通常、集団災害とは最低20〜30人以上の傷病者の同時発生を示し、自然災害、人為災害、テロ、暴動、NBC災害などが想定される。集団災害に対しては、入念に計画された実施可能な準備・対応策(マニュアル作成)とそれに基づいた十分なシュミレーションが必要である。
災害時対応では、事前に医療チームの活動目的を絞り込むことは困難である。現場の要求を分析し適切に対応することが必要である。災害対応マニュアルには絶対不可欠なポイントとして、以下の4つの基本事項があり、これらをまとめてCSCAという。
1)Command & Control(指揮・統制):
災害現場では各職種、各機関ごとにCommander(指揮官)が任命される。また災害現場の総括指揮は単一の機関が担当し、この機関が現場のControl(統制)に当たる。災害現場では医師および医療チームは医療指揮官の指示に従い、各々独自の考えでの行動は厳かに慎まなければならない。
2)Safety(安全):
災害時には救助者自身、災害現場、傷病者(生存者)の安全が考慮、確保されなければならない。救助者自身の安全が最重要であり、そのために個人装備・防護具の条件は大切である。また、救助者自身の安全が確保できない状況であれば、たとえ要介助者がいようとも災害現場に入るべきではなく、状況によっては退避を行う。
3)Communication(情報伝達):
医療指揮官は他機関の指揮官と密に情報交換を行い、災害発生場所、規模、種類、危険性から傷病者と重症度を把握あるいは予測し、それに見合う現場対応を立案する。情報を共有し、各機関および他機関で確認、指揮官あるいは統制機関が調整することで、効果的な災害対応が実践される。
4)Assessment(評価):
情報を基に災害対応が決定されるが、この評価は完全に正確である必要はなく、経時的に評価、修正されれば良い。
医療チームを災害現場に派遣するか、後方病院として対応するかは、災害時には重要な問題となる。災害時対応に効果を発揮するためには、医療チームとしての組織的支援が原則である。
1)公的支援要請:
公的支援要請があれば迅速にこれに従う。現場出動する場合には、どのクラスの医師が何名、何の移動手段を用いて出動するか、また交替時期、交替人員についてなど事前に決めておく。
2)自発的支援決定:
地域あるいは規模を考慮し、災害発生の事実だけで支援の準備を開始しても構わない。
医療機関の責任医師がマスメディア、インターネットを通じた情報から支援方法を決定する。現場出動か後方支援かが決定すれば、災害対応を行っている情報司令センターなどの中枢機関へ報告し活動に当たる。
災害発生時には以下の4つの組織内で医師、救急医は活動する。
1)災害現場指揮本部
構成:医療指揮官、現場規制官、消防機関、警察機関および各関係機関の指揮官。
役割と任務:災害時の医療を含めた現場対応全体の統制を図る。
医療指揮官はここで決定された事項、統制者の指示に基づいて、各医療機関へ指示を出す。また、医療指揮官は地域の救急医療および災害医療に精通している必要がある。
2)医療救護班
構成:医師、看護師、救急隊員ほか。
役割と任務:いずれの現場対応であっても、活動内容、人員配置、担当などは医療指揮官の指示に従う。また活動状況、結果などは医療指揮官へ報告する。
3)情報司令センター
構成:医師、消防局司令管制員、事務官ほか。
役割と任務:全ての状況を集約し、情報の統括、調整を図る。
4)受け入れ医療機関
各医療機関の災害対応マニュアルに従う。
災害時対応は特別なものではなく、日常の医療、医療システムの延長にあるはずである。そのためには、日常から医師、看護師が救急現場へ頻繁に出動し救急隊を含めた消防関係者とともに活動するシステムが構築・浸透している必要がある。また「医療の標準化」の教育を通じ、日常的に多職種が共に学び、日常医療を実践することで「顔の見える信頼関係」が構築されなければならない。さらには多職種、多機関を巻き込んだ救急現場対応訓練を行うことで、現場医療の共通認識を啓蒙し、連携を強めておく必要性がある。
2008年5月2日、ミャンマーではサイクロンにより推定14万人の死者にものぼる被害を出し、5月12日、中国の四川省で起きた地震の被害は7万人にのぼる可能性がある。日本でも記憶に新しい能登半島地震、新潟中越沖地震、そして阪神大震災などにより多くの死者・被災者を出したことは記憶に新しい。
今後日本において、さらなる大災害が起きる可能性は十二分に考えられ、医師である以上、その事態が起きた際に迅速に適切な手順・判断をし、適切な処置・対応が出来ることが強く求められる。手元の資料を基に、災害や医療の現場の周囲に付きまとうリスクとそれらを軽減する為に留意すべき点を簡単に挙げてみる。
イ)機械設備の欠陥や故障などによる物的な要因
ロ)作業情報の伝達や情報、気象状況など環境的な要因
ハ)組織的、管理監督者の意識が低く安全管理・教育が不十分
二)生理的、心理的、人間関係的な要因によるミス
イ)災害出動要請を受けた場合の安全管理
服装の点検や資器材の日頃からの点検が現場での心理的な「焦り」やマイナス要因を排除することが可能。
ロ)災害出動時の安全管理
現地の状況、現地までのルートの確認、交通状況の把握が、やはり心理的な「焦り」を排除してくれる。
ハ)現場到着時の安全確認
災害の全体状況を把握することと、現場にある危険に関する情報を消防隊員などから聞き取り確認しておく。
ニ)災害活動時の安全管理 −地震災害の場合−
二次災害に注意し、屋内に進入する場合は破損した窓ガラスなどによる切創の危険性に留意する。火災現場周辺では、風向の変化や飛び火による炎症方向の変化などに気をつける。
ホ)環境的要因による安全管理
労働災害では、重大な事故が1件発生する前提には29件の軽微な事故があり、その底辺には事故にはつながらなかったもののヒヤリ・ハットした状況が300件あるといわれる。(ハインリッヒの法則・・ 1 : 29 : 300 )
イ)ヒヤリ・ハット
ヒヤリとした状況を報告させ、そこに潜む危険な要因や行動を分析し、教育・指導することで安全管理能力を高める手法。また、その経験を他の人に教訓として広め、安全管理教育の資料としても活用できる。
ロ)事例研究
軽微な事故の場合に、事故の発生した要因として危険な状況や行動を見つけ出すとともに類似事故の防止のための方策である。
ハ)危険予知訓練
製造業や消防機関なでにおいて安全管理の教育手法として取り入れられている。実施方法として、グループによる問題解決の討議方法でイラストを使用し、1.イラストに危険な状況を洗い出し、2.危険のポイントを抽出し、3.対策を樹立し、4.安全行動の目標を設定する、という4本柱で行う。
以上、災害現場における安全管理、事故防止の基本について述べたが、実際の現場では災害種別や場所、時期、時間などにより危険の要因がそれぞれ異なることを認識しておくべきである。
災害教育先進国であるスウェーデンでは、災害時の救護・救援活動に関わる全ての職種を対象とした災害医療教育・研修プログラムが開発されてきた。その一つがエマルゴ・トレーニング・システムであり、これは「限られた時間内に的確な判断を行い、限られた人的・物的資源を最大限に有効利用する」能力を身につける目的で開発された、災害教育用の机上シュミレーションキットである。
◎演習はシナリオにそって行われる
エマルゴを用いた災害シュミレーション演習はマグネット付き絵札(傷病者)をシナリオに従い、「災害現場」とみなしたホワイトボード上に並べ、そこから傷病者をあらわす絵札を「救出」し様々な処置や判断を行い、時間経過に従って最終的に「病院」に見立てたボードに移動させる。
◎絵札の情報からトリアージや処置を考える
マグネット付き絵札にはいろいろな種類があり、そのうちの患者人形にはそれぞれ災害現場でのバイタルサインと外表所見が記載され、その傷病者の概評写真も用意されている。さらに確定診断・検査結果や手術の内容・時間などが記された患者情報カードも添付されている。訓練参加者は限られた時間内で、トリアージの区分の決定、応急処置内容の選択、搬送手段と病院の選定などを行わなければならない。病院搬送後も多くの「判断(意思決定)」を行うことが求められ、その時、その場所で「何をすべきか?その行為の優先順位はどうか?」などを考えなければならない。
またスタッフ数、医療資源により対応できる患者数は制限されるため、受賞後何も処置がなされず一定時間の経過した患者には「防ぎ得る死/合併症」が起こる設定のものもいる。そして訓練中に報道機関に対応して、インタビューや速報・中間発表を行わなければならず、最終的に「記者会見」をして演習の仕上げとする。
◎エマルゴの特徴は“限られた人・物・時間+意思決定”
エマルゴ演習は「参加者個人が、限られた人的・物的資源と情報伝達手段を用いて、限られた時間内に判断(意思決定)を行わなければならない発災型実戦形式の総合訓練が可能である」という、従来の訓練手法には見られなかった特徴を持っている。下にこれ以外のエマルゴ演習の特徴と利点を挙げる。
災害教育・訓練の目的と意義には、災害の知識習得、防災意識の高揚、問題意識の自覚・共有、現行の対応システム・マニュアルの検証、さらには準備資器材のメンテナンスなどがある。一方手法としては座学、机上訓練、実動訓練などがあるが、上記の目的・意義を一つの方法だけで満たすのは不可能である。目的と手法とのつながりを考えると、机上訓練は座学と実動訓練をつなぐものであり、工夫次第で非常に高い効果を期待できる。
机上訓練を単なる遊び・ゲームに終わらせないためには、結果として参加者が真剣に取り組んでしまうような教育手法や現実感や臨場感、ストレス、楽しさ、達成感などを与え参加者のモチベーションを上げる工夫が必要である。しかしルールを理解することが大変という意見が多く、ルールも分からないままで無意味な演習とならないようにエマルゴ自体とその演習想定をある程度熟知したインストラクター及び複数のファシリテーター(インストラクター補助)が必要である。エマルゴを多くの人に経験してもらうには彼らの育成が最重要課題となる。
まとめとしてエマルゴの学習効果を挙げる。
現在の日本では、希望者がオープンに参加できるエマルゴ演習の講習会はほとんどなくまた日本公認のインストラクターも計5人に留まっており、日本中でエマルゴ演習が開催されるという状況には程遠い。今後はインストラクターの人数も増え、優れた教育システムであるエマルゴが日本中に広まり、日本の災害教育と災害医療のレベルが上がること、さらには日本の災害対応システムが少しでも優れたものになることを願っている。
さて皆さん、柏崎刈羽原子力発電所をご存じですか。2007年に新潟中越沖地震(マグニチュード6.8)が有ったのはご存じですよね。この地震では主に家屋倒壊や人命救助の報道が多く、原発が被害を受けたという話はあまり記憶に残っていないかも知れません。今回の報告として、この原発こそが今回の論点である「原発震災をいかに防ぐか」という問題に直面したものであり、今後どの様に対処して行けば良いかを発表しようと思います。
2007年7月16日に中越沖地震によって東京電力柏崎刈羽原子力発電所が世界で初めて大きな地震被害を受けました。それは旧来の「耐震指針」を遙かに超える激しいものでありました。しかし、この地震は決して『想定外』ではなく、活断層があり地盤の緩いこの地域に造るべきではないという地域住民からの訴えもありました。そもそもこの様な事になったのは既存原発の耐震設計と安全審査の拠り所であった「耐震指針」が古すぎて、地震と地震動に関する考え方が基本的に間違えていた所にポイントが有るのです。そして今回、旧来の耐震指針の甘さ、さらにいかに虚構なものであるかと言う事が白日の下にさらされました。と説明しましたが、皆さん「旧来の耐震指針でも別にそんなに被害出てないの」とか「むしろ被害を余り出していないのだから耐震性高いのではないの」とか思っている事でしょう。確かに今回のケースでは、多少の放射能漏れがあったものの、原子炉は無事停止しており被害は少ないです。しかし、それは地震学的に見て奇跡的ともいえる幸運がもたらしたものなのです。例えば震源地がもう少し南西に寄っていたり、大きな余震の続発があったりすれば、もっと強烈な揺れに襲われて「原発震災が」生じていたかも知れないのです。
ではここで「原発震災」とはどう言ったものなのか説明していきます。この言葉は1997年に石橋克彦(現神戸大学都市安全研究センター教授)によって作られた言葉であり、地震によって原発の大事故(核爆走や炉心溶融)と大量の放射能放出が生じて、通常の震災と放射能災害が複合・増幅し合う人類史上未曾有の体験である破局的災害の事を意味しています。そこでは震災地の救援・復旧が強い放射能の為に不可能になると共に、原発の事故処理や住民の放射能からの避難も地震被害の為に困難を極めて、無数の命が見殺しにされ震災地が放棄されるという地獄絵図が予想されます。そんな事が起こってはとんでもないと言う事で改訂された耐震指針について発表します。
2006年9月、原子力安全委員会が5年間検討した末、28年ぶりに耐震指針は改訂されました。しかし、内容は旧指針と比べても振動に対する基準も曖昧で以前より厳しくなっておりません。さらに余震や地震に伴う海岸域の隆起・沈降等の重要な現象に触れておりません。よって、再改訂されたにも関わらず、また改訂をしなければならない事態に陥っています。
ではどうして耐震安全性、或いは信頼性のおける耐震基準が出来ないのでしょうか。それは、安全審査体系が不備で厳正さを欠き、さらに原発建設の手順に根本的な問題が有るからです。その問題とは、原発建設の申請する側と審査する側に癒着があるからです。このような膿は出し切って、審査の厳正さと透明性を確立しなければなりません。耐震指針自体がどんな大地震が起きても技術でカバー出来ると言う自然を侮った考え方になっている為に、今回の原発の様な活断層があり地盤の緩い地域に原発を建設する様な事態になるのです。さらに、地震の危険性に関する専門的な検討を全く抜きに原発立地が電源開発基本計画に組み込まれており、その後で安全審査が行われると言う現行制度の根本的な欠陥も改めなければなりません。
これらの事を正した上で全国55基ある原発を総点検し、リスクの大きい順番に段階的に縮小して行く必要があります。
最近、「地球温暖化の長期的リスクよりは原発の短期的リスクの方が抑えられるはずだ」として、原発に期待する。声が出てきています。この議論には非常に多くの問題がありますが、仮に地震列島・日本でその期待に応えようとするならば、以上に述べたことを直ちに実行すべきであります。
21世紀になった今でも大地震や台風などの自然災害やテロなどの武力攻撃に代表される人的災害で多くの生命や財産が失われている。日本は山岳が多く、南北に細長い。また環太平洋造山帯に属するため台風、地震などの自然災害がおきやすい。災害に関する法律には、災害対策基本法、災害救助法、被災者生活再建支援法、激甚災害法、国民保護法がある。国民保護法は武力攻撃災害についての法律である。
歴史:1959年の伊勢湾台風による人的・物的被害の甚大さがきっかけとなって成立した。1995年の阪神大震災を機に見直された。阪神大震災後から、内閣総理大臣が緊急事態の布告を行えば緊急災害対策本部を設置できるようになった。
目的:災害の発生に備え、防災体制の確立と発生したときの責任の明確化する。災害対策の基本を定め、総合的・計画的な防災行政の整備、推進を図る。
歴史:罹災救助基金法をもとにしている。1946年の南海大地震にて罹災救助基金法の不備が指摘されたため1947年に成立した。
目的:憲法第25条の生存権に基づいて、応急的に必要な救護・被災者の保護と社会秩序の保全にあたる。
その他:この法律で定められた救助の種類には以下のものがある。収容施設の供与、食品・飲料水の供給、生活必需品の給与・貸与、医療・助産、被災者の救出、被災住宅の応急修理、生業に必要な資金・物資の給与・貸与、学用品の給与、埋葬、災害によって住居またはその周囲に生じたがれきで日常生活に著しい支障を及ぼしているものの除去。
目的:自然災害で生活に著しい被害を受けた者に自立した生活の開始を支援する。
その他:支給対象となる経費、対象世帯と支給限度額について取り決めがある。世帯の年収、年齢、世帯数などによって限度額は異なる。
歴史:2001年のアメリカ同時多発テロをきっかけとして成立した。
目的:武力攻撃災害から国民の生命・財産を守る。
その他:武力攻撃災害とは、武力攻撃により、直接または間接に生ずる人の死亡または負傷,火事、爆発、放射性物質の放出その他の人的・物的災害をいう。国、都道府県、市町村,指定公共機関が役割分担する。救援実施項目の規定が定められている。
災害直後の看護職の役割は、救出・集中治療への援助であるが、時間の経過とともに一般医療、リハビリ、心のケアの必要性も生じてくる。その際、看護技術とともに法律面の知識も必要となる。
感想)被災者は、心や体に傷を負っても、衣食住が満たされていなければ、多くの場合、通院が難しく、なかなか治療をうけられないと思う。しかし、被災者やその周囲の人が災害関連の法律のことを知っていれば、責任機関から適切な支援をうけることができ、治療を受けやすくなると思う。比較的早期に治療が開始され、継続的に治療がなされれば、治療効果も出やすいと思う。被災者の周りにその法律について知っている者が多いほど、被災者が支援を受けられる確率が高くなるため、その周囲の人には、医師、行政職の人、一般人も含まれるべきだと思う。
災害現場管理 b.現場安全管理
(石田秀欣.プレホスピタルMOOK 4 多数傷病者対応、永井書店、東京、2007、p.25-31)
冬:寒さによる体力の消耗、指の冷えによる動きの鈍麻、凍結によるスリップや積雪などが活動障害になることがある。災害医療教育 エマルゴ・トレーニング・システム
(中田康域.救急医療ジャーナル15巻1号 Page78-83(2007.2) 原発震災をいかに防ぐか
(石橋克彦.日本の論点2008、東京、文藝春秋、p.688-693) 災害看護と法律
(今泉正子:黒田裕子・酒井明子監修、災害看護、東京、メディカ出版、 2004)
救助の種類だけでなく、被害認定、医療、助産、死体の処理についても定められている。