉鎖空間での被災
エレベーターは地震を感知して緊急停止する。エレベーター内で揺れを感じたら全ての階のボタンを押し、最初に止まった階で降りる。脱出できない場合は外部に状況を知らせる必要があるが、その際には長期戦を覚悟する。
災害急性期に活動可能な機動力のある医療チームを育成するため、日本DMAT(Diaster Medical Assistance Team)隊員育成研修が2005年から行われるようになり、2008年5月の時点で460チームが研修を修了している。広域災害においては全国に展開する日本DMATが連携して活動することが想定されており、統一された手法や考えに沿って活動が可能であるが、地域における局所災害では所属する医療施設や周辺組織とも意思統一を行い、連携を図らなくては十分にその機能を発揮できない可能性がある。今回、我々は日本DMAT隊員となって以来約2年間に行われた香川県内の大規模な災害時医療訓練の内容を評価、検討したので報告する。
なお警備員や一般職員に対する心肺蘇生法をはじめとする応急救護講習は、ほとんど行われていなかった。多数傷病者事故や集団災害に対する備え、すなわちトリアージポストや緊急車両のアクセス、多機関が共同して対処するための本部機能や通信設備などは整備されていなかった。ただ消防は、隣接する国道43号線の高架下スペースを、トリアージポストとして独自に想定していた。
今回阪神電鉄側と話し合いを進めるにあたって困惑したのは、説明や説得の根拠が意外と薄弱な点であった。マスギャザリング医療に関する法令、条例などは、現在本邦にはまとまった形では存在していない。また本邦でのマスギャザリング医療・救護や傷病者の実態も、系統的な集計・分析はなされていない。マスギャザリングへの医療対応を検討するときに、十分な根拠が見当たらないのは、日本だけではなく、海外でも事情は似通っている。オーストラリアのArbonによる最新の総説では、さらに新しい課題も指摘されており、(表)、この分野には未解決な課題は多い。ただこれらの課題も、技術的、学術的に解決がきわめて困難なものは少なく、英知と熱意を結集して取り組めば、いくつかには短期間で回答が得られるようにみえる。
第18回長野オリンピック冬期競技大会のメディカルディレクターの奥寺は、その経験から「よいシュミレーションの場であり、計画の初期段階から積極的にかかわることで、イベントそのものを安全に運営できるのみならず、参加した医療スタッフの災害医療への動機付けとなる」と述べている。身近で日常的なマスギャザリング環境に目を向け、考え行動することで、医療者にも救護者にも、また主催者や地域社会にもさまざまな覚醒がもたらせるのではないだろうか。
火災と地震への対応
(谷本裕幸、丸川征四郎・編著 経験から学ぶ大規模災害医療、大阪、永井書店、2007、p.73-79)はじめに
1.火災
2.地震
おわりに
DMAT訓練を基礎とし、各種機関と連携した災害時医療訓練
(山下 進ほか:日本集団災害医学会誌 13: 204-209, 2008)1.香川県災害時医療訓練(H18年7月)
2.香川県総合防災訓練(H18年9月)、5.香川県総合防災訓練(H19年9月)
3.高松空港航空機事故消火救難総合訓練(H18年11月)
4.さぬきメディカルラリー(H19年5月)
6.香川県内DMAT再訓練(H19年9月)
7.直島町防災訓練(H19年9月)
8.香川県災害医療フォーラム(H19年10月)
9.高松市高度救助隊連携訓練(H19年12月)
[考察]
マスギャザリング(2) 甲子園球場リニューアルから考える
(久保山一敏、救急医療ジャーナル 15(4): 50-57, 2008)はじめに
過去の集団災害
2001年の視察
球場リニューアルと「安全性の向上」、話し合いの成果
考察