災害医学・抄読会 081219

強く・つぶれない構造、いざと言うときには

辻 吉隆、LiSA 15: 748-751, 2008


病院の診療機能継続に支障を及ぼす災害の種類

  1. 自然災害(地震、風水害、火災)
  2. ライフライン支障(停電、断水、通信障害)
  3. IT障害(IT事故、サイバー攻撃)
  4. 集団感染(新型伝染病、食中毒)
  5. NBC災害(核、生物剤、化学剤に起因)

ライフライン死傷時に予想される病院の機能低下

A.電気系統のダメージ

  1. 人工呼吸器、輸液ポンプなどの作動不能
  2. 病歴などの患者情報の検索不能
  3. 患者の観察困難
  4. 夜間に患者搬送や院内の物品搬送ができなくなる

B. 給水系統のダメージ

  1. 透析治療の停止
  2. 滅菌業務の不能
  3. 外傷患部洗浄不能
  4. 検査機能停止
  5. 手術用機材の滅菌不能
  6. 手洗い不可→感染拡大の懸念
  7. 自家発電装置の停止
  8. 暖房の停止
  9. トイレの洗浄不能
  10. スプリンクラー等からの漏水による浸水

C.通信機能のダメージ

  1. 職員の安否が確認できない
  2. 他病院の情報がつかめない
  3. 応援体制の確保が出来ない
  4. 情報の収集、発信ができない

ライフラインの復旧に要する日数(図1)

 阪神大震災におけるライフラインの復旧状況をみると電力は3日でほぼ復旧したが上水道は30日でやっと80%まで回復。ガスは更に時間がかかり完全復旧まで2ヶ月以上要した。

ライフラインの維持、補完

電気系統

  1. 2回線受電
  2. 自家発電機装置
  3. 3日分の燃料の備蓄

給水系統

  1. 水源の確保
  2. 雨水貯留槽の利用
  3. 限りある水を有効に使う

情報通信系統

  1. 災害時医療対応
  2. 職員対応
  3. 家族安否確認

地震被害と建築基準法

 1923年の関東大震災翌年に世界に先駆けて耐震設計法が取り入れられて以来、大きな地震のたびに建築基準法(1950年〜)や構造基準が改正されてきた。2007年に建築基準法の改正が行われ 1)建築確認の審査が厳格化、2)構造基準が明確化された。しかし厳格化を急いだ甘利、大規模な増築整備などにおいて支障が出ている。

耐震性能と建築コスト

 耐震性能を高めると地震時の損失や地震保険料を抑えることができるが、建築コストが高くなる。建築コストと供用期間における損失や支出のバランスを考える必要がある。主要構造種別にはRC造、SRC造、S造、PC造がある。耐震性能と耐火性能ではRCに比べPCやSRCの方が優れているが建築コストが1~2割高くなる。

 また、耐震構造計画には一般的な「耐震構造」の他「制震構造」や「免震構造」の構造計画手法がある。免震構造では建物内部の医療器具が移動したり転倒しないレベルにまで耐震機能を上げることができ、実証もされている。この切り札とされる免震構造にもコストや増築時の問題が残されていることからそれぞれの施設ごとに必要とされている耐震性能やコストのバランスから選択する事が肝要である。

いざと言う時のために…

 計画当初から建築や設備の耐震性能を充実させておくことも重要だが
  1. 避難経路の確保
  2. 屋上ヘリポートの設置
  3. 災害時の医療活動スペースの確保
  4. ライフラインの増強
などのゆとりをもった整備計画が必要とされる。


緊急消防援助隊の概要

門倉 徹:プレホスピタルMOOK4号 Page 137-148, 2007


1.緊急消防援助隊発足の経緯

 「消防」は市町村がその責務を担っている。しかし、それら市町村およびその都道府県内の消防力では対応できない大規模災害の発生に備えて、消防庁長官の出動の「求め」または「指示」に応じ、各市町村の消防本部が、被災した市町村の消防を支援するために応援出動する消防部隊が緊急消防援助隊である。

 緊急消防援助隊は、平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、同年6月に「緊急消防援助要綱」により発足した。

 その後、平成15年6月に消防組織法を改正し、緊急消防援助隊を法律上位置づけ、明確化するとともに消防長官の指示権を創設し、平成16年4月に法律に基づく部隊として新たに発足した。平成19年4月現在では、登録部隊3751隊、登録人員は約4万4000人となっている。

2.各部隊の概要

 部隊の種別は、指揮支援部隊・都道府県隊指揮隊・消火部隊・救助部隊・救急部隊・後方支援部隊・航空部隊・水上部隊・特殊災害部隊・特殊装備部隊の10の部隊から構成されている。

3.緊急消防援助隊の出動

 市町村だけでは対応できない規模の災害が発生した場合、まず近隣の市町村と協力して消防活動を行う。それでも、対応が十分でないと見込まれる場合、都道府県知事が市町村消防の支援および非常事態における指示を行う。

 より大規模な災害や特殊な災害が発生し、都道府県規模で対応できない事態の場合、国の責任として、消防長官の「求め」または「指示」により、緊急消防援助隊が全国規模で災害発生市町村の消防を応援するために出動する。「指示」は、「求め」に比べ法的な拘束力が生じるため、被害が2以上の都道府県に及ぶことや「毒性の物質の発散」などにより、特別の必要があると認めるときといった具体的要件を例示している。

4.法制化後の主な出動事例

 法制化後の最初の出動は、平成16年7月新潟・福島豪雨災害である。その後も、平成16年新潟県中越沖地震災害、平成17年JR西日本福知山線列車事故、平成19年新潟県中越沖地震などで緊急消防援助隊が出動した。

5.医療機関との連携

 まず、平時にそれぞれの消防本部の管内における消防活動を通じ、医療機関と消防機関の連携を深めることが重要である。さらに、全国訓練と地域ブロック合同訓練が実施されている。医療機関との連携訓練では、ヘリコプターによる医療従事者の災害現場への輸送、救助活動現場で消防部隊と連携活動を連続して行う訓練や、多数の負傷者の発生に対応するための現場救護所設置運用訓練などを実施している。

感想など

 今年の10月30,31日には松山市で中国・四国ブロック緊急消防援助隊合同訓練が行われた。これは、愛媛県中予地域に大規模な地震が発生し、広範囲に甚大な被害が発生したことを想定して行われた。大規模な災害の発生時には、各機関が連携して効率よく活動しなければならない。したがって、今後ともこのような訓練を行い、災害に備えておくことが必要だと思う。

 今回、緊急消防援助隊について学ぶことができ、大変良かったと思う。これからも、病院の中だけでなく、広く社会や地域の中での医療の果たすべき役割について考えていきたいと思う。


JR福知山線脱線事故後の関西労災病院における災害対策への取り組み

高松純平ほか:日本集団災害医学会誌 13: 8-14, 2008


 2005年4月25日に107名が死亡するJR福知山線脱線事故が発生した。この際に、関西労災病院では、preventable deathを防ぎえたという観点からは一定の評価がなされたが、災害マニュアル、災害対策本部、災害時の職員の対応などの内容や周知が不十分であったという初動体制に関わる重要な課題が残された。そのため、今後さらに充実した災害救急体制の構築のための方策について考察する。

 災害マニュアルの周知徹底がなされていない点や、対策本部の設置基準が明文化されていない、搬入経路が一目で認識できるように図示されていないなどの問題点に対しては、まずマニュアルの改訂を暫定的に行い、災害訓練を行うことで、その内容の妥当性を評価することとした。また災害現場では判断を現場職員にゆだねる部分が多かったことから、リーダーとなる人の基本的行動を示したアクションカードを作成した。このような改訂されたマニュアルと新たに導入されたアクションカードをとともに以下の研修を行った。

 トリアージや災害医学についての基礎知識についての院内講習、看護部門における災害救急看護の教育(経験年数により災害医学の基礎知識から入院患者の誘導の仕方など、講習内容を考慮する)、看護師や研修医に対する実技研修、院外研修や学会参加などの他施設における災害対策状況の見聞、そしてこれらの集大成として、多くの職種の参加した災害発生から初動体制を中心に、傷病者の受け入れ、トリアージ、治療、入院までを想定したフルスケールの災害訓練を行った。そして、訓練に参加した職員を対象にアンケートを行い、また訓練の様子をビデオで撮影することで、それらを検証し、問題点について検討した。

 災害マニュアルについては災害医療センターのものを参考にしたが、加えて、短時間で自分がすべきことが把握できる簡易版マニュアルが必要との意見があった。基礎知識に関する研修については災害対応の全体像やトリアージに関して多くの職員の理解が深まった。災害看護に関する教育については、その必要性を多くの職員が感じていたが、中堅看護師や管理職を対象とした災害教育については行われていなかった。トリアージの実働訓練では改めてどのようなものか実感でき、その必要性を感じたとの声が聞かれている。院外研修と学会活動に関しては訓練のマンネリ化を避けるなど、災害対策を計画する上で、様々な工夫が必要であることが実感された。フルスケールでの災害訓練では看護師の参加は8割近かったものの職種間でばらつきがみられた。参加した職員のほとんどが訓練の必要を感じた、アクションカードを用意したことで各個人の動きが円滑であったなどの結果が得られた。ただし、リーダーに情報が集まっていない、といった情報の集約に関する問題や、医師の治療や処置が適切でなかった、医師の問診が曖昧で不安など診療に対する未熟さが指摘された。

 これらのことより考察する。まず災害マニュアルはシンプルで一目瞭然であることが望ましい。そのため今回の改訂では記載を簡略化した。また傷病者の搬入経路を一か所に集約してしまうと混乱をきたすことから複数個所で受け入れるように変更し、それを図としても記載し、訓練を行った。これは数的に多い待機群への対応をエントランスホールで行うことで、優先・最優先治療群が集まる搬入口での混雑を軽減し、初期治療を円滑にするためである。アクションカードの作成は、今回はリーダーに対するものであり、部署ごとに個別のアクションカードを用意したわけではなかったため、今後部署ごとの対応がわかるようなものを作成したいと考えている。トリアージの実動訓練では、より知識を深めていく手段になることが確認された。また職員のモチベーションの向上にも役立っている。フルスケールの災害訓練後のアンケート結果からは、自分がどのように動けばいいかがイメージできたと考える職員が多く、参加者の理解・満足が得られたことは有益であったが、実際により多くの職員が参加するためには病院としての意識向上のための工夫や、支援体制が必要と考えられた。加えて、診療実技の向上も今後の課題として残っている。

 以上を踏まえて今後の関西労災病院の方針を示す。

 マニュアルの簡易版を用紙1枚程度にまとめたものを各部署に常備し初動時に必要な物品を各部署の救急カートにつるしておく。診療技術実習を含む実践的内容を盛り込んだ教育プログラムを考案し、実行していく。そして集大成として、自治体と合同でフルスケールの災害訓練を行う。病院職員以外の人が参加することで訓練の臨場感が増し、客観的な評価も加わり、職員の意欲も向上すると考えられる。これまでの行程を約6か月かけて行い、その後の6か月で行った一連の研修や訓練を再検討し、次年度の災害教育プログラムや訓練内容の決定を行うことを考えている。これらの一連の災害研修を継続的に行うことで全職員が共通の認識で災害へ対応できる体制を目指している。


米国の田舎町の地域病院における災害訓練を見学して

永田高志、救急医療ジャーナル 16(4): 52-56, 2008


はじめに

 災害現場の第一線で活動する消防・警察・救急を効率よく運用するために1980年代に開発されたツールが、ICS(Incident Command System)である。災害現場向けであるICSを病院という組織に合わせて開発したものがHICS(Hospital ICS)である。9.11同時多発テロ以降、米国医療施設評価認定委員会は、米国のすべての医療機関に対して、「あらゆる危機を想定した」HICSに基づく体制づくりを求めている。つまり、HICSは米国のすべての医療機関における標準化された危機管理のひな型となっている。筆者は2006年6月にマサチューセッツ州にあるフランクリン・メディカルセンターでおこなわれた災害訓練に参加し、本文では訓練の概要とHICSの意義を考察している。

訓練の概要

HICSの意義

  1. 米国社会で病院がテロやインフルエンザの流行といった社会的危機の際に、社会の防衛戦となることを位置づけた。

  2. 病院で働く医療従事者に対して、危機管理の一翼を担う自覚を持たせた。一般に医師は他の医療職種と比べても災害に対する関心が低いのが日米共通である。

最後に

 愛媛でも、南海大地震、新型インフルエンザのパンデミックなどの大規模災害の可能性がある。その際、愛媛大学付属病院はまさしく社会の防衛線として機能することが求められる。アメリカでのHICSの成功例を参考に、本院でも応用可能か議論し、愛媛版のHICSを開発すべきであり、また実際に訓練してみることの重要性を感じた。


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