日常の医療行為においては、重篤な一人の傷病者に最大限の医療資源が投入される。これは、個々の傷病者に対して最良の結果をもたらすことが、日々の救急医療の目標だからである。
これに対して大規模災害の時には、スタッフや器材、薬剤が不足する。そのため、災害時における救急医療では目標を、個々の傷病者ではなくて最大多数の傷病者に最良の結果をもたらすことに切り替えなくてはならない。この目標を達成するためには、優先順位を付け、限られた資源を有効活用する必要がある。
2.トリアージ作業と担当者
災害時に行われるトリアージには、2種類ある。一つ目は、傷病者の状態を評価して一定のカテゴリーに分類する。これは様々な場所(災害現場・待機所・搬送車内・医療機関)や様々な職種(救急隊員・医師・看護師)によって行われるので、シンプルなアルゴリズムと迅速な再現性を兼ね備える必要がある。
二つ目は、災害医療対応の全体像を把握して、治療と搬送の優先順位を決定する作業である。これは医療指揮官が担当し、災害医療に精通し地域の救急医療体制を熟知した経験豊富な医師が就くのが望ましい。
3.トリアージカテゴリー
トリアージは重傷度と緊急度によって4つのカテゴリーに振り分けられる。赤は最優先治療群で、救命ために緊急の治療を必要とするものである。黄は待機的治療群で、ある程度治療を遅らせても救命に影響しないものである。緑は軽症群でより優先度の高い傷病者を対応してから治療しても問題ないものである。黒は死亡群で、死亡と判断されるものである。また、死亡予測群として、日常の救命医療においても救命が困難だと思われるものを分類することもある。
4.トリアージの進め方
トリアージは、災害現場から医療機関まで、傷病者が移動するたびに何度も行われる。災害現場では迅速に一次トリアージを行い、以降はより詳細に2次トリアージを行う。
原則として、トリアージ中は治療や応急手当は行わない。ただし、気道確保と外出血の止血治療だけは許容される。また、自己主張の強い歩行可能傷病者は混乱の原因になりやすいので早急な隔離が必要である。災害医療の知識を持つ傷病者を活用したり、それ以外でも明確な指示をしておくと良い。
5.アンダートリアージとオーバートリアージ
アンダートリアージとは、重症傷病者を黄や緑にカテゴリーすることで、オーバートリアージとは、重症でないのに赤にカテゴリーすることである。日常診療においてもアンダートリアージは防ぎ得る死の一因である。これを予防するため、オーバートリアージは許容されている。しかし、災害現場ではオーバートリアージも防ぎ得る死の原因となる。だから、両方を回避しなくてはならない。
一次トリアージの標準的アルゴリズムはSTART(Simple Triage And Rapid Treatment)法が用いられている。歩行可能ならば緑。歩行できず、呼吸数が10~29回で、CRTが2秒以内で、命令に従えるならば、黄。自発呼吸がなく、気道確保をしても自発呼吸がないものは黒。それ以外を赤に分類する。
二次トリアージは、第一段階として、意識、呼吸、循環の生理学的評価をする。第二段階は全身の損傷を解剖学的に評価して、該当するものがあれば赤に分類する。さらに受傷機転と災害弱者を考慮する。
2.その他トリアージアルゴリズム
一次トリアージは他にも、SieveやCare Flightがある。それぞれイギリスとオーストラリアで採用されている。 二次トリアージにはSAVEやSortがある。SAVEはヘリ搬送などで救命の可能性が高まる群を選択でき、Sortでは重症度をスコア化できる。
3.小児のトリアージアルゴリズム
小児では、心拍数や血圧、呼吸回数などの正常値が成人とは大きく異なっているため、成人と同じトリアージアルゴリズムを用いると多くのオーバートリアージが発生する。そのため、小児用のトリアージアルゴリズムが必要になる。
PTT(pediatric atriage tape)を用いたSieveは、傷病者の横に伸ばし、身長のところの基準値で判断する。
JumpSTARTでは、STARTに加え、気道確保後に無呼吸であっても、脈拍があれば5回の人工呼吸を行い、再度呼吸の評価を行う。
また、実際の災害現場で想定どおりに活用された例は少なく、有効に活用するには、普段からトリアージタッグを使用することに慣れておかなくてはならない。
平成16年2004年に発生した一連の風水害への対応に関して、高齢者、障害者等の災害時要援護者の避難支援についての課題が明らかとなった。
次に、災害時における支援については要援護者支援班を設けること、福祉避難所に対して、市町村・都道府県・国の機関が理解を深めることの二つに焦点を当てている。
福祉避難所については現時点では平常時、災害時に十分な取り組みがなされていないため、市町村・都道府県・国は研修や実践的な訓練を実施、促進するなど、福祉避難所についての理解を深めていくことが重要である。
三つ目に、新ガイドラインは関係機関等の間の連携について記載している。
災害は規模、強さ、季節や発生時間帯、発生場所の人口密度・地震・地形、建築構造・強度、経済基盤、医療事情などによって死者数や看護ニーズは異なる。
災害看護;災害に関する看護独自の知識や技術を体系的に、かつ柔軟に用いるとともに、他の専門分野と協力して、災害の及ぼす生命や健康生活への被害を極力少なくするための活動を展開すること
災害看護学;災害看護活動を展開できる知識・技術の開発とその成果の啓蒙を目指すもの
災害看護を構造で見る場合、原因もしくは経時的に分類できる。原因別災害分類では台風洪水、地震などの自然災害と化学爆発、大火災などの人為火災に分けられる。一方、経時的災害分類では i)災害に備える時期、 ii)災害発生時、iii)復旧・復興時期の3つの時期に分けられ、各時期の看護活動には看護独自の機能がある(表)。
災害に備える時期 | 災害看護教育の実施 広範な防災訓練 防災物品やマニュアル、危機管理体制の点検 災害ネットワークの形成と確認 | |
災害発生時 | 災害発生直後の段階 | 災害救急看護 救命・救急看護の初動活動 死者とその家族へのケア |
災害発生後中期の段階 | 二次災害予防看護 |
被災者の生活面への援助 被災者の心のケア 災害後保健活動 健康立て直し支援活動 |
復旧・復興時期 | 長期的看護活動 長期的こころのケア(被災者および救援者に対して) 長期的健康立て直し支援活動 地域社会立て直し支援活動 |
子供の場合、災害によって傷ついていても大人と比較して自分の受けた心の傷を表現することが難しく、また周囲の大人たちも混乱しているため微妙な変化に気づかないことが多い。そのため周囲の人々は子供の気持ちを否定せず傾聴し、幼児の場合にはストレス反応である退行現象が出現しても怒ったりせず話しかけ抱きしめるなどのスキンシップを増やすなどして、精神的な安定を与えることが必要である。また乳児に対しては災害時ライフラインが途絶するためにミルク用のお湯の確保、哺乳瓶の清潔、スキンケアなどの指導が必要になる。
2)高齢者
高齢者は不便な避難所生活や不慣れな環境のために急速に活動力が低下し、寝たきり状態や疾患を引き起こしやすくなる。そのため生活リズムが取り戻せるような活動をする、あるいは機能訓練や環境整備をすることにより、精神の安定化を図り心身の機能低下を防止することが重要である。
3)患者
慢性疾患の患者は治療継続や食事・運動などの自己管理が非常に重要になる。そのため平常時から災害時を含めた緊急時の対応について患者教育をしておくことが大切であり、医療を円滑に継続するため健康手帳などに内服薬や食事内容などについて記録するよう習慣づけることが必要である。
災害時要援護者や難病患者については医療ケアが継続されているかを確認し、必要に応じて受け入れ可能な医療機関などの情報を患者及び家族に提供すると共に、生活支援の相談活動を行う。また清潔保持や体位変換などのケアおよび指導を行うことも必要である。
4)救助者(看護者)自身
被災地内の管後職に当たるものなどの救助者は、社会からその役割を期待されているため弱音を吐きにくく、むしろ救援活動に参加しないまたはできないことに対して罪悪感を持ちやすい。そのため被災者としてのストレスのほかに救助者としてのストレスが加わることがありケア提供者自身へのケアは重要になる。
出動は災害時の被災国の要請に基づく「要請主義」である。緊急物資の供与は、備蓄倉庫からの必要物資(毛布、テント)の緊急輸送や、民間援助物資の輸送がある。